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エイプリルフール了遊

全体公開 了遊 5 30 4029文字
2023-03-30 01:14:06

了遊(付き合ってない)。三徹明けの了見にプロポーズされたので寝かせるために了承する遊作の話。
開始一行から様子のおかしい了見がいます。

Posted by @d9_bond

「結婚しよう」

 了見の言葉に遊作は動きを止めた。
 うどんを食べながら言うことでもないし、友人相手に言うことでもない。そもそも同性で結婚はできない。

「なんだいきなり」
「前から考えていた」
「そうだったのか……
 遊作は半目で頷いた。
「その話は検討しておくから、冷めないうちに食べてくれ」
「分かった」
 了見は存外素直に頷いて、食事を再開した。
 なぜ了見がうどんを食べているのかと言えば、仕事が立て込んでいてろくなものを食べていない様子だったので遊作が作ったのだ。料理は得意ではないが、うどんくらいなら適当に野菜を入れて煮れば済んで簡単で、消化がよくて食欲があってもなくても入りそうなので作った。以前から鴻上邸へ泊まる時は一緒に食事を作ったりもしていたので台所の勝手は分かっていた。
 スペクターの情報だと数日ほとんど休んでいないと聞いている。抱えている案件の大きなところはほぼ処理が終わったので休ませてほしいということだった。彼らが休むように言っているのだが、あれをやったらこれが終わったらと先延ばしにして言うことを聞かないそうだ。
 了見にワーカホリックの傾向があるのはなんとなく性格から察していた。ただ、遊作としては、彼にとって部外者ともいえる自分が何か言った程度で休むとは思えなかった。
 今日のカフェナギは海辺の方で店を開けていた。ということで近いのでバイト帰りに寄ったという態で訪ねると、ひと目であまり寝ていないと思われる風貌の了見がゾンビみたいな歩き方で出てきた。想像よりだいぶひどい状態だった。なので、とりあえずリフレッシュした方が効率が上がると適当に言いくるめて風呂に入らせてその間にうどんを作った。さっぱりして腹がいっぱいになれば睡魔に勝てまいという算段だ。
 一応作りながらも合間に様子を見たら案の定湯船で寝かけていたので声をかけて起こした。その時もらしくもなく「お前も一緒に入れ」とか言い出していた。睡眠不足とはかくも人の思考を狂わせるのだと遊作は恐々としつつ料理中だから無理だと丁重に断り、自分は今後無理せずきちんと睡眠をとろうと自省した。
 それはさておき湯上りで多少さっぱりしたのかゾンビから関節の少ない人形くらいの動きになった了見は遊作がエプロン姿でうどんをよそったところでキッチンスペースへやってきたのだが、こちらを見たまましばし固まり何か悟りでも開いた様な顔をした。
 どういう感情かさっぱり分からなかったが今の了見は正常ではないということだけは分かっている。シャワーを浴びたというのに寝具ではなくシャツとスラックスを身に着けていて、まだ起きている気らしいが何としてでも寝かせようと遊作は心に誓った。
 ひとまず遊作は了見を座らせてうどんを食べさせた。来る途中で適当に買ってきた材料を適当にいれて火が通るまで煮ただけの大雑把な代物だったが、味見して問題なかったので出した。了見は喜んで食べ始めた。
 そして、遊作が勝手知ったる他人の家をあさり玄米茶を見つけて入れて追加で出したところ、冒頭の通りプロポーズされたのだった。


 遊作は了見と親しくなりたいとずっと考えていた。了見側は色々複雑なようだがしつこく誘った甲斐もあり、最近は一緒に過ごしたり出かけたりという一般的な友人に近い関係になっていたとは思う。
 そんなレベルの間柄というのにどうして急に了見が「結婚しよう」等と言い出したのかは、思考能力が働いていない状態のほかにもうひとつ心当たりがある。
 今日は4月1日──エイプリルフールなのだ。
 そういう行事はたいてい気づかなかったりスルーしたりの遊作だが、今日は朝にAiから「スピードデュエルのルールが大幅改定されて、通常召喚の回数制限がなくなる」「ドローフェイズごとに手札が5枚になるようにドローする」等分かりやすい嘘を言われたこともあってエイプリルフールと知っていた。
(了見も、本来はこういう行事にのるタイプだったのか……
 自分の分の茶をすすりつつ、遊作はもくもくとうどんをすする了見を眺めた。正気ではない了見だがうどんをはねさせることこぼすこともなく、切り方があまくて一部蛇腹になったネギも気にせず口に運び、ほどなくしてきれいに平らげごちそうさまを言う。
「──話の続きだが」
「そのまえに歯を磨いてこい」
「分かった」
 これまた素直に頷いて、了見は洗面所へ行った。
 遊作はため息をついてさっさと器を下げて、鍋共々食洗器へ突っ込んだ。鴻上邸の家事は基本自動化されているのでありがたい。
 食事についてはこちらで材料を用意せずとも冷蔵庫やパントリーに食材も出来合いの物もレトルト食品も色々入っていたのだが、さすがに冷蔵庫の中身まで把握してはいないのだからこれは仕方ない。結果的にやや出すぎた感はあったが、喜んでくれたようなので良しとする。
(そもそもレトルト食品すら食べた様子がないのがな……
 ゴミ箱にゼリー飲料や栄養調整食品のケースしか見当たらなかった。スペクターがわざわざ自分に連絡してきたのもそれを把握しての事なのだろう。
(しっかりしてるみたいに思っていたが、案外雑な生活してるんだな)
 藤木遊作を知る人間全員から総ツッコミされそうな感想を抱きつつ、エプロンを外して遊作も洗面所の了見のところへ向かった。


「──了見?」
 声をかけると歯ブラシを手にしたまま了見はゆっくり遊作を振り返る。目の座り具合からだいぶ眠そうだ。初めて見るレベルで隙だらけの辺り、遊作が策を講じるまでもなく限界が来ていたのだろう。
「支度をしておきたい。寝室に入っていいか」
 問うと、こっくり頷くので了承とみなして遊作は上階の寝室へさっさと移動した。廊下辺りで行き倒れされたらさすがに運ぶのは苦労しそうだ。さっさとベッドを整えて放り込んでしまおうと決める。
 この家には何度か泊りに来ているので、了見の寝室の場所は知っている。
 泊まる時はゲストルームに通されるので中に入るのは初めてだ。どうせベッドもひどい有様だろうから気持ちよく寝られるようシーツを変えてやろうと考えていたのだが、部屋に入った遊作は困惑した。
 部屋は綺麗だった。あまりに綺麗だった。
……ベッドを使った形跡がない。部屋にも戻っていなかったのか、あいつ)
 あきれ交じりに踵を返す。


 さて、ここに至るまでこの時の藤木遊作は、外見から分からない程度にテンションが上がっていた。
 というのも普段の遊作は自身への無頓着さから身の回りのことなど最低限しかこなしておらず、Aiがあれこれ世話を焼いたり草薙がフォローしたりということが常であり、了見も遊作の前ではしばしば年長者として振る舞っていた。
 それがどうだ、今日はすっかり逆の立場で了見の面倒を見ているのだ。これはなかなかに気分が良かった。藤木遊作は生活能力が低いと思われているようだが、必要ないからやらないだけでいざとなればこのように他人の世話を見られる程度の能力はあるのだ、というのが当人のひそかな自己評価である。
(こうなると了見も、これからは人の事を言えないだろうな)
 ふふ、と小さく含み笑いをしながら部屋を出ようとドアに手を伸ばしたところで、勝手にドアが開いて遊作は少し驚いた。了見だった。
「ちょうど良かった」
 なにがなんでもベッドに押し込んでやろうと考えていた遊作は、しかし次の言葉を口にする前に了見に抱きつかれた。あまりに急だったのでちょっとよろけたが踏みとどまる。
……了見? いきなりこれは、なんだ」
「返事は」
「返事?」
「結婚」
……
 遊作は、抱きついたままの了見の背に腕を回して優しくさすってやった。こう繰り返すとなるとエイプリルフールなどではなく誰かと間違えているのかもしれない。了見には結婚したいと思う相手がいるのか、となんでか複雑な気持ちになりつつ、同時にこの出来事が記憶にあったなら正気に返ってどんな顔になるのやら見たい気もしてきていた。
「わかった、結婚するからおまえはとりあえず寝ろ」
 そう言って離れようとしたのだが、了見の腕が動かない。
 もしやこのまま寝るつもりかと腕の中で身構えたところでおもむろに、体が宙に浮いた。何事かと問うまでもなく了見が抱え上げたのだ。
「うわ! おい、まて」
 文句を言う間もあらばこそ、さっき確認したばかりのベッドに転がされる。次いで上がってきた了見が、先のごとくぎゅう、と抱きついてきた。
「了見、寝るならちゃんと布団の中で、」
「寝るからキスしてくれ」
「は?」
「結婚するなら良いだろう」
「なにが良──」
 言葉は口を塞がれたので思い切り途切れた。



 遊作は、了見のベッドの上で天井を眺めたままぼうっと考えていた。
 結婚。
 知っているが特に縁のない言葉だ。付き合っている相手からこれを言われたなら皆喜ぶのだろう。恋愛などしたことがないのでよく分からないが、結婚はともかく了見と一緒に生活するというのは大変そうだ。
 了見の方はプロポーズが成功したからか要望通りにさんざんキスをして満足したのかやっと睡眠がとれるからか不明だが、気持ちよさそうな顔で隣ですよすよ寝息を立てている。本当なら了見が寝たところでさっさと帰るつもりだったが、現在抱き枕にされていて全く動けない。寝ているはずなのに全く離す気配がないのが困る。
 遊作は嘆息した。
……初めてだったんだが」
 親切心で様子を見に来ただけなのにどうしてこんな状況になったのか、何か間違ったかと思い返すが何度考えても悪いのは仕事だからと不摂生にかまけた了見としか思えない。
 困っているだけで嫌だとかそういうわけでもないのがまた困る。
「明日覚えてろよ……
 呻くように言って、遊作は目を閉じた。


 


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