初めて書いたΔドラヒナのお話です。文月さんのフリー素材『うたた寝』『膝枕』を使わせて頂きました。
冬の伊奈架町で、ドラルク隊長とヒナイチくんが、行方不明の子供を救助に行って遭難する話です。出会いから色々捏造注意でお願いします。
うたた寝で萌えるシチュエーションは、救助ヘリに乗って二人で凭れ合って寝ちゃうやつが一番好きですかね。バイオハザードのせいです。クリジルとか…あと、きっとジェイシェリもしてると思ってる。
なので、二人にも救助ヘリでホッとして寝ちゃう話にしたかったのです。
2023/01/18に上げました。
@kw42431393
「…ナイチー、なぁ、聞いてっかー?」
「わっ!すまん、少しボーッとしていたんだ。」
無邪気に顔を覗き込んでくるロナルドの声に、私は飛び上がった。埼玉県の応援要請で、私がドラルク隊長とここ伊奈架町に来たのは一昨日の事だ。そして、任務の完遂から一夜が明けようとしている今、やっと終わった安心感で私はウトウトしていたらしい。
「な!?俺、今回畏怖かったろ?な?」
目の前の吸血鬼ロナルドは、チート級の力を持った変わった吸血鬼だ。日光、ニンニク、十字架、銀…吸血鬼が弱点としているものは全く効かず、死ぬ事もない、正に最強の名を欲しいままにしている吸血鬼だが。
「ああ。そうだな、おかげで助かった。礼を言うぞ。」
「へへへ!だろ?だろ?もっと畏怖ってくれよ。」
鼻の下を擦りながら、照れ笑いをする。頭はこの通り、5歳児なのだ。
「ところでさあ、お前のそのおでこ、どうしたんだ?」
ロナルドが額を指差しながら、首を傾げる。
「あぁ、これ…か。」
「俺が助けに行く前に、どっかで打ったのか?」
「ん…ま、まあ。その様なものだ。」
軽く色づいた額を撫でる。
『冷静になり給え。今大事なのは、君の責任ではない。この子を親元に帰す事だ。』
ピシッとデコピンをされた時の状況を思い出す。
やっぱり敵わないな、ずっと今でもあなたは私の…
「…ふっ…ん、ぴす…ぴ…す。」
下から寝息が聞こえ、自分の膝元に視線を落とす。濡れ鴉の様な黒髪を、そっと撫でた。
「ん…すぅ…。」
「ドラ公、鼻息荒過ぎね?」
「綿を詰めてるからだ。もう鼻血も止まっただろう。取るぞ?隊長。」
憧れの人…なんだ。
「妹よ、今から飛べるか?」
吸血鬼退治人ギルドこと、新横浜ハイボールで、待機待ち兼お客さんへの配膳をしていた私は、兄に呼び止められた。
「飛ぶ?他所からの応援か?」
「我が妹ながら、察しがよくて結構。任務から言うと半田が適任なんだが、今家族旅行で休みだろう?」
半田は、うちでも優秀なダンピールの退治人だ。重度のマザコ…孝行息子で、コツコツ貯めた貯金で家族旅行を両親にプレゼントしている。今頃、百和温泉でゆっくりしているのに違いない。
「ああ、今から呼び戻すのは可哀想だ。私なら動ける。どの様な任務だ?」
キッと顔が引き締まる。今でこそ、チームΔの成立より各々つき合いのある吸血鬼達だが、彼らが侵攻してきた時、私は満足のいく働きが出来なかった。
憧れの退治人となって間がないのは分かっていても、仕事のたびに今度こそ、今度こそ納得のいく仕事を…と心が騒ぐのだ。
「あー、その顔な。もうちょい肩の力抜けよ。また、あのガリヒョロ隊長さんに言って貰った方が効果あるか?」
「はぐらかすな、兄さん。」
苦笑いしたギルドマスターことカズサが言う任務とは、こうだ。確かに、本来半田が適役だろう。
「一昨日の事だ。埼玉の伊奈架町…懐かしいだろ?お前がよく遊んでいた山、覚えてないか?」
覚えている。伊奈架町は両親の故郷で、子供の頃、夏休みは虫取網を片手に走り回り、冬休みはそり遊びをしていたのだ。下等吸血鬼はいたが、退治人をしている父や兄の元で鍛練をしていた私の敵ではなかった。
「ああ、懐かしいな。それで?」
「そこでそり遊びに行った子供が、行方不明になったんだよ。地元で捜索隊も出ているが、吸対の方にも応援要請があったのさ。お前ご贔屓の隊長さんにな…。」
「隊長が…自ら?」
いちいち、私の片思いをつついてくるのは苦笑いして、スルーする。
「分かるな?何故、ドラルク隊長を指名してきたか?」
ああ、なるほど。その行方不明になっているのは…
「吸血鬼の子供なのだな?」
「正解!加えて、急な大寒波があってな。山は雪に埋もれて、捜索隊も難航している…しかし、うちの半田なら、特にあの隊長さんなら…どうだ?」
吸血鬼対策課、ドラルク隊の隊長であるドラルクは、優秀なダンピールだ。ダンピールでも、吸血鬼の探知能力はトップクラスである。確かに、彼なら山の中にいる高等吸血鬼の子供を探す事など造作もないだろう。
しかも、たいした山ではないが、遭難している可能性があるのだ。一刻も早く見つけなくては…そして、私の役割は。
「私の役割は彼の道案内と警護、だな?土地勘は、子供の頃遊んだきりだが、それでいいのか?」
隊長は探知能力はピカイチだが、身体能力は…言ってやるのは気の毒だ。虚弱体質なのである。
制服の上からでも分かるほどの痩せぎすで、いつも目の下にクマを作った不健康そうな顔が脳裏に浮かんだ。
「合格だ。じゃあ、すぐ署に行け。準備は向こうが用意してくれている、持っていくのは武器と身分証ぐらいなものでいいだろ。ヘリが現場まで飛ばしてくれる。」
「了解した。行ってきます。」
踵でクルリと回ると、扉に向かう。伊奈架町か…あの人は覚えているだろうか。
「おっと、それと妹よ。」
振り返る私に、兄は冗談めいた笑いを向けた。
「あいつはムッツリだからな。初恋泥棒に、心を盗られ直すなよ?」
「9時の方向に…3㎞、いやもう少し近い所まで来た。その付近に下等吸血鬼の気配もあるから、気をつけてくれ給…おっと。」
「わっ!?隊長、大丈夫か?」
「ハハハ、すまないね。ヒナイチくん、探知に意識を取られて足元がお留守だったよ。」
うーん、情けない。私は頭脳担当なんだと自負しているが、彼女の前ではもう少し格好をつけたいものだ。土地勘と鍛えた身体能力は折り紙つきとはいえ、厚手の防寒具にバックパックを背負った彼女は、私を引き上げながら何でもない様な顔をしている。
「いいんだ。なんなら、おんぶしようか?」
「エンリョシマス。」
おっさんが19の女の子におんぶされてる姿は、想像したくない。それにしても…
「どうしたんだ?他に吸血鬼の反応が?」
「何でもないよ。まさか、初めて会った所が君との共同任務で、今度はパートナーとして来る事になるとは思わなかったのさ。」
覚えていてくれたんだ…と小さく呟いたヒナイチくんは頬を染めて俯いてしまった。
私が吸対に入って、間がなかった頃の事だ。ダンピールとしての探知能力を買われて、私はこの地域に実地訓練を兼ねて派遣された。世間では夏休みで、着慣れていない制服のせいで脱水しそうだったのを覚えている。
そして、連続吸血事件が起こっているこの地域で、水鉄砲に対吸血鬼用のニンニクエキスを入れ、虫取網を持った10歳ぐらいの子供に出会ったのだ。
「今、ここで事件が起きているんだ。危ないからお家へお帰り。」
背を屈めて、顔を覗き込む。その時、既に私は危ない事に気づいていた。森に擬態したチスイモリモドキの中に私達はいるのだ。せめて、この子だけでも帰さなければ…。
「うん、知ってる!だから、ヒナちゃん退治に来たんだよ!」
水鉄砲をこちらに向けて、ポーズを決める。麦わら帽子の隙間から、ピョインとアンテナが顔を出した。
「これ、人に向けちゃダメじゃないか。」
たしなめるが、少女はニッと歯を出して笑った。その笑い方にどこか見覚えがあった気がしたものだ。当時、既に新横浜で「レッドバレッド」として名を馳せていた退治人のカズサの妹だと知ったのは、随分経ってからだった。
「ヒナちゃんの父さんも兄さんもシンヨコの退治人なんだ。だから、強いから大丈夫。おじさんこそ、危ないよ?」
当時からガリヒョロだったので、これは仕方ない。今でこそ、あのヒゲ本部長に苛められて貫禄のある顔となっているが、あの頃の私は儚げな美青年だっ…ごほん、あと、おじさんはやめてもらいたい。老け顔なだけなのだ。
「…いちょう?隊長!?」
横で彼女が私の裾を引いた。険しい顔をしている。
「おかしい、こんな場所は知らない。ここは平原のはずなんだ。それに…」
付けてきた道しるべがいつの間にか消えている…と。ここまで状況も犯人も当時と同じだとは思わなかった。おそらくその子供の気配と下等吸血鬼の気配が近い所にあるのは…
「懐かしいね。もう既に私達は、チスイモリモドキの中にいるのだよ。そして…」
咄嗟に、私はヒナイチくんの背後にある、雪に覆われた樹木に剣を投げつけた。
「ギャアアア!」
森の姿が崩れて、そこに大きな口が現れた。本体が姿を現したのだ。森に擬態した粘菌状の吸血鬼達が一ヶ所に集まっていく。そして、粘菌の間から吸血されてぼんやりしている7歳ぐらいの子供の姿も現れた。
「ヒナイチくん!止めを!私はあの子を助けに行く!」
「了解!」
懐から出した血液錠剤を口に入れる。パキリと噛み割ると体に力が漲るのを感じた。そのまま、子供の元に向かう。
我々ダンピールは、血液錠剤を飲む事で一時的に身体能力をブースト出来る。問題は、虚弱体質の私は効果が切れた後、半端でない倦怠感が襲ってくる。鼻血も止まらなくて、貧血で倒れる事もある。雪山では命取りだ、しかし、他に選択肢はない。今回は…
ガンッ!ガンッ!
「ギイイィ!」
背後で響くヒナイチくんの銃が火を吹く音と共に、チスイモリモドキの断末魔の声がする。
死ぬ寸前、粘菌の断片が子供の血を啜ろうとする前に、彼を抱き上げた。そのまま、後退して距離を取る。残りの粘菌もやがて塵になって、消えてしまった。
「うぅ…あれ?おっさん、だれ?」
うん、助け甲斐のない子供だ。しかし、我々の使命でもある。本当にクソッタレな勤労だ…クソッ…タレ、な…。
「隊長!」
チスイモリモドキが死んで、風景が本来の雪原に戻った。とっくに日は暮れて、風避けになる樹木もなく、猛吹雪が我々を襲う。
「分かって、いる…よ。だから…」
リスクを承知で、血液錠剤を飲んだのだ。
私は、子供をヒナイチくんに渡すと、一段と雪が積もっている箇所にビバークする為の雪洞を剣で掘った。ブーストが切れる前に、作り上げなければ…。
私のサバイバル知識なんて、ゲームや映画で得たものぐらいだ。正直、吸血鬼の子供を連れて移動するなら夜間しかない。しかし、弱った子供を連れて、いくら体質上、職業上、夜目が利いても、吹雪いている夜間に下山するのは自殺行為である事も分かっていた。
「隊長、私も!」
泣きそうな彼女が、手伝おうと申し出てくれた。大丈夫だよ、そんな顔をしないでおくれ。
「必要、ないよ。中にお…入り。」
どうしようもない倦怠感と共に、鼻血が吹き出てきた。先に二人を雪洞に入れて、這いずる様にして私も入る。
ブーストが切れる前に出来上がった雪洞は狭く、子供を一人が抱きかかえて大人二人が座れるだけだった。
これでは体を横たえる事も出来ない。しかし、ないよりマシである。
「おねえさん、おなかすいた。」
「うん。ま、待ってくれ。携帯食の生き血パックを懐に入れておいたんだ。凍ってないはずだから…」
ヒナイチくんが、慌てて救助した子供に生き血パックを差し出した。用意しておいて良かった。この子は吸血された上、一昨日から食事をしていないはずだ。
「ちぇ~、B型かぁ。ぼく、O型がいい。」
口を尖らしながら、少年は生き血パックに口をつけた。いや、本当に助け甲斐のない子供である。
「贅沢言うんじゃありません。ヒナイチくん、その子をこちらへ。火を使えないから、身を寄せあってやり過ごそう。」
私は鼻にティッシュを詰めてから、防寒具の前を開けると少年を入れようとした。が、彼は彼女にしがみついて嫌々をした。
「やだ、おねえさんがいい!おっさん、かたくてつめたそうだもん!」
「こ、こら。隊長に何て事!」
「おじさんで我慢しなさい。後で、ポポモンのレアカードあげるから。」
「ほんと?やくそくだよ?」
「はい、はい。」
私は子供を懐に入れた。それにしても、さっきから子供の特権を利用し過ぎだぞ。全く羨まし…いや、何でもない。
「隊長、私…」
ヒナイチくんが泣きそうな顔をする。道案内を出来ない事を責めているのだろう。
手を広げて、彼女も懐に招く。フフフ、そんな顔をしないでくれ給え、『保険』ならかけてあるのだよ。
「ヒナイチくんもおいで。大丈夫、私が策もなしにこんな事をすると思うかね?」