MP42で出すアナオビの新刊サンプルです、頭から半分ちかくまで読めます。
A5/p36/500円 全部で三万四千字ぐらい。このあともうちょっとカップリングぽくなる&オリキャラが出たりする
@syuu_29
アナオビの人でアナパドがだめな人いないだろと思ってこれまで何も考えずにやってきたんですが、流石に今回アナオビ本なのにアナパドのほうが物理的にいちゃついてないか?という疑念が生じたためサンプルの前に注意点として書いておきますね
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胸の内は煮え立つ鍋のようだった。オビ=ワンには熱が呼気のひとつにさえじっとりと籠っているように感じられた。
情熱的とは言えるだろう。知ればアナキンは喜ぶだろうかと頭をよぎりもするほどだ。だが、褒められたものではなかった――それこそジェダイとしてはまるでふさわしくない自覚があった。
深く空気を吸い込めば、快適で清浄に保たれた空気が肺を満たし、胸をいくらか冷やすようだった。それに肩の力が抜けるように思えるのは、陽射しの温もりのおかげかもしれなかった。コルサントの制御された気候の恩恵もあり、柔らかな日差しはいつもと変わらず庭に差し込んでいた。
今はその、変わらずにある、ということが大事だった。
ジェダイ聖堂の多くの場所は古くから変わらない。だからこそ時には歴史とその存在の不変を感じさせてくれる。そのうちの一つである庭――大小さまざまに点在するそれらの一つ――に差し込む柔らかな陽射しの中を、オビ=ワンは慎重に歩いていた。
石畳はスプリンクラーの水で濡れた後だった。それでも半ば乾き始めており、普段なら意識するまでもない足元ではあった。彼が慎重になるのは腿の傷のせいだった。ドゥークーにつけられた傷だ。深い傷ではなかった。バクタ溶液による治療は終わっていて、腕も腿も、どちらにも跡は残ったが傷口は癒えている。
それでも痛みがまだあった。視界が揺らぎ、燃えるような胸の内の痛みが。
頭によぎるのは、侮りと嘲りに満ちた老人の声だ。
思い出せば、心はざわめきたつばかりだった。瞼の裏が赤く染まり、癒えたはずの傷口が熱を帯びるような気さえする。
オビ=ワンがドゥークーと顔を合わせるのは初めてのことだった。候補生時代でさえ指導を受けた覚えもなく、個人的な思い入れはない。だから彼が自分を評価しているかも興味はなかった。クワイ=ガンは悲しんだだろうと思いはしたが、それだけだ。個人としての恨みも怒りもなかった。
そもそもアナキンが侮られるような態度をとっていたのは事実だ。命令は聞かないし、狭い視野を信じ、自分勝手で自己中心的な、いかにも若者らしい振る舞い方を隠しもしなかった。自分だって呆れていることを棚にあげて怒るつもりはない。
ドゥークーには尊大さに見合うだけの実力があった。
アナキンには、なかった。それだけのことではあった。
それでも、赤い光刃の音を思い出せば瞼の裏が熱い。
もしもあの時、切り落とされたのが自分の腕だったならと思わずにはいられない。何度も夢の中で繰り返し試しもした。だが何度もやりなおしたところで現実は変わらない。
彼を育て導き、守るのだとオビ=ワンはクワイ=ガンに誓った。ヨーダにもすでに誓った。彼がジェダイ・オーダーを離れる日がきたとしても、彼を導くつもりだと。
アナキンはまだパダワンだ。まだオビ=ワンのパダワンだ。
彼はいまもオビ=ワンの庇護下にある。
それなのにアナキンばかりが大事なものを失っている。
石の表面に薄く張った小さな水溜りをブーツの靴底に感じ取りながら、オビ=ワンは記憶の反芻に胸の内が陰ることを改めて自覚した。渦巻く感情の熱を吐くように息を吐く。
この庭は、フォースは、変わらない。
かつては、あの傲慢な老人も、この庭で瞑想をしたかもしれない。思い当たると、心を鎮めようと庭に来たのは悪手であったような気までした。だが庭は変わらない。たとえ瞑想をするのがオビ=ワンでもドゥークーでも、ただそこにあることを受け入れるだけだ。
こみ上げてくる強い感情で今にも指先が震えそうだったが、オビ=ワンはベンチの上にかかったスプリンクラーの露をローブの袖で払い、そこへあぐらをかいた。いまや握りしめる手のひら、吐く息、そうした全てが熱を帯びている気がしてならなかった。なにしろ彼には自覚があった。胸の奥は冷えて痛いほどなのに、頭のほうは脳を煮るような熱が渦巻いて、身体中が震えそうなほどだった――怒りだ。
彼はこれを手放すために庭に来たのだった。
瞑想ではフォースに自分を委ねる。肉体から余計な力を抜き、自分ではなく今に集中することを意識する。自己に固執せず、心を開くのは無防備で危険なことだが、心を鎮めるのには向いている。そして意図して行うそれは、眠りにつく前の、意識を手放す瞬間にも近しかった。
オビ=ワンは何千回と繰り返し、今は予備動作のひとつになった記憶の反芻をした。
彼が思い出すのはかつての少年の寝顔だ。思い出すと自然と力が抜ける。胸の内が心地よく温まり、飲み込めずにいた息を吐くことができると感じる。
瞼の裏に蘇るのは、今や自分の背を追い抜き、命令を破るものと捉えているらしい青年の、まだあどけない寝顔。ジェダイの騎士として彼を育てようと決意したその瞬間の、記憶そのもの。今となっては夢のように遠い記憶。眠りにつく寸前の、まだふっくらとした丸みの名残がある薔薇色の頬。あの頃だけは幾度となく頭を撫でてやったのが懐かしかった。
今とはまるで別人だ。うたたねをしている所に出くわす事もない。時折、作業台に突っ伏している寝顔や、長距離船の座席で瞼を下ろしている姿を見るぐらいしか。
そしてその面差しだって、もう記憶とは重ならない。
アナキンは端正な顔立ちの青年に変わりつつあった。
子供っぽい丸みを失い、強い意志を現すように掘りの深くなっていく顔には生意気さがあるが、目元に落ちる影は日に日に深くなり、すこし垂れた目尻を支えるようにふっくらとした涙袋が目立ってきている。それこそパドメが気づかなかったのも無理はない。多くの時間を共に過ごすオビ=ワンですら、時折はっとするような色気さえ出てきたぐらいだ。さすがにもう頭を撫でてやろうとは思いつきもしない。
そんなことをすれば子供扱いするなと鋭く噛みつかれそうだ。なにしろ今のアナキンは、命令のすべてが自分を縛り付ける戒めだと思い込んでいるふしがある。オビ=ワンは時折、まだ自分の手に彼の歯形がついていない事を不思議に思えるほどだった。
こうした甘さがアナキンを傲慢にしたのだろうか――考えずにはいられなかった。これまで度々の命令違反をため息一つで済ませてきたところがなかったとは言えない。
もしもあの時、自分が腿を切られなければ? 二人で連携して戦えていたのなら? 後悔はいくらでもあった。ことアナキンについてなら無限に枝分かれしていくようでもある。
もしも自分の命令を素直に聞く弟子だったなら? あるいは、もしも自分があの子を従える立派な師であったなら?
頭のなかで幼稚な考えを振り払ったところで、これまでの振る舞いのすべてが悪く繋がった結果のようにも思えた。
吹き矢など調べきなければよかったのだろうか? 一人でカミーノに行くべきではなかったのか? そもそもドゥークーに捕まらなければ? それにもっと前にタトゥイーンに行っていたならどうだろう? まさか評議会の意見を無視してパドメの護衛を任せるべきではなかった?
尽きることない妄想に意味はない。無意味な「もしも」からは意識を切り離す必要があった。その一つ一つがそこにあると認め、小さく折り畳んで手放していく必要が。
執着に対する方法はそれしかないからだ。
オビ=ワンはそれを知っていた。とてもよく知っていた。
オビ=ワンがアナキンとの面会が許されたのは、まだ義手の準備が整わないうちだった。
バクタ・タンクから出て、まだそれほど時間が経っていないようだった。それこそ降ろされた瞼を縁取る睫毛の色味だけでなく、鎖骨に垂れ落ちた三つ編みの毛先が淡く肩を湿らせているのが見てとれ、預けられた頭の下では枕もきっと同じとわかった。
ベッドに横たわっているアナキンは見るからに清潔な病衣を身にまとい、瞼をおろしていた。
近頃は黒い革の袖なしの羽織に暗い土の色の装束を身につけるようになっているものだから、淡い緑の服を着ている姿は見慣れなかった。右袖の布地が萎み下がっているのを見るのも。
オビ=ワンは目をそらすように瞼を降ろした。すでに治療を終えていた彼は見慣れたジェダイ装束に身を包んでおり、いつも通りだった。何事もなかったふりが似合うことは自覚していた。
「やあ、アナキン。実に退屈そうだ」
すっかりいつも通りで弟子が起きていることを疑いもしないオビ=ワンの様子に、アナキンは躊躇ったように見えた。
だが、そのまま寝たふりをするようなことはしなかった。
「ええ、まだデータパッドひとつ操作させてもらえませんから」
微かなため息をつきながら彼は目を開けた。
「あなたは元気そうだ」
その冗談めかして失敗したような表情に、オビ=ワンは神妙に頷いてみせた。
「うむ。私はたいした傷ではなかったからな」
アナキンが体を起こそうとするのを片手で制して、オビ=ワンは椅子を引き寄せた。語尾を濁すように答えて、深く息を吸う。だが冷たい空気が肺を満たすだけで胸のつかえはとれなかった。
「すまなかった。お前にそんな怪我をさせてしまった」
「何を言うんですか」
アナキンは目を見張った。そして引力に従うように落ちていくオビ=ワンの視線を追い、自分の右腕に視線を落とした。二の句を失った彼にオビ=ワンは続けた。
「私の未熟さがお前を一人で戦わせた」
アナキンはすぐに「顔を上げてください」と促し、言葉の通りにしたオビ=ワンを真っ直ぐに見つめなおした。
「これは――腕は、僕の責任です。だいたい、あなたの言うことを聞いて二人で挑めば、まだ勝ち目だってあったかもしれない」
「かもな。だがそうしてお前を驕らせたのは私の責任でもある。お前はもう十分に頼れる戦士だが――お前が憤っているように、まだ私のパダワンだ、アナキン。だからお前の失敗はお前だけのものにはならない」
「でも、あなたがセーバーを投げてくれたから生きてます」
アナキンは焦れるような口調で言い返した。そんな風に言われたことを信じられないと慌てるようでもあった。
「あの時ああしてくれなければ、僕らはヨーダが来る前に揃って殺されていましたよ。あなたのおかげでこうして生きています」
いつもの調子なら恨みがましい言い方をするだろうとオビ=ワンは思っていた。だがまるで違った言葉に彼は面食らった。
アナキンは真剣な面差しで師を見つめるばかりだった。
「必要以上に僕を守ろうとしないでも十分です」
「それは――お前らしい意見だが」
「僕がもっと強ければよかったとでも言えば僕らしいですか? でもそんなのは事実じゃありません。僕だってわかります。あなたのお説教が正しいことなんて、ほんとはずっと知っていました。それでも――認めてほしいと思って、目が曇っていました。本当に自分ならできると思っていたんです。あなたにだってわからせてやると自惚れていたんです。それでこうなったんだ」
まくしたてるように言われ、今度はオビ=ワンが言葉を失う番だった。
アナキンはいつも、オビ=ワンの説教を煙たがってきた。程度は違えど、それこそ共に過ごした十年変わらずにそうだった――だが今はどうだ。オビ=ワンはただ目を見張るしかできなかった。彼らしくない。だが、本心だとわかる。アナキンの胸の中には怒りもない。フォースを通じてそれがすっかり伝わってきた。そこには悲しみが影を落としている。冷たいばかりの後悔が、彼の心を分厚く包んでいるのが感じられた。
オビ=ワンは励ますように声をかけようとした。だが、アナキンが唇に冷たい笑みを浮かべて言い切る方が早かった。
「あなたは正しい。僕はあなたの言うことを聞くべきでした」
少しだけ顔を伏せる彼の頬下に影が落ちる。いつもの焦れた様子はどこにも見つけられなかった。
「僕にはまだ、あなたの教えが必要です」
それこそ、はじめてジェダイ装束に袖を通し、緊張した面持ちで自分を見上げたあの九歳の少年はもうどこにもいない。まだ頭に小さなしっぽをつけたパダワンには違いないが、そんなものは外面の要素にすぎないのだ。うぬぼれの毒が抜け始めた面差しには、頼もしく精悍な青年の影が落ちていた。
「――そうか」
オビ=ワンはアナキンの左手を手に取り、冷えたままの手のひらを両手で包んだ。血流を促すように軽く揉んでやる。これはもう右手にはできないことだ。そして、彼の母がしてやりたくても、もう二度とできないことでもある。そうして触れているだけで胸に満ちる感情を、彼は言葉にできなかった。その間にも後悔はいくらでも込み上げて、頭を賑やかにしていくというのに。
オビ=ワンには沈黙を避けようと「そう思ってもらえているなら光栄だ」と小さな声で絞り出すのが精一杯だった。
「まさか冗談だと? 信用がないな。茶化さないでください」
「そんなつもりはないよ。おまえこそ信用がないね」
やわらかな声で視線を逸らし、オビ=ワンは首を振った。
そうして俯いた師の顔をアナキンは黙って見つめた。
「マスター、泣かないで」
「なに? 泣いてなどいない。冗談はよせ」
「本当に? 髭が濡れていますよ。さっきは睫毛だって……」
そしてからかい半分に半身を乗り出し――少しだけ困った。
握った手が強ばり、オビ=ワンは顔をあげた。見ればアナキンの視線はオビ=ワンよりも手前、何もない空中で止まっていた。
彼の瞬きの次に浮かんだ表情はひどく苦い笑みだった。
「本当に……まだそこにある気がするものなんですね」
腕が変わらずそこにあったなら、きっと彼の右手はオビ=ワンの顔に触れていた。無遠慮に頬か髭をなぞっていただろう。子供じみて勝ち誇ったような顔をして――そんな想像は容易だった。本人にも、オビ=ワンにも。
だがそれは現実にならない。
アナキンの指摘に思わず湿った自分の口髭を触ったオビ=ワンのほうも、ようやく彼の右腕の喪失を実感した。それで「お前の言うとおりのようだ」と頷くことしかできなかった。
それからアナキンが義手をつけてしばらく――本当に最初の頃などは、ただ歩いているだけでも重心がうまく取れていないのが明らかなほどだった。いくら技術進歩があろうとも、義手の重みは生身と同じにはならないためだ。危険と隣り合わせになるジェダイのために誂えたのなら、なおさらだった。
そのうえで力の加減や持ち手の角度、さらには着地の足運びに重心のずれといった部分は本人が整えていくより他にない。
誰に言われずともアナキンの訓練室と医務室の往復の日々は続いた。オビ=ワンも事後処理の合間に何度も訓練室に通い、それを見守ったものだった。
「っ――もう一度!」
自分のイメージに肉体がついていかなければ、何度でもアナキンはやり直しをしていた。一緒に訓練場を使っている他のパダワンたちも息を呑むほどの緊張感が漂うことさえあった。部屋全体を見下ろすことのできる操作室を見上げることさえないまま、アナキンはリトライを指示し続けた。
彼が義手により崩れたバランスを取り戻し、フォースを操る集中力も以前と遜色ないと皆が認めるまでは時間がかかった。
アナキンには期待に応えるだけの才能があった。フォースの強さも、剣の上達も皆が目を見張るほどだ。だが、それは彼が予言の子だからではなく、本人が努力の上で花開かせてきた才能でもあるのだと、皆がそれを思い出すには十分な努力だった。
最初からうまくいくわけではなかった。とくに最初などは腕の重みに振り回されているようにも見えたものだった。フォースの力を借りるのも、義手を使いこなすまでは一朝一夕ではいかなかった。神経接続したところで生まれ持ったそれとは違う。
だが挫けず新たな腕で障害壁を上り、不安定な足場を磁力で再現したブロックの上を駆け続けた。時には揺れる足場に重心が崩れたこともあった。躓き、持ち直し、よじ登った先で落ちそうになるのを、義手一本で堪えることもあった。
一人で訓練に打ち込む彼の瞳はいつも荒れる海のようだった。荒れる波間で必死に帆を張り、進む船に灯る灯りのような切実さがあった。疲労に足を滑らせるようになればようやく休憩して、差し入れられた水を飲みもしたが、自分の汗ばむ首に三つ編みがすっかり張り付いたとしても、気づきもしなかった。
彼の気迫は誰もが認めるもので、燃える瞳に見据えられるのを躊躇って、オビ=ワンなどはついに一言も声をかけられなかったほどだった。
そもそもオビ=ワンは四肢を失ったことがない。それどころか片腕を折った経験さえ乏しく、助言できるようなことは何もなかった。下手な励ましは余計だと慎むだけの分別もあった。
それこそパダワン見習いたちの稽古を遠目に見守るように、彼が新しい自分の肉体に慣れるのを待った。なにも言わなかった。励ましも、慰めも。そうしてただ起こったことを受け入れ、彼の努力を見守った。アナキンも泣き言は一度だって言わなかった。
◇◇◇
アナキンの復帰に先立ち、オビ=ワンはたびたび一人でコルサントを離れるようになっていた。そして数週ぶりの帰還のためか、聖堂のふとした部分に意識が向いてならなかった。
ふいに、自分が足をつけているその床がいつ磨かれているのか気になった。堅牢だが華美な床だ。多くの場所と同じように、清掃ドロイドが早朝か夜間に磨き上げているのかもしれないが、それにしても見事なほどの研磨に見えた。複数の鉱石を組み合わせて模様を描く床には段差のひとつさえ見つからない。今などは磨き抜かれて周囲の空が映り込むほどだった。
そこは聖堂に点在する演習場のひとつ。塔の最上階、ライトセーバーを模した装飾で飾られた柱が屋根を支える吹き抜けのつくりで、時には儀式に使われることさえある。アナキンがとくに気に入っている演習場で、この日も彼が場所をおさえた。義手になってからは初めての演習だ。
思考に割り込むように、プラズマが耳障りな音を立てた。
オビ=ワンが光刃を危なげに切り返せば、アナキンは鋭く踏み込んで光刃を振り下ろした。一緒に向けられた批難の言葉には怒りや苛立ちがはっきりと滲んでいた。
「集中できていないのでは?」
肩口で細い三つ編みが踊り、その首筋をくすぐっているのに視線を移せば、彼は不満を露わに目をすがめた。
視線が噛み合うと、ライトセーバーを握る彼の義手が掠れた金属音を立てる。ジェダイ装束の袖でほとんど隠れているとはいえ、金のフレームに絡みつく黒い合成筋肉は剥き出しだった。
「それとも僕相手ならまだ片手間でいいと?」
二人は斬り合っていた。
出力を落としてはいるが、互いに握っているのは練習用のセーバーではない。それこそパダワンの三つ編みを切り落とすことぐらいはできる。油断できるやりとりではなかった。
「被害妄想だな」とオビ=ワンは冷たく言い返した。
アナキンはまだ、ライトセーバーの訓練ドロイドとの手合わせが解禁されたばかりだったが、すでに腕を失ってからのブランクを感じさせないだけの鋭さがあった。義手になったことを思い出すのは、グリップとフレームが擦れて音を立てる時だけだ。
「別に片手間になどしていない。お前こそ手袋はどうした。誂えたんだろう? 忘れ物とは気が緩んでいるな」
オビ=ワンが言い返せばアナキンはほんの一瞬だけ口を噤んだ。自分の右腕に視線を落とす。だがすぐにオビ=ワンを見据えて言い返した。「べつに、聖堂を出ないのに必要ですか?」
アナキンにとって義手に重ねる手袋は防塵と人目を配慮した装備品だ。コルサントではどちらも気にする必要はない。だが言葉の中身よりもオビ=ワンはその拗ねた口調に思わず頬を緩めた。
「ちょっと。笑うところですか?」
「なに、留守番を拗ねられるとは」
かわいいところを久々に見たな、とオビ=ワンは平然と続けた。アナキンは忌々しげに光刃を突き出すしかなかった。
「本当に――あなたって!」
苛立ちに乱れる剣筋にオビ=ワンはとうとう笑い声をあげたが、かといって油断できるようなやりとりではなかった。むしろアナキンの剣先が乱れる方が危険ではある。オビ=ワンもそんなことは重々承知していた。
だが、素直に反発してくるのがわかると、もっと彼の感情を引き出せてやれたらと思うことをやめられないのだった。
もとよりアナキンの問題は能力ではない。言うまでもなくすでに彼のライトセーバーは一人前の騎士にふさわしい腕前で、十分オビ=ワンを困らせるほど上達していた。
それでも彼がパダワンを脱せないのは精神の未熟さが理由であり――結局オビ=ワンの勝機も、そこにかかってくる。
足払いに滑り込んできたアナキンの足を飛び超え、入れ替わるように着地したオビ=ワンは剣を構え直した。彼はぺろりと唇を舐めた。不敵な笑みを向けて見せる。
「言っておくが、私のほうはライトセーバーを抜くこともなかった。お前に頼んだ指南役のほうが忙しい仕事だったはずだぞ」
「……否定はしませんが」
アナキンは苦々しく言い返した。しかし不満は続く太刀筋の荒さにはっきりと現れる。オビ=ワンは思わずニヤリとしながら、振り下ろされる光刃を乱暴に横へ打ち流してやった。
「うん? 思いのほかストレスを感じたと?」
「もうご存知なんでしょう? 意地悪な質問だ!」
アナキンは一歩引き、目を釣り上げた。吐き捨てるような言葉と一緒に構え直した刃を鋭く前に突き出す。
「ッ――そっちこそ!」
オビ=ワンは息を呑み、なんとか剣先をはじいた。思わず眉間に皺を寄せて文句を返す。
「なあ、ずいぶん意地の悪い切り返しじゃないか?」
「そりゃあ、意地の悪いマスターに鍛えられていますからね! ちっとも甘やかしてくれない、褒めもしない!」
半ば怒鳴り返してアナキンも返した。非難は続く。言葉を重ねるほど、それは素直で幼稚になった。
「それに自分だけ任務へ行くなんて!」
昨日までオビ=ワンは、内戦の調停役としてアウター・リムの惑星に派遣されていた。そしてアナキンのほうは、聖堂でパダワン見習いたちへの指導を担当していた。それは師の任務への同行を禁じ、彼が勝手にコルサントを離れないように聖堂内に縛り付けるための任命だった。これは度重なるアナキンの命令無視を重く見た評議会から、懲罰を兼ねた指名だった。腕の喪失という重い結果を迎えたとはいえ、アナキンの命令無視はあまりにも重ねられ続けている。何もなしに任務に復帰させるわけにもいかなかったのだろう。
しかし自分のセーバーを持たない子供たちへのフォーム指南役など、評議会としてもライトセーバーの技量を認めていなくてはまず任命しない。これもいい機会だと説き伏せたオビ=ワンはすっかりそのことは終わったことだと認識していた。花形の仕事だなと茶化して伝えさえしたほどだ。よい話だとすら思っていた。復帰前の肩慣らしと自信回復に繋がる良い案だ、と。
だが、アナキンの苛立ちを見る限りでは、まるで終わった話にはなっていないようだった。
「ふむ。私も苦戦するお前を見てみたかったものだ」
からかい半分にオビ=ワンは言った。
もちろん想像できる部分もあった。マスターとパダワンの関係とは違い、パダワン見習いのうちはクランと呼ばれるグループ行動が基本になる。つまり基本は一人の師と大勢の生徒という関係になる。素直な子供ばかりとはいえ、十人も相手にすれば質問に答えるだけのことも大仕事になった事だろう。それに子供の疑問は大人にとっては突拍子もないことがある。渋い顔で言葉を失う場面もきっとあったに違いない。
アナキンには年下の扱いに慣れるような経験もほとんどない。パダワン見習いを連れ出すような指導だって二人はこれまで関わってこなかった。だいたい彼自身がパダワン見習いだった時代もない。アナキンはパダワンからの特例だ。それも予言の子供だと噂される期待の星――想像はつくというものだった。
居心地の悪そうな顔を想像したオビ=ワンに、アナキンは目を眇めて「本当にあなたは意地が悪い」と言った。
「そうか? 弟子に影響されてしまったようでね」
「それはひどい弟子をお持ちのようですね! ――でも、彼らのおかげで僕はあなたの隣にいるほうが楽だとわかりましたよ」
「なんだ? ずっとパダワンでいたいとでも?」
「そういう話じゃありません」
「では慣れていかなければな。それに、お前の指導をヨーダは褒めていたよ」
「いつもでしょう? どこまで本心だかわかりませんよ」
「おや。出来がいいというご自慢かな」
「どこがです。あなたこそ彼のお気に入りでは」
「ふむ。どうやらお前にはまだ物を見る練習が必要なようだ」
言い合いの最中にも、アナキンの光刃は重みを増していくばかりだった。軽口を続けることならいくらでもできたが、オビ=ワンからすれば、強く踏み込む隙はなかった。今のところは攻め返すこともできず、後退しつづけるしかなかった。
幸いなことに壁を背にせず攻撃を防げているおかげで、ぐるぐるといびつな円を描きつづけることはできていたが――
「それで? さっきから何に気を取られているんです?」
不満げな口を挟まれ、オビ=ワンはため息を漏らした。
「被害妄想だ。お前のことを考えている」
「どうだか!」
「そういうお前こそどうなのだ」
言葉とともに、手首を返してどうにか斬り返す。それは技量というよりは意地によってできることだった。
だが、攻撃をなぞり返したところで、振り付けの決まりきった演舞のようにアナキンが受け止め、防ぐことはわかっていた。それでもオビ=ワンには続ける必要があった。このやりとりが長く続き、重心が偏っていくと、アナキンの動作はどんどん雑になっていくからだ。これは予想される未来で――忍耐の問題だった。二人を隔てる壁とも言える。
とにかく先は長くない。それでオビ=ワンはフォースに手を伸ばした。自分がその一部であることを認め、フォースに寄り添う。全てを手放して頭を空にしていく瞑想とは違い、そうして触れるフォースには、なめらかな毛並みの毛布に包まれた時のような心地よさがあった。
二人はお互いにフォースの助けを借り、二人は決まった振り付けを踊るように体制を入れ替えた。読み合いは一つ先、二つ先へとお互いの行動の先に意識を向けるようになり、必然的に踊るような斬り合いは続いた。
だが攻守は少しずつ入れ替わり、オビ=ワンの期待通りにアナキンの動きは崩れていった。
とうとうオビ=ワンがアナキンのライトセーバーを蹴り飛ばし、それで決着だった。
勢いを殺せず倒れ込む弟子を尻目に、彼は床を滑る弟子のグリップを引き寄せた、晴れ晴れとした笑みで「すっかり油断ならなくなったな」とアナキンに手を差し出してやる。
その手を取って立ち上がるアナキンは不満げだった。
ライトセーバーを受け取る声には棘が潜んだままだった。
「どうだか。勝った側ならどうとでも言えますよ」
「素直に受け取りなさい。お前はいつからそんなに疑り深くなったんだ」
「僕の疑り深さはあなたの真似です」
「私の心配は慎重というんだ」
「そんなのおなじことですよ、マスター」
アナキンが自分の手を取り立ち上がるのを支えながら、オビ=ワンはどこか楽しげに言い返す弟子を見つめた。
アナキンはすっかり自分を取り戻しているように見えた。それに今や普段のふるまいではまるで義手であることも感じさせない。立ち振る舞いの一つ一つが腕を失う前と同じように、調和の取れた動きに戻ったように見える。今のような何気ないやりとりさえ、腕を失ってからしばらくの間には、とても考えられなかったやりとりだった。
そしてオビ=ワンが意識を向けているのが自分の義手だということにはアナキンのほうも気づいていた。視線が噛み合う。
それでも二人はお互いに気づかないふりをした。
「もう次の任務は一緒で問題なさそうだ」
「まかせてください。あなたをまた救って差し上げますとも」
アナキンは笑ってみせた。
だから「頼もしいかぎりだ」とオビ=ワンも微笑んで返した。
◇◇◇
死を目前にパドメが秘めた愛を打ち明けたのは、まるで昨日のことのようだった。だが秘密の式をあげ、彼女が再びコルサントに滞在するようになってからは、すでに半年以上が経っていた。
バルコニーに並び立つようなことさえしないが、それこそ誰にも見咎められないよう人目を忍び、時にはスピーダーを遠くに止め、路地を複雑に通って遠回りをしては、互いの仕事の合間に唇を寄せ合い、二人は密やかに愛を育んできた。オビ=ワンには吐き出すこともできない弱音さえ、アナキンはパドメにだけ打ち明けてきた。そうして腕を失ってからの多くの夜を、彼は彼女のアパートメントで過ごしていた。
この秘密はまだうまく隠せているが、どこかで気の緩む部分も出てきていた。それこそアナキンは早く聖堂に戻るべきだったが、離れがたさで膝の上に頭を預け、とりとめないお喋りをはじめて、もうずいぶん経っていた。
オビ=ワンの出向任務に同行することを許されていないアナキンに与えられている仕事はさほど多くない。今日などは夕食までは予定もなかった。それにパドメのほうも、このところ頭を悩ませていた議案に一区切りがついたところだった。
それで二人は互いの髪に指を絡ませ、頬を寄せ合って、もう長い間こうしてくつろいでいた。
まだ夕方にもならないが、事情を知る侍女は既にドロイドと共に退室しており、表向きのスケジュールを埋めたおかげもあって、寝室には二人だけだ。いつもならナブー式に編み上げ、飾り立てている髪を解いたパドメはすでに化粧も落としていたが、間接照明の灯りのなかでも彼女は変わらず輝いて見えた。
アナキンはベッドに腰掛ける彼女の膝上に頭を預け、彼女のほっそりとした指先が自分の髪や顔をなぞるのに任せていた。
目を閉じているぶん感じ取れる華奢な指先は手入れが行き届いて滑らかで、頼りなくさえ感じられる指が心地よかった。アナキンは時折彼女のこういう部分に気を取られて、彼女が勇敢にもブラスターを手に取ることも厭わない強い女性であることをすっかり忘れてしまうほどだった。
「くすぐったいよ」
やがて新しい傷跡をくすぐるような指先に目を開けると、傷を覗き込む彼女の瞳と目があった。
「それで――これはどうしたの、ミスタージェダイ?」
「傷があるのは嫌かい?」
「いいえ、ハンサムさん。ちっとも嫌ではないわ。でも……あなたがそういう言い方をするのなら、なにか名誉の傷かしら」
「さすが、君は僕をよくわかってる」
「あなたの妻ですもの。そうね、理由も当ててみましょうか」
「理由まで? 本当に?」
アナキンは体を起こした。目元をなぞっていた彼女の手を絡めとり、指の付け根を合わせるようにしていたずらな指先の自由を奪う。そうして目を丸くしている彼が年相応に幼く感じられ、パドメはくすくすと笑った。絡め取られた指を絡め返し、探るように夫の手をくすぐりかえしながら、勿体ぶった口調で言う。言い当てる自信はあった。
「きっとオビ=ワンが関係しているんでしょう? いえ。待って、言わないで。そうね……うん、オビ=ワンを助けた時の傷?ああ、絶対にそうね。傷跡を消す気がなくて残したんでしょう」
ああすごい名推理だ、とアナキンは彼女の指先に唇を寄せた。
「すごいや。それとも僕ってそんなに単純?」
「いいえ。でもオビ=ワンに関することなら、たぶんイエスね」
冗談めかして言って、二人は微笑みあった。
「君に隠し事はできなそうだ」とアナキンは言った。
パドメは何も言わず、ただ絡めた手を少しだけ強く握った。推理が当たったことを喜ぶべきかはわからなかった。
彼女にはフォースを感じることはできない。だが、夫が望むものぐらいはわかる。それこそ当人に自覚らしい自覚がなかったとしても。なにしろ彼の悩みを聞いてきたのだ。オビ=ワンがどれほど偉そうで、戒律に縛られた男で、求めても与えてくれることのない相手かということを。
けれども、話を聞いていればこそ、どれほどオビ=ワンがアナキンを愛しているかもわかってしまう。
パドメからしてもアナキンには強い自惚れがあり、自分本位なところがある。ジェダイの戒律を都合よく解釈しようとしていることも、自分への説明から察したことだってあるぐらいだ。
一方のオビ=ワンに融通が利かない部分があるのも事実だが、彼がそうした弟子の楽観性をどうにか打ち直そうと苦心しているだろうことは想像できた。
聞く限りではお小言だって内容は一貫しており、結局のところ弟子の行く先を案じて口うるさいだけなのだ。オビ=ワンの苛立ちや指摘を的外れだとは思わない。それこそ最初にそうアナキンを諫めて返した時からこの考えは変わらないままだった。オビ=ワンはただ義務に忠実で、その点では自分に近い考え方をする。それを思えば、彼の師であろうという態度やジェダイの掟や生き方がその言葉を説教くさくしているのもまた間違いないだろうともわかってしまうのだった。
だからパドメにはオビ=ワンがきっとこの残った傷を負い目に思ったことだろうが想像できた。自分ならそう考えるに違いないと思うからだ。それこそアナキンが望んだ通りに。
「――傷があるのもセクシーよ」
瞼を伏せて囁くパドメの言葉に、それならよかったとアナキンはキスして囁いた。
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パドメとアナキンのいちゃいちゃが結構具体的なので途中まで載せました。
このあとはEP4前は出ないのにいつものかんじです。
ご縁があったらよろしくね。