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変わり身

全体公開 創作話 1783文字
2023-04-01 21:20:11

事務所に入りたての壱樹と霧凍の話
過去作です。

Posted by @lianmiso

 朝の山に生える檜の葉から滴り落ちる滴がパタパタと頬を打つ感覚だ。
 今は修行中だったのだろうか。いや、違うと鈍い機械音に目を開ければ、茶墨色の瞳とぱっちり目が合った。
 こいつは最近会社に入った杉並壱樹だ。
「はやく目を覚ませよ。し………かと思うじゃねぇか。」
 ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、壱樹の涙が霧凍の頬を濡らす。清らかな朝露かと思われたものは壱樹の涙腺から生まれた体液な訳で。
「うわ、汚いですねぇ。」
「お、お前。折角俺が…………
 思わず勢いよく体を起こし、袖で拭う。
 動きづらい。上半身に包帯が巻かれていた。
 どこまでもコンクリートのうちっぱなしの床には誰かの上着が敷かれており、薬品を製造する機械が周囲で休み無く働いている。ゴウンゴウンと永久に止まらない洗濯機のようだ。
 洗濯機とは違い、世を汚す薬剤をここから世間にばら撒いている。
 だんだんと記憶が鮮明になってきた。
 仕事中であった。
「何を泣いてるんだか。」
「馬鹿!覚えてねえのか!お前、俺の身代わりになって銃弾を受けたんだろうが!」
「身代わりになった?足が縺れただけですよぉ。そんなこともわからないんですかねぇ。」
「嘘つけ。飛び込んできたんだろうが!あんな足の縺れ方があるか!」
 情報が漏れていたのであろう。目視出来ぬほどの数キロ離れた地点からの狙撃であった。
 索敵に慣れていない壱樹の反応は遅く、撃ち抜かれるところであった。縺れたにしては距離がありすぎだという壱樹の指摘にふん、と霧凍は鼻を鳴らし、胸に手を当てる。
 痛まない。
 傷が塞がっている。
「お前の治癒能力を高めた。上手くいってるとは思うんだが。痛むか?」
「意外にそういうのうまいんですねぇ。」
 植物を操るが、大雑把で雑。知識も足りない。
 そんな印象だったが、包帯から香るのは薬草の匂いだ。治癒能力向上の他、自身の能力で出した薬草を使ったのか。趣味が料理であるため細かい部分やハーブの知識はあるのかもしれない。
「お前の口からそんなことを聞くとは。俺は普段から植物の力を借りながら、自分の身体とか生命力を高めてっから、他の人でも移せっかなーと思ったんだ。いやー、よかったよかった。」
「そんなリスクの高いことするくらいならこんなお荷物放っておけばよろしいでしょう。随分と無駄なことをする人ですねぇ。」
 放っておけばよろしいでしょう、と言われてもなぁ、と壱樹は眉をハの字に曲げた。
「お荷物なんかじゃねえし、無我夢中っつーか。なんつーか。」
「馬鹿ですねぇ。」
「なんだとぉ!?」
「大きな声を出していいんですかぁ?お客さんが来ますよ。」
 お客さんと聞き、壱樹が周囲を見渡す。
 殺気がそこらから沸き立ち、壱樹と霧凍を囲んでいた。壱樹の口からげ、と思わず声が漏れた。
「どーする!?」
「今、コンテナの隙間でしょう?この距離では顔はばれていません。工場自体薄暗いんですもの。電子機器の妨害は働いています。向こうも暗視スコープは使えない。カメラ等シャッター音もしませんし、このままやってしまいましょう。」
 淡々と語りきった霧凍が飛び出す。銃を相手に向け、引き金を引く。銃弾が相手の肩に当たったことを皮切りに銃弾が降り注いだ。壱樹の腕に取り付けられたボウガンから放たれた矢がマシンガンを持っていた相手の肘先ごと吹き飛ばした。
 壱樹の目が開かれ、顔が歪む。
 今更、気にしてもどうしようもないでしょうに。
 霧凍が嘆息する。
「銃向けてるならそういった覚悟もできていますでしょう。できていないなら敵も味方も出てくるなって話です。帰りなさい。仕事、やめなさいよぉ。覚悟できていないなら、故郷に帰れ。師匠からもそう言われているでしょう。」
「おまえを残して帰れるか!!ここも放っておけねぇしよ………ちっ、無駄に弾を消費すんなら、猟銃会によこせっての。」
「それ、私に言ってますぅ?」
「おめぇには無駄がねぇだろ!」
 褒められているのか、事実を口にしているのか。それとも貶されているのか。
「埒があきません。このまま突っ込みますよぉ!」
「おう!その方が性に合ってる!」
「死なないでくださいねぇ!」
「そっちこそ!折角助けた命、死なれちゃ後味悪りぃんだよ!」
 現場を制圧するまで数分もかからなかった。


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