薄紅色に染まる賢者の島の春と極上の時間と。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第29話。
※創作女監督生の名前が出ます
※夢主以外の名前ありのオリキャラが出ます
※他CP(リド × not監)要素あり
※捏造設定あり
@natsu_luv
東洋の国の春は、薄紅色の花吹雪が空を舞うと伝え聞く。
儚くも美しい桜の花が満開になり、景色を淡く優しく色付けるという。
文献の中でしか知らない遠い国の春を想像しながら、私はグリムと一緒にオンボロ寮の談話室で紅茶を飲んでゆったりと過ごしていた。
ふと、スマホの画面に目を向けた。
私の行きつけのティールーム、『ティールーム・ルミナス』のマジカメが更新されている。
「麓の街の植物園でアフタヌーンティーか……。美味しそう」
「アフタヌーンティー? それは美味いのか? オレ様も行きたいんだゾ!」
「うん、一緒に連れて行ってあげるよ。そうだ、シルバー先輩にも伝えておこう」
私はシルバー先輩とのグループチャットのルームにアフタヌーンティーの情報を送信した。
数分後にシルバー先輩から都合の良い日が書かれた返信が届いた。
私は互いに都合の良い日を調べた後、アフタヌーンティーの予約を入れた。
アフタヌーンティーの日は来週の土曜日。
その日が晴れることを願いつつ、私はまた忙しい学園生活を過ごすこととなった。
カレンダーに印をつけながら学園生活を過ごし、待ちに待ったアフタヌーンティー当日がやってきた。
私とグリムは正門の前でシルバー先輩と待ち合わせをし、合流してから麓の街行きのバスに乗った。
しばらくバスに揺られ、私達は麓の街の植物園にたどり着いた。
園内に入ると、色とりどりの春の花が辺り一面に咲いている様子が見えた。
鮮やかな色の花々を眺めながら、私達はアフタヌーンティーの会場へと向かった。
「あっ、ここがアフタヌーンティーの会場みたいですよ」
「桜の花がたくさん咲いているな……」
「このピンクの花、桜っていうのか? 初めて見たんだゾ」
「俺も親父殿に教えてもらって知った。綺麗だな」
アフタヌーンティーの会場は満開の桜に囲まれたテラス席だった。
薄紅色のトンネルをかたどる桜並木をくぐり抜け、私達は会場内で待っていた『ティールーム・ルミナス』の店主であるキャスリーンさんに出迎えられた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ。あなた方の席はこちらです」
「ありがとうございます……って、あれっ!?」
「えっ、ニコルとグリムとシルバー先輩!?」
「おや、キミたちもここに来たのかい?」
アフタヌーンティー会場で寛いでいる先客は、ハーツラビュル寮の顔馴染みの生徒たちだった。
エースくんとデュースくんだけでなく、リドル先輩、トレイ先輩、ケイト先輩までいらっしゃる。
真っ白なクロスが敷かれたテーブルには、三段重ねのティースタンドが鎮座している。
下段にはサンドイッチやキッシュといったセイボリー、真ん中の段はスコーン、上段はケーキといったオーソドックスなスタイルのアフタヌーンティーセットだ。
「奇遇ですね。リドル先輩たちもこのアフタヌーンティーイベントにお越しになっていたなんて」
「こんな映えるスポット、行くに決まってるじゃん!」
「実はリドルとキャスリーンさんが懇ろな仲なんだ。それで、リドルに直接キャスリーンさんに話をしてもらったのさ」
「こら、トレイ。余計なことを言うんじゃない」
リドル先輩が『ティールーム・ルミナス』の常連さんであることは知っていたけれど、キャスリーンさんとそこまで深い仲であったことは全く知らなかった。
トレイ先輩にキャスリーンさんとの関係を話されたリドル先輩は、耳まで顔を真っ赤にしながら紅茶を飲んでいた。
しばらくすると、私達の席にもティースタンドが運ばれてきた。
ティースタンドがテーブルの中央に置かれた瞬間、グリムが歓喜の声をあげた。
「すげぇんだゾ! 早く食べたいんだゾ!」
「グリム、落ち着いて。テーブルの上に乗ろうとしないの」
「はっはっは。そこまで喜んでもらえると、私とキャスリーンさんも作った甲斐がありますねぇ」
「カノープスさん!」
ティースタンドを運んできてくれたのは、『カフェ・アルゴー』の店主であるカノープスさん。
実はこの桜の園のアフタヌーンティーは、賢者の島で特に有名な二つの紅茶の店がコラボレーションした企画だったのだ。
ティースタンドが置かれて間もなく、キャスリーンさんが紅茶のポットを持って現れた。
キャスリーンさんは丁寧な所作で私達のカップに紅茶を注いでいく。
私はグリムを抑えつつ、キャスリーンさんの淑やかな仕草に目を惹かれていた。
「うわぁ、良い香り……」
「こちらの紅茶は、このアフタヌーンティーのためだけの特別なブレンドなんです」
「色んな果物の香りが混ざっているな……」
「チェリーとピーチをベースに、ほんのりパイナップルとメロンの香りをまとわせているんですよ」
紅茶を入れ終わったキャスリーンさんが、今回用意してくれた茶葉の説明をしてくれた。
さっそく、私達は今回用意されたティーフードを頂くことにした。
まずは、一番下の段にあるセイボリーから。
ハムときゅうりのフィンガーサンドイッチはちょうど良い塩気を感じられ、ベーコンとほうれん草のキッシュは具材がぎっしりと詰まっていて分厚い。
どちらのセイボリーも食べ応えがあり、特にグリムは喜んで食べていた。
ちなみに、セイボリーの段はカノープスさんが担当したそうだ。
「どれも美味えんだゾ!」
「グリム、良かったね」
「あら、この子もナイトレイブンカレッジの生徒さんなのね」
「はい、私とグリムはペアで特別に入学した身なんです」
「ナイトレイブンカレッジへ出張カフェに行った時に、この子が美味しそうにツナサンドを食べていた姿を見たのはよく覚えているよ」
カノープスさんがしみじみとした表情で出張カフェでのグリムの様子を思い返していた。
サンドイッチとキッシュを食べ終わった後、私は真ん中の段のスコーンに手をつけた。
外はさっくり、中はふんわりとした食感のスコーンは素朴でありながらもバターの香りを堪能できる。
苺のジャムとクロテッドクリームを塗って頬張るだけで、口の中が幸せでいっぱいになるような感覚を味わえる。
「美味しいですね」
「ニコルが幸せそうで何よりだ」
「出たよ、お約束……!」
「まさか、麓の街でも見ることになるとはな……」
隣のテーブルにいるエースくんが、私とシルバー先輩のやり取りを茶化してきた。
デュースくんもエースくんに同調するかのように、ぼそっとひと言呟いた。
一方で、リドル先輩たちは紅茶を注ぎにきたキャスリーンさんと親しげに話をしていた。
リドル先輩とキャスリーンさんの会話のやり取りは、まるで上流階級の家の子息とメイドのようだ。
「うちの下級生たちが騒がしくてすまないね、キャスリーン」
「全然問題ないわ。むしろ、私もカノープスさんも楽しませてもらってるわよ」
「このケーキはキャスリーンが作ったのかい? ボクの好きな苺のタルトレットがある」
「えぇ、今回のアフタヌーンティーのために気合いを入れて作った自信作ばかりよ」
キャスリーンさんが言うとおり、上段のケーキはどれも見栄えが良くて美味しそうだ。
苺のタルトレットはもちろん、他のケーキたちも可愛らしい。
桜の花を模した淡いピンク色のケーキはピーチとラズベリーのショートケーキ、緑と茶色の丸いケーキは葉桜のムースという名のグリーンティーとチョコレートを使ったムースケーキだ。
ケイト先輩があらゆるアングルからケーキの写真を撮っている。
おそらく、撮った写真はマジカメにアップするのだろう。
「よし、写真も良い感じに撮れたよ!」
「さて、そろそろ頂くか」
「どれも美味しそうですね」
「オレ様、もう待ちきれないんだゾ〜!」
「こら、グリム! 先輩たちのテーブルに飛び掛かろうとしないの!」
私はリドル先輩たちのテーブルに飛び乗ろうとしたグリムを抑え込んだ。
シルバー先輩にグリムを落ち着かせる役を替わってもらい、私は上段のケーキをそれぞれのお皿に取った。
まずは、苺のタルトレットを食べてみた。
ひと口食べると、甘酸っぱい苺とまったりとしたカスタードクリーム、さっくりとしたタルト生地の美味しさが口の中に広がって美味しい。
ピーチとラズベリーのショートケーキは、瑞々しい甘さのピーチ味のクリームが塗られたスポンジケーキの中に入ったラズベリーが酸味のアクセントを与えてくれる。
「これは葉桜のムースというのか。初めて食べる味だな」
「グリーンティーのほろ苦さとチョコレートって、こんなにも合うんですね」
「オレ様、全部気に入ったんだゾ」
「ありがとう、小さな魔獣さん」
「オレ様はグリム様なんだゾ! 未来の大魔法士になるオレ様の名前、よく覚えておくんだゾ!」
「グリム、調子に乗らないの! すみません、キャスリーンさん」
「あはは……」
ドヤ顔で楯突くグリムにキャスリーンさんは苦笑いを浮かべていた。
そろそろ、アフタヌーンティーの時間も終わろうとしている。
芳醇な紅茶の香りが漂う、桜の花の美しい景色が作り出す極上の空間でのアフタヌーンティー。
終始笑い声の絶えない楽しい時間もあっという間に過ぎていく。
ティースタンドは真っ白になり、紅茶のポットも空になった。
私達は席を立ち、キャスリーンさんとカノープスさんに見送られながらテラスを後にした。
ハーツラビュル寮生たちとも別れ、私とグリムとシルバー先輩は少しずつ沈みゆく夕陽に照らされた桜並木を歩き出した。
「オレ様、大満足なんだゾ」
「良かったな、グリム」
「楽しいアフタヌーンティーでしたね」
「あぁ、皆で楽しめて嬉しい……」
シルバー先輩が眉尻を下げた微笑みを浮かべ、そっと呟いた。
瞳の中のオーロラにほんのりと薄紅色の差し色が入っているように見える。
桜の花が創り出すパステルピンクの景色を背にして微笑むシルバー先輩の姿は、春の女神の加護を受けた騎士のように神々しかった。
もう少しだけ、この甘やかな美しい花々を眺めて歩きたい。
私は差し出されたシルバー先輩の手を取り、時間の許す限りゆっくりと桜並木を通り抜けていった。