了遊(付き合ってない)。猫を可愛がる了見と遊作の雑談
@d9_bond
その日、遊作が鴻上邸を訪れるといつもと様子が違った。
玄関の前に立つといつもならインターホンを鳴らすまでもなく了見が中から出迎えてくれるのだが、今日に限っては『手が離せないから勝手に入ってくれ』というメッセージが端末に届いたのだ。
指示通りに開いていた玄関から勝手知ったるリビングに入ると、了見が庭に続く窓を開け放して座っていた。天気は良いがまだ二月半ばだ、ひやりとした空気に遊作は眉を寄せた。
「了見?」
その背に声を掛けると了見は肩越しに遊作を振り返り手招く。首を傾げつつも寄ってみれば、その膝の上に一匹の黒猫がいた。
猫はやや小柄で、つやつやとした黒い毛並みに映える真っ赤な首輪を付けている。了見の膝の上で完全に脱力し、撫でられるがままにすっかりくつろいでいた。
「少しのつもりで構ったのだが、これだ」
それで窓を開け放してこの状態のようだ。遊作は勧められて了見の隣に座った。幸い窓辺は日向な上、今日は風がほとんど無いので室内よりも暖かく感じる。
黒猫は気持ちよさそうに目を閉じてぐるぐるとノドを鳴らしていたが、遊作と話しはじめた了見が手を止めるやいなや目をぱちりと開く。開かれた金色の目は遊作を一瞥し、了見を見上げると、なーう、と声を上げる。手を止めるなと言うことらしい。
苦笑した了見が撫でるのを再開すると、満足げに目を閉じる。
「完全に寝床だな」
「そのようだ。もう少しこうしていていいか?」
「かまわない」
頷いて遊作は、了見の膝を占有する猫を見た。
整った指先が三角の耳の裏を撫で、首回りを撫で、背を撫でていく。ほどなくして猫はぐるぐるとノドを鳴らすのを再開した。気持ちよいのだろう、うっとりと目を閉じ野生の欠片もないようすでころりと寝返りをうち腹を晒す様は可愛らしい。
了見もそう感じているようで、目を細めて猫を撫でている。
「猫、好きなんだな」
「ああ。とても愛らしい」
「ずいぶんと懐いているが、飼うつもりか?」
「この猫は近くの飼い猫だ。うちの庭先も縄張りらしく、顔を見せるうちに慣れた」
「そういうことか」
そもそも了見の環境で、動物を飼うというのも難しいだろう。そう考えると、気まぐれに顔を見せるのを構うくらいがちょうど良いのかもしれない。
ふ、とそこで了見は小さく笑いをこぼした。
「……別で囲い込みたいものはいるがな」
遊作を見て、そんなことを言う。
「他にも来るのか」
「ああ」
頷いて了見は膝の上に目線を落とした。
猫がこっちも撫でろとばかりに身を捩り、あごの下をこちらに向けるのを指先で撫でてやる。
「そいつは野良なのか」
「……飼い主はいないな。もっとも、大人しく飼われてくれるような性格でもない。こちらはせいぜい居心地を良くして寄ってくるのを待つばかりだ」
「気難しそうだな」
「いや、どちらかというとマイペースというか我が強いというか……人の話を聞きはするが結局はやりたいようにやるし、危ないところへも身一つで平気で飛び込む。とにかくこちらの思い通りには動かないし、おかげで目が離せない」
「そういうことか。それはそれで困ったやつだ」
「まったくだ」
言葉と裏腹に了見は楽しげだ。
「だが、そこがいい」
「……」
遊作は了見を見た。了見の手はは変わらず猫を撫でていて、猫はちらりと遊作を見るとあくびをひとつしてからもぞもぞ体勢を整え丸くなって目を閉じる。了見の話の猫とはずいぶんと違う様子だ。
「……そんなものか?」
「そういうものだ」
問えば了見は頷いて、また笑ったのだった。