霧凍の眼鏡が変わった理由
@lianmiso
スマホに気を取られ、目を休めるために外した眼鏡を落としてしまった。通常よりも丈夫に作られた眼鏡は度重なる寒暖差、衝撃を幾度なく耐え、床に落ちたのがトドメになったのだろう。フレームは遠くから見ても折れている。
自分の顔が浮かびあがり、反射的に殴った。パソコンがひっくり返る。
しまった。
スリープモードに入り、暗くなったパソコンの画面に自分の顔が浮かび上がっていたのだった。倒れたパソコンをすかさず戻す。
「なにぃ!?なんの音!?」
霧凍の部屋に飛び込んできたのは姉である雪花だ。いつも綺麗に整えられている髪は顔に張り付いている。
「まるで幽霊ですねぇ」
「幽霊だったら壁なんて飛び越えてすぐ霧凍くんのとこに来てたわよぉ」
カラカラと笑う雪花に霧凍は眉間の皺を深くする。
「そんなことより大丈夫?」
「あぁ、この程度すぐ治しますよぉ」
霧凍が指を一振りすれば、パソコンの画面はすぐに元通りになる。雪花が霧凍の手を取った。
「違うわよぉ、火傷してるじゃない!」
「あぁ、破損個所が高温になっていたんですねぇ」
「殴ったの!?物に当たっちゃ駄目よぉ!馬鹿ぁ!」
すぐに雪花は部屋を飛び出すと、アイスノンと薬を取ってくる。扉が壊れそうな勢いで戻り、霧凍へ駆け寄る時にぐしゃりと音がした。
雪花が恐る恐る足あげる。
さっきは雪花の足を運よく避けられた眼鏡はとうとうフレームも原型を留めない。
「あっ………」
雪花の顔が歪む。
「気にしないでください。劣化していたのでもう治しようがなかったんですよぉ」
霧凍が足で乱暴に片付けた。眉間に指が突きつけられ、霧凍は思わずのけ反る。
「ちゃんと片付けないと危ないわよぉ」
アイスノンと薬を霧凍に渡し、何処からともなく箒と塵取りを持ってきて、破片とひしゃげたフレームを集め、燃えないゴミ入れに捨てた。
「新しい眼鏡に変えるのかしらぁ。早く変えないと大変じゃない?」
不幸なことに替えの眼鏡も海の底に落としたばかりなのを知っていたのか。
「ご心配なく。伊達眼鏡です。とはいえ、予備も切らしました。すぐにうちの工務部に頼みますよぉ。」
「あっ!じゃあじゃあ!フレーム変えてみない?青とかクールでとっても霧凍くんに似合うわぁ!気分転換にもなるわよぉ?」
クール?自分の顔が気に食わずパソコンを殴り割った自分が?そんな色だけで気分転換になる訳ない。と思いながらも、名案と言わんばかりに手を合わす姉を断りきれずブルーのフレームを注文用紙に記入した。
「おぉ!!霧凍。新しい眼鏡したのか!?なんつーか、更に知的になったなぁ。いいじゃねーか。」
「目元がキリッとして、霧凍さんによく似合ってますね。」
同僚が集まってきた。霧凍の眼鏡をじろじろと見ると、壱樹は何度も「いいな!」と頷き、湊は何が嬉しいのかにこにこ笑う。
「縁だけ変わっただけです。機能的には変わりありません。」
「なんだと!色はな!色の効果はな!」
真っ赤になって喚く壱樹に宥める湊から顔を逸らし、霧凍は大事そうにそっと眼鏡の縁を撫でた。