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忌憚後

全体公開 創作話 1934文字
2023-02-19 15:29:03

ある事件の後の湊と霧凍です。

Posted by @lianmiso

 白に塗り固められた壁によく磨かれた木に似せた素材はここの医者のこだわりである。木材に似せた床を患者の目に入れることによって、リラックス効果を取り入れるうんぬんかんぬん言っていたが、ここに入院する患者はほぼ東風八百万事務所の人間だ。無意味と切り捨てたかったが、ここで臍を曲げられては社員の健康状態に関わる。渋々霧凍は提案を受け入れたものだ。
「体調は、だいじょぶ、ですか?」
「ええ、おかげさまで。明日には退院です。」
 心配に潤む瞳は雨辻湊のものだ。
「お見舞いに来るのに沈んでいたら、こっちまで気が滅入りますよ。」
「す、すみませ………
「二手に分かれ、敵を撃破する。君が誘拐されるのも予定通りでした。想定通り内部から根こそぎ破壊できたのですから、君が気にすることはありません。報告。」
 早口で言うと、湊はきょとんとしていたが、霧凍の目が細められると、慌てて結果を口にする。
「廃工業団地の損害は不良のタバコの不始末によるガス爆発と火災ということになりました。怪我人は雨辻さんに寄ると………
「君も雨辻でしょう。」
「あっ、はい。冰叉目さんに寄ると、壱樹さんも被害者の方も後遺症はないとのことでした。」
「それは良かった。怪我しちゃ今後も稼げないでしょう。なんですか、その顔は。」
 顔を赤らめ、頬を緩める湊に霧凍が顔を顰めた。
「使える駒は多い方がいいだけ………
「違いますよね?」
「どういうことです?」
「霧凍さんは『何がなんでも事件解決する。周りがどうなってもいい』と言いましたが、僕にはそう思えませんでした。」
「あなたの思い違いですよぉ。」
「そうですか?壱樹さんはもちろん、今回の被害者の方々があの時、怪我に苦しみながらも立ちあがろうとした時に、霧凍さんは嬉しそうでした。」
 霧凍は閉口した。あの時まではそう思っていた。
 首突っ込んだ一般人と追い込んだ敵の能力は【追体験】。霧凍の記憶から体験を読み取り、ワイヤーで周りにばら撒いた。不幸か幸いか鉄骨が霧凍の胴体に直撃した時を再現され、湊も壱樹も霧凍も周りにいた一般人7人もたまらず地面に倒れ伏した。
 苦痛の呻き声で溢れる中、ショック死する者は出なかった。霧凍の予想では誰しも恐怖に慄き、意思をへし折られると思っていた。しかし、それでも目の前の敵を殴るため立ちあがろうとしていた。
 未知の恐怖に立ち向かえる人間に敬意をーーーいや。
「別に。社会のゴミ扱いされている割にはのうのうと生きている人間より使えると思っただけです。」
「ただの不良なのに、そこまで言わなくても………あ、仕事に巻き込むなら、許しません!許しませんよ!」
 珍しく湊が肩を怒らせ、霧凍を睨んだ。 
 怒りを真正面から受けた霧凍はため息を吐いた。湊や壱樹と一緒にいるようになってからため息は増え続けている。
「君こそ入れ込むじゃないですか。歳上苦手なはずでしたが、なんでですかぁ?」
「だって、あんな態度、取ったのに、良くしてくれるから………命懸けで探してくれて、助けてくれて、事件終わった後も僕を怖がらない、し。気にして、くれる、し。」
 指をもじもじさせながら、湊は俯く。眼鏡を中指で押し上げると、霧凍は呆れた目を向けた。
「君は案外ちょろい奴なんですねぇ。」
「でも、そんなに優しい人がどうして不良になったんでしょうね。」
「さてね。私にも貴方にも事情はあるでしょう。馬鹿みたいに知らないふりができなかったり、無相応に力が必要だったり。」
「ケジメをつけるために、ですか。」
 舌打ちをひとつ。霧凍の態度を肯定と取り、湊は頷く。湊の態度に苛立つものの、言う通りであることには違いなかった。
 眼鏡を外し、眉間を揉む。
「しばらく寝ます。うるさくしないでくださいね。」
「はい。」
 今回の犯人は、誰かを思い出す程に模倣を繰り返す亡霊だった。一発殴ってやれたのは満足だった。
 欲を言えば、もう後一歩踏み出したかった。
「霧凍さん、言いそびれましたが。」
「なんです?寝るって言いましたよね。」
「犯人の方、霧凍さんにお礼を言っていましたよ。」
 聞こえないふりをした。
 ドタドタと部屋の外からやかましい足音が聞こえる。
「おーい!見舞いに来たぞー!!!あいつらも一緒だ!!!」
「壱樹さん、霧凍さん、寝たばっかりで。」
 毛布を荒々しく捲り上げる。考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「いいですよ。入ってもらいなさい。まったく眠気もどこかに行きましたよ。相変わらず知性も何も感じられない足音なんですからぁ。」
 部屋に入ってきた人間たちの怒りと抗議と呆れの言葉の嵐を受け、霧凍は眼鏡を掛け直し、ニヤリと笑った。


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