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チョコレートを君に

全体公開 1 16 7778文字
2023-02-10 20:43:12

うじまつさんとコラボさせていただきました!
炭カナのバレンタイン話です☺️

Posted by @nana_50114

 ぴゅうぴゅうと冷たい風が吹き荒れ、少女の髪の毛を勢いよく左右に揺らす。はあ、と吐いた息は真っ白で、今が真冬であることを嫌でも教えてくれるようだ。アオイは足早に通学路を進むと急いで教室の扉を開いた。……だが。
「はあ………
「どうかしたの、カナヲ。元気ないじゃない」
 クラスに着くなりズーンといった効果音が流れそうなほど沈んだ雰囲気を醸し出すカナヲに、アオイは心配そうに声をかけた。こんなに元気がないのは、姉妹お揃いの蝶飾りを無くした時以来だ。
「アオイぃ……
 カナヲはヨロヨロと顔を上げると今にも泣きそうな表情を浮かべた。途端、たくさんの視線 がこちらに向けられているのを嫌でも感じる。キメツ学園の三大美女であるカナヲは、誰が見ても可愛い。いつもは冷静で、寡黙な彼女だがアオイや親しい友人の前だとこうしてコロコロと表情を変える。決して少なくない彼女の熱烈なファン達は、カナヲのレアな表情を網膜に、脳裏に、あわよくばレンズに映そうと必死なのだ。
「カナヲ、ちょっと場所を移動しましょうか」
 アオイはカナヲの手を引くと、校舎裏の人気の少ないところへと連れて行った。……これで周囲の目も気にならないだろう。
「で、どうかしたの?」
「あの、その……あの、ね……来週、バレンタイン、でしょう?」
「分かったわ、カナヲ。カナヲは炭治郎さんに何を作りたいの?」
「どうして分かったの?」
 大きな瞳を更に大きくさせ、素っ頓狂な声を上げるが最初のひとことだけで、アオイには十分だった。この、キメツ学園三大美女と称される少女も人並みに恋はする。その相手が……竈門炭治郎だ。真面目で勤勉。それでいて優しい彼は、少し変わったところがあるもののそれを上回るほど人が良い。カナヲを妹のように思っているアオイも、彼のことは認めざるを得ない。だがいかんせん、カナヲは超が付くほどの奥手だ。加えて、彼女はお世辞にも家事が得意とは言えない。それは料理にも同じことが言える。カナヲの指先の絆創膏は、おそらく彼女の昨日の闘いの跡なのだろう。
「すごいね、アオイはなんでも分かっちゃうのね」
「当たり前でしょう? 何年一緒にいると思ってるのよ」
 そうだね、と照れくさそうに笑う彼女は、親友であるアオイから見てもとても可愛らしかった。
「じゃあ、早速今日の放課後に材料を買って帰りましょ。何作りたいの?」
「セバスチャンケーキ……
「何それ?」
「切ると、断面が市松模様みたいになるケーキなの。炭治郎に、似合いそうだなって……
「市松模様……?」
 いまいち要領を得なくてポケットに入れてあるスマートフォンを取り出して検索してみる。……そして、理解する。
「これは……随分と工程が多いわね……
 まず、チョコレートケーキとバターケーキの二種類のケーキを作るところから始まる。それに市松模様を作るために型紙を用意しなくてはならないしケーキスライサーで綺麗に切らなくては思うような市松模様はできないだろう。これは、なかなか難易度が高い。
「けど、カナヲはこのケーキを作りたいのよね?」
 カナヲはこくり、と力強く頷く。こうなったカナヲは梃子でも動かないし、アオイが手助けしなくても一人で挑戦し続けることをもう十分に理解していた。
「分かったわ。じゃあ、一緒に頑張りましょ」
「いいの?」
「当たり前じゃない」
 アオイが鷹揚に頷いて微笑んで見せた。アオイにとってカナヲが大切な親友であるということを差し引いても、恋をしている彼女は誰よりも輝いていて可愛らしかった。小さい頃は、自分の気持ちを表に出すのが苦手な子だった。義理の姉達にも遠慮がちで、困ったらコインに頼るような……そんな、自分の心の声が小さな女の子だったのだ。それが、今では好きな男の子のために苦手な料理に挑戦しようと思うようになった。自分の意思が、はっきりと口に出せるようになった。これは間違いなく、炭治郎のおかげだろう。炭治郎がカナヲの閉ざしていた心の扉を優しく開いたのだ。それが自分でなかったのは少し……いや、かなり悔しいけれど、今こうしてカナヲのサポートを全力でしているのだから、それでもいいのだ。
「大丈夫。工程が多いから難しそうに見えるだけだわ。家に帰ったら道具を持って行くわ。それから……
「なぁに、アオイにカナヲ! なんか楽しそうな話してるじゃなぁい。あたしも混ぜなさいよ」
「梅!」
 一体どこから現れたのか。キメツ学園三大美女、謝花梅がニヤリと笑いながらアオイとカナヲの顔を覗き込んできた。
「今日の放課後、カナヲん家行けばいいのね」
 それだけ言うと、梅はばいば〜いと気ままにどこかへ去っていった。
……行っちゃった」
「いいの? カナヲ」
「うん。みんなで作った方が楽しそう」
 そう、小さく笑う彼女からは、ワクワクとした雰囲気が伝わってきた。

「さ、始めるわよ。まずは手を洗って」
 基本的に自由な梅は、もしかしたら来ないかもしれないと内心思っていたが杞憂だったようで張り切って自前のエプロンまで用意している。
「そういえば梅は、バレンタインのケーキを誰にあげる予定なの?」
「そんなのお兄ちゃんに決まってんでしょー! カナヲはあの不細工にあげんでしょ? シュミわる〜」
 ズケズケと言われた途端、カナヲはムッとした表情で梅を睨みつけた。
「炭治郎は不細工なんかじゃないもの! とっても素敵で格好よくて、優しくて強いんだもん!」
「な、なによ! 本当のこと言っただけじゃない!」
 ムキになって頬を膨らませる梅の肩をアオイは優しく叩いた。
「梅、アンタ言い過ぎ。梅だって大好きなお兄さんのこと悪く言われたら嫌でしょ?」
「お兄ちゃんの悪口を言う奴は一人残らず抹消してやるわ」
「物騒なこと言わないの。けど、それはカナヲだって同じよ。自分が言われて嫌なことを人に言っちゃいけないわ」
 ハッとしたように目を丸くすると、梅は肩を竦めながら小さな、小さな声で悪かったわね、と囁いた。
「うん、もういいよ。仲直り」
 そう言うと、カナヲは梅の後ろに立つと彼女の髪に触れた。
「梅ちゃん、髪結ぶからちょっとかがんで」
「ええー、このままでいいわよ、別にぃ」
「ダメだよ、ケーキに髪の毛が入っちゃう」
 そう言いながらカナヲは梅の髪を櫛で梳かしていく。ダサい、だの不細工になるからやめてよ、だの唇を尖らせながら文句を言っている梅だが意外にも大人しくされるがままになっている。最後にカナヲが蝶飾りをつけてやると、梅は大きく目を見開いた。
「これ、アンタの大切なものじゃないの?」
「うん。前にこの飾りをなくしたんだけど、見つかったあとに姉さんから渡されたの。私のはもう無くさないから、梅ちゃんにもあげる。これでみんなお揃いだね」
「バッカじゃないの?」
 そういいながらも、梅が顔を真っ赤にさせながら唇を綻ばせているのをアオイもカナヲも見逃さなかった。二人は顔を合わせると、梅に気づかれないようにこっそり笑った。


 ひゅう、と一際強い風が吹いて、制服のスカートを勢いよく揺らす。カナヲはかじかんだ指先にはぁっと息を吹きかける。ほんの一瞬暖かく感じたが、あっという間に寒さが襲いかかる。手袋、ちゃんと持って行きなさいねと注意する姉の声が脳裏に響く。出る直前までは準備していたが、うっかり玄関に置いたまま出てしまったのだろう。だが、カナヲは手に持った紙袋の中身を覗き込むとゆるりと笑った。今日はこれさえ持って来ていれば十分だ。八等分に切り分けられたそのケーキは、綺麗な市松模様が模られている。
 あの後、梅とアオイの三人でケーキを作った。難易度は高く、何度も失敗したがその度にアオイがフォローしてくれて、なんとかなった。梅は梅で工程が予想以上に面倒だったらしくチョコケーキだけでお兄ちゃん喜んでくれるもん! と言うやいなや、途中でさっさと帰ってしまった。余談だが、バレンタインより1週間も前に渡したそれを妓夫太郎はいたく喜んだそうで、梅は度々カナヲの家に来てはチョコケーキだけ作って帰るようになった。
……姉さん達も、喜んでくれてよかった」
 炭治郎に作っていたことは姉達も分かっていたようだったが、今朝綺麗に完成したケーキを皿に盛ると家族みんなが大喜びで食べてくれた。もちろん、アオイにも作ったので今日渡す予定だ。
 カナヲは足取り軽く、鼻歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌で学園へと向かった。

「ねーーーーずこちゃぁぁぁぁん!!!! このチョコは俺の為のものだよね?! そうだよね?!」
「むー……
「んぎゃあああぁぁぁぁあああ!!!! 夢?!?! 俺は今夢を見ているの?!?!」
「善逸、これはかまどパンで焼いたものであって別に禰󠄀豆子は善逸のためだけではなくみんなの為に作っているんだ」
 炭治郎は早口で善逸を嗜めるが、彼の耳には全く届いていないようだ。現に禰󠄀豆子は近くを通りかかった真菰や錆兎、先生、朱紗丸にもあげているから炭治郎の言葉もあながち間違いではないのだろう。けれど、善逸に渡されたパンの包装にはハートの模様が浮かんでいるのをカナヲは見逃さなかった。他の人には透明の包装だ。きっと禰󠄀豆子も何気なく善逸の手にチョコレートが渡るよう、考えた挙句の包装なのだろう。
 そんな微笑ましくも騒がしい光景を尻目に、カナヲは高鳴る胸を抑えた。作ったからには、渡すという最大の関門が待っている。
「あ……あの、たん……、」
「我妻、没収だ」
 炭治郎、と名を呼ぼうとした瞬間、隣からブリザードのように冷え切った声が周囲に響いた。恐る恐るその声の主を見上げると間違いない、生徒指導の冨岡義勇が木刀片手にこちらを見下ろしている。カナヲは持ち前の反射神経でケーキの入った紙袋を通学鞄に滑り込ませる。
 冨岡は泣き叫ぶ善逸を一蹴し、チョコパンを没収する。
「バレンタインだからといって浮かれるんじゃないぞ」
 冷酷無比なまでのその声は、生徒達の気持ちを削ぐには十分だった。


 そこからはもう、どこまでもうまくいかなかった。そもそも炭治郎とは学年が違うので接点が少ない。だから休み時間はケーキを持って学校中を探し回るがいかんせん、冨岡の目が光っているので渡すまでに至らない。炭治郎は炭治郎で泣き喚く善逸を宥めるので大変なようで、どこまでもすれ違ったままの一日だった。
……はぁぁ
 カナヲは大きくため息を吐くと、ズーンと肩を落とした。あれよあれよという間に放課後になってしまった。もう、今日は彼に渡せないだろう。
「せっかく、アオイと梅ちゃんと頑張ったのに……
 頑張っただけに、カナヲの心は大きく沈んだ。だが、その時だった。
「おーい、カナヲー!」
 朗らかで優しい声が鼓膜に響いて、カナヲはパッと振り返った。間違いない、この声は……。 
「こんな時間に珍しいな! 今日は部活じゃないの?」
「うん、今日は部活の助っ人も頼まれてないの。華道部も今日はお休みで……
「そうなのか! なら、一緒に帰らないか?」
「いいの?」
「ああ! もちろんだ!」
 カナヲが目を丸くすると、炭治郎はニコリと笑って微笑んだ。先程まで沈んでいた気持ちがパッと華やぐのをカナヲは感じた。
「今日は善逸や伊之助とは帰らないの?」
「ああ、善逸は冨岡先生に直談判に行くらしい。伊之助は……アオイさんが用事があるとか言って引き止められてたな」
 恐らく、カナヲと炭治郎を二人にさせるためにアオイが考えてくれたのだろう。親友の心遣いに、カナヲは頭が上がらない。
「じゃあ、行こうか」
……うん!」
 炭治郎の隣をゆっくりと歩きながら、他愛のない会話をする。主に話すのは彼でカナヲは相槌を打つばかりだが、幸せでいっぱいだった。
「それで、今日禰豆子が善逸に渡したチョコパンは、一週間前から売り出しているんだが、随分と好評なんだ。禰豆子もすごいよな、俺はバレンタインのパンなんて考えつかなかった」
「さすが禰豆子ちゃんだね」
「ああ、自慢の妹だよ」
 そこまで言ったところで、炭治郎は言葉を切った。
……っと、ここでカナヲとは分かれ道だな」
「あ……
 楽しい時間はあっという間で、いつの間にか分かれ道に来ていたらしい。カナヲは一気に顔から血の気が引くのを感じた。せっかく彼との時間をアオイが作ってくれたのに、まだ何もできていない。チラリと彼の顔を窺うと、その赫い瞳と目が合った。慌てて顔を伏せたが、炭治郎は満面の笑みを浮かべてカナヲの顔を覗き込んできた。
「なあ、カナヲ。俺、カナヲともう少し話をしたいんだが、どうだろうか。このあと予定とか……
「ない! ないよ! 私も、炭治郎ともっとお話したいって、思ってたの!」
 思ったよりも大きな声が出て、カナヲ自身も驚く。炭治郎も同様だったようだったが、二人揃って相好を崩した。
「じゃあ、あの公園で少し話そう。ベンチで座っていてくれないか」
「うん」
 ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。ついに、この時が来た。炭治郎に、チョコを渡す。そして、今までの想いを彼に伝えるんだ。大丈夫、アオイも梅ちゃんも応援してくれている。運も味方してくれている。だから、あとは私の頑張り次第だ。
「カナヲ、お待たせ!」
「ひゃっ!」
「ごめん、驚かせちゃったな」
「ううん、大丈夫」
 炭治郎は申し訳なさそうに眉を下げると、カナヲに何やら飲み物を差し出してくれた。

「カナヲはココアとコーヒー、どっちがいい?」
「え……っと」
 未だに何かを決めることに苦手意識を感じているカナヲは思わず逡巡する。けれど炭治郎は優しく微笑みながらカナヲの答えをゆっくり待ってくれている。
「えっと、じゃあ、コーヒーの方……
「うん、どうぞ」
 彼から手渡された缶コーヒーは、凍えきっていた指先をじんわりと温める。
「カナヲ、手袋していなかっただろう? きっと冷たいんじゃないかって思ったんだ」
「炭治郎……ありがとう」
 どこまでも、彼は優しい。そういう優しくて人を気遣える性格が、彼の良いところでカナヲが彼を好きになったところだったのだ。心がホワホワと和らぐのを感じながらプルタブを開け、一口コーヒーを口に入れた、が……
「に……にが……
 それは甘味が一切入っていないブラックコーヒーだったようで、カナヲは盛大に顔を顰めた。……せっかくの良い雰囲気が台無しだ。自分が情けなくて、肩を落としかけた時だった。
「ほら、カナヲ! 俺のココアだ、こっちを飲んでくれ!」
「う、うん。ありがとう」
 ありがたく彼のココアを飲むと、口の中に広がっていた苦味が温かな甘味に変わっていった。ホッと一息ついて気づく。彼からもらったそれは、受け取った時からプルタブが開いていて、しかも少しだけ量が減っていた。
 つまり、これは、間接……
 そこまで思ったところで、顔が沸騰しそうなほど火照ったのを感じた。……いや、これは彼の優しさゆえの対応だったのは十分理解しているのだが。耳まで真っ赤にしているカナヲの顔を、彼はそっと覗き込むと優しく微笑みかけた。
 ふと、彼と出会ったばかりの頃を思い出す。最初は、何も感じなかった。彼が、話しかけてきても何もかもがどうでもよくて、素っ気ない態度ばかりとっていた。けれど、そんな今思うととても感じの悪かったであろう私にめげずに何度も話しかけてくれた。言葉を発することすらしない私を心の声が小さいんだな、と言ってくれた。コインが表を出たら心のままに生きる、と言ってくれて本当に表を出してくれた。どこか、懐かしくてあたたかいやりとり。コインを投げられた時、必ず表が出ると無意識のうちに確信していた。少しずつ、少しずつ自分の心のままに行動することができるようになってからはあっという間だった。蓋をしていた想いは、気づいたらいっぱいになって溢れて、止まらなくなった。
「あの、わたし……、炭治郎に、ずっと、言いたいことがあったの……!」
 炭治郎の瞳が大きく見開かれる。カナヲは、ヒュッと息を吸うと、彼の瞳をしっかりと見つめて言葉を紡ぐ。
「無愛想だった私に、優しい言葉をかけてくれて、ありがとう。心のままに生きるって、言ってくれてありがとう。あの言葉、本当に嬉しかった。あれから私、少しずつ自分で色んなことを決められるようになったのよ」
「俺はきっかけに過ぎないよ。カナヲが頑張ったんだ」
「けど、炭治郎がきっかけを作ってくれたから、私は頑張れたの。だから、炭治郎には本当に感謝しているの」
 カナヲは大きく深呼吸をすると、ぎゅっと目を瞑って震える手で紙袋を差し出す。
「私、炭治郎のことが、好き……です……! 受け取って、ください……!」
 だが、一向にカナヲの持つ紙袋が彼に渡った気配は感じられない。それどころか、彼が動いている気配すらないのだ。怖いくらいの、静寂。もう、友達には戻れないかもしれない。そんな後ろ向きな気持ちが脳裏を掠めた時だった。
「本当に、俺がもらっていいの?」
「もちろんだよ! そのために、アオイと梅ちゃんとケーキ、作ったんだもの!」
 閉じていた瞳を開いて、勢いよく顔を上げると、炭治郎は耳まで真っ赤に染めながら、口元に手を当てていた。
「驚いた。まさか、カナヲから言われる、なんて……
「え……?」
 カナヲの手に持っていた紙袋を、彼がそっと受け取る。
「ありがとう。カナヲの気持ち、すごく嬉しいよ。……俺も、カナヲのことが一目見た時からずっと好きだったんだ」
「え……
 全く気づかなかった。カナヲは目を丸くして炭治郎の顔をまじまじと見つめた。
「本当だよ。俺がキメツ学園に入学したその日、カナヲが桜の木の下に立っていただろう? あの時、雷に打たれたような衝撃を受けて、そこからは、もう必死だった。どうにか接点を作ろうとカナヲの周りをうろちょろしていたよな。……いや、恥ずかしいな」
 言われてみたら、キメツ学園の古樹である桜の木は何故だか懐かしい感覚がして、暇さえあればその木の下に佇んでいることもあったが、まさかそれを炭治郎に見られていたとは露ほどにも思わなかった。
「だから、俺からも言わせてくれ。栗花落カナヲさん。ずっと前から……いや、きっと俺は君のことを前世から好きだった。これから先、永く付き合ってもらえませんか」
 カナヲの菫色の瞳から、透明な雫が溢れて頬を伝った。それは次から次へと流れ落ちた。
「はい、よろしくお願い、します……! ありがとう、炭治郎……
「こちらこそ、ありがとう。改めて、これからもよろしくな」
「うん……!」
 二人は顔を見合わせて微笑みあった。なんのしがらみにも囚われず、優しくて温かな世界に生まれたこと。そして、互いの気持ちが重なり合い、織りなして紡がれる想いたち。それらを感じながら、カナヲはそっと炭治郎の手を握りしめた。


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