雪宗過去話 昔書いた話です。
どこまでも他人事な男。ホラー要素あり注意
@lianmiso
村に入る前にお祈りをいいですか?
君も祈ってくれるんですか?
・・・・ありがとうございます。
では、行きましょうか。
そこの角を右です。足元気をつけて。
オイミャコンには温泉が沸いていましたが、それすらない。
ある時を境に急激に気温が下がり、外出していた人の足は凍りつき、だんだんと全身までもが雪に埋もれていきました。
足元に気をつけて。
見てください。掌や指の先、手首があちこちに飛び出ているでしょう。時折人の頭もあるので、気をつけてください。見ない方がいい。
だんだんと体が凍りつき、苦しみのあまり、手を伸ばしたと言われています。苦痛に喘ぐ声が風に乗って聞こえると言われていました。顔まで埋まったからか、今では聞こえないようです。
釣った魚ですら、すぐに凍りつくというのに、なぜ人間だけじわじわと苦しむようになったのか、誰にもわかりません。
ただ理解できるのは、慈悲なんてなかったことです。
今では160センチほど降雪しているということになります。
10年以上経つのに、まだすべてを覆い隠してはくれません。
謎も解明されていません。政府は原因すら調査しませんでした。
ただ人が入らぬように土地を封印するだけでした。神の怒りに感じられ、恐ろしかったのでしょう。
喋りすぎていますね。僕らしくもない。うるさいでしょう。
・・・ありがとうございます。
どこに向かっているのかって?
事件が起きる前に、とある科学者が善意で気温の下降を抑えるシステムを作ったんです。
そこでしたら安全に魚の生態調査ができる。
ホットワインを飲みましょう。
もうすぐ効果が切れる。
辛くて苦いから飲みたくないんですが、凍え死にたくはない。
砂糖を入れたらだめでしょうか?
・・・だめですよね。
僕らだけですけど、ワインひとつで凍死を予防できるなんて、便利な時代になったものです。
室内は暖かいです。
空調は動いていませんが、雪風を防げるのは大きいですね。
シェルターとしての役割も持たせられていたので暖房、まだ動くはずです。
見に行きましょうか。
わかりますとも。
ああ、情報規制が激しかったんですね。僕はツテを使いました。本当ですよ?
釣りに来たのに、川、池がないじゃないかって?ここは子供の遊び場でしてね、よく忍びこむ子供がいたものです。地下で釣りをしていた子供もいたそうですよ。
ここでしばらく釣りをして、後半は外に釣りに行きましょう。
すみません。少し寄り道をしてもいいですか?
確認しておきたいことがあるんです。
やはり金属片が突っ込まれた挙句、爆竹を投げ込まれたようですね。おもちゃのロボットの腕…
ああ、これは村を暖めていた機械です。
村の人は機械を嫌っていたそうですから、メンテナンスもろくにされておらず、致命的になったんでしょう。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
詳しすぎる?
実はある男から話を聞いていました。
巻き込んでしまいましたから、君には知る権利があります。君に委ねますよ。
雪国の夜は長いです。話すことも多いでしょう。
上と比べて少々寒いですが、凍死の心配はないですね。
地底湖・・・というのでしょうか。地上からも水が流れ込んでいますね。
黒に近い深い青が洞窟全体を照らし、どこか幻想的でしょう。
鍾乳石も青を写し、水は不純物が少なく透明度が高い。非常に澄んでいます。
・・・そうですね。綺麗です。ええ。この世のものとは思えぬくらい。
肺まで凍りそうです。ハイ、ホットワイン。どうやら蜂蜜は入れていいようですね。
しまった。逆に辛味を引き立ててしまった。
あとから・・・明日ですね。
弟もやってきます。のんびりと釣りましょう。
生態系に乱れがありますね。
異常な魚が多いです。そちらの魚は爆発していましたが、怪我は?
鍾乳石が頭に当たったのに、随分と頑丈ですね。僕は心臓が止まりかけましたよ。
謝らないでください!僕の心臓が止まるのはいつものことです。頭を上げてください。魚が爆発するなんて誰が思いますか?
・・・手?ああ、これはですねさっき釣った魚の鰭が硬すぎて切ってしまいました。
この程度、平気ですよ。
優しいですね。君は。
夜になりましたね。
・・・やはり気になりますか。今なら監視の目はありません。
ああ、ちょうど良かった。君は聞きなさい。
それではまず、ある科学者の話をしましょう。
彼は年々下がる故郷の気温を危惧し、気温の低下を抑える機械を作り上げ、政府に移住の提案をしました。許可こそはしましたが、政府は何もしませんでした。
科学者は村長に掛け合い、施設の建造をしたものの、移住は認められませんでした。
機材の設置について2つ条件を出しました。
メンテナンス料は科学者が出すこと。
もう一つは子どもを1人置いていくこと。
科学者には2人子どもがいました。所謂人質ですね。故郷が救えるならばと、快諾しました。
それが息子のーーーその男の地獄の始まりでした。
え?メンテナンス料?村長が着服。ありもしない災害をでっち上げ、移住させた後、資源を掘るのだと村中に言いふらし、息子を孤立させました。虐げていた人間が科学者になったことへの嫉妬だったと推測されます。
疑う人ですか。いましたよ。でも、都会に行って変わってしまった、エリートになって利益しか考えなくなった、それに村長が何度も言うものでだんだん信じました。庇って自分がああなるのが嫌だったんでしょう。
孤立で済めばよかったですがね、段々と嫌がらせはエスカレートして行きます。殴る蹴るは当たり前。食べ物は薄い野菜くずスープ。暖炉に当たらないこと。服は誰かのお下がり。紙の方がまだマシのようなボロですよ。野苺や酒を裸足で取りに行かせ、男には飲ませない。氷を溶かす必要があるので、水を飲むより、酒を飲む方が早かったんです。買わせに行かせて、酷い時は売ってもらえず、殴られる。預かっている教会がですよ?その他諸々。性的な暴行がないのが救いでした。
疑問に思わなかったのか?
子供心は恐ろしく、酷い環境が普通。間違っているのは自分。生かしておいてくれる人々は神も同然。やれやれ。閉鎖された空間ですとまともな人すら狂人に変えてしまう。みんなアル中という可能性だってあったかもしれません。ここは彼の隠れ家だったそうです。彼の後をつけた子どもが奪うまでは、隠れていたそうですよ。
両親は気づきませんでした。
両親がくる直前、笑顔を強要されました。笑顔を作らなければ、閉じ込められる。
今でも常に笑顔のままになってしまいましたそうです。そんな人、不自然でしょう?
え?長く一緒に入れば、割と笑顔でも表情がわかる?・・・彼も喜ぶでしょう。
彼の心も表情も笑顔のまま凍てついていきました。街の人の心だって気温とともに凍りついたのかもしれません。
両親が事故死し、メンテナンス料が入らなくなると歯止めが効かなくなりました。
彼の転機は、同じ村に住む子どもに湖へ突き落とされたことです。もちろんただじゃすみません。
引き揚げられた瞬間にもはや体は凍りつきました。そのまま湖のほとりで死を待つだけだった彼を救ったのは、姉に頼まれ、様子を見にきたスタントマンです。村の人間の反対を押し切り、彼を隣町へ運びました。
目を覚ました男にスタントマンは「一緒に来るか?」と手を差し伸べました。
男は朦朧した意識で、彼の手を取りました。何が何だかわからないままですが、確かに手を握りしめました。久しぶりに握った手の暖かさは忘れられないそうですよ。それで彼は村を出たのです。
暴行された傷痕は残りませんでした。ただ池に落ちたせいか、後年重い心臓病を患いまして手術をすることになりました。しかし、手術は失敗をして彼の心臓は止まることになります。手術直前に彼の住んでいた村の機械が壊れたそうですよ。偶然ですね。
彼は死んだのか?はは、やだなぁ。さっきいいましたでしょう。彼の心臓はあの時のまま凍りついているのでしょう。
・・・仮に生きていたとしたのなら、彼は日本に渡り、スタント業を始めるでしょう。身近な人に助けられながら、凍てついたものを溶かしていくでしょうね。もちろん、また裏切りや悲しみが彼の心を凍りつかせてしまうかもしれませんが、長く時間がかかっても春はまた来ますよ。騒がしい兄弟や同僚に忙しすぎて人間嫌いも忘れるんじゃないですかね。裏切られても、笑って許せるくらいには。
人を知らず、恨み続けるのは寂しい人生と知ってしまいましたからね。諦めともいいます。
恨んではいなかったか?
彼も世界を出て、様々なものを見ました。似たような状況もありましたし、何かすることもあれば、何もできず無力を思い知ることだってあった。
結論的に言えば、閉ざされた環境こそが主な原因と察したそうです。
恨んでこそはいましたが、滅んではいけなかったとは思えるようになったみたいですよ。
復讐・・・彼が村を出て数週間で滅びましたからね。天罰と思いましたが、村長に隠れて親切にしてくれた人もいましたから複雑な心境だったでしょう。村を出なければわからないくらいでしたけど、後ろめたさがあったのは幼心にもわかったそうです。
もし村が残っていたら、関わる時間がもったいないと近寄らなかったでしょう。
僕らのように村に眠る死人に祈るくらいはすると思います。
人間、死んだら、最後ですから。
長くなりましたが、僕が言いたいのはですね、集団心理というものは怖いということです。それに閉鎖された中でしたら尚更。
彼の話は忘れてもいいですが、それだけは覚えておいてください。