妙信と柳
暗いです。
@lianmiso
毎年夏の時期に妙信は塞ぎ込む。いつもは金だ女だと騒がしい故にうじうじと鬱陶しい。
原因は聞いている。
事務所で寝転ぶ妙信の尻を蹴り飛ばすと、無理やり飲みにいく約束を交わしてバーに連れ込んだ。無言でお互い杯を重ねる。
「なあ、柳。今でもお前は自分が消えた方がいいと思うのか?」
11杯目に取り掛かった妙信がそんなことを言いだした。赤らんだ顔を凝視し、柳が眉を顰める。
「お前の意見でいいんだ。」
「無論。」
きっぱりと柳は言った。
「友人より、同僚より消えるのは俺だ。これだけは後にも先にも譲れない。雪宗よりもだ。」
「そうか。」
妙信の手の中のグラスがカラン、と涼しげな音を立てた。いつも通りぐだぐだと説教されると身構えていた柳は一気にグラスを傾ける。
「すみません。レッドアイ、ビール抜き。」
「さっきはカルーアミルク、カルーア抜きだろ。お客さん。飲まないのかい。」
マスターが柳にただのトマトジュースを手渡した。
「悪いね。うちのに運転手を頼まれていてね。この後、迎えにいかなきゃならんのですよ。」
「最近は自動運転だってありますでしょう。」
「『愛しい人が私のために、私のためだけに時間を割き、尽くしてくれる。そんな贅沢がどこにあろうか。いやどこにもない。』だとさ。」
にやりと柳は笑った。
「お熱いことですね。」
マスターも笑みを返し、グラス磨きに戻る。
「彼女がいるのに、まだそんな考えか。」
「あの頃よりかは薄れてきているよ。ま、これは湊たちのおかげでもあり、アンタらのおかげでもあるんだぜ。最初は同情か!?と思うくらいには俺はひねくれていたさ。」
妙信が柳を見ればそっぽを向いている。柳が話を続けた。
「自分の気持ちは自分しか知らない。俺だけのものだ。だれにも譲れない。そうだろう。お前だろうが、奴であろうが。勝手に押し付けてみろ。」
微かに柳の目に殺意が宿る。しかし、すぐにそれは消える。
「だから何もいわねぇ。落ち込むなも何も言えねぇ。好きにしろ。」
「言われなくてもそうする。ほっといてくれ。」
「だがな、こんな俺だが、気持ちを汲んでくれる奴らがいる。それだけは有り難いんだ。だからさ。」
柳はグラスを両手で包み込む。意を決したように妙信に向いた。爛々と青い目が光り、強い意志の力を宿す。
「だから、あの子はお前が思った分だけ救われているよ。」
あくまでも俺の推測だけどな、と柳はすぐに付け足した。
「異論は受け付けるぜ。なんなら、この後店を出て、俺を殴るも蹴るもいい。聞くだけ聞け。」
「………そうか?一緒に俺は脱出しようって言ったんだ。でも、」
あの子は妙信の手を払い、炎の中に消えてしまった。
「今なら助けることが出来たんだ!俺がきちんと修行しなかったから!家を出て、遊んでたから!!!」
妙信がカウンターにグラスを叩きつけた。グラスの底から罅が迫り上がる。
「呑みすぎだぜ。妙信。頭を冷やして来い。」
のそりと妙信は立ち上がり、机や人に大きい体をぶつけながらよたよた消えていた。
後悔してんのはオメーだけじゃねぇよ。
それよか冥土への土産話増やした方がいいんだよ。妙信。
なぁ、と残された柳は足元に目をやった。
微かに空気が動いた。
なんで俺だけ聞こえてんだ。
妙信に話しかけたり、夢ん中に出てやればいいじゃねぇか。
あぁ、あいつ、聞く気ねぇもんな。
どうすることもできねぇか。
まったくどいつもこいつも………
噴き出る文句を酒抜きレッドアイで胃に押し流した。