@11_syzygy
眉間にしわを寄せ、エッダは露店の前で佇んでいた。
月柑の甘露煮を包んでこんがり焼きあげたパイか、胡桃や干し杏がぎっしり生地に練り込まれた焼き菓子か。
百年に一度、人々が戻る旧都グリーマは祭りの真っ只中。頭上に灯る聖樹の光に照らされて、露店に並ぶ菓子はどれも蠱惑的な姿で食欲を誘う。
「二つとも喰えばよかろう」
隣でゼノが平然と言う。少し声がくもぐっているのは、さきほど買った骨付き肉に豪快に齧りついているからだ。
「ま、待って。それはできないの。これは重大な選択でね……」
「何故できぬ」
「だって、ほら。あたしは甘いものや脂の多いものを食べると、顔にすぐニキビができるの。グリーマに来て、もう二日間もご馳走が続いてるじゃない? だからそろそろ控えないと……」
「吾の作った薬をまた塗ればいい。道中、良く効いたであろう」
「そうだけど、すっかり消えるまで半日から一日はかかるじゃない。旅の途中と違って、今はカミルとランツェ先生もいるし……」
話しながらエッダの語尾は力なく消えていく。食べすぎでニキビなんて。あの二人にそんな顔を見られるのは恥ずかしい。
「誰と居ようが、面皰も、薬の効力も変わらぬ」
ゼノは不思議そうに首を傾げる。やはり、こういう繊細な感情の機微は伝わりづらい。
「やっぱり、今日はお菓子は両方やめとく! 明日また食べるかもしれないしね!」
説明する気も起こらず、意を決してエッダはくるりと店に背を向ける。宿所にしている館へと歩きだした。肉を食べ終えたゼノが続く。別行動していたカミル達は、もう戻っているだろうか。
「お、ちょうど帰ってきたな。エッダ、いいものがあるんだ!」
館で出迎えたカミルは、にこやかに食卓に案内した。
「えっ……」
目に飛び込んできた光景に、エッダは言葉を失った。
たった今、あきらめたばかりの月柑のパイに胡桃と杏の焼き菓子。他にも名前すら知らない色とりどりの甘味が山と積まれていたのだ。
「市に行ったら美味そうな菓子だらけだろ。エッダも甘いもの好きだったよな? 一緒に食おうぜ」
子供のように純粋に笑うカミルの後ろで、ランツェが苦笑いで首を振った。
「買いすぎって言ったんですけど……」
「いや、お前も乗り気だったじゃねえか」
「最初だけだよ。エッダさんたちは座っててください。お茶を淹れますね」
厨房に向かうランツェを気にも止めず、ゼノがさっそく素手で掴んだ菓子を口に運んだ。
「うむ。美味いな」
しばらく呆気にとられていたエッダは、やがて小さく吹きだした。もはや気にしてたって仕方がない。きっと明日は、ゼノの薬に頼ることになるだろう。覚悟を決めると、エッダは甘い甘い幸せを頬張った。