X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

憧れの土地・東響

全体公開 創作話 1487文字
2023-02-24 17:21:22

迷宮入り口付近の多喜と霧凍

Posted by @lianmiso

 東響。
 日本の首都であり、華やかで煌びやかな世界。
 地方に住む人々の憧れを集める眠らない街。多喜にとってもそうだった。しかし、何故自分は大都市の地下を杖を担いで全力疾走しているんだろうか。
 張りつく髪が鬱陶しい。
 だが、足を止めるわけにはいかない。
 振り返ると、奴がいる!
 地方でもお目にかからない大きさの蛙はダンプカーほどの大きさであり、毒々しい紫色のぼこぼこと隆起し、赤まだらな肌は南米でも見ない。いてたまるか。目はないように見えるが肉に埋まっているのだろう。顔半分が裂け、びっちりと生えた歯にぬめぬめとした青白い舌をはためかせている。
「なんてものが住んでるんだよ!」
 隣を走る霧凍の指が小さく孤を描くと、大蛙の頭に氷の塊が激突する。弾力性のある皮膚に阻まれて効果は薄い。
「こう、内部から凍らせるとかできないのかい!?」
「できますよ!今のストックじゃ私らまで冷凍保存されますがね!ゲリラ豪雨がなければあんな奴、雷で一発!多喜さんこそ何かできないんですかぁ!?」
「集中する時間が欲しい!」
 足首まである水を蹴飛ばし多喜は叫んだ。狭い洞穴内に声が反響する。
 普段は湿気が欲しいくらいに乾燥している東響地下遺跡。
 今日は近年稀にみる豪雨により地底湖のように水が張っていた。普段怪物がいない遺跡の様子を少し見て来てと上司から命じられた。着いた時点では異常なく帰ろうとした時に化物蛙が天井に張り付きこちらを狙っていたのを霧凍が見つけ、隠れる間も無くそれからずっと走っていた。こんな大物が現れたのは豪雨のためだろうかと考える暇もなく2人は足を動かす。
 止まったら、終わりだ。
「前衛もなし、盾もなしでここに寄越すなんて気でも狂いましたかねぇ。配属した奴の家族の顔が見てみたい!」
「君のお姉さんでしょ!?」
 多喜の足元を舌が掠める。
 掠めた靴がじゅうと嫌な音を立てた。空いた穴から水が入る。
 溶けてる!?いや、焼けてる!?舌か?体液か?
 どっちだ!?
 全力での長距離走とは別の汗が多喜の背中に滲んだ。
「じょ、冗談じゃない!霧凍くん!」
「まったく在庫も少ないというのに!」
「命と在庫どっちが大事なんだい!」
 瞬間、大蛙と多喜たちの距離が不自然に開く。
 距離は数十メートルほど。
 霧凍が膝をつき、肩で苦しげに息をする。
 霧凍の肩にポンと手を置いた。これなら十分だ。
 多喜は軽く目を閉じ、杖に意識を集中した。杖の先のランタンに緑の炎が灯る。瞬時に霧状に変化した魔力が蛙の周囲に集い、炎へと変換。水が最初から燃料だったかのように勢いを増して大蛙を焼き尽くす。炎の中で影が揺れた。
 距離があるはずなのに自分の肌までちりと焼く熱に霧凍の眼鏡がずり落ちた。
「新術ですか。」
「新術だねぇ。炎舞っていうんだけど。」
 霧凍は眼鏡を中指で直した。ため息を大きく吐き、ジト目を向ける。嫉妬が籠っている。
「これだから魔法使いは………そんな隠し玉あるなら早く使ってくださいよぉ。」
「だから集中が必要なんだって!君の術の方がすごいだろ!?なにあれ!?」
「手に入れるの大変なんですよぉ!?せめて蛙から何か役に立つものが取れるか見てきます!」
「待って!危ないって!まだ燃えてるって!熱いじゃ済まないよ!?」
 炎に向かって突っ込もうとする霧凍の腕を必死で引っ張る。

 拝啓、お袋様。
 東響は怖いところです。
 環境も、同僚も思っていたのとだいぶ違います。
 それでも楽しくやっているので、安心してください。
 敬具
 ーーー北見瀧多喜。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.