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感謝してもしきれない。

全体公開 ドラヒナ以外のお話 1 5869文字
2023-03-01 22:45:34

ノース師匠の誕生日のお話ですが、何故かノースディンが出ずに、クラージィさんとヒナイチくんの出番が多くなりました。
1月の誕生花を使ったメッセージカードを色々考えるのは楽しかったです。
この頃は、クラージィさんとノース師匠は、ちょくちょく会ってて、師匠の親バカにちょっと呆れてる、というイメージを持っていたのですが、まさかの複雑。いや、師匠頑張って、共通の猫の話題があるじゃない。
 なので、クラージィさんがノースディンにプレゼントを渡すシーンを追加しました。
2023/01/24に上げました。

Posted by @kw42431393

 「ドラルク、今夜も監視にきたおや、これは。」
 今夜もパトロールを終えておやつを貰いにもといドラルクの監視任務に来たヒナイチは、キッチンにもう一人いる事に気づいた。
 「こんばんは、クラージィさん。」 
 「コンバンハ、ヒナイチサン。オジャマ シマス。」
 「ああ、ヒナイチくん。いらっしゃい。クッキーならおやつ棚にあるから、先に食べててくれるかね?」
 近頃すっかりシンヨコの一員となった、昏き夢のクラージィがドラルクとキッチンに立っていたのだ。彼らの前には厚手の鍋が置かれており、中から鉄の匂いがしている。
 「分かった。ところで、何を作っているんだ?」
 「エートブラッドジャムデス。アシタ ノースディンノ タンジョウビデス。ツクリカタ オシエテモライ キマシタ。」
 クラージィはぎこちなく鍋をかき混ぜながら答えた。紅くて見た目はイチゴの様だが、中に入っているのは生き血ボトルの血液と砂糖なのだ。尚更、焦げやすそうだと思われる。
 「そうそう。彼、相変わらず生真面目だからね。自分のお金で買った生き血ボトルで作ったものをって言うんだよ。」
 吸血鬼の食事事情は難しい。個人差が激しいのだ。例えば、血の濃いドラルクだと人間の食事は殆ど取れない。血液でも身体に合わない事もある。
 逆に、ダンピールや人間から転化した者だと人間の食事も受け付ける事もある。
 「ホントハ ブラッドケーキツクリタカッタ。デスガ、ムズカシイ。ボトルノチ、ハンブン ダメニナリマシタ。」
 困った様にモジャモジャ頭を掻き上げるクラージィの肩を、ドラルクは軽く叩いた。
 「そう。初めからこのドラドラちゃんを頼ってくれれば良かったのに。」
 苦笑いをするクラージィを見て、ヒナイチも苦笑いをした。彼が初めに自分でやろうとした気持ちも分かる。この師弟は仲が悪いというより、ドラルクが意地を張っているだけなのだがいい顔をされないだろうと思ってしまうのは仕方がない。
 「いきなりケーキは難しいし、血も足りないからでも、ジャムなら出来ると思ったのさ。スコーンにつけるのも良し、紅茶に入れるのも良し。」
 ドラルクがジャムを入れる瓶を取り出しながら、鍋の中を指差した。
 「もうそろそろいいだろうね。水を張ったボウルに鍋を浸けて冷まそうか。おっと、もうそのローズマリーは取り出していいよ。」
 「こうか?ふぅ、やっと出来た。君のおかげだ。気に入って貰えるといいのだが。」
 日本語を喋る時は、ちょっと勘違いが激しい、変わった外人さんのクラージィだが、ドラルクとこうして母国語で話している時は、落ち着いたインテリ牧師の片鱗を見せる。
 ヒナイチは、なんとなく二人に釘付けになってしまった。日本歴の長いドラルクは訛りもなく喋るので気にしなかったが、こういう時はなんとなく、少し置いていかれた気持ちになる。
 「おや?ヒナイチくん、ジャムが気になるのかね?でも、吸血鬼用だからね。君の口には合わないと思うよ?」
 からかわれた様に感じて、ムッとするヒナイチに笑いかけながら、ドラルクは瓶とメッセージカードを机に置いた。
 「あのヒゲは口が奢っているからね、その辺の生き血ボトルではあまりいい顔はしないだろうけど。この私の黄金レシピだから、自販機の安いミックスでも絶品の味わいに。」
 「えっ、そうだっけ。俺、お前の先生をこの前、そこの自販機でおっと。」
 自慢気に口上を述べるドラルクの背後から、ロナルドが姿を見せた。小腹が空いたので、彼もおやつを摘まみに来たのだろう。
 「えっ?ロナルドくん、今何て?」
 「あぁ、いやあ。これ、言っていいのかな。俺もこないだ、ビックリしたもんでよ。なんというか。」
 「いやいや、ちょっと聞かせて。面白そうだし。あっ、クラージィ。冷めるまでの間、そこのメッセージカード書いててくれ給え。好きなのを使っていいよ。」
 「すまないな。ありがとう。」
 微妙な顔をするロナルドを連れてドラルクが、キッチンを離れた。ヒナイチは、机のメッセージカードを覗き込む。
 箔押しのカードには、押し花が貼り付けられていた。カーネーションに水仙、マーガレット、スイートピーそれに、ボトルに張っているラベルは。
 「あれ?これこの前の?」



 「ドラルク、おやつ!」
 「ヌー!?」
 「わっ!ビックリした!やれやれ、ボンドをつけてなくて良かったよ。」
 先週の事だ。いつも通り、リビングにいるドラルクに、私は声をかけた。ビックリしてあいつは死んでしまい、机の上には塵の山が出来ていた。
 「すまん、ところで何をしていたんだ?」
 塵の間から、色とりどりの厚紙と押し花、それにピンセットが見えていた。
 「い、いや久しぶりに押し花を作っていてだね。栞とメッセージカードでも作ろうかと、配置を決めていたんだよ。」
 体を再生させると、机の上には綺麗な押し花が並んでいた。
 「押し花か、懐かしいな。子供の時、夏休みの自由研究以来だ。」
 「フフフ、折角だから一緒にやらない?」
 そういう話になって、私とジョンとでああでもない、こうでもない、と色んなカードを作ったっけ。
 「ヌンヌ、ヌヌヌイヌヌンヌヌヌ。」
 「優しいな、ジョンは。ドラルクにそれをあげるのか?」
 紫のビオラとカスミソウを貼り付けたメッセージカードを、誇らしげにジョンが持ち上げる。
 「ジョンらしくて、元気で可愛いのが出来たね。ありがとう。」
 暖かいものを感じて見ていると、私の髪の毛を一房、ドラルクが掬い上げた。
 「何だ?」
 「ヒナイチくん、マーガレットなんてどう?」
 赤い髪に白いマーガレットを宛がってくる。
 「すき、きらい、すきってやるあの花か?」
 「そう、君にぴったりだと思ったのさ。本当は私の事、大好きだもんね~、なんて。」
 その自信はどこから来るんだろう。
 「それより、お前が並べている花はいい匂いがするな。あれ?これ、料理とかで使う?」
 「よく気づいたね、ローズマリーだよ。よく、私のキッチン除いてるもんね。」
 他にあいつが作ったカードは、白いマーガレット、紫のスイートピー、ラッパ水仙、ピンクのカーネーションと1月の誕生花がメインだった。周りに散りばめられているのもカスミソウやユキヤナギなど尊敬、祝福、思い出、感謝を意味する花が多い。
 「誰かへのお礼なのか?」
 1月に誕生日で、あいつが世話になっている者誰かいただろうか?
 「まさか!純然たる思いつきだよ。」



 「キメマシタ、コレニシマス。ヒナイチサンハ ドウオモイマスカ?」
 クラージィの声で彼女は、我に返った。彼が選んだのは、紫のスイートピーがメインに周りにユキヤナギが散りばめられたカードだった。
 「優しい思い出、永遠の喜び、感謝に親孝行か。いいんじゃないか。」
 「ソウイウ イミナラ ピッタリデスネ。」
 これからブラッドジャムを入れる瓶を見る。ラベルに貼ってあるローズマリーが全てを語っていた。
 「素直じゃないなぁ、ドラルクも。」
 ローズマリーは、1月21日の誕生日花。元々、師匠であるノースディンの誕生日に、感謝と思い出に関連した栞やメッセージカードを作っていたのではないだろうか。
 しかし、途中でヒナイチに見られた事が恥ずかしかったのか、それとも意地を張ったのか、いずれにしてもやめたのだろう。
 その後に、クラージィが親となったノースディンの誕生日プレゼントの相談に来たので、持ち出してきたのに違いない。
 「『思い出』『あなたは私を甦らせる』そんな意味もあるのか。ローズマリーは、彼に本当にピッタリだな。」
 スマホで軽く調べながら、ヒナイチは笑う。几帳面な文字がメッセージカードに並んでいくのを見て、少し興味が湧いた。彼は何と書いたのだろう。
 「『HAPPY BIRTHDAY!アナタニアエテ シアワセデス。トテモトテモ カンシャシマス。』トカキマシタ。」
 「きっと、氷笑卿も喜ぶだろうな。」
 他のカードもパラパラと捲ってみる。彼の本音が見れた様に感じられて、暖かい気持ちになった。
 「ヨカッタ。アシタ タノシミデス。」
 無邪気に笑いながら、クラージィは冷めたジャムを瓶に移し始めた。艶々としたブラッドジャムが、本当に美味しそうなイチゴジャムに見える。
 「なぁ、クラージィさん。あとで、そのレシピ教えて貰ってもいいか?ドラルクに内緒で。」
 口元に人差し指を当てて笑いかけると、クラージィは不思議そうに首を傾げた。
 「モチロンデス。ヒナイチサン ドラルク二 プレゼントスル デスカ?」
 「うん、来月はバレンタインなんだ。あいつは、人間の食べ物は食べられないから、それを使って
 「アハハハ!ロナルドくん、それ本当?今度、自販機の前に来たら写メ撮ってからかってやろっと!」
 「やめてやれや、俺だって気まずかったんたからよ。たまたま、ジャンクフード食いたい気分だったかもしれないだろ?」
 向こうから、ドラルク達が戻ってきた。何かよからぬイタズラでもおもいついた様で、片方は至極上機嫌である。
 「あれ?ヒナイチくん、どうかしたかね?クッキー食べに行かないなんて珍しいね?」
 
 あぁ、折角見直したのにすっかり208歳児に戻ってしまった。彼が素直に、もう一人の親に対して「感謝している」と告げるのは何百年後の事なるのだろう。


 後日談

 「ノースディン、待たせてすまないな。仕事が長引いてしまって。」
 「いや、構わない。私も猫は好きだからな。」 

 昨日、我が子クラージィからRINE が来たのは驚いた。私の誕生日を誰から聞いたのかは知らないが、『誕生日プレゼントを渡したいので、都合は大丈夫か?』と言う。
 彼は200年近くの時を経て吸血鬼へと転化したが、ずっと眠っていた、所謂浦島状態だったはずだ。運良く弟子のいる新横浜で目覚めたのだから、よかったものの
 とにかく、現在は彼らの助けを借りて、言語や時代のハンディキャップを乗り越え、この猫カフェで働いている。同じ集合住宅で、夕食を共にする友人も出来ている人間というモノを軽蔑している私にとって、実は内心穏やかでなかったのだが、これでよかったはずだ。
 「あの夜、私を救ってくれてありがとう」
 この台詞を聞いて満足なはずだったのだ一時的に感情のコントロールを失って、新横浜を吹雪で覆うところだったのは、なかった事にしたい。なかったと言えば、なかったのだ。
 『お前の居城を教えてくれないだろうか?』
 たいして、貯金も出来てないだろう。どこまでも高潔な男だ。
 『いや、私からそちらに向かう。どこに行けばいい?』
 集合住宅だと、我が子が世話になってるのだ。ご近所に挨拶をするべきかいや、古き血の一員である私がうむ。
 『じゃあ、仕事場に来てくれ。この猫カフェだ。店長には話を通しておく。』
 猫カフェか。あいつも猫派だったのか。まぁ、いい。彼の仕事振りを見ておくのも、親の務め言っておくが、遊びに行く訳ではないぞ。あくまで、視察だ。

 「フフフ、随分と楽しんでいたらしいな。」
 「むま、まあな。」

 猫派なのもあるが、このカフェの猫達は元々、心ない人間共に捨てられた捨て猫だ。保護活動の一環で、里親募集も兼ねている大事に世話をされている様で、皆のびのびとしていた。
 ちなみに、クラージィが私を呼ぶにあたってドリンクと軽食は、彼持ちになっている。そこは頑固な男だ、引こうとしない。だから、地域猫の保護活動の募金箱に高額紙幣を詰め込んできた。
 「口に合うといいのだがブラッドジャムだ。」
 「有り難く頂こう。」
 私は袋から瓶を取り出した。箔押しのラベルにはローズマリーが散りばめられている。
 「君の誕生日花のローズマリーには、『貴方は私を甦らせる』『思い出』という意味があるそうだな。」
 「
 「君にピッタリだ。」
 一緒に入っているメッセージカードは、紫のスイートピーにユキヤナギ。
 『Happy Birthday!私が今幸せなのは貴方のおかげだ。貴方に会えた事を感謝している。これからも、君にとって幸せな日々でありますように。』
 
 「君が花言葉に堪能だとは、知らなかったな。」
 「アハハ、そうだったらよかったのたがこれを作ったのは私じゃないんだ。」
 そうかもしれない。手癖でなんとなく私には分かっていた。しかし
 「ドラルクだよ。ヒナイチさんから聞いた。でも、途中で君に贈るのを止めてしまったらしいんだ。それで、ジャムの作り方を聞きに来た私に使わせてくれたらしい恥ずかしかったのかな?」

 あんなに悪態をつきながら、一緒にいたあの日々を感謝してくれているのか?私を尊敬してくれているのか?
 
 嫌われ者に徹したのは、無駄ではなかったのだ。不肖の弟子よ、誰の家に転がり込んでも生きられる術を教えておいてよかった。お前だけでなく、他の者も救われているのだから。
 「メッセージカードは贈って来なかったが、よく分からないクソゲーなら贈ってきたな。」
 素直でないのは、お互い様か。そこは、お前はご真祖様でなく、私に似てしまったのだろうな。
 「改めて、誕生日おめでとう。ノースディン。」
 「ありがとうクラージィ。高潔で善なる者よ。」
 念動力を駆使して、フワリと浮く。これ以上、ここにいると私らしくない姿を見せそうだ。
 「もう行くのか。家に寄って行ってくれてもいいんだぞ?一緒に食事をしよう。」
 その言葉だけで十分だ。吸血鬼に身を変じても、人の中で生きていく事こそお前には相応しい。
 「うちの可愛い子が、そろそろフテてしまうのでね。棺桶でまた爪研ぎされては大変だ。また、お前の仕事場にも顔を出させて貰おう。それではな。」

 帰る途中で、ジャムの瓶を開けて味見をする。かつて、私が教えたジャムより甘さも控えめでありながら、風味も舌触りもよい。とても、安い生き血ボトルで作ったとは思えない。
 「腕を上げたな、ドラルク。」

 私も素直にお前の前では言ってはやれないがな。

 
 
 
 
 
 


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