真ミナで初日の出の話です。以前書いた「私が歴史から消えた日 https://privatter.net/p/9522612」の後、世界を放浪しているご真祖さまとミナさんの設定で書いてます。
何故か谷山浩子さんの「カイの迷宮」を聞いていて、銀世界をミナさんを乗せて飛ぶご真祖さまが思い浮かびました。雪の女王の曲だから、むしろクラージィさんのはずだけど…謎。
チャレンジ精神旺盛な方なので、この人アルテミス計画とか火星移住計画とかに興味ありそうだなぁ、と思います。
2023/01/07に上げました。
@kw42431393
「そんなに心配するな。君が分からないのは、仕方がないさ。」
ミナは強い昼の子だ。強大な力を持つ同胞さえ恐れ戦く私を前にして、何でもない顔をする。面白い奴だ、変わった奴だ、と笑ってくれる。
怪我をしても痛いと言わない。病気になっても苦しいと言わない。ただ黙って眠り、ただ私に笑ってくれる。
私は、そういうのにならない。死ぬ事はあっても、たいして感じない。だから、とても辛いんじゃないかと心配だ。それに…
「僕達は君みたいに強くないんだ。急に暑い所や寒い所、高い所に行く時は気をつけないとな。」
今、ミナの具合が悪いのは私のせいだ。
「それに、僕だって楽しくて油断してたんだ。だから、そんな顔をしないでくれ。なあ、ド××××。」
するよ。ごめんね、ミナ。
昔々のお話だ。東欧のワラキア公国で、串刺公と恐れられた私と勉強が好きな少女が出会ったのは、15世紀の事だった。
私は暇なのが嫌だった。だから、暇になると色んな同胞や人間に声をかけた。ある者は大怪我をし、命を失う者もいた。軽く手を振っただけなのに、国が一つ滅んだ事もある。
何故そうなるのか、当時の私には分からなかった。
「君の力が強過ぎただけだ。君が悪い訳じゃない。」
そう言って、笑ってくれた可愛い昼の子。私に怯えず堂々とした、勇気のある聡明な妻。
「僕が生きている内は、お暇だって言わせてやらないからな!」
そう言って、冷たい吸血鬼の頬を包む君の手は暖かかった。失いたくなかった。君に喜んで欲しかった。
だから、綺麗な景色を見せてあげようと思った。一族極意の変身を…君は怖がるだろうか?
「すごいな!これは…竜か?僕、見たの初めてだ!」
はしゃぐ君に、私も心が踊った。君を乗せて、空からの景色を見せてあげよう。途中で落ちない様に背もたれ付きの鞍も作って、自分に着けた。
「よっと。こんな感じか?」
「危ないから、ちゃんとシートベルトも着けてね。そう、そんな感じ。」
長くなった首を回して彼女を確認する。ちゃんと取り付け出来たので、私はバサリと羽を広げた。
「レッツゴー!」
「いっくぞー!」
満月の夜空を私達は飛び立つ。この当時、昼の子の灯す火は少ない。それでも、闇夜にポツポツと灯る灯りは、強大な闇に立ち向かう人々の小さな抵抗の様で美しかった。
「こんなに小さかったんだ、僕達が住んでる所は。」
「そうかな?」
そんな事より、厚着をさせておいてよかった。ミナの口元から、白い息が上がっている。彼女と出会うまで、人間は些細な事で体を壊すと、私はよく知らなかったのだ。
やがて、国境の城塞の上を通る。ここだけは、煌々と明るかった。交代で夜も寝ずに、祖国を守る兵隊達が行き来している。
「見た目も服装も、僕達の国と全然違うんだな。だいぶ遠くに来たんだ…。」
些細な事に感動しているミナの声が聞こえる。そうだね、君達の生活は毎日が労働で、娯楽といえば週に一度教会に行くぐらいだ。ボードゲームを教えた時も目をキラキラさせてたっけ。
私も彼らに目を落とす。思う所があって、捨ててきた祖国の警備兵達と姿が被った。少し、挨拶してみようか?
「少し降りるよ。気をつけてね。」
「どうしたんだ?ド××…うわ!?」
私は地面に降り立つと、翼を広げて挨拶した。それでも、城壁よりずっと上に頭があって、彼らを見下ろす形になる。
「ハロー、エブリワン。お疲れ。」
警備兵達が、急に現れた私達に慌てふためき、逃げ惑う姿が見える。いや、一人だけ…背の低い少年が、腰を抜かしながらも私に向かって矢を放った。
カチンッ!と音が鳴って、私に当たった矢は折れた。勇気がある少年だね、皆逃げちゃったのに。私はこういう子大好きだ。
「こらっ!ド××××!やめろ、皆怖がってるじゃないか!」
振り返ると、怒っているミナが見えた。えっ、ダメなの?
「皆、仕事中なんだ。邪魔しちゃダメだ。」
そうか…今まで、私平気でこういう事してた。
「ソーリー。君達もメンゴ。じゃあ、勇気ある少年、バイバイ。」
彼に手を振って空に飛び立つ。振り返ると、皆が少年を取り囲んで胴上げをしていた。その後、彼は『化物を追い払った英雄』として称賛されるのだろう。
「まったく、君ときたら…」
「ゴメン、ミナ。」
「まぁ、いいよ。それより、夜が明けてくるぞ。そろそろ、帰らなくていいのか?」
確かに、そろそろ夜明けが近い。私は吸血鬼でも日光は平気だけど…そうだ。
「ミナ、このまま夜明けを見よう。一番高い山の朝焼けを見せてあげる。」
「一番高い山?」
「うん、エベレスト。すごく綺麗だから、ゴー!」
これがよくなかった。高度を上げると、ミナは気分が悪いと言って、倒れてしまった。今でいう高山病だったのだと思う。
『気にするな』と言われても気にしてしまう。だからと言って、一度『やりたい』と思った事に固執してしまう。これが、我々吸血鬼のサガだ。
ド××××様、何をしているのですか?
「次郎、見つかっちゃったね。ミナは?」
アルマがみています。すっかり元気になって、安心しました。
隠れて色々作っている所を使い魔の次郎に見られてしまった。
急に高い場所に移動すると、気圧が下がる、酸素も少なくなる。だから、体に異常が出る。場合によっては、命に関わるのだ。
現代の様に飛行機はない。だから、結界を張りながら念の為にゆっくり上昇し、それでも何かあった時の為にこうして酸素ボンベみたいなものを作っていた。
ド××××様、諦められないのですか?
困った顔で次郎が言う。ずっと一緒にいた使い魔だから、分かってて反対もしない。
「…うん。」
『今度、またチャレンジしよう。僕だって見たいんだ。君の言う日の出を…だって、他に誰も行ってないだろう?その絶景を二人占めしたいんだ。』
ベッドで休んでいる時に言った彼女の言葉。嬉しかった。ミナも私と同じものを見たいって言ってくれた事に。
『だって、僕達は夫婦…だろ?』
最後は赤面して、顔を隠したミナの希望も叶えたい。
お二人は似ていますね。困ったところもチャレンジ精神も。
いつの間にかアルマも次郎の隣に来ていた。次郎と顔を見合わせて笑っている。
ミナ様の体の回復も考えて、今年最後の日の晩にされてはいかがですか?
初日の出か…我々にとってはそうでもないが、東の国では縁起が良い。そうなされませ、ド××××様。
長年の使い魔達の言葉で自信を持った。まずは、結界をどれだけ持続できるか、ゆっくり上昇するとどれだけ時間がかかるのか、今作っている物が使えるのか。
実験してみよう、ますます楽しみになってきた。
そして、とうとうやって来た当日。ミナもやる気満々で、竜に変身した私に乗り込んだ。結界で気温も気圧も保たれているが、念には念を入れて防寒着を着込み、水やボンベ等必要な物は鞄に入れて乗せた。
「僕も色々調べて訓練したんだ。この前は興奮してはしゃいだから、よけい悪かったんだ。それに、高い所で呼吸する時は、こうやってだな…」
口をすぼめて、ゆっくりと深呼吸してみせる彼女に、思わず満面の笑みになる。
逸る心を押さえてゆっくりゆっくり上昇する。満天の星空と変わっていく景色に、感動するミナ。時々、彼女を確認しながら、目的地に向かう。もう少しだ。
我々も人間も侵入を許していなかった厳しい銀世界に、やがて朝日が顔を見せる。
どうだろう?彼女は喜んでくれるだろうか。
「すごい…。」
ポツリと漏れた言葉に、羽を羽ばたかせながら振り返る。ひたむきな瞳はこの光景に釘付けになっていて、私の心を満たしてくれた。
子供の様にはしゃいだりはしなかった。でも、その顔をまた見たいと思った。
「ありがとう、ド××××。こんな世界があるんだな。僕、見れるとは思わなかったよ。」
「毎日でも見せたげる。」
「毎日はちょっと。じゃあ、来年も来よう。二人だけのこの絶景を、また見ような!」
太陽の様な笑顔。うん、また来よ。この初日の出は二人のものだから。
だけど、その来年はミナが妊娠したので諦めた。その翌年は…
『僕が死んだら、血を全部吸ってくれ。僕達はずっと一緒だ。』
そして、私達は一人になった。そして、思い出の初日の出を見に、竜の姿で私達はここに来る。
そして、今年は…
『もっと高い所に来たのか!すごいな、ド××××。』
そんな声が聞こえた気がした。そして、私達は新しい年を迎える。そっと、心臓に手を当てた。
どう、ミナ。ヌーチューブで見たんだ。成層圏で見る初日の出は真っ青でもっと綺麗だって。宇宙服でダイブした昼の子もいたんだって。だから、私も今回チャレンジしてみた。次は何にチャレンジしてみようかな?
城に戻って、吸血鬼用のワインを傾けながら、彼女の肖像画の前で雑誌を読む。
ふうん、昼の子達の火星移住計画も随分進んでるんだって。私もすごく興味がある。
いつか私達も行こう。面白そう。
「お父様?」
振り返ると、アンテナを?マークにしたドラウスが立っていた。火星移住計画のコラムを見ていて、気づかなかったらしい。
「どしたの?お暇?」
「えっ、ええっ?正月からですか?」
こうして見ると、お前はミナに似ているね。いつも、困らせてゴメン。そうだ、ドラウスも…
「火星行かない?」
「いきなり過ぎます。む、無茶です!お父様ー!」
「ソーリー。…じゃあ、いつか行こ?」
思いつきで、皆を困らせるんじゃないぞ!ドラウスが泣いちゃうじゃないか。
呆れた声が、胸から聞こえた気がした。
「じゃあ、餅まきしよ。シンヨコで。」
「極端過ぎません?さっきよりはずっとマシ…うん、マシ…。」
「ヴリンスホテルの天辺から。餅の他に、豪華景品の引換券とかハズレに…」
「危ないでしょ!?エーン!やっぱり、ダメだー!」
ソーリー。また、泣かせちゃった。ミナに怒られちゃう。
そうだね。火星じゃなくてもいいよ。今年も皆で楽しい一年を過ごせるなら。