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刹那

全体公開 創作話 1479文字
2023-03-01 18:21:15

柳と多喜。秋祭り用意

Posted by @lianmiso

 春夏秋冬がはっきりとしている烏島では特に秋の鮮やかさが際立つ。楓、桜、柿、漆、本土ではワンテンポ遅れる下草まで同時に色付き、山肌を染め、燃えるような山は近年話題になり、ハイキングを楽しむ客も増加している。年間で一番観光客の入りが多い時期で、観光協会も燃えている。多喜も最初に烏島居墨に来た時、澄んだ湖に映る紅葉の帳に圧倒された。ひらりと紅が多喜の目の前に降りる。山全体で見るのも良いが、はらはらと葉が舞うのも多喜は好んでいた。
「刹那の美しさっていうのかな。」
 小学生にしては大分大人びている目がぎろりと多喜を睨んだ。忙しいのに何を、と目で訴えている。
「紅葉の美しさの話だよ。」
「随分と余裕がありますね。」
「休憩くらいいいじゃないか。君だって働き詰めだ。もう集中力も切れてきているでしょ。少しくらい力を抜いていいだろ。」
「疲れてなんてない。」
「周り見てみなよ。」
 気がつけば、丸めた半紙が柳を中心に円を描いている。失敗続きだ。渋々柳は筆を置いた。
「年々寄付が増えることは喜ばしいことです。しかし、名前を書くのが大変でね。お茶でも入れてきますよ。」
「僕が入れようか?」
「多喜さんの入れる茶は好きですが、姉貴の尻ぬぐいで来て貰ってるんです。俺がいれなきゃならんでしょ。」
「でも、僕が部下だし。」
「じゃあ、言い換えましょう。上司命令です。座っとけ。」
 ドスの利いた声できっぱりと言うと、柳は部屋の外へ出て行った。どん、と多喜の前に勢いよく湯呑が置かれる。色濃く香り高い玉露に茶請けには丸々とした栗が入った羊羹が並べられた。
「親父のとっておきを持ってきました。」
 ひひひ、と柳は底意地悪く笑う。
「怒られないかい、それ。」
「正当な報酬ですよ。隙を見せるからいけないんです。普段の業務に滞りがあるから今、クッソ忙しいんですもん。」
「シーズン真っ盛りなのに、祭りがあるもんねぇ。」
「そんな忙しいのに、野球をやる奴がいるんですよ。」
「君のお爺さんかい。お爺さんというのも不思議な感じがするけど………さて、柳くん。本心は?」
 悪戯げに楊枝を突き付けられると、柳は絶叫した。
「俺も野球やりたいに決まっているだろうが!!!島野球のシーズンだぞ!!!!あの野郎、全部仕事押し付けやがって………
 耳を塞ぐのが間に合わなかった。多喜の耳に大声量が突き刺さった。中庭にいた鴉たちが柳の声量に驚き、飛び立っていく。内1匹は庭に転がり、もう1匹は柳を突き回した。
 流石舞台に立ち、歌を歌うだけある。
 一瞬にすべてを賭ける男にとっては机に自らを縛り付ける事務仕事は地獄のようなものだろう。
「君のお姉さんが外に出るとは珍しいね。」
「あの島はこの神社と縁が深いし、何せ最後の住民だ。姉貴も思うところあるんだろうさ。そうは思うけど今の時期は………
 ぶつぶつと文句の言う柳に多喜は羊羹を楊枝で刺し、差し出した。
「まぁまぁ、僕も手伝うからさ。ほら、羊羹美味しいよ。」
「俺、この仕事終わったら、鰻を要求するんだ……
「その時は僕も呼ばれようかな、なーんて。」
「任せてください!カツアゲは得意だったんです!」
「家族から鰻巻き上げるのはどうかと思うな!」
「何、人の世なんて一瞬なんです!鰻のひとつくらい!俺!所望!鰻!仕事終わりなんて待ってらんねーや!」
「その理屈で言うと、目の前の仕事も一瞬だね。」
 多喜の一言で静かになった柳は湯呑みを筆に持ち替えて、柳は机に向かった。多喜も羊羹を口の中に放り込むと、自分も筆先を半紙に走らせた。


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