反転ドラヒナで、クリスマスのお話です。
バレンタイン、ホワイトデーアカジャで、「本来存在するはずがないのだが~」と言っていたり、「青い薔薇のキャンディ」をお返しにしていたりしている所から浮かんだお話。
以前書いた「嵐の予感 」https://privatter.net/p/9569648よりは、後の時間軸です。
2022/12/25に上げました。
@kw42431393
『…ッ…ッ!』
そろそろ、今夜も来るであろう姫君を迎える用意をしていた私は、屋根裏の気配に首を傾げた。
「ヒナイチくん?」
念動力を駆使してフワリと浮くと、彼女の仮眠室への出入り口をノックする。
「ヒナイチくん、どうしたのかね?」
「な、なんでもない…ケホッ!今から監視にそちらへ行くぞ。」
「私から行くよ。待っててくれ給え。」
中で慌てた気配があったが、私は構わず扉を開けた。そもそも、監視任務に居心地のいいように、屋根裏部屋を改装したのはこの私なのだ。そもそもここは吸血鬼の居城なのだ。
「お、おい!お前…。」
中に入ると、ムッとした顔と目があった。危険度Aの吸血鬼の監視担当として、毎夜ここに来る副隊長殿は今日も不機嫌らしい。
「ヒナイチくん、今宵もご機嫌麗しゅう…とは言えない、ね?」
「ひ、人の部屋に勝手に押し入って来て、機嫌がいい訳が…ゴホッ!?」
彼女を無視してそっと近づくと、私はその白い額に手を当てた。咳が聞こえていたが、少し熱があるらしい。
「む…」
「咳が止まらない様だから、気になったのだよ。お嬢さん。」
肩を押してベッドに座らせる。今までに経験させられた経緯から、彼女にビクリと緊張が走った。が、今回はそのつもりがないので、念動力で引き寄せたショールを肩にかけただけだ。
「ケホ…ケホ…たいした事はない。昨日、張り込みで冷やしただけだ。任務に問題は…」
言い返そうとする彼女の口に、人差し指を当てる。本当に頑固で意地っ張りな娘だ。
「今日はクッキーより、喉にいいものが良さそうだ。身体が暖まるものを…そのまま寝ていなさい。」
「な、何を言う。私の仕事に口出しを…!」
困った子だ、と心にため息をつく。だから、とっておきの脅し文句を耳元に吹き込む。できるだけ、悪役を演じる様に抑揚をつけた声で。
「悪い子だ。そんなに聞き分けのない子は、今から棺桶に入れてしまうよ?今宵も私と一緒に過ごしたいのかね?」
聞いた彼女の顔が恐怖に染まる…以前なら。近頃は私に馴染んできたらしく、怯えだけではなくなってきた。むしろ、微かな期待も滲んだ表情で…これはこれで悪くない。
「う…。わ、分かった。しかし、何かおかしな動きがあれば…。な、何がおか…っ!?」
頬を赤らめ、目を反らす彼女の口にそっと飴玉を押し当てた。
「ん?」
「これでも舐めて、待っておいで。」
部屋を出ようとすると、飴玉を手で転がしていた彼女に呼び止められた。
「お前は…」
「何かね?」
「青い薔薇が好きなのか?」
飴玉には薔薇の花びらが閉じ込めてある。以前にも、似たようなキャンディをあげた事があったからだろう。
「まあね。」
「意味でもあるのか?お前はそういの詳しいからな。」
「私は存在していると思うかね?」
飴玉を口に入れた彼女が、キョトンとした顔をする。分からなくてもいい、巣立たせるつもりのない雛鳥に答えを求めてはいないのだ。
「おかしな事を言う奴だ。今、目の前にいるじゃないか。腹立たしい事だが。」
「…ありがとう。」
そう言われている内は、『私は存在している』のだろう。ジョン以外で私の『その願い』を叶えてくれるだろう、君に執着を覚えるのはそういう面もあるのだ。それをジョンに洩らすと、ため息をつかれたのはいつだったか…。
答えになってない、と不満そうな視線を受けて、私は部屋を後にした。
さて、喉風邪によい食事でも作ってあげようか。折角、明日はクリスマスのご馳走を振る舞ってあげる予定だったのに。
今日中に治ってくれるとよいのだが…あの素直じゃないお姫様が、嬉しそうに料理を頬張る姿を見るのは、私の楽しみでもあるのだから。
あれ?何をしていたのだろう?
気がつくと、私は見覚えのない狭いキッチンで、唐揚げを盛り付けていた。唐揚げ?それは、ジョンもヒナイチくんも食べるが特別好みもいう訳ではない。
カレンダーを見るが、12月24日であっている。おかしいな、クリスマスに唐揚げ?私は、さっきまで城のキッチンでローストターキーを仕込んでいたはずなのに?
そう考えていると、オーブンレンジの音が鳴った。随分小さなオーブンだな、これではフードファイター並みに食べる彼女のお腹を満たすには、何度も焼かなければならないのでは?
中を確認すると、クッキーが焼けている。周りに置いている材料からすると、アイシングクッキーをしようとしていたのか…まぁ、いいだろう。クッキーは元々焼く予定だったのだ。
続いて、ケーキを中に入れる。冷ましたクッキーにアイシングを施す。ペンギン型か、クリスマスなのに何故ペンギンなんだ?
どうも、現実味がない。夢でなければ、元より催眠術に耐性のある私だが、何か異変でも起こって…
「ドラルク、おかえ…クッキー!」
背後で急に、床板が開いたと思ったらそこからヒナイチくんが飛び出てきた。…屋根裏ではないのか?いや、それにしても性格も体格も随分子供っぽいな。
「なんだ?髪なんか染めて、その目も…それより、クッキー出来たのか?」
「あ、あぁ、どうぞ。お嬢さん。」
アイシングを施したクッキーを差し出すと、彼女は何の躊躇いもなく口に入れた。頭のアンテナがハートマークを描いている、そこは一緒なのだな。いつもこれだけ素直なら…いや、挿し餌してるみたいで何というか…。
「今日もおいし…むっ?ちーん!!」
「どうし…何っ!?」
少し背を屈めていたのがまずかった。咄嗟に眉間に飛んできた拳を避けたので、思いっきり義眼にストレートを喰らってしまった。義眼からはバチバチと、異音がしている。私はそれを取り外した。帰ってから新しい眼と交換を…いや、そもそも帰れるのだろうか。
「い、いや。すまん!しかし、酷いぞ!私がペンギン嫌いなのを知ってて、またイタズラするなんて!」
「また?私はそういうキャラでは…。」
尚更、訳が分からない。痛いという事は、夢ではないらしい。
「ちん?というより、お前何で死なないんだ?本当にドラルクなのか?もしかして、あいつの親戚とか…ならば失礼した。」
再生能力がないとはいえ、そう簡単に死んでたまるものか。いや、彼女が言う『ドラルク』はどういう…。
「いや、私はドラルクだが。君こそ…いや、いい。こっちへ来てくれるかね?」
私は彼女を手招きした。状況を説明するより、催眠術で割らせた方が早そうだ。
「本当に失礼を…」
「さぁ、もっと近くへ…」
キィィ…
「ちんちちん…?」
「さっきから何を言ってるか分からないが、答えて貰おう。」
顎に手をかけて、彼女の顔を覗き込む。信用しきったあどない顔、我々の抗争がなければあの子もこういう顔をしていたのだろうか…。
「君は一体何者だ?ヒナイチくんとは違うのか?そして、そのドラルクとはどういう関係…」
「ただいま~。留守番ごめんね、ヒナイチくん。卵買いに行ったら他にも安くってつい…」
「ヌンヌヌイ!」
背後で呑気な声が聞こえてきた。えっ?この声は…私とジョンにそっくりだ。
「ちーん!ドラルクー!」
催眠術にかけたはずのヒナイチくんが、手を振り払うと向こうの部屋に駆けて行った。一体どうなっている?
「おや、どうしたの?ヒナイ…砂ッ!?ちょっと、やめて。何?私何かした?」
「ちん!ちーん!ペンギン型のクッキー!」
「ごめん!殺さないで!ちょっとしたイタズラ…ごめんってば!スナっ!」
「ヌエーン!!」
覗き込むと、私とそっくりの男が彼女に馬乗りに乗られて、タコ殴りにされていた。何度も体は塵になり、すぐに再生してはまた殴られて、塵になるのを繰り返している。横で太ったジョンそっくりのアルマジロが泣いているのも見えた。
…実を言うと、私は再生能力がないから吸血鬼としては不死身ではない。死んでしまえばそれまでである。骨折でもしようものなら、人間同様何週間、何ヵ月と安静を余儀なくされるので、お祖父様が発明した『ケガトカスグナオール』の世話にならなければならなかった。
正直、あれは地獄の副作用があるので、他の同胞が羨ましかった所は否定しない、しないがあれは…なくてもいいか、と初めて思った。
「はぁ、はぁ…ごめんなさい。出来心ですので、もうしません。」
「よし!そういえば、お前に客があったぞ。お前にそっくりな吸血鬼でな。親戚か?」
「私にそっくりな?そんなのいたかな?」
彼女が土下座している『ドラルク』に手を貸して立たせている。私達では、考えられない風景だ。
「ただいまー、何やってんだ?お前ら。」
「聞いてくれ、ロナルド!ドラルクったら酷いんだ。」
「ロナルドくんもどうかね?一つ。」
「うん?プギャー!セロリ型のクッキー!!」
「ブェー!即効で殺すな!」
「ヌエーン!」
「いや、今のもドラルクが悪いだろ。」
あの男は…あの赤い退治人そっくりだ。退治人に吸対、吸血鬼がここで家族同様に暮らしているのか?
抗争が、落ち着けばあんな光景が当たり前になるのだろうか…そうなったら、私の知っているヒナイチくんもあんな風に笑って…?
「…おい、ドラルク。おい?」
ああ、帰るよ。気難しいお嬢さんだけど、私が好きになったのは意地っ張りな君だから。
「ドラルク、どうした?」
「ん…ああ、これは失礼した。Merry Christmas、ヒナイチくん。」
愛しの姫君の声に起こされて、私は思わず苦笑いをした。吸血鬼ともあろう者が、日が暮れて間もない時間帯にうたた寝をしていたのだ。しかも、監視員の前でぐっすり寝込んでいたとは情けない。
「う、うむ。珍しいな、お前が寝込んでいるのは。昨日、看病させたからではないかと思っ…いや、何でもない。」
「…夢を見ていたらしくてね。君こそ、良くなったらしくて、何より。」
しかし、どんな夢だっただろう…不思議でどこか羨ましいと思える何かがそこにあった気がするのだ。
立ち上がろうとすると、フラッとバランスを崩した。そこで、義眼が外れている事に気がつく。件の義眼は、ポケットに入っていたが壊れていた…いつ?記憶がない。
「お前…その目どうしたんだ?」
「さあ?記憶にないな。まぁ、いい。交換すれば済む事だ。」
念動力で、引き出しから替えの義眼を引き寄せる。コンタクトレンズでも入れる様に、取り付けている私をヒナイチくんが不思議そうに見ていた。
「待たせたね。それでは、食堂へ行こう。用意はしてあるのだよ。勿論、プレゼントも…お気に召すと光栄なのだが。」
「わ、私も!…お、お前に渡すものが…。く、クリスマス…だから、だ。けっして…その。」
案内しようとすると、頬を染めて俯いていた彼女が背後に隠していた物を差し出してきた。
「ありがとう。おや?」
私が受けとると、そのまま彼女は食堂に逃げてしまった。
ドラルク様。だから、ヌンが言ったでしょ?
気を遣って姿を隠していたジョンが、足元に来ていた。
「君には敵わないね。昼の子の成長は、早いものだ。」
彼女からのプレゼントに目を落とす。彼女から向けられる想いは、憎しみや恨みぐらいものだと思っていたのに。
青い薔薇が7本…『存在しない』はずの者に向けてくれる秘かな想いに、私は心が満たされるのを感じていた。
「ところで、お前変わっているな。」
「…いや、何というか…返す言葉もない。」
まぁ、ヒナイチくん。美味しいからいいでしょ?
彼女が摘まんでいるクッキーは、ペンギンの形をしていた。正直、私はペンギンのクッキー型を持っていたはずがないのだが…何故?
「ところで、君はペンギン大丈夫かね?」
「この前から、変な事を言うな。別に何でもないぞ。」
「そうかね…。」
あと、仮に君が私を殺す時は、馬乗りになって殴り殺すのではなく、ちゃんと心臓に杭を打つなり、首を落とすなり作法に則って欲しいと考えたのは、何故だろう。