X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

おやすみ、また今夜

全体公開 本編ドラヒナ(両片思い期) 1 16 4117文字
2023-02-06 11:26:25

両片思い期のドラヒナで大晦日と煩悩のネタです。今回もアカジャで、彼女が年越しを事務所で過ごしていたのは嬉しかったですね。
いつまでみっぴきで過ごせるのかと考えるヒナイチくんと、帰省中の彼女が同窓会に参加すると聞いてモヤモヤするドラルクさんのお話。
2023/01/03に上げました。

Posted by @kw42431393

 ドラルクの監視任務に就いて間がない頃だったろうか。その頃の床下は、下に寝袋を置いただけの仮眠室どころか、ただ潜むだけの場所だった。だから、監視が終わる12時以降、毎回寮に帰っていたものだ。
 「年頃の娘さんが一人で出歩ちゃダメだよ。送っていくよ。」
 そう言って、あいつは寮の前まで私を送ってくれた。必要なんてないのにな、寮の前で別れる時に私はこう言おうとした。
 「おやすみ、また明日な」と。
 しかし、先に口を開いたあいつはこう言った。
 「おやすみ、ヒナイチくん。また今夜。」
 そう言われればそうだ。次に彼に会うのは夕方の6時以降なのだ。日付は変わっているから、明日ではなく今日。なんだか不思議な感覚だった。
 「あ、ああ。おやすみ、またこん、や。」
 戸惑っている私の手に口づけをすると、飄々と彼は事務所に帰っていった。私は何故か、ミミズ以下のクソザコの彼から目を離せなかった。
 実際、吸血鬼である彼と人間である私が一緒にいれる時間は少ない。それでも、またすぐ会える様な錯覚を覚えるその話し方は、なんだか不思議な暖かみを感じるものだった。
 毎夜、私が「今夜も監視に来た。」というと、「おはよう、いい夜だね。」と返してくれる。いつしか私も「おはよう。いい夜だね。」「おやすみ、また今夜。」と言われると「ドラルク、おはよう。」「そうだな、また今夜。」と自然に返す様になっていた。
 そして、床下の改造が進み、オータム流建築術によって改装されて、そのまま住み着く様になると、尚更それが日常になっていった。

 おやすみ、ドラルク。また、今夜な。



 誰もが慌ただしい大晦日。その年の終わり。新しい年を迎える為に、世話になった人に挨拶をし、日常使っている物や家を掃除し、お節や鏡餅を用意する日。
 いつもの時間に事務所に姿を見せると、事務所もご多分に漏れず、新年の用意にかかっていた。
 「ビビッ!」
 「こんばんは、メビヤツ。ロナルドに綺麗にして貰ったのか?」
 ピカピカに輝いている彼を撫でてやると、目を細めて「ビッ!ビッ!」と音を立てた。今日は休みにしてあるらしく、客の姿はなく、あちこちで物音がしている。
 「おー、ヒナイチ。来たのかあのさあ、折角掃除したんだからよ。ちゃんと玄関から入れよな。」
 「ヌイッヌイヌ。」
 マスクをし、雑巾を持ったロナルドが風呂場から姿を現した。開いた床下の扉を呆れて見ている。肩にタワシを持ったジョンも乗って、手を振っていた。
 「ロナルド、ジョン、こんばんは。私も床下を掃除したいんだ。雑巾かモップを借りていいか?」
 この間の非番の時に軽くやってある。ほんの少しで終わるはずだ。
 「いいぜ、このモップ使えよ。」
 「すまないな台所からいい匂いがするな。ドラルクか?」
 「ヌヌイヌ。」
 おそらく、お節と今晩の晩御飯を作っている彼が立てている、小気味良い包丁の音が聞こえてきた。
 「今年もうちで蕎麦食べて、来年もお節食べてくだろ?」
 「頂こう!ドラルクの作ったものは何でも美味しいからな。」
 思い浮かべるだけで涎が湧いてくる。モップを借りると私は床下に戻った。去年も同じやり取りをしたな。掃除が終わる頃、もう晩御飯もお節も出来上がっていて、あとは、皆でゲームをしたり、紅白を見る事になるのだろう。


 ゴーン!ゴーン!

 テレビから除夜の鐘の音が鳴ってきた。待ち焦がれていた年越し蕎麦が私達の前に並べられる。
 ドラルクの手打ちで、お出汁が利いてるし、乗っている天ぷらも最高だ。とっくにお重に詰められているお節も楽しみだが、作っている途中で味見をさせて貰ったし、明日のお楽しみ
 「あっ、ロナルド。何勝手に開けてるんだ。ズルいぞ!私も食べたい。」
 「ヌヌイ、ヌヌイ!」
 「やめんか!この5歳児!ジョンもヒナイチくんもやめなさい!さっき、少しあげたでしょ?」
 そう去年もあったな、このやり取り。明日になれば新しい年で、そして、また何年も何十年も続けていくのだろう。いつまでできるのだろう、いつかはこの風景も
 「ヒナイチくん?」
 「ちんっ!?な、何でもない。」
 すっかり汁まで飲み干した丼を前に考え込んでいた私をドラルクが覗き込んだ。

 ゴーン!ゴーン!

 鐘の音が無心に重ねられていく。新しい年へなんという事のないはずの明日へ。
 「ふわぁ何だ、ヒナイチ?疲れたのか?蕎麦食ったら、眠くなっちまったよ。ちょっと、俺ソファで寝るわ。」
 鈍感なロナルドの言葉で何故か救われた気がした。当の本人は何も気にしないで、ソファに向かって行く。
 「これ、寝る前にちゃんと歯を磨き給えよ。虫歯になっても歯医者についていかんぞ。」
 「うるせえなぁ。お前は母ちゃんか、全く。」
 「誰のせいで板についたと思ってブェッ!!」
 「ヌエ~ン!」
 後に残っているのは、いつもの塵の塊だった。私は呆れて集めた丼をシンクに運んだ。


 塵から体を再生させた私は、キッチンのヒナイチくんの後を追った。
 何を考え込んでいたのだろう。私のよく知る彼女は、いつも目をキラキラさせて私の料理を頬張る、可愛らしい少女だ。リスやハムスターの様で、甘やかしてあげたくなる。
 この前、たまたま半田くんとパトロールしている途中の彼女を見た。県外から来た観光客が、ポンチ共の洗礼を受けて、ビキニで股間が満開で、Y談しか喋れなくて困っていた。
 うちではお子様な二人が着替えを用意したり、解けるまでの時間を潰せる様な所に案内したり、奴らを補導したりこれがあのクッキーモンスターとセロリ魔人だろうか。昼の子も狭間の子も成長は早いとつくづく感じた。
 正直、長い時間を彼女と一緒に過ごせるロナルドくんと半田くんがお子様で助かったと思っている。私の前では「クッキー、おいしい」しか言わないヒナイチくんが、外では女性の顔をしているのだ。さっきのあの表情もそうだ、誰かに盗られる前にと焦燥感に駆られる瞬間が確かにある。
 「ヒナイチくん、いいよ。洗い物はやっておくから。」
 キッチンで食器を洗ってくれていた、彼女の肩を叩く。
 「いや、このぐらい私でもできるぞ。お前こそ、早めに起きて準備してたんじゃないか?」
 それは間違いないが、それは彼女にも言える。
 「いいよ。私は夕方の6時までまた寝ればいいし。明日、お節食べたら実家に帰省するんでしょ?荷造りして寝てなさい。」
 わざと母親の様に言う。そういうと、この娘は弱いのだ。
 「ん分かった。おやすみ、ドラルク。また、今夜いや。」
 「フフフ、癖だね。帰ってくるのは3日の夜だっけ?何時の電車で帰ってくるの?」
 苦笑いする少女に重ねて問う。日が空くと心配になる。都合が合えば迎えに行くつもりだ。
 そういえば、去年は1泊2日で帰ってきたのに、今回は1日長いんだな。いや、家族でゆっくりしたいだろうしうん。
 「同窓会が終わった足で帰るから、10時ぐらいに着くとちん?どうしたんだ?」
 あぁ、顔に出そう。年上のプライドがなんとか体裁を保ってくれた。危ない、危ない。 
 「そ、そう。楽しんでおいで。会いたい友達とかいるでしょ?ゆっくりしておいで。」
 「どうかな。こう言ってはなんたが、あまり女の子のグループに入れなかったんだ。剣道の鍛練ばかりしていてな。」
 そういえば、そうだっけ。
 「じゃあ、男の子とか。憧れの人とか先生とかいなかったの?」
 自分で言ってて、塵になりかけている。当時の彼女は、男の子とよく間違われたそうだ。こんなに綺麗になった彼女を見たら、彼女が成長した相手を見たら私の目の届かない所で考えたくない。
 「なかったな、鍛練しか見えてなかったのだな。」
 「そ、そう。」
 あっさりと言いきる彼女を見て、ホッとした顔を隠すのに苦労した。さっきの大人びた彼女を見たせいだろう。
 そろそろ、切り上げよう。このままだと、「帰るのはよし給え」と我が儘を言いそうだ。
 「お前達が初めてなんじゃないかな。ちゃんと、友人と言っていい相手は。本音を言ったり、相談できるのはここだけかもしれない。」
 「半田くんとか隊長さんとかにも言わないのかね?」
 そう言われればそうかもしれない。後遺症を治そうとしたり、弱点を克服しようとしたり彼女が頼ってくるのはここなのだ。
 「うん。別に気負う必要がないのも分かっているのだが、弱い所を見せたくないというか。」 
 何をモヤモヤしていたのか、心配する必要などなかったのだ。この子が帰ってくるのは、ここなのだ。だから


 『ゴーン!』
 『新年明けましておめでとうございます!』
 
 テレビから108回目の鐘の音が聞こえてくる。
 「明けましておめでとう、今年もよろしくね。」
 「明けましておめでとう。これからもよろしく頼む。」 
 今年も、ではなく『これからも』か。我々にそういう事を簡単に言っちゃいけないのに。
 さっきまでの迷いは忘れよう。気持ちよくこの子を送り出して、3日に新横浜駅まで迎えに行こう。
 「私は棺桶で寝てるから、お見送り出来ないけど、気をつけて行っておいで。それと
 「なんだ?あっ!クッキー!」
 すっかり、いつものクッキーモンスターに戻ったこの子に苦笑する。
 「多めに作っておいたから、電車でお食べ。それじゃあ、おやすみ。」
 そっと、手に口づけをする。以前の様に赤面せず、信頼しきった笑みを浮かべる彼女が愛おしい。
 「ああ、いってきます。それじゃあ、おやすみ。」
 
 少し間が空いてしまうけど、大丈夫。明明後日の夜には、またいつもどおりここに帰ってくるのだから。
 そして、太陽の様に笑ってクッキーを食べたら、床下に戻る前ににこう言ってくれるのだろう。

  おやすみ、ドラルク。また、今夜と。
 
 
 
 
 
 
  


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.