ロナルドくん家出回とアニメ2期を見た時に、思い付いた話です。つき合っているドラヒナで、ロナルドくんに電話をするまでの幕間という設定になります。
ドラルクさんの家出回で、マリアさん達まで「泊めて」ってした事でモヤるヒナイチくんと、ロナルドくんが心配でゲームオーバーをするドラルクさんをかきたかったのです。
2023/02/18に上げました。
@kw42431393
いつも通りのクッキー…い、いや、監視任務に来たいつも通りの事務所…いつも通り…の?
いや、一人足りない。
床下から顔を出した時、雰囲気がおかしかったので、「どうした?ロナルドは仕事中か?」と聞くと、不思議そうに「さあ?なんか勝手に出ていっちゃった?」とドラルクは言う。泣きそうな困った様な顔で、 ジョンがため息をつく。
話を聞けば、いつもの事といえばいつもの事だが、今回は妙なものだ。
『こんなとこにいられるか!もう俺は出ていってやる!』
ドラルクのセロリ押し花のイタズラと煽りにキレたロナルドが、家出をしたというのだ。
「庇を貸して母屋を取られる、とはよく言ったものだな。」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ給えよ。元をただせば、私の城がぶっ飛んだのはロナルドくんのせいなんだからね。」
だからって、この事務所の主は自分だ…という言い分は成り立たないだろう。何より妙なのは、いつの間にかロナルドもそんな錯覚を覚えていたという事だ。
まぁ、分からなくもない…か?私も含めていつの間にか、この事務所は疑似家族の呈を成していたのだ。一番年長のドラルクがお母さんで、ロナルドが弟で、ジョンが皆から愛される末っ子で…
「ウフフ」
思わず、私は出されたクッキーを食べながら笑ってしまった。目の前のテレビ画面一面に、『Game Over』の文字が何度も写し出される。
「う~ん、今日は調子が出ないな。このゲームの天才ドラドラちゃんが。」
最近は、私もドラルクに教えられてクソゲーをしているので、多少は分かるぞ。ロナルドが帰ってこないから動揺してるんだろ?いつものお前ならしないミスが何度もあったぞ。
「なあ、ドラルク。」
「何かね?クッキー足りなかった?ゲームも乗らないし、憂さ晴らしにリクエストを聞いてあげるよ。」
どこか寂しそうな顔で、「何が食べたい?」と聞いてくれる。お前もやっぱり、みっぴきでいるのが一番だろ?だから…
「バナナケーキが食べたいぞ!」
「ヌヌヌ!ヌンヌ!」
私の横で、ジョンも賛成してくれる。
「え?それがいいのかい?」
「何でもリクエスト、聞いてくれるんだろ?」
さっき、フクマさんから原稿の進捗についての連絡もあっただろう?
あいつが帰ってきた時に、好きなものを食べながら仕事出来るように…あいつがゴメンって言わなくてもいいように…悪くない案だと思うんだ。
「ロナルド、なかなか帰って来ないな。」
「ヌヌヌ~。」
ジョンとオーブンレンジ内のバナナケーキを眺めながら、ドラルクに話しかける。なあ、そろそろ電話してやったらどうだ?…雪が降りそうなぐらい底冷えしてきたぞ。
「まあ、そんなに心配しなくても大丈夫じゃないかね。ギルドの連中か半田くんちに、泊めて貰ってるのかもしれないし。」
初めはソワソワしていたが、時間が経つと半分意地、半分楽観的な顔であいつは返してきた。もう少し焦って欲しいところだ。
「ヌヌヌイヌヌ…。」
「お前なら、そうするかもしれないが…ロナルドはどうだろうな。」
こいつは、自分の城を破壊した男の家に転がり込む様な奴だ。プライドがある様でないし、自分の無力を理解して生きているから、人に気を遣わないし、頼る事に躊躇いがない。
しかし、ロナルドは変な所にプライドがあるし、気を遣う男だから、かえって、親しい者には頼めないかもしれない。
私だったらどうするだろうか…寮を引き払ってないからそんな事にはならないが、だからと言って、マリアさん達に頼める自信はない。仮にマリアさん達が「おいで」と言ってくれても…だ。サンズニャンだったら頼めるだろうか…しかし、ロナルドグッズで埋め尽くされた彼女の部屋は、私には少し理解し難い。やっぱり、躊躇うだろうな。
「いつだったかね、私もつまらない事でロナルドくんと喧嘩して、ここを飛び出した事があったっけ。」
「ヌフフフ…。」
そうだったかな…私がまだそこまで彼らと関わってなかった頃の話だろうか。
「それ、私はよく知らないかもしれないな。お前はどうしたんだ?」
「私はちょっと、ヴァミマで立ち読みしてから帰ったんだけど、あの看板が外れててさ…入れないし、嫌がらせだと思って意地になって、泊めて貰う所を探したもんだよ。」
ジョンには心配かけたよね、と彼は使い魔の頭を撫でる。楽観的な顔をしているのは、経験があったからだろうか。
「で、誰に泊めて貰ったんだ?」
「いやあ、私は人気者だから。ギルドの面々はいいって言ってくれてたけどさ。シーニャさんは身の危険を感じるし、マリアさんちは熊が出るし、ター・チャンさんちはニンニクだらけでしょ?」
「えっ?マリアさん達にも頼んだ…い、いや。なんでも。」
普通、女性達にも頼むか?その時…私には連絡なかった…な。なんで連絡してくれなかっ…うん。しかし、警察の寮に連れ込める訳はないのだが…。
「なになに?ヒナイチくん、ヤキモチ?嬉しいな…ち、ちょっと、ゴメンて。」
う、うるさい!確かにその当時、つき合ってなかったが、気にするのは当たり前だろ!?
私が赤面して睨み付けると、ドラルクは両手を上げて降参の意を示しながら続けた。
「怒らないでよ。結局、最後は半田くんの所に泊めて貰おうとしたんだけど、あの当時シンヨコに来たばっかりでしょ?闇のロナリストのお部屋にどん引きして、ここに帰って来たんだよ。今なら、平気であの部屋に泊めて貰ったかもしれないけどね。」
あれ以上の変態達が、この街には多すぎて馴れてしまったという事か…それはあるだろうな。
「あと、君を真似て床下に拠点を作ろうとも考えたりね。上手くいってたら、お隣さんか。それも面白かったかもね。」
床下にちゃぶ台置いて、お茶をしたりとか面白そうでしょ?と続けるのだ。どうも理解しがたい奴だ。私のは、あくまで任務だからな。
「そういえば、ジョンもあるよね?」
「ジョンも家出か?」
「ヌヌヌヌ~。」
恥ずかしいから言わないで、と隣でジョンが顔を隠してしまった。やってないのは私だけか…いや、したいわけではないが。
「私がゲーム実況と企画で構ってやらないから、他の吸血鬼の使い魔になっちゃうよ、って書き置きしてね。このイタズラマジロ。」
「ヌヒヒ。」
「まあ、ジョンの事だ。引く手あまただったんだろ?」
「ヌヌ、ヌヌッヌヌヌンヌ。」
「帰ってきたとも。私が一番だもんね?」
ドラルクがジョンを胸に抱きながら、笑いかける。ジョンに関しては、内心ヒヤヒヤしていたのではないだろうか。
「そして、今度はロナルドか…全くお前達ときたら。」
「次はヒナイチくんかな?」
「い、家出もなにも…最近は確かにここに入り浸りだが、私はちゃんと寮があるんだぞ。」
からかう様な表情にムッとする。ますます、あいつは口角を上げながら追撃してくる。
「ウソウソ、簡単に家出なんてさせてあげないよ。やっと、胃袋だけじゃなく心も手に入れたんだもの。」
ぐっ、と胃の辺りを掴んだ手が、そろそろと心臓部に這っていく。ゾクゾクと身震いをして、私は思わず喘いだ。
「あっ!?…ちょっ、と…こ、こんな所で!」
「そう…こうして料理を振る舞いながら、あどない君が、大人になるのを待っていたんだよ。願いが叶った時は、どれだけ嬉しかったか。」
裂ける様に開いた口に白い牙が、キラリと光った。肉体的には負ける事はあり得ないのに、こういう時、彼と私の力関係は捕食者と獲物に逆転する。
…こういう時、本当に吸血鬼らしい顔をするんだな。流されそうになるじゃ…ないか。ロナルドが困ってるかもしれないのに…。
顎に手をかけて迫ってくるドラルクを、死なない程度に押しやる。底冷えすると思ったら…
「ゆ、雪が降ってる…ぞ。」
「ああ、随分冷えると思ったら。」
興を削がれて、ドラルクは憮然とする。
「やっぱり、連絡してやろう。部屋着で飛び出したんだろ?財布も持たずに。」
「う~ん、帰って来ないなら、さすがに誰かに泊めて貰ってると思うけど…結構心配性だね。あれ?」
その時、ドラルクの携帯から着信音が鳴った。それを聞いたあいつも嬉しそうな顔をしている。
「やれやれ、折角いい所だったのに。あのゴリラ、帰ってきたら…あれ?」
携帯を見たドラルクが、不思議そうな顔をする。どうしたんだろう?
「もしもし。サンダーボルトくん、どうしたのかね?…えっ?ロナルドくんがそっちに?…そう、心配させてすまなかったね、うん…うん…分かった。こちらも電話してみるよ、ありがとう。」
な?私の言った通りだろう?それにお前も心配だったんじゃないか。
「まったく、何を意地張ってるんいるんだか。あの若造は。」
そう言いながら、やっとドラルクも重い腰を上げる。
「とっとと帰れ。ロナルド吸血鬼退治事務所にロナルドがいなくてどうする?」
後ろで、オーブンレンジからバナナケーキの匂いがしてきた。ジョンと顔を見合せる。ロナルド、安心して帰って来い。そして、一緒に食べよう。
「ロナルド、何だって?」
ヒナイチくんが、輝く様な笑顔で覗き込んできた。うん、心配させてすまないね。
「帰ってくるって。どこをほっつき歩いていたんだか。」
にやけそうになる顔を押さえるのにも苦労する…君はそれでも見破っているんだろうね。
やはり、年長者が我慢してやらなければならないという事か。
「ビビッ!」
「メビヤツ、よかったな。お前が一番心配していたものな。」
「ヌヌヌ~。」
事務所で、ジョン達が騒いでいるのも見える。さて、さっき焼けたバナナケーキの準備を…そう思っているとヒナイチくんが床下の蓋を開けた。
「おや?一緒におかえりって言ってやらないのかね?」
「うん、ロナルドも体裁があるからな。妹みたいに思っている私に、知られたくないと思うんだ。」
あいつが帰って来て、ケーキを出す時にまた呼んでくれ…そう言って彼女は、床下に戻って行った。
いつまでもハムスターだと思っていたのに…大人になったものだ。あの若造も見習って欲しいところだ。
さて…さっきはゴメン、と言うと向こうも気にするだろう…ゲームでもしながら何でもない風に迎えようかね。
…あっ、セロリ押し花がまだ一枚残っていた。折角作ったしなあ、捨てるのは…享楽主義者の私は面白そうな事は我慢出来ないのだよ。
帰ってすぐ使うのは何だろうか。このパソコンの間とかどうだろうね。