ノース師匠の誕生日のお話ですが、何故かノースディンが出ずに、クラージィさんとヒナイチくんの出番が多くなりました。
1月の誕生花を使ったメッセージカードを色々考えるのは楽しかったです。
この頃は、クラージィさんとノース師匠は、ちょくちょく会ってて、師匠の親バカにちょっと呆れてる、というイメージを持っていたのですが、まさかの…複雑。いや、師匠頑張って、共通の猫の話題があるじゃない。
なので、クラージィさんがノースディンにプレゼントを渡すシーンを追加しました。
2023/01/24に上げました。
@kw42431393
「ドラルク、今夜も監視にきた…おや、これは。」
今夜もパトロールを終えておやつを貰いに…もといドラルクの監視任務に来たヒナイチは、キッチンにもう一人いる事に気づいた。
「こんばんは、クラージィさん。」
「コンバンハ、ヒナイチサン。オジャマ シマス。」
「ああ、ヒナイチくん。いらっしゃい。クッキーならおやつ棚にあるから、先に食べててくれるかね?」
近頃すっかりシンヨコの一員となった、昏き夢のクラージィがドラルクとキッチンに立っていたのだ。彼らの前には厚手の鍋が置かれており、中から鉄の匂いがしている。
「分かった。ところで、何を作っているんだ?」
「エート…ブラッドジャムデス。アシタ ノースディンノ タンジョウビデス。ツクリカタ オシエテモライ キマシタ。」
クラージィはぎこちなく鍋をかき混ぜながら答えた。紅くて見た目はイチゴの様だが、中に入っているのは生き血ボトルの血液と砂糖なのだ。尚更、焦げやすそうだと思われる。
「そうそう。彼、相変わらず生真面目だからね。自分のお金で買った生き血ボトルで作ったものを…って言うんだよ。」
吸血鬼の食事事情は難しい。個人差が激しいのだ。例えば、血の濃いドラルクだと人間の食事は殆ど取れない。血液でも身体に合わない事もある。
逆に、ダンピールや人間から転化した者だと人間の食事も受け付ける事もある。
「ホントハ ブラッドケーキツクリタカッタ。デスガ、ムズカシイ。ボトルノチ、ハンブン ダメニナリマシタ。」
困った様にモジャモジャ頭を掻き上げるクラージィの肩を、ドラルクは軽く叩いた。
「そう。初めからこのドラドラちゃんを頼ってくれれば良かったのに。」
苦笑いをするクラージィを見て、ヒナイチも苦笑いをした。彼が初めに自分でやろうとした気持ちも分かる。この師弟は仲が悪い…というより、ドラルクが意地を張っているだけなのだが…いい顔をされないだろうと思ってしまうのは仕方がない。
「いきなりケーキは難しいし、血も足りないから…でも、ジャムなら出来ると思ったのさ。スコーンにつけるのも良し、紅茶に入れるのも良し。」
ドラルクがジャムを入れる瓶を取り出しながら、鍋の中を指差した。
「もうそろそろいいだろうね。水を張ったボウルに鍋を浸けて冷まそうか。おっと、もうそのローズマリーは取り出していいよ。」
「こうか?ふぅ、やっと出来た。君のおかげだ。気に入って貰えるといいのだが。」
日本語を喋る時は、ちょっと勘違いが激しい、変わった外人さんのクラージィだが、ドラルクとこうして母国語で話している時は、落ち着いたインテリ牧師の片鱗を見せる。
ヒナイチは、なんとなく二人に釘付けになってしまった。日本歴の長いドラルクは訛りもなく喋るので気にしなかったが、こういう時はなんとなく、少し置いていかれた気持ちになる。
「おや?ヒナイチくん、ジャムが気になるのかね?でも、吸血鬼用だからね。君の口には合わないと思うよ?」
からかわれた様に感じて、ムッとするヒナイチに笑いかけながら、ドラルクは瓶とメッセージカードを机に置いた。
「あのヒゲは口が奢っているからね、その辺の生き血ボトルではあまりいい顔はしないだろうけど。この私の黄金レシピだから、自販機の安いミックスでも絶品の味わいに…。」
「えっ、そうだっけ。俺、お前の先生をこの前、そこの自販機で…おっと。」
自慢気に口上を述べるドラルクの背後から、ロナルドが姿を見せた。小腹が空いたので、彼もおやつを摘まみに来たのだろう。
「えっ?ロナルドくん、今何て?」
「あぁ、いやあ。これ、言っていいのかな。俺もこないだ、ビックリしたもんでよ。なんというか…。」
「いやいや、ちょっと聞かせて。面白そうだし。あっ、クラージィ。冷めるまでの間、そこのメッセージカード書いててくれ給え。好きなのを使っていいよ。」
「すまないな。ありがとう。」
微妙な顔をするロナルドを連れてドラルクが、キッチンを離れた。ヒナイチは、机のメッセージカードを覗き込む。
箔押しのカードには、押し花が貼り付けられていた。カーネーションに水仙、マーガレット、スイートピー…それに、ボトルに張っているラベルは。
「あれ?これ…この前の?」
「ドラルク、おやつ!」
「ヌー!?」
「わっ!ビックリした!やれやれ、ボンドをつけてなくて良かったよ。」
先週の事だ。いつも通り、リビングにいるドラルクに、私は声をかけた。ビックリしてあいつは死んでしまい、机の上には塵の山が出来ていた。
「すまん、ところで何をしていたんだ?」
塵の間から、色とりどりの厚紙と…押し花、それにピンセットが見えていた。
「い、いや…久しぶりに押し花を作っていてだね。栞とメッセージカードでも作ろうかと、配置を決めていたんだよ。」
体を再生させると、机の上には綺麗な押し花が並んでいた。
「押し花か、懐かしいな。子供の時、夏休みの自由研究以来だ。」
「フフフ、折角だから一緒にやらない?」
そういう話になって、私とジョンとでああでもない、こうでもない、と色んなカードを作ったっけ。
「ヌンヌ、ヌヌヌイヌヌンヌヌヌ。」
「優しいな、ジョンは。ドラルクにそれをあげるのか?」
紫のビオラとカスミソウを貼り付けたメッセージカードを、誇らしげにジョンが持ち上げる。
「ジョンらしくて、元気で可愛いのが出来たね。ありがとう。」
暖かいものを感じて見ていると、私の髪の毛を一房、ドラルクが掬い上げた。
「何だ?」
「ヒナイチくん、マーガレットなんてどう?」
赤い髪に白いマーガレットを宛がってくる。
「すき、きらい、すき…ってやるあの花か?」
「そう、君にぴったりだと思ったのさ。本当は私の事、大好きだもんね~、なんて。」
その自信はどこから来るんだろう。
「それより、お前が並べている花はいい匂いがするな。あれ?これ、料理とかで使う…?」
「よく気づいたね、ローズマリーだよ。よく、私のキッチン除いてるもんね。」
他にあいつが作ったカードは、白いマーガレット、紫のスイートピー、ラッパ水仙、ピンクのカーネーションと…1月の誕生花がメインだった。周りに散りばめられているのもカスミソウやユキヤナギなど尊敬、祝福、思い出、感謝を意味する花が多い。
「誰かへのお礼なのか?」
1月に誕生日で、あいつが世話になっている者…誰かいただろうか?
「まさか!純然たる思いつきだよ。」
「キメマシタ、コレニシマス。ヒナイチサンハ ドウオモイマスカ?」
クラージィの声で彼女は、我に返った。彼が選んだのは、紫のスイートピーがメインに周りにユキヤナギが散りばめられたカードだった。
「優しい思い出、永遠の喜び、感謝に親孝行…か。いいんじゃないか。」
「ソウイウ イミナラ ピッタリデスネ。」
これからブラッドジャムを入れる瓶を見る。ラベルに貼ってあるローズマリーが全てを語っていた。
「素直じゃないなぁ、ドラルクも。」
ローズマリーは、1月21日の誕生日花。元々、師匠であるノースディンの誕生日に、感謝と思い出に関連した栞やメッセージカードを作っていたのではないだろうか。
しかし、途中でヒナイチに見られた事が恥ずかしかったのか、それとも意地を張ったのか、いずれにしてもやめたのだろう。
その後に、クラージィが親となったノースディンの誕生日プレゼントの相談に来たので、持ち出してきたのに違いない。
「『思い出』『あなたは私を甦らせる』…そんな意味もあるのか。ローズマリーは、彼に本当にピッタリだな。」
スマホで軽く調べながら、ヒナイチは笑う。几帳面な文字がメッセージカードに並んでいくのを見て、少し興味が湧いた。彼は何と書いたのだろう。
「『HAPPY BIRTHDAY!アナタニアエテ シアワセデス。トテモトテモ カンシャシマス。』トカキマシタ。」
「きっと、氷笑卿も喜ぶだろうな。」
他のカードもパラパラと捲ってみる。彼の本音が見れた様に感じられて、暖かい気持ちになった。
「ヨカッタ。アシタ タノシミデス。」
無邪気に笑いながら、クラージィは冷めたジャムを瓶に移し始めた。艶々としたブラッドジャムが、本当に美味しそうなイチゴジャムに見える。
「なぁ、クラージィさん。あとで、そのレシピ教えて貰ってもいいか?ドラルクに内緒で…。」
口元に人差し指を当てて笑いかけると、クラージィは不思議そうに首を傾げた。
「モチロンデス。ヒナイチサン ドラルク二 プレゼントスル デスカ?」
「うん、来月はバレンタインなんだ。あいつは、人間の食べ物は食べられないから、それを使って…」
「アハハハ!ロナルドくん、それ本当?今度、自販機の前に来たら写メ撮ってからかってやろっと!」
「やめてやれや、俺だって気まずかったんたからよ。たまたま、ジャンクフード食いたい気分だったかもしれないだろ?」
向こうから、ドラルク達が戻ってきた。何かよからぬイタズラでもおもいついた様で、片方は至極上機嫌である。
「あれ?ヒナイチくん、どうかしたかね?クッキー食べに行かないなんて珍しいね?」
あぁ、折角見直したのに…すっかり208歳児に戻ってしまった。彼が素直に、もう一人の親に対して「感謝している」と告げるのは何百年後の事なるのだろう。
後日談
「ノースディン、待たせてすまないな。仕事が長引いてしまって。」
「いや、構わない。私も猫は好きだからな。」
昨日、我が子クラージィからRINE が来たのは驚いた。私の誕生日を誰から聞いたのかは知らないが、『誕生日プレゼントを渡したいので、都合は大丈夫か?』と言う。
彼は200年近くの時を経て吸血鬼へと転化したが、ずっと眠っていた、所謂浦島状態だったはずだ。運良く弟子のいる新横浜で目覚めたのだから、よかったものの…。
とにかく、現在は彼らの助けを借りて、言語や時代のハンディキャップを乗り越え、この猫カフェで働いている。同じ集合住宅で、夕食を共にする友人も出来ている…人間というモノを軽蔑している私にとって、実は内心穏やかでなかったのだが、これでよかったはずだ。
「あの夜、私を救ってくれてありがとう」
この台詞を聞いて満足なはずだったのだ…一時的に感情のコントロールを失って、新横浜を吹雪で覆うところだったのは、なかった事にしたい。なかったと言えば、なかったのだ。
『お前の居城を教えてくれないだろうか?』
たいして、貯金も出来てないだろう。どこまでも高潔な男だ。
『いや、私からそちらに向かう。どこに行けばいい?』
集合住宅だと、我が子が世話になってるのだ。ご近所に挨拶をするべきか…いや、古き血の一員である私が…うむ。
『じゃあ、仕事場に来てくれ。この猫カフェだ。店長には話を通しておく。』
猫カフェ…か。あいつも猫派だったのか。まぁ、いい。彼の仕事振りを見ておくのも、親の務め…言っておくが、遊びに行く訳ではないぞ。あくまで、視察だ。
「フフフ、随分と楽しんでいたらしいな。」
「む…ま、まあな。」
猫派なのもあるが、このカフェの猫達は元々、心ない人間共に捨てられた捨て猫だ。保護活動の一環で、里親募集も兼ねている…大事に世話をされている様で、皆のびのびとしていた。
ちなみに、クラージィが私を呼ぶにあたってドリンクと軽食は、彼持ちになっている。そこは頑固な男だ、引こうとしない。だから、地域猫の保護活動の募金箱に高額紙幣を詰め込んできた。
「口に合うといいのだが…ブラッドジャムだ。」
「有り難く頂こう。」
私は袋から瓶を取り出した。箔押しのラベルにはローズマリーが散りばめられている。
「君の誕生日花のローズマリーには、『貴方は私を甦らせる』『思い出』という意味があるそうだな。」
「…」
「君にピッタリだ。」
一緒に入っているメッセージカードは、紫のスイートピーにユキヤナギ。
『Happy Birthday!私が今幸せなのは貴方のおかげだ。貴方に会えた事を感謝している。これからも、君にとって幸せな日々でありますように。』
「君が花言葉に堪能だとは、知らなかったな。」
「アハハ、そうだったらよかったのたが…これを作ったのは私じゃないんだ。」
そうかもしれない。手癖でなんとなく私には分かっていた。しかし…
「ドラルクだよ。ヒナイチさんから聞いた。でも、途中で君に贈るのを止めてしまったらしいんだ。それで、ジャムの作り方を聞きに来た私に使わせてくれたらしい…恥ずかしかったのかな?」
あんなに悪態をつきながら、一緒にいたあの日々を感謝してくれているのか?私を尊敬してくれているのか?
嫌われ者に徹したのは、無駄ではなかったのだ。不肖の弟子よ、誰の家に転がり込んでも生きられる術を教えておいてよかった。お前だけでなく、他の者も救われているのだから。
「メッセージカードは贈って来なかったが、よく分からないクソゲーなら贈ってきたな。」
素直でないのは、お互い様か。そこは、お前はご真祖様でなく、私に似てしまったのだろうな。
「改めて、誕生日おめでとう。ノースディン。」
「ありがとう…クラージィ。高潔で善なる者よ。」
念動力を駆使して、フワリと浮く。これ以上、ここにいると私らしくない姿を見せそうだ。
「もう行くのか。家に寄って行ってくれてもいいんだぞ?一緒に食事をしよう。」
その言葉だけで十分だ。吸血鬼に身を変じても、人の中で生きていく事こそお前には相応しい。
「うちの可愛い子が、そろそろフテてしまうのでね。棺桶でまた爪研ぎされては大変だ。また、お前の仕事場にも顔を出させて貰おう。それではな。」
帰る途中で、ジャムの瓶を開けて味見をする。かつて、私が教えたジャムより甘さも控えめでありながら、風味も舌触りもよい。とても、安い生き血ボトルで作ったとは思えない。
「腕を上げたな、ドラルク。」
私も素直にお前の前では言ってはやれないが…な。