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夜と昼を彷徨う者(3)

全体公開 反転ドラヒナ 8010文字
2023-04-07 21:33:10

反転ドラヒナで、続きものになってしまった3作目です。本当は、前編・中編・後編で終わらせる予定で書いていたのですが、急遽ドラルクさんパートを挟みました。なので、この話と同じ時間軸ですね。夜と昼を彷徨う者(2) https://privatter.net/p/9919130
「そのままラストまで書いたら、ヤバいごんぎつねになってしまった」とツイートした時、読んで頂いた方々からの反応が良かったのが印象的でしたね。
2023/03/23にあげました。

Posted by @kw42431393

 「ゴ、ゴホッ!ふぅ。」
 やっと、呼吸が楽になってきた。ヒナイチくんが飲ませてくれた血のおかげで、かなり『ケガトカスグナオール』を使った後の、身体中の痛みも治まってきた。やっと、少しは眠れそうだ。 
 さっきまで彼女を閉じ込めていた棺桶には、微かに昼の子の温もりが残っている。
 近頃、我々夜の者にはないこの温かみこれを失うのが惜しい気がしてきた。転化に成功すると、あの意志の強い翡翠の瞳が見れなくなるのが、残念な気がしてきた。
 夜の世界に連れてきた時に、仮に再生能力を持たない自分が死んだ後、彼女がどうなるのか、それも気がかりになり始めていた。
 
 『彼女をうちの血族にしようと思う。君の後輩にする事も考えたが、彼女とは対等でありたいのだ。ジョン、君はどう思うかね?』
 心身共に反抗的だったヒナイチくんが、心はともかく肉体の快楽に抗えなくなってきた頃、ジョンに相談した事がある。彼は私と彼女のバランサーであった為、早い段階からヒナイチくんも私に想いがある事は聞いていたらしかった。
 
 ヌンも将来的にはそうなって欲しいと思ってるヌ。でも、彼女に考える時間をあげて欲しいヌ。最初にあんなに傷つけて、急かすのは残酷だヌ。まだ、彼女の心には決めた使命があるんだヌ。天秤にかけるのは、簡単ではないヌ。

 内心不満だったが、彼女の心身をズタズタにしたのは私自身だ。何より、ジョンの言う事は正論で、私も頷くしかなかった。
 しかし、待つなど私らしくもない。執着心の強い吸血鬼らしくもない。
 欲しいから力ずくで手に入れる。手に入らないなら、殺してでもその死体でも自分の物にする。その後の事は、特に考えない。そのはずだったのに最近になって情が移り過ぎた。
 その上、いつの間にか私の体はヒナイチくんの血以外は受け付けなくなったらしい。最初は、ボトルの生き血が腐敗していると思っていたのだが今では特1級の生き血ボトルでも、直接飲むと吐いてしまう。
 しかし、一度吸血すると期間を置かなければならないヒナイチくんから毎度貰う訳にはいかない。だから、ボトルの血をワイン等で薄めて無理に流し込んでいる。ジョンからは、青汁でも飲んでる様な顔をしていると言われるが仕方がない。
 しかし、いつまでもつだろう。いつか私は渇きに耐えられず、あの子を衰弱死させるのではないか?
 ならば、いっそ昼の世界に帰すべきかとも思う。しかし、だめだ。執着心の強い吸血鬼のサガとして、やっと心も手中に収めつつある雛鳥を外に送り出せない。誰かに盗られたくない。日に日に綺麗になっていく少女が、誰かの目に止まらないはずがない。
 そう迷っている間にも、時間は経っていく。そして、今朝の事件だ。
 私は以前から、彼女もとい吸対に反人間派の同胞が計画している犯罪や、調査中の事件について情報を提供していた。なんの事はない。監視任務や私の手料理以外にも、ヒナイチくんがここに来る理由に付加価値をつける為だ。
 それがエスカレートして、彼女と対峙するであろう手練れの同胞を、隠密に襲撃する様になったのはいつからだったか。
 何故、ヒナイチくんに内密にしていたか?あの子が意地っ張りなのは、承知している。知れば「余計な事はするな!」と言うに違いない。
 彼女の実力はトップクラスだが、まだまだ詰めが甘いのだ。だから、眠らせている間に、相手を仲間割れに見せかけたり、暗殺したり、催眠術にかけたりして、彼女に害が及ばない様にしていた。

 『いらっしゃい。今夜は、監視に来れないのではなかったのかね?』
 『うむ。それなのだが本来あった任務が中止になったのだ。犯人が自首してな、取り調べは終わったからVRCに送った。早く終わったので、こちらに来たという訳だがあまりに素直過ぎて、腑に落ちないんだ。』
 『よかったじゃないか。さあ、お座り。クッキーを持ってこよう。』
 『クッキー?何で用意出来ているんだ?』
 
 勿論、犯人に自首する様に催眠術をかけたのは私だからだ。今夜も無事にここに来て貰いたい、ただそれだけの為。我ながら単純な事だとは思う。
 昨夜の件は、犯人はたいしたことはなかったが、とにかく下等吸血鬼の数が多かった。そもそも、人界に放つ下等吸血鬼の養殖場だったのだ。凍らせても斬り殺しても、次から次へ湧いて出てくる。ロナルドくんに協力者の足止めを頼まなければ、死んでいたのは私だっただろう。
 辛うじて下等吸血鬼共を殲滅させ、犯人を確保した私は、命からがら居城に逃げ帰った。私がいたという証拠を隠蔽出来なかったが、夜が明けると益々身動きが取れなくなる。
 それに、ヒナイチくんを棺桶に閉じ込めて来ている。何があっても帰らなければ途中で事故でもあって、私が死んでしまえばジョンも死ぬ。彼女も出られないまま、飢え死にしてしまうだろう。
 戻ってきてから、お祖父様から頂いた『ケガトカスグナオール』を使う。ただし、これを使うと一度全身骨折した様になってから再生するという、とんでもない副作用がある。が、再生能力がないので仕方がない。
 七転八倒の苦しみとはこの事で、這って動ける程度まで落ち着いてから、彼女を出してあげる為に棺桶を開けた。
 よかった、いい子にしていた毎度、この瞬間はホッとする。
 鍵はかけているが、目を離した隙に逃げられるのではないかと気が気でないのだ。彼女も私から離れられないだろうと自信を持っていても。
 「お前こそ具合でも悪いのか?」
 起きたヒナイチくんの第一声がこれだ。それはそうだろう。我ながら情けない姿だ。
 棺桶から出る彼女と入れ替わりに、体を横たえる。ただ休みたかった。今思うと弱った姿を見せたのは、早く出してやりたかったのもあるが、油断だったのだろう。蓋を締めようとボタンに手をかけると、呼び止められる。ぼんやり見ていると、彼女は私に跨がって首に手をかけてきた。

 シーツしか纏っていないその姿は、扇情的で凄絶だった。目が殺気立っているその姿は、初めて棺桶に連れ込んだ時を思い出させた。



 ああ、やっぱり

 恐怖も失望もなかった。元々、私達の始まりは最悪だった。今でこそ、お互い離れられない間柄だが、愛する男性に捧げるであろうものを無理矢理散らされた憎しみや恨みは燻っていたはずだ。
 時々、眠っている最中にその時期の事を思い出して、急に泣き出す事もあったから驚く事でもない。皮肉なのは、その時に泣いて甘える対象と恐怖の対象が、同一人物だという事だろう。
 ヒナイチくんが、昨夜の件について首を絞めながら問い質してくる。刃物も近くに置かせてあったはずだが、それは思いつかないらしい。
 妙に愉快だった。油断していたら、いつでも殺してよいと床を共にしていたのに、心も手に入れつつあると自負している今になって殺されるのだ。
 「笑うな!答えろ!」
 怒った彼女が本気で力を込めた。ミシミシと骨が軋む音が聞こえる。反射的に彼女の手を押さえようと手が動いたが、床に爪を立てて耐えた。
 「がっ!あ、ぁっ!!」
 「何故隠すんだ!?私が監視員だからか!?」
 涙声が遠くに聞こえる。

 違う、監視員だからじゃない。ただのつまらないプライドだ。こんな理由でやっていたと知られる訳には。

 いいじゃないか。本当の事を言ってしまえ。いつか殺されるならこの娘に、と覚悟していたはずだ。

 半分捨て鉢だったのだ、と思う。
 それに、彼女も報告書を書く時、困るんじゃないかそんなどうでもいい事を考えた。勤務査定が落ちると私の担当から外されるかもしれない。そんな事を気にしていた名残かもしれなかった。
 だから、白状した。君が無事で、毎晩ここへ監視に来て欲しい一心でやっていたのだと。子供っぽい、馬鹿げた理由だと思われて終わりだろう。
 しかし、そこからが予想外だった。悪夢から覚めた様に、ヒナイチくんの目から殺意が消えた。と、思ったら自分の手首を切って、血を口に含んだ。口移しで飲ませてくれたのだ。
 礼の言葉も聞かぬまま、彼女は棺桶を閉めて出ていってしまった。
 体が徐々に楽になっていくのを感じる。何故、殺さなかったのだろう。何故、自分から血をくれたのか。私を殺す最後のチャンスだったのに。

 やっぱり、諦められない。ヒナイチくんは私のモノだ。誰が何と言おうと、こちらの世界に連れていく。
 ねえ、今晩も私の元に来てくれるだろう?



 ガタガタ、ゴトリ
 『ジョンさん、ありがとう。もうお暇致しますわ。』
 『ロナルドくん。届けてくれて、ありがとうヌ。』
 蓋の開く音と、よく知った声に意識が浮上する。いつの間にか、うとうとと眠っていたらしい。
 「ジョン?ああ、それにロナルドくんかね?」
 「あら?起こしてしまいましたの?お失礼を致しました。」
 開いた隙間から、赤い退治人衣装を身に纏い、上品に笑う男もといお嬢が顔を見せた。手に私のスマホを持っている。犯行現場に落としたので、彼に回収を頼んでいたものだ。
 「横着な姿を見せて失礼をした。助かったよ、スマホの件もそうだが、協力者の説得の件もね。」
 蓋を開けて起きようとしたが、『そのままでよろしいですわ』と手で制された。まだ、全身筋肉痛の様な状態なので、言葉に甘える事にする。
 「協力者まで来たら、私の方がヤバかっただろう。しかし、君の方も大変だったらしいね?」
 「ウフフ。ほんと、お野蛮な方々でしたわ。お話し合いをしましょうと言ってますのに、聞くお耳を持ってくれないんですもの。」
 コロコロと笑う彼の顔や腕には包帯やバンドエイドが見えた。これはまた派手にやったらしい。
 「ありがとう。こんな状態だから、悪いが礼はまた後ほど痛っ!」
 「あら、やだ。何を言っておりますの。お友達ではありませんか。」
 叩くな。病み上がりどころか、まだ怪我人なのだぞ。まあ、彼に言っても仕方がない。なんというか、脱力するタイプだ。
 「それはそうと、ヒナイチさんにお会いしましたわ。」
 「ああ。」
 そうだろう。そもそも、スマホを落とした場所は、彼女が本来潜入調査をする施設だったのだ。私が先に襲撃して、壊滅させた場所だから、彼女がいるのは当たり前だと言える。
 「彼女がお悩みの様でしたので、空いたお部屋でお茶をしておりました。まあ、そちらもお大変だったとの事ですわね。」
 警察が捜査中の施設でお茶とはまあ、彼らしいといえばそうか。しかし、彼に相談するのか半分女性の様なものだから、聞きやすかったかもしれないな。
 「お二人が恋人同士なのは、伺っております。始まりがお野蛮を通り越して、クソあら失礼。まあ、そこは置いておきます。」
 少し不穏になってきた。このよく分からないロナルドくんの交渉で、成功率が高いのはこういう所にある。
 最終的には、お嬢が反転してゴリラになるのだ。私も初めて彼の怒った姿を見た時、ドン引きしたものだ。それまでコロコロ笑っていた人間が、ドラミングを始めたら大抵の者はビビるだろう。
 お嬢の反対はゴリラなのかまぁ、構わん。棺桶にセロリを置いておくんだった。
 「今までの事も、ヒナイチさんには言ってなかったらしいじゃないですか。その首の痕は、お自業自得とお思いなさいな。」
 「言った所で聞くものか。彼女が意地っ張りなのは知っているだろう?」
 「意地っ張りは、お互い様でしょう?さらに、貴方は見栄っ張りお違いますか?」
 図星だ。監視員に入れ揚げているのは認めているが、面と向かって言われるのはいい気はしないものだ。それにやっている事が、自分でも幼稚なものだとは、理解しているからだ。
 しかし、それに縛られているのも事実だった。年上のプライドから、隠してきたのは認めざるを得ない。
 「。」
 「恥に思う事はありませんわ。お吸血鬼さんに多い習性と言いますか。自縄自縛に陥るお方も珍しくありませんわ。でも、本当にヒナイチさんがお大事なら、『貴女が心配だから手伝いたい』とはっきり言うべきだったのですよ。」
 まあ、彼女は断ったでしょうけどと彼も続ける。伊達に、『お友達になりましょう』等とふざけた理由で、数多の吸血鬼と会ってきた訳ではないのだろう。
 「ところで、ドラルクさん。」
 「何かね?」
 声色がさらに真剣味を帯びる。
 「ヒナイチさんを夜のお眷属になさるおつもりなの?」
 「そうだ。もう決めた。」
 君が止めても、覆すつもりはない。
 「彼女は何と?彼女のご家族は?ご了解は取っていますの?」
 それは、取ってはいない。ジョンは時間をあげろ、と言うがもう待てない。
 「ヒナイチくんは、私に血をくれたんだ。」
 はあ、とロナルドくんがため息をついた。
 「確かに、今の彼女は貴方を愛しているでしょう。苦しんでいる貴方に血をあげたのは、彼女のお意志ですわ。でも、今までいた世界を捨てるのとそれまで背負ってきたものを捨てるのは、別なのですよ。人間にとって。」
 そうだろうか。私だったら、簡単に世界も家族も捨てる。未練を持つとしたら、ジョンぐらいなものだ。
 「分かっておられないでしょうね。そこがお吸血鬼さんと人間の壁なのです。お共生を難しくするのもだから」
 そこまで言って、彼は立ち上がった。
 「まずは彼女とお話し合いをなさい。私が言わなければ、彼女が来たら問答無用で転化させるつもりだったのでしょう?」
 そのつもりだった。本日二度目の図星なので、思わず顔を反らしてしまう。
 「ヒナイチくんは、君に何と言ったのかね?」
 「ご友人の貴方でも守秘義務があるのでと言いたいですが。彼女からは、何も聞いていませんわ。ただ、お悩みを聞いただけです。」
 喰えない男だ。しかも、これが本音で生きているのである。
 「分かった、今夜話してみよう。」
 「今夜来るかは、さすがに。」
 「来なければ、迎えに行く。逃げるなら連れ戻す。」
 それが、我々のサガだ。厄介なものだが。
 「貴方に限った事ではありませんけど困ったお事ですわ。これだけは言っておきます。彼女をどうしても手に入れたい。ならば、貴方も何かを諦める事、誰かに頭を下げる事をお勧めします。お二方が納得出来るお結果になります様、祈っておりますよ。」
 それでは、またみっぴきでお茶を致しましょうねと締めて視界が真っ暗になった。
 何かを諦める、頭を下げる考えた事もない。あの子を手に入れる為なら。しかし、何を?



 答えが出ないまま、日が暮れた。そろそろ、起きて彼女を迎える用意をしなければ。
 吸血鬼用の姿見の前に立つ。首には彼女の手の痕がくっきり残っていた。このままでは、気にするのではないだろうか。
 包帯を巻いてみたが、なんだか「君がやったんだ、どうしてくれる?」と言っている様で、やめた。血色の悪い自分の肌に合うコンシーラーは持っていない。結局、いつも通りクラバットで隠した。
 
 ドラルク様、もう大丈夫なのかヌ?

 「ジョン、心配をかけたね。もう、大丈夫だ。」
 長年連れ添ってきた使い魔を抱き上げて、頭を撫でる。そのままキッチンへ向かった。もはや癖で、常備しているクッキー種を取り出す。

 ドラルク様、ごめんヌ。ヒナイチくんに言わない方がよかったかヌ?

 「いいよ、ジョン。君は私達の為に言ってくれたんだ。」
 そういえば、あの時は自分でも血を貰って、浮かれていたのは認める。だから、彼女が断るはずがないと思っている所があったのだがよく冷静になって考えると、血をくれたのは同情の可能性もあるのだ。馬鹿げた理由で、自分の為に死にかけている吸血鬼への。
 その場合は、おそらく私は許さないだろう。ロナルドくんはああ言うが、その場合は、問答無用で彼女を吸血鬼にする。この城に閉じ込めて、もう一度最初から、私なしでいられない様に刷り込みをし直す事になるだろう。
 そんな事を考えている間に、クッキーが焼けた。とっくに8時を回っている。何もなければ、ヒナイチくんはいつも6時頃に姿を見せるはずだが。
 ジョンは、「あんな後で来ないかもしれない」と言うが、私にとっては関係がない。
 現場には、私がいた証拠がそのままになっている。監督ミスで始末書を書かされているのかもしれない。やはり、隠蔽してから戻ってくるんだったか。
 私はマントを羽織りながら、外に向かおうと扉を開けた。
 
 「あっ、こ、これはその。」
 「おや。」
 そこには、気まずそうに立ち尽くすヒナイチくんがいた。ほら、やっぱり来たじゃないか。
 「ドラルク。こんぐ、具合はもういい、のか?」
 おずおずとこちらを見上げる少女に、安心感がこみ上げる。いつもの意地っ張りな彼女ではなく、年相応の少女の顔をしていた。
 「おかえりヒナイチくん。」
 腕を引いて迎え入れると、消え入りそうな声で「うん。」と返してくる。どちらとも取れる言い方だ。「ただいま」を期待していた自分に苦笑する。
 ロナルドくんの言う通り、『お話し合い』が必要という事だろうか。
 「まだ、夜は冷える。薄着をしてはいけないと言っただろう。こっちへおいで。」
 つい、父親の様な喋り方になる。顔を覗き込むと、チラチラと彼女は私の首元に目をやっていた。やはり、隠せてはいなかったか。
 「あ、あのそれ。」
 「この痕かね?君が責任を感じる必要はない。」
 元々、殺される覚悟はしていたのだ。君こそ手首にバンドエイドを貼っている。白い肌に目立ってそちらの方が痛々しいと思うが
 「お前がそう言っても、それは無理、だ。」
 腕の中で、ヒナイチくんが怯えた顔をした。はて、私が怒るとでも思っていたのだろうか?
 「す、すまない。私、どうかしてたんだ。」
 青い顔でヒナイチくんが、ポツポツと言葉を漏らす。体が震えていた。とりあえず、温かくした方が良さそうだ。
 それに何に謝っているのか、よく分からない。最終的には血をくれて、体を回復させてくれたのは君なのに?  
 「こちらこそ、血をくれてありがとう。おかげで、体はすっかり良くなった。私こそ、黙っていてすまなかったね。さあ、中へ。」
 肩を押して室内に招き入れる。ソファに座らせると、紅茶を淹れた。ショールでも取って来ようかと思って私が部屋から出ると、いつも通りジョンが砂糖とティースプーンを彼女に差し出しているのが見えた。
 「ありがとう、ジョン。その
 「ヌ?」
 「すまない。ドラルクと二人にし、して欲しい。」

 決めたのかヌ?ヌンがいなくて大丈夫?

 「い、いや。全部では。でも、言わなきゃ私もずっと甘えたままでいられないんだ。」

 分かったヌ。頑張ってヌ。
  
 戻って来ると、ジョンが部屋から出る所だった。我々は聴覚がよいから、さっきの会話も聞こえている。『全部では』か。

 ドラルク様、泣かせちゃ駄目ヌ。

 「努力しよう。いつもすまないね。」
 本日、何度目かの釘を刺されてしまった。私は、前科があり過ぎるからな。彼が部屋から出ると、私はヒナイチくんに近づいた。手に持っているショールを肩にかけて、留め具をかけた。縫った本人が言うのもなんだが、よく似合っていると思う。
 そのまま、向かいのソファに腰を据えた。

 さあ、どうでる気かね?お嬢さん。

 
 
 
 
 
 
 

 


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