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マッチングアプリで出会うルチパウの話

全体公開 6 104 9765文字
2023-02-01 21:17:52

また新たな長編になりそう話を生み出してしまいました。ルッチさんとパウリーくんがマッチングアプリで出会う話です。現パロ。
前半はシリアス(パウリーの過去を捏造しております。パウ母が嫌な人です。苦手な人は苦手な内容かもしれません。なんでも許せる方向け)後半が甘め。
相変わらず少女漫画です。
🍨←🥽要素があります、ご注意を。
ガレーラカンパニーやトムさんの話が出てきますが、結構捏造してます。

Posted by @MCleopard

仕事休みの休日、俺は駅近のカフェで眉間に皺を寄せながらスマホの画面と睨めっこをしていた。
その画面にはマッチングアプリの登録画面が映し出されていて、先ほどからタップしてはやめ、タップしてはやめ、を繰り返している。尚このアプリ、ゲイ専用である。

はぁ、」

今年24になるが、俺は女性が苦手だった。
多分飲み屋に勤めてた母親のせいだとおもう。綺麗な人だが、だいぶ酒癖が悪かった。家事はもってのほか、帰って来ない日なんてザラにある。父親はあの女の奇行に呆れ果て、だいぶ前に出ていったきり。
俺はガキの頃から、そんな母親の姿を見て育った。毎日深夜に帰ってきては別の男を家に連れ込んで、ナニかをしていた。その声を聞きたくなくてずっと、母の部屋から一番遠くの部屋で耳に手を当て蹲って眠る、それが日常だった。
小学生くらいの頃だったか、ある日の深夜、母親がいつものように帰ってきたが、今日は男ではなく、同じきつい香水の香りをまとった女二人を連れてきていた。
女達は俺の存在を見た瞬間こちらへきて、頭やら足やらを撫でまわしかわいいかわいいと宣った。その身体を触る手が気持ち悪くて固まっていると、そのままズボンを捲られ、下半身を露出させられそうになった、俺は恐ろしくて恐ろしくて、ふいに母親に助けを求めようと周りを見るが、母は俺のことなど気にも留めておらず、ボトルやブラシが適当に置かれたドレッサーでメイクを落としていた。
怖かった、気持ち悪かった、にこにこしてこちらを見る酔っ払った女達も、俺のことを無視する母親も。
俺は必死に立ち上がって、女達の間をすり抜け玄関から外へと飛び出した。
誰も追いかけてなど来なかったが、開けっぱなしの窓からごめんね、育ちが悪くて、と笑う母親の声だけはしっかり聞こえた。
誰に助けを求めればいいのか、誰に救いを乞えばいいのか、幼かった俺には見当もつかず、ただ夜道をまっすぐ、海の方へ、裸足で走った。夜は寒くて、足も痛くて、泣きながら走り続ける。暗かったから視界があまりはっきりしていなかったが、交差点の曲がり角を過ぎると急に目の前に長い足が現れて、思いっきりぶつかってしまい、後ろに尻餅をついた。

「ンマー、どうしたそんなに慌ててって、おま、え、」

鼻を抑えて上を見ると、青みがかった長めの髪に白いタオルを巻いた青年だった。その青年は驚いた様子で屈んで、おれの涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった顔をタオルで雑に拭い、頭を撫でた。

「どうした、こんな夜更けに、おまえ、名前は?」
パウ、リー
、!!、パウリー、か、」

俺の名前を聞いて、どこか納得したその表情と、優しい声に、俺はその青年に飛びかかってしがみ付き、わんわん泣いた。ひたすら泣く俺を、なにか事情を察したのかそのまま抱き上げて表の通りにでて、海沿いの道を俺を抱えたままゆっくり歩き出した。
深夜の海岸線には人っ子一人歩いてなかったから、海の音が大きく聞こえた。
トントン、と背中を叩かれて、だんだん呼吸も落ち着いてくると同時に、この抱っこされてる状況が、少し照れ臭く感じてきて、

ありがと、お、降ろして」
「お、泣き止んだか、」

青年は、俺をまだ抱えながら、防波堤の階段を登り、海が綺麗に見える場所に腰掛けた。
寒かったけど、青年のあったかい身体にくっついていたらだんだん温もりを取り戻してきた。

「こんな深夜にどうしたんだ、親が心配するぞ」
心配なんてするわけねぇよ、」
何があったんだ、話してみろ、」

優しい声で話しかけられて、俺はゆっくり、お家であったことを話し始めた。父親はいないこと、母親は俺のことを見てくれないこと、さっきあった、こと、
ぽつりぽつり、独り言のように話していると、上からポタ、ポタ、と雫が降ってきた。
見上げてみると、青年が、泣いている。
俺の頭をよしよしと撫でながら、泣いている。

なんで、あんたが泣くの、」
「おめぇっ、まだちいせぇのによ、悲しかったよな、悔しかったよな、よく、頑張ったな、」

あぁ、泣いてよかったんだ。
やっぱり、この境遇は 悲しいことなんだ、と、俺もまた涙が溢れてきて、ひたすら青年の服を掴んで、グスグスと泣いた。
涙ながらに見上げた青年の背景には星空が広がっていて、優しい顔で俺をみるこの青年に、俺は、幼いながらに、恋をしたんだ。
きっとこれは、初恋、だった。


これが、俺とアイスバーグさんの出会い。
事情を知ったアイスバーグさんは、トムさんに相談して、いつでも逃げてこいと、造船所内にある寝泊まりできる部屋を一室貸してくれていた。小学生だし一人だと寂しいだろうと、俺が部屋に泊まるときはアイスバーグさんも一緒に泊まってくれた。
眠る時、聞いたことがある。なんでこんな会ったばかりの知らない俺に、こんなによくしてくれるのか。
アイスバーグさんは笑って、お前には今世でも幸せになってほしいから、とそう言った。
今世、ってどういうことだろう。その言葉の意味を考えていたら、いつのまにか夢のなかだった。


小学校が休みの日は、ひたすらアイスバーグさんを見に造船所に遊びにいくのが日課だった。
仕事中はくるな、と言われはしたが、本当に突っぱねることもなく、俺はひたすら、仕事してるかっこいいところを見ていた。
そして、中学生になって、一度だけ、アイスバーグさんに気持ちを伝えたことがある。
学校が終わって、その日も造船所に走っていくと、近くの防波堤で夕日に照らされながら海を眺めているアイスバーグさんを見つけた。

「またさぼりですか、アイスバーグさん」
「パウリー、学校は終わったのか?」
おう、」

隣に腰掛けて、一緒に海を眺めた。
隣をみると、夕陽に照らされた横顔がかっこよくて、眩しくて、

「なぁ、アイスバーグさん、俺が、好きって言ったら、どうする」

思わず言葉が溢れてしまった。
それを聞いたアイスバーグさんは、俺の頭を昔のようにぐしゃぐしゃかき回して、ふっ、と笑った。

「ンマー、お前みたいな14も離れたガキ、弟としか見れねぇよ」
「だよな、知ってた」

聞かずとも答えはわかっていた。
俺の初恋は叶わなかったが、なんか心は落ち着いていて。ふられたって、この人は、俺を救ってくれた大事な恩師だ。
どうにかして恩返しがしたい、と、それからはより一層、船の製造の手伝いに励むこととなった。
その頃にはアイスバーグさんはトムさんのとこから独立してガレーラカンパニーを設立していて、更に忙しくなったあの人をはやく支えられるようになりてぇと、必死に周りの大人達についていった。
そして、高校卒業してからすぐ、ガレーラカンパニーに就職させてもらって、俺も自分の家を借りて一人暮らしを初めた。
男職場で、かつ尊敬する恩師の元で、お世話になったアイスバーグさんに少しでも恩返しがしたくて日々懸命に仕事をこなしている。


と、冒頭が長くなってしまったが、俺は恋愛対象が男である。初恋のアイスバーグさんには振られちまったけど、24になって仕事もうまく行っているし、気持ちの余裕もできてきたから、新しい恋をしたい、と最近思うようになったわけだが。


「マッチングアプリか、」
「そうなんだだがよ、なんか怖ぇというか、しらねぇ奴とこんなSNS通して、ってお前!カク!」
「ようパウリー、気づくのが遅いのぅ」

手をヒラヒラとさせながら勝手に相席してきたのは同じガレーラカンパニーで働く同僚のカクだった。

「パウリーが恋人探し、か。独り身は寂しいのう。もうすぐでクリスマスもくるというのに」
「うるせぇな!俺にも寂しい時くらいあんだよ!」
「アイスバーグさんを誘ってみたらいい」
「あの人は忙しいんだ、そんな俺に構う時間なんてあるわけないだろ」
「振られとるしな」
「うるせーーー!」

同期でもあるこいつとは、なんだかんだ気も合うしよく飲みにもいく仲で、俺の過去も知っているくらいの間柄だ。ホカホカのコーヒーで手を温めながらニヤニヤとこちらを見てくる。
ことあるごとにアイスバーグさんのことでいじってくるのだが、まぁもう過ぎたことだし、俺も吹っ切れてるからな。仕事では決して手を抜かずビシバシ指導してくるけど、今では父親のように思ってる。

「あいつがこのことを知ったら、なんて言うかな」
「は?なんて?」
なんでもないわい。ほれっ」
「あっ!おい、返せ!」

俺の隙をみて手元からスマホを奪ったカクは、さっきダウンロードまでこぎつけ、まだプロフィール入力を済ませていないマッチングアプリを開き、勝手知ったる様子で俺の情報を打ち込んでいった。

「勝手に登録するんじゃねぇ!!!」
「お前に任してたら時間がいくらあっても足りんわい。ほら、写真は前会社で撮ったこれでいいじゃろう」
「写真まで決めんな!」
「顔はいいんじゃから、いくらでも寄ってくるぞ、ほら、これで登録完了じゃ」
「ったく、お前はよぉ!」
「マブとしてお前の今世を心配しとるんじゃ!ほれ、スマホ鳴っとる。さっそく通知がきたんじゃろ」

俺のスマホから通知音がポンポンとリズムよく鳴り、確認するとそれは先ほどカクが登録したマッチングアプリからだった。
可愛い装飾が施されたアイコンに数字が加算かれていく。タップすると、ハートマークとともに相手からの「いいな」がたくさんきていて、むしろ新規登録したばかりだというのに鳴り止まない通知に恐ろしくなってくる。

「お、おい、カク、どうすんだよこれやり方がわかんねぇ
「この相手から、ってところを見て、いいなと思ったら右、良くないと思ったら左にスワイプじゃ」
「え、いいとかわりぃとかわかんねぇよ一緒に見てくれ、」
「しょうがないのう、いくぞ」

カクが俺の座るソファー席にきて、二人で画面を覗き込み、プロフィールを見ながら右に左にスワイプしていく。
挨拶文のところに皆それぞれメッセージが書いてあって、身長や仕事、趣味、等、情報が知れるようになっている。写真も風景だったり人物だったり人それぞれ。
場所も俺の住んでいるところに近い人物を選定してくれるようだった。今の時代ってすげぇなぁ、便利なもんだ。

「お、こいつなんて
「パウリー、写真と、この自己紹介文見ろ、明らかにヤリモクじゃ、次!」
「えぇあ、飲むのが好きだってよ、」
「二枚目の写真がイキった車なのが無理じゃ、次!」
あ、この」
「身長が170未満じゃぞ!論外!次!」


何が気に食わない、これがだめ、と次々俺も追いつけない速さでスワイプしていくカクに、あれ、これ俺の恋人探しだよな?とか、こいつ慣れすぎじゃねぇか、とかだがまぁ、心強いことはこの上ない。俺ってもしかして見る目ないのか
そのままどんどん品定めのように右に左に捌いていくと、ある人物のところでカクの手がピタリと止まった。

ん?」

そこには1匹の白いハトが、手を挙げてる写真が一枚、名前のところにハットリ、とある。プロフィールを見ると、28歳、身長が212cm、仕事は大工、趣味はブランデー集めに、鳩と遊ぶこと、体術。おお、なかなか良さげな感じじゃねぇか。同じ仕事だし。
ふと隣のカクをみると、俯いて机に突っ伏して爆笑しているようだった。

「え、カクおま、なんで急に笑うんだ、」
っく、い、いや、ちょ、腹が、腹が痛いっ、」

笑ってる意味がわからずに、そのままこのハットリさんのページを色々見てみることにする。写真も3枚ほどあったのでスワイプしてみると、一枚目はハト、二枚目は顎の辺りから下、独特の髭に、少しウェーブがかった長い髪、逞しい腕、四角にバツがかいてあるタトゥーも見えていた。ちょっとやんちゃなやつなのかもしれない。三枚目はおそらく好きなブランデーがポンポン並べられてる写真だった。
なんか、気になるな、こいつ。
ひとしきり笑ったあと、目尻に浮かんだ涙を拭ったカクは俺が何か言う前に初の右スワイプ、つまりマッチングの方へと指を動かした。

「おい、こいつはいいのかよ」
いい、きっと大丈夫じゃ。あくまで、カン、じゃがな。そして見てみろ、」

画面を見ると、マッチ成功!と明るい画面で表示されていた。
アプリの中でも、「いいな」には種類があるらしく、課金することでしかできない最大級の「いいな」がされていた、とかいてある。

くく、どんだけ必死なんじゃ、」
「なんだこれ、」
「まぁ、向こうもお前さんが気に入ってるんじゃろ、」
へぇ、」

ハットリさん、か。文章も簡素なものだったし、写真にもあまり種類はなかったが、なぜか俺もこの人に興味を持った。なんで名前はハットリなんだ、とか、どこで大工をやっていて、その中でも何を得意としてるのか、とか、酒も好きそうだし。
そのままプロフィールに目を通していると、さっそくハットリさんからメッセージがきたようだった。
俺よりうんと楽しそうなカクに見守られながらメッセージを開封してみると、Pさん、こんにちは。良ければ仲良くしてください、とこれまた簡素な内容が送られてきた。
(俺の名前はアプリ上ではPになっている。おそらくカクがパウリーのPと適当に打ち込んだのだと思う)

「これ、普通にこのメッセージでやり取りして行ったらいいのか?」
「そうそう、それで友好関係を築いていって、いずれは電話だったり、会ったり、といった感じかのう」
「へぇ
「そいつ一本でいったらいい。」
「こういうのって普通何人かとやりとりとかするもんじゃねぇのか?」
「お前さんに任せてると、どんなクズでも受け入れそうじゃからダメじゃ。わかったな、もうスワイプはやめろ、嫉妬されるぞ」
?わかった」

カクが飲み終わったコーヒーを持って立ち上がる。仕事着だったところを見るに、休憩時間だったらしい。

「また進捗聞かせてな。ワシは仕事に戻る」
「お、おう、がんばれよ、」

またヒラヒラと手を振って店を出て行ったカクを見送って、またトーク画面に目線を下げた。うーん、と暫く悩んだ後、俺も当たり障りない内容で返すことにする。

〈ハットリさん、こんにちは。メッセージありがとうございます。初めたばかりで分からないことだらけですが、よろしくお願いします〉

ん、こんなもんだろう。
送信ボタンを押して、もう温くなった苺ラテを口に含むと、ハットリさんからの返事はすぐに返ってきた。仕事中じゃないのだろうか、レスがやたらはやい。同じ大工職だし、今日は日曜日、繁忙期でもないから向こうも休みなのかもしれないな。

〈お返事ありがとうございます。初めて間もないんですね。誰か他の人とやりとりしましたか〉

〈いえ、ハットリさんが初めてです〉

〈そうですか、嬉しいです。なんでアプリに登録しようと思ったのですか〉

なんで、か。このアプリに登録してる時点で、ハットリさんもこっちの人だから引かれはしないだろうが、恋人探し、って素直に言っていいものだろうか。返事に悩んでいると、ハットリさんからまたメッセージがきた。

〈もし言いたくなかったら、大丈夫です〉

俺が返事しなかったから、ハットリさんに気を遣わせてしまったかもしれない。でもこの一文で、気遣いもできるし、いい人なんだろうな、って俺の中で確信がもてた。

〈お返事遅くなってすいません。仕事も慣れて余裕が持てるようになってきたので、恋人が欲しいなと思って登録してみました〉

こんなやりとり小っ恥ずかしくてたまらないが、事実なのだからしょうがない。
でも初めてのアプリで、恋をする為のやりとりと思うと、なぜかワクワクしてる自分もいる。

〈そうなんですね。俺も仕事中心の生活だったので、気持ちわかります。Pさん、可愛い顔してるから、モテるでしょう〉

ガタンっ、と椅子から立ち上がってしまい、周りにざわざわと目線を向けられる。
慌てて座り直してもう一度画面を見ると、可愛い、とやはり書いてあった。
っか、可愛い、顔??!目線はわりと鋭いし、髭も生えてるし、結構男らしい顔と思ってるんだが、か、可愛いのか、
アプリに登録してる写真も、普通に会社のやつらと撮ったのを顔だけ切り取って載せてるだけだしな、まぁ偽りを載せてるわけじゃないけども。

〈可愛くはないとおもいます。目もきつめだし、結構男らしいとか言われるので〉

〈そうですか?可愛くて、好みの顔だなと思います〉

思わず照れて変な声が出た。ハットリさん、こんな恥ずかしい台詞を重ねてくるが言ってて恥ずかしくないのだろうか。
まだ会ったことのない人なのにドキドキして、耐えられなくなってスマホを閉じた。
家に帰ってまた冷静になったら返事しよう、うん。苺ラテのコップをカウンターに返し、店を出る。

外はクリスマスが目前だからか、通りにはイルミネーションの飾り付けがされていて、ショーウィンドウも心なしか輝いて見えた。
寒い時期になると人恋しくなるのは本当だな。過ぎゆくカップルが、この風景を眺めながら楽しそうに話してるのをみて、どこか切ない気持ちになる。俺はまだ恋人がいたことはないけれど、いつか隣を歩いてくれるやつができて、街並みを手を繋いで歩いたりするのだろうか。
干渉に浸っていたらどんどん手が凍るように冷たくなってくる、こんな寒い日は鍋でもするか。
冷蔵庫なんかあったかな、と思い浮かべながら、帰路を急いだ。


***


家に帰ってきてぷしゅっといい音を立ててビールを一本、野菜ときのこと肉をぶちこんだだけの鍋で身体を温め、風呂に入ってやっと一息ついた。就職してから初めての給料で買ったお気に入りのソファーは座り心地がよくて、俺のお気に入りだ。
濡れた髪をタオルでガシガシ拭きとりながらアプリを見るとまたアイコンのところの数字が増えていた。
タップしてメッセージの画面へ飛び、改めてハットリさんへの返事を考える。
すると、先ほどはなかった表示が見えた。

「アプリ通話?」

ハットリさんとアプリ通話が可能になったよ!とのメッセージがきていたのでそこをタップしてみると、電話番号をお互い教えることなく通話ができるらしい。そんな機能もあるのか。ともかく今は返事だ、

〈こんばんは。さっき家に帰ってきて、一息ついたところでした。好みの顔、って言われると恥ずかしいですね。でも嬉しいです〉

〈Pさんこんばんは。本心なんですが、ストレートに言い過ぎたかと、引かれていないか心配でした。お返事きて良かったです。〉

〈引かないですよ。そういえば、ハットリさんはお仕事が大工なんですね。俺も同じ仕事です。〉

〈そうですよね。5年目くらいになるんですが、まだまだ奥が深いなと日々奮闘しています〉

〈わかります。やりがいがある仕事ですよね!ハットリさんは主に何を作ってるんですか?〉

〈俺は船大工です。木釘職を担当しています〉

〈そうなんですね!俺も船造りです!俺はマスト担当!仕事の話もできるのは嬉しいです〉

〈Pさんとは仕事も同じだし、お酒もお好きなんですよね。共通してるところがたくさんあって、やりとりが楽しいです〉

思わずスマホを投げてしまうところだった。今俺が言おうとしてたとこっ、!
ハットリさん、仕事の話もできるし、メッセージはやりとりしやすいし、ひとつひとつが楽しくて、こんな始めたてなのに浮かれちまってる。ハットリさんのプロフィール写真の二枚目をもう一度見る。この人は、生であったらどんな人なんだろう。今、何してるんだろうか。少しでも俺と同じ気持ちでいてくれてるのだろうか。

〈俺もそう思います〉

もうこの一言を打つだけで精一杯だ。
24年間生きてきて、恋愛にはご無沙汰だったけど、この歳になって楽しみを見出しちまってまぁ悪いことではないんだろうが。
2本目のビールを空けてグイッと喉に流し込み、また横になると、メッセージの通知。

〈Pさん、今何してますか〉

〈家でゆっくりしてますよ〉

〈良ければ、貴方の声が聞きたいのですが〉


ガタン。
今度こそソファー下にスマホを落とした。
先ほどのアプリ通話、向こうにも表示がされていたのだろう、ハットリさんは電話をしようと、きっと言ってきてるのだ。
ソファーの上でゴロンゴロン顔を押さえて転がっていると、また通知がひとつ。

〈難しければ、またの機会でも〉

この人はほんと気にしぃだな
ええいままよ!俺はメッセージ上の通話のボタンを押してハットリさんに電話をかけた。
独特のコール音が鳴る中、俺の心臓も緊張で鳴り響いて止まらない。

『もしもし』
あっ、あの、俺、』
Pさん、電話してくれたんですね』

どこか、しっくりくる声、どこかで聞いたことのあるような聞き馴染みのいい声だ。
低めのテノールが耳に心地いい。

『ハットリ、さん、俺ほんとに、こういうの初めてなんで、緊張しちまって、』
『俺も急でしたから、でもかけてくれて嬉しいです』
それなら、よかった、なんか、ハットリさんの声、聞いたことのあるような声なんですよ、』
はは、俺も、同じことを思ってました』

電話越しのハットリさんが、くつくつと笑う。あぁ、この人も、同じこと思ってくれてたのか。最初緊張してたのが嘘のように、声を聞いた途端話したいことがたくさん浮かんできて、自然に会話ができた。ほぼほぼ俺が話すような感じだったが、ハットリさんはちょっと嬉しそうにちゃんと話を聞いて相槌を打ってくれる。まるで、本当に話せるのが楽しいと思ってくれてるかのような、

でさぁ、俺言ったんだよ、お前のその金額じゃ何も作れねぇよって、』
『はは、その通りだな』
『まったくよぉ、それで文句ばっか言ってくるから……って、え、もう23時じゃねぇか!』

ふと流し続けてた適当な番組の時刻欄を見たら時刻はすでに22:56と表示されていた。
ハットリさんに電話をかけたのは、おそらく19:30くらい、既に3時間半近く喋ってたのかよ!

『っすまねぇハットリさんっ、こんな長い時間経ってるとはてかハットリさん歳上なのに勝手にタメ語でしゃべっちまってた、』
『構わない、その方が壁がなくていい』
『あ、あぁ、そう言ってくれて助かる、俺も敬語は少し苦手なんだ。』
相変わらずなんだな、』
『え?』
『なんでもない。』
『?あ、良ければあんたも、敬語なしで喋ってくれよ』
『あぁ、わかった。明日は仕事だろう?』
『そうなんだよ、そろそろ寝るかな』

同じ体勢で喋ってたもんで、背中が固まってバキバキだ。両腕に力を込めてぐっと背中を伸ばした。

『俺ばっか喋っちまってわりぃな』
『楽しかったからいい』
『そっか、よかった』
今度は、お前の顔を見ながら話したい』
『っ、』

また、顔が赤くなってるのを感じる。
この人の声はほんとに、ずるい。まだ会ってもないのに、そんなこと言われて浮かれる俺も、どうなんだ。

『き、機会があれば、』
『あぁ、それでいい。』

電話越しのハットリさんが、小さく笑った気がした。

『じゃあ、また。明日仕事遅れるなよ。


おやすみ、パウリー』

あぁ、また』


プツン、とアプリの通話が終了する音がした。相変わらず通知は鳴り止まないが、もう設定を切ってしまった。
あっという間の三時間半、夢中で喋ってたらいつの間にか過ぎていて。




「あれ、俺の名前、ハットリさんに教えたっけか?」


ふぁあ、と欠伸をひとつ。
眠気が迫っていて、もう考えるのはやめよう、とベッドに移動してどかりと倒れ込んだ。楽しかったな、また話せたら、


パウリーは満足げに目を閉じて、そのまま深い眠りに美ちていくのだった。


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