ファンブックとアカジャの話で思いついたお話です。ファンブックのお陰で、スノーホワイトプリンセスを素直に見れないのは、私だけではないはず…だと思います。
クラージィさんが付けている雪の蝋印を見て、ヒナイチくんに竜鱗モチーフを付けさせようとするドラルクさんの話。
クラージィさんが雪の蝋印を付けているのは捏造ですので、注意して下さい。でも、師匠が他に自分の血族を迎える意志はないので、自分の跡目はこの人しかいないんじゃないかな?
2022/12/30に上げました。
@kw42431393
コンッコンッ
「はーい、ドラルクキャッスルマークⅡ…おや、いらっしゃい。」
「ドラルク、こんばんは。今、大丈夫だろうか?」
目の前の男…昏き夢のクラージィは、手に日本語の本を持って笑っていた。今日も、冷え性に困っている様で、マフラーやジャケットでモコモコになっている。
「どうぞ、お入り下さい。貴方ならいつだって大歓迎だ。クッキーも焼けたところだし、紅茶をお淹れしますぞ。」
「すまないな。また、日本語の問題で分からない所があって、教えて貰いに来たんだ。」
クラージィが持っている本には、『日本語能力試験三級 問題集』とある。
「この間、四級が受かったんだ。でも、この三級は難しくてな。」
「ざっと見たところ、中高生レベルですからな。それにしてもたいしたものだ、目が覚めたのもつい最近の事でしょうに。」
あのお祖父様の鬼ごっこの最中、彼は200年近くの時を経て奇妙な偶然が重なり、このシンヨコに辿り着いた。しかも、吸血鬼への転化に成功し、第二の吸血鬼生を得てからは私を頼って、こうして交流をする様になっている。本当に、縁とは奇妙なものだ。
「ヌヌッヌイヌ。」
「こんばんは、ジョン。ご主人をお借りするよ。」
「さあ、どうぞ。さて、どの辺りが…。」
彼が開いたページに目を落とす。それにしても、つくづく生真面目な男だと感心する。そもそも、聖職者で悪魔払い師だった彼が、こんな数奇で苦しい半生を送る羽目になったのは私とノースディンのせいだ。
もっというと、当時一五歳だったドラドラちゃんが、完璧で可愛くて儚かったのがいけなかったのである。私達を殺す事に迷いを持ったクラージィは、教会に行き、馬鹿正直に理由を問い、そして破門された。
各地を彷徨った挙句、吸血鬼を救う為に身を投げ出し、野犬に食い殺されて終わる生をノースディンによって、血を与えられ、今になって目を覚ました。
そして、このシンヨコで働きながら、その元凶である私に会いに来ているのである。
「血を与えた私とお前は、親子同然なのだ。生活なら私がみてやる。クラージィ、一緒に来い。」
彼が初めてこの事務所に来た時、私はあのヒゲに連絡を取った。そして、迎えに来た第一声がこれだった。なんとなく知っていたが、クラージィが目覚めない事を、ずっと気に病んでいたのだ。それが、200年近く経って叶ったという。
窓をぶち破って(修理代払え、ヒゲ!)、飛び込んできた彼にクラージィは、このシンヨコで自活していきたいと希望を述べたのだ。
第二の人生を送れる事は感謝している。だからこそ、自分の手で置いてきたものを取り返したい、考えたいのだと…。普通の者なら、躊躇いなく世話になっただろうに。ノースディンは、厳しい師匠面をしたがる割に過保護なのである。
「粗方、合っていますぞ。さすがですな。」
「ありがとう、そろそろお暇しなければ。クッキーもご馳走になってしまって…ヒナイチさんは、大丈夫だろうか?」
生前ひもじい思いをしていたらしく、彼も私のクッキーの虜となっている。皿の上のクッキーは、すっかり空となっていた。
「フフフ。そういえば、後から来た彼女に『私のクッキーがぁ…』泣かれていましたな。」
「がっつく様で情けないが、あれが思い出深くてな。あの少女の分まで食べてしまったのは申し訳ない。」
考えてみれば、ヒナイチくんと彼の転落劇には元々私のクッキーが発端な所がある。我ながら自分の才能が恐ろしい。
「ヌイヌーヌ、ヌイヌーヌ。」
「ちゃんと、あの子の分は取り分けてあるから大丈夫ですよ。おや? それは…。」
モジャモジャ頭をかき上げるクラージィの中指に、何かがキラリと光ったのが見えた。
「あぁ、ノースディンが私にくれたものだ。シグネットリングという物か、自分の血族だと分かりやすくする為だと。あと…」
クスクスと彼は笑って続ける。シンヨコの変態共から身を守る為のお守りだそうだ…と。
彼は自分の血族だ、何かあったらただじゃおかない、そういう意味なのだ。
「確かに来た当初は驚いたし、困ったものだが、慣れてしまうと気のいい者達だ。何より君たちがいる…心配なぞいらないのにな。」
雪の結晶を彫り込んだ紋章は竜の一族ではなく、あのヒゲ本人の物だ。
「彼については、深入りできないところが多いのですよ。それなのに、貴方だけは自分の血族に入れようとした…その事実を心に刻んだ方がよろしかろうと思います。」
「そう…か。」
クラージィはまだ吸血鬼に成り立てて、分からないかもしれないな。我々の執着心というものを…。
彼を送り出した後、自分の棺桶から、長らく開けてもなかった小箱を取り出す。とっくに私にとって無用の物だが、これをいつか…
「ドラルク、クッキー!」
「あぁ、いらっしゃい。今、行くよ。」
雛鳥がここから飛び立つ前に…どこにも行かない様に。まずは、慣らす方が先だろうか?
「ドラ公、何してんだ?」
「おや、ロナルドくんもおかえり。君も後でね。」
「ドラルクが、セーター編んでくれるんだそうだ。あと、手袋も。」
何も疑わない無邪気な雛鳥は、今夜もソファでクッキーを食べている。私が測っている間も、アンテナをハートマークにして、何も気にしている気配がない。まあ、それが助かるのだが。
本当に知りたいのは、一つだけ。
「そんなにピッタリでなくていいぞ? 何で指のサイズまで測るんだ?」
「手袋は、剣も握れる様にしようと思って。」
「ヌーン…。」
ジョンのジト目が、少し痛い。
「首回りは分かるけどよ、足首まで何で測ってんだ?」
今日の若造、やけに聡いな。少し、冷や汗で死にそうになるがそこは耐えた。
「く、靴下も編もうかと思って。」
「どうした? クラージィさん来てたけど、何かあったのか?」
クラージィか…。
「か、彼の寒そうな姿を見て、連想したからね。みっぴきでお揃いのを編みたくなったのさ。」
「ふーん。まぁ、いいけどよ。」
ふわぁ…とあくびをしながら、事務所に向かうロナルドくんを見送って、私はホッとため息をついた。
「お揃いか、楽しみだな。ジョン。」
「ヌンヌヌッ!」
ごめんね、ヒナイチくん。半田くんなんかは鈍いから『クッキーの食べ過ぎでちんちくりんになってきた』なんて言ってるが。日に日に女性らしくなっていく君が、誰かに盗られないか心配になっただけなんだ。
せめて、同胞には私の存在を知らしめたいだけなんだよね。
小箱の中に入っているのは、竜の血族直系である印の指輪だ。いつだったか、お父様から頂いたものだ。身分証明の他に、さっき言った様に脅しの意味も含まれている。
大戦中は一族の庇護下にあったし、大戦後はずっと引き籠っていたので、それが身を守ってくれた事はない。シンヨコに来てからは、私が強大な竜の血族の嫡孫だと、皆が知っているがこの通りだ。だからといって、無事だった試しはない。
それでも、何がなんでも助けたかった者を守ってくれる様に願って、ヒゲは蝋印をつけさせたのだろう。あの女ったらしが、そこまで執着するのが大嫌いな人間で、しかも聖職者の男性とは皮肉なものだ。
本当は、自分の手元に置いて我が子となった彼を守りたかったのに違いない。確信はある。この事務所に飛び込んできた時、クラージィと目が合った時、一瞬クシャリと顔が歪むのが分かった…周りにロナルドくんやヒナイチくんさえいなければ、泣き顔を見れたかもしれなかった。
それだけに、クラージィの自活をしたい、という希望を反対をする彼を説得するのに、我々は苦労したのだ。あんなに駄々っ子だった彼を見たのは初めてだ。それだけ、彼に執着しているのだろう。年を取って出来た息子みたいなものだから…それ以上の何かも感じられるが深入りはしないでおこう。
「師匠には悪いが、彼がここを頼ってきた以上、私達もサポートします。安心して預けて下さい。」
これを納得させるまでが大変だった。
同居人達はお子様だが、バックにいる者達は民間、公務共に顔が利く者達ばかりである。私に至っては、言うに及ばず。
そのせいで、近頃、この事務所が職安やカウンセラーを兼ねているのはどうかと思うが、現在のクラージィは、リハビリや職業訓練も終えて、今、シンヨコの一員として毎日を送っている。
「おい、ドラルク。そろそろ、撮影だぞ?」
どこか恥ずかしげな声に我に返ると、ティアラを付け、雪の結晶のモチーフの入った青いドレスを身に纏った、ヒナイチくんが立っていた。
「いやはや、これは素敵なお姫様。ご機嫌麗しゅう…。」
屈めて覗き込んできた彼女の手を取っていつも通りの口づけをする。すると、照れた笑いが頭上から降ってきた。ああ、やっぱり…
「フフ、雪だるまになってもお前だな。」
そう。今、私達は週刊バンパイアハンターの撮影中なのだ。人工雪を降らせたセットで、雪だるまに変身した私と…やっぱり正装した姿で決めたかったのだが、そういうオファーだから仕方ない。
「どうして、いつものおノーブルな私じゃ駄目だったのかね。」
拗ねてみせると、隣からロナルドくんの声も降ってくる。
「普段のお前じゃ、可愛いお姫様を誑かしに来た吸血鬼のおっさんになっちゃうからだろ?」
「喧しい! 明日からご飯にセロリ入れるぞ!」
「まぁまぁ、二人とも。やっと、雪だるまに変身できたんだ。うっかり死んで、戻る前に終わらせてしまおう。」
まったく、それが辛いところだ。この雪だるまのドラフになるまでに、何回リセットしたことやら。
「俺達も撮影あるから行ってくるわ。じゃあ、また後でな。」
「ヌ、ヌッヌ!」
「ジョンは、俺と撮影だな! 行こうぜ。」
ロナルドくん達が出ていった所で、私は忘れかけていた目的を実行する。
「企画書を見た時から思ってたんだけど、少し首元と足首が寂しいよね?」
「そうか? 正直、こんな綺麗な服を着て、撮影するだけで緊張しているのだが。」
「大丈夫、私がエスコートしてあげるから。ちょっと、後ろを向いて屈んでくれるかね?」
彼女がアンテナを?マークにしながら、私の指示に従ってくれる。変身したままだと身長が足りないので、私は机に登って目的の場所に近づいた。ああ、やっぱり変身前にやっておくんだったか? その方がロマンティックだったのに。
「そうそう。それから、ちょっと俯いて…髪も分けてね。そんな感じ。」
「む、何をする気だ?」
「いいの、いいの。じっとしてて。」
シャラリ、と音がしてペンダントが彼女の首元に納まった。真ん中には、血族の直系を意味する竜鱗を象徴する石が光り、それを金色に輝くひし形のモチーフが取り囲んでいる。本当は、今も棺桶に眠らせてあるサイズ合わせした指輪もはめたいのだが、焦りは禁物だ。あまりやると警戒されてしまう。
「うわぁ、綺麗だな。」
目を輝かせるお姫様を見ながら、机を降りる。あとは、足元にも飾るものがあるのだ。
「気に入ったかね? まだあるよ?」
カチャカチャと、お揃いのアンクレットを付ける。夜なべして作った甲斐があったというものだ。
「それでは、撮影に参りましょう。お手を…」
華麗にエスコートしようと思ったが、雪だるまの姿なのを忘れていた。こけそうになるのを彼女が、受け止めてくれる。
ちょっと…鼻に柔らかいものが当たってるぞ、太股も肉付きがよくなってきたし。本当に大人の女性に成長して、お母さんは嬉し…これ以上はジェントル違反だからやめておこう。
「ほら、言わない事じゃない。危ないな。」
そのまま抱きかかえられて、私は撮影所まで移動した。折角、決めたのに締らない話だ。
「おい、ドラウス。入る…」
「クソー! なんで、私の息子の写ってる所がこんなに小さいんだ! ポールなんて、見開き貰ってるのにー!」
今週の週刊バンパイアハンターを見た私は、少し確認したい事があってドラウスの居城を訪ねた。うん? 私が週刊誌を読んでいる事が意外かね?
このご時世だ。腹立たしいとは思うが、人間達の情報社会は目まぐるしい。煩わしいと思いつつ、ついていかなければならん。
それに、週バンは、私の弟子もよく写っているし、ちゃんと教えた事を実践しているか師としてちゃんと見てやらねばならん。
『シンヨコに住む吸血鬼特集で、私もインタビューを受けたのだ。照れ臭いが、悪くないものだな。』
今週号は、我が子となったクラージィも小さいが載っている…ちなみに普段読み用と読み込み用と保存用に三冊買った。読み込み用は、既に付箋でカラフルになってしまっ…なんだね? その目は。
決してこのアホウスの様に親バカではないぞ。今回来たのも、そういう理由ではない。クラージィのコメントは立派なものだ。コラムが小さいのは新参者なので仕方ないが、これによって当時の我々の事にも興味を持つものが増えるはずだ。そう、そのドラルクと映っている吸対の…
「うえーん! 吸対のお嬢さんが見開きなのはいいが、何で一緒に映っている息子が雪だるまで、サブ扱いなんだ! 王子様の格好で映したら完璧じゃないか!? そう思うだろう? 親友!」
「…ここまで図々しいと清々しいな。私が確認しに来たのは、そこじゃない。このお嬢さんのペンダントとアンクレットを確認しろ。」
「折角、今度の新年会に一族に配ろうと思って大量に買ったのに…。ノースもどうだね、一冊。」
だめだ、こいつ全然気づいてない。まぁ、いいか。気づいたら気づいたらで、弟子の結婚式場の相談やら届け出の仕方やら…飛んで孫の服やらの相談までされそうだ。
「いや、私はもう買ったから。」
「そういえば、この間目覚めたクラージィも出てたね。なんだ、早速読み込んだのを持ってるじゃないか。さすが、サースディン。」
子供を持った親の気持ちがやっと分かっただろう、と言われた気がして私はドラウスから目をそらして、件のページに目を落とした。
『スノーホワイトプリンセスと雪だるまのドラフ』と題されたページには、美しいあの赤毛の姫君が裾を摘まんで雪だるまの弟子に挨拶をしている姿が映っていた。
その首元と足首には、ご真祖さまの血を直接受け継ぐ者しか付けられない竜鱗を象ったアクセサリーが煌めいている。無邪気に笑っているお嬢さんは、それを付ける意味を知っているのだろうか。
強大な血族の嫡孫たる男が、直系である事を示すモチーフが入ったネックレスとアンクレットを贈る意味を…。

おそらく、弟子が『自分の所有権』を主張する為にわざわざ撮影の場を借りて広めさせたのだろう。今度行った時、どうからかってやろうか、そしてどんな反応をするか楽しみだ。
後日、この週刊バンパイアを持ってノースディンが「あの竜鱗を虫除けに使うとは、嫡孫でありながら重要さが分かっていないらしいな。」と当て擦り、キレたドラルクが「あれは元々私の物を、彼女のアクセサリーに作り直したものだ! 誰にあげようか、誰をうちに迎えようが勝手でしょ!?」とロナルドの留守中に大喧嘩した事。
それを実は聞いていたヒナイチが、顔を会わせづらくなって、しばらく床下から出てこなかったのは、別の話である。