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零敬ワンライログ④

全体公開 3312文字
2023-02-14 21:42:23

零敬 2018年3月31日投稿

Posted by @saeki_f

第20回 淡雪

年度末が近付くある日のこと。
次期生徒会長を決める全校選挙で、朔間零は他に圧倒的な差をつけて当選を果たした。

「ふふん、俺様ちゃんの実力があれば当然だな」

開票結果の公示放送を終え、零は人混みを避けて校門へ向かう。その隣には昔なじみの姿があった。

「本当に出馬してくれるか正直疑っていたが……頼みを聞いてくれてありがとう。朔間さん」
「やめろよ堅苦しい。俺様と蓮巳ちゃんの仲だろ~」

零は敬人の肩に腕を回して気軽に言うが、敬人にとっては一大事だ。
零が出馬すれば確実に生徒会長に選ばれるからこそ、本人が面倒臭がって逃げる可能性が非常に高かった。これだけはどうしてもと頭を下げ、説得に説得を重ね、やっと正式な出馬にこぎ着けた時には経験したことのないような達成感を味わったほど。

「とはいえ、まだ計画のスタート地点だ。これからよろしく頼むぞ」
「え~、そんなやる気に満ちた顔されてもなあ……ま、お前が楽しませてくれる間は手伝ってやるけど」

ようやく生徒会長の座に引きずり出したは良いが、問題はここからだ。この男が敬人の思う通り動いてくれれば何も問題はない。だがスタート地点に立つまでこれほど苦労したのだから、そう簡単に事が運べるとは流石に思っていなかった。

零は敬人への好意と興味だけを原動力に助力している。つまり、それが消えればあっという間に手を離されてしまうのだ。
かといって敬人も零の全てを知っているわけでもなく、どうすれば零が自分に興味を持つか心得てなどいない。そんなことを考える余裕もない。ただがむしゃらに、自分の目標へと進み続けるだけ。あまりに不安定で気まぐれな方法だった。

……そうだったな。あんたが退屈しないように気を付けるとしよう」
「おーおー、頑張ってみろよ堅物。何なら色仕掛けでもしてみるか?」
「いっ……阿呆か貴様!」

敬人には想像にも及ばない提案だ。だが考えてみた。仮に零が蓮巳のことを好きになったら? 好きな人の言うことなら何でも叶えてやりたくなるものだろうか? 敬人には零がそんなタイプだとは到底思えなかったが、少なくとも今よりは楽に零を動かせるようになるかもしれない。

(なるほど、なかなか有効な手段だな。まあ前提として、朔間さんが俺のことを好きになるとは思えんが)

論理的に却下だ。そんなことは口に出すまでもなかった。


そうこうしている内に校門が近付いてくる。
空は厚い雲に覆われ、気温はかなり低い。ふと上を向けばふわふわと白いものが舞い下りてきた。

「雪だ」

海沿いだからか、この近辺は降雨も降雪も多い。予報によればこの雪は積もらず、交通機関への影響もほとんど無いらしい。

「もうすぐ冬が終わるな」

零がぽつりと呟いた。敬人にはその言葉がどこか頓珍漢に思えて首を傾げる。

「天気予報ではしばらく寒い日が続くと言っていたぞ。まだ冬は終わらんだろう」
「そういうとこなんだよなあ」
「?」

ますます意味の分からないことを言う。敬人はどういうことか説明を求めようとしたが、のらりくらりとかわされて、分かれ道で置いて行かれてしまった。

零は時々、敬人を置いてどこか別の次元でものを考える。解説してくれることもあれば、今回のように何も教えてくれないこともある。
自分で考えるべきだと敬人も分かっているのだが、超人の頭の中など常人には計り知れない。それが分かれば苦労はしないのだ。
結局、「もうすぐ冬が終わる」理由は分からずじまいだった。


それからほどなくして、突風とともに春はあっけなくやって来た。


第22回 同棲

「俺と一緒に住まないか?」
「なんで???」

お堅い元生徒副会長とは思えないほど脈絡のない申し出に、零は反射的に浮かんだ言葉しか返すことができなかった。


今日は卒業式だ。返礼祭を終えた各ユニットが、晴れ晴れとした顔で三年生を送り出した。
各クラスのホームルームも終わり、後は自由解散となった。当然そのまま真っ直ぐ帰る者などいない。部活やユニット、委員会、様々なコミュニティで集まって、別れを惜しんだり今後の話をする姿が校内各所で見られる。

多くの人と関わりを持っていた零だが、意外にもその喧騒からは外れた場所に居た。挨拶が終わったのではない。敬人から屋上に呼び出されたのだ。
電話口では用件は伝えられず、いいから来いとだけ言われていた。何事かと思いながら屋上のドアを開くと、敬人の他には誰も居ない。どうしたのかと聞いてみれば、開口一番にルームシェアの提案だ。零の開いた口が塞がらない。

「大学に近い部屋を借りたいんだが、都心部だけにどこも予算オーバーでな。いっそ広めの部屋を二人で借りた方が良さそうなんだ。あんたの仕事にも便利だと思うぞ」
「いや、なんで我輩?」
「一人暮らしをするつもりの奴はもう大体部屋を決めてしまっているからな。貴様は実家から仕事に通うつもりだったのだろう?」

敬人は進学し、零はアイドルを続ける。同級生の進路は二人とも大方知っていた。
進学にせよ就職にせよ、これを機に実家を出る者はかなり多い。進路を決めて、卒業前から家探しをしている生徒も居たほどだ。
零はまだ家を出るつもりはなかった。働くならば、地盤を固めてからゆっくり探しても良いと思っていたのだ。それがこの急展開である。

「ええと、我輩、昼夜逆転しとるよ?」
「業界人なら珍しくもなかろう」
「家事もできんし」
「そんなことを期待していたら、あんたにこんな申し出はしない」
「確かに……

何を言っても敬人は淀みなく答える。もうすっかり心を決めているらしい。

零は面食らった。あの敬人が、道を別ったはずの友人が、今になって強気な姿勢で再び道を共にしようと言ってくる。
これだけ及び腰になっている様子を見ても、まさか断るはずがないだろうと顔に書いてある。それを見れば、零も答えないわけにはいかない。

「では最後に聞くが……我輩のものになる覚悟は良いかの?」

そう、断る理由など零にはない。
ずっと好意を伝えてきた。在学中だけではない、そのずっと前から。
どれだけ伝えても明確な返事を出さなかった敬人が、ようやく答えを出した。いったい何年越しだろうか。零はほとんど諦めていたというのに、最後の最後でどんでん返しが待っていたとは。敬人によって描かれたドラマチックな展開は、零も嫌いではなかった。

これは後に零が知る話だが、敬人には少なからず焦りがあった。UNDEADの二枚看板が相棒としてやっていくことを知り、これが答えを出す最後のチャンスだと。長い間返答を出せずにいたが、迷っている時点で心は決まっている。
それにしても急に同棲とは、敬人も思い切ったものだが。

「ふん、貴様が俺のものになるんだ。首を洗って待っていろ」

少々ぶっきらぼうな言葉ではあったが、満足のいく返事を得られて敬人は笑みを抑えきれていない。

(同棲する相手に送る言葉ではないのう)

零もつい口元が緩む。
いくら都心といえど、本気で探せば適当な部屋の一つ二つ見つかったはずだ。最初からこうするつもりだったのだろう。零はその事実が嬉しくてならない。
敬人が照れて怒られてしまいそうだから、口には出さないが。

だから代わりに、零は敬人の首に抱きついた。こんな触れ合いも一年振りだ。

「うわっ! 校内だぞ!」
「誰も来んと思ったからここを選んだんじゃろ」

図星である。それに万が一見られたとしても、もう卒業式は終わったのだ。
敬人はおずおずと零の背中に手を回した。

「候補がいくつかあるんだ。明日、一緒に見に行くぞ」
「手回しが早い……
「あんたに似たんだ」

お互いに聞こえるだけの優しい囁き。これから訪れるであろう幸福な時間に、二人は期待を隠しきれない。
部屋を決めて、家具を選んで、共に暮らす。ついさっきまでは想像もしていなかった未来だ。

二人が再会した学院。二人が並んで歩き出すのも、またここからなのだった。


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