@lianmiso
声変わりしていない小学生の叫びが雪花の耳に届く。手元を止め、顔を上げた。
「いっしょう!いっしょう!一生のお願い!!ねぇ、お願いだってぇ」
目の前で子どもが駄々捏ねる。9歳くらいの少女が父親の左足に縋り、遠く離れた露店を指さした。
店の前には色とりどりのリボンが並んでおり、サテンの生地が太陽の光を受けて遠目からでも煌めいている。
おしゃれに向上心のあるお年頃の目にはなんとも魅力的に映るだろう。
「そうは言っても、財布も無いし、お前夏休みの宿題も終わっていないだろ。そういった子には何も買ってあげません!仮に買ったとしても、つけないだろう!」
「前に買ってもらったのは100均!みんなみんなもっとお洒落しているもん!」
「あらあら、じゃあ、おねぇさんと一緒に作ってみましょうか。」
雪花が少女の手を取った。
「おねぇちゃん?」
不思議そうに見遣る我が子をかばうように父親が前に出た。それもそうか、と雪花は自身の恰好を見る。撮影の時の恰好のままだ。ぼろぼろ、血塗れの膝丈セーラー服だ。どう見てもホラーかレディースだ。
「怪しい者じゃないんですよぉ。先ほどそこで撮影がありましたよねぇ。そこのお手伝いで来ているんです。」
雪花が名刺を差し出した。
「おねぇちゃんと一緒にヘアバンド作らない?今ちょうど縫物をしていたのよぉ。」
「つくる!」
父親の不安をよそに、子は雪花の手を恐る恐る取った。
雪花が座っていたベンチまで一緒に行くと布を選び、一針一針縫っていく。
学校、職場、時折父親にも話を向ける。
話題を向けられた父親はしどももどろに話を返し、気にせず娘も雪花もよく笑った。
「できた!」
太陽の方を向く夏の花の色とまばゆい白のチェックの布は少々不格好であるが、少女の手に乗っていた。
雪花がヘアバンドを付けてやる。
「かわいいわねぇ!元気な色がよーくあなたに似合っているわぁ。」
楽しそうにくるくると回る娘を父と雪花は見守る。
「何から何まですみません。お礼を………」
「いいえぇ、楽しかったです。こちらこそありがとうございました。記念におねぇちゃんが作ったこのヘアバンドもあげるわ。」
屈み、少女の手にヘアバンドを渡す雪花はいつのまにやら少女の頭に乗っていた葉っぱを取る。
離れ様に雪花は少女に耳打ちした。
「一生のお願いはね、女の子の秘密兵器なのよぉ?」
いたずらっぽく雪花は片目を閉じた。