成立後のドラヒナで筋トレの話です。ロナサン描写もあります。
本誌318死のリング輪ットスペランカーネタと、以前書いてた30年後のドラルクさんってガタイよくない?って話と合わせてみました。
本誌のネタバレ注意でお願いします。
ロナサン夫婦とドラヒナ夫婦に子供が出来て、あの事務所で二世帯暮らしをしている後日談を追加しました。
2023/03/05に上げました。
@kw42431393
「ドラルク、今夜も監視に…」
「…レベルいっくつ~?…痛っー!ジョン、ゴメンよ。そんなに怒らないでくれよ!」
「ヌヌヌンヌン!ヌヌイ!ヌヌイ!」
「喧しい!この筋肉ゴリラ!ゲーム終わったら、さっさとギルドに行ってこい!」
なんだ…また、喧嘩か。懲りないな。そう思っていると、リビングからロナルドがケンケンをしながら、飛び出してきた。
「いっててて…よお、ヒナイチ。」
「なんだ、また喧嘩してるのか?」
「喧嘩っつーか。おぉ~、いててて。」
半泣きで、足の指を擦っている。ジョンに挟まれたのか。あれは結構痛いらしいな。
玄関からメビヤツがやって来て、心配そうにロナルドを覗き込んだ。
「メビヤツ、心配してくれてるのか?ありがとうよ。」
そう言いながら、ロナルドがメビヤツから帽子を取って撫でてやる。この事務所は、ジョンとメビヤツの味方する相手がそれぞれ別なので、丁度バランスが取れている気がする。
私…?私はちゃんと平等だ。両方から話を聞いて。えっ?クッキーが出たらどうするかって?
い、言うな!あのクッキーは、危険なんだ。恐ろしい魅了性の…その…あれだ。ワヤワヤしてるだと?
違う!だから!ちゃんと私が製作者のドラルクを監視して、責任持って食べ尽くしているのだ!
「説得力ゼロ過ぎんだろ。」
「ビー…」
「そ、そんな事ないぞ!それより、何を揉めてたんだ?」
「揉めてるっていうかよ…」とロナルドが続けるには、まぁ、ロナルドは今回さほど悪くはない。最後に煽った事以外は悪くはない。ドラルクが、普段やってる事だしな。
「リング輪っトスペランカー、か。そういえば、注文してたな。」
筋トレしながらゲームが出来ると、聞いている。200年以上、その体質で骨と皮なのだ。実は、コンプレックスなのは知っている。だから、いつもその…私とする時も…あいつは服を脱がないのだろう。
『ゲームなら私の得意中の得意!マッチョになった私を楽しみにしててね、ヒナイチくん。』
『ん?別に私は、マッチョが好きという訳ではないのだがな。』
普通の女性は、筋肉質な方が好みらしい。実家が道場なのもあり、私の回りには筋肉質な男性が多かった。幼い頃からその中で育ってきた私は、代わりにお嬢さん扱いをされなかった…してくれたのは、私に初めて『美しいお嬢さん』と言ってくれたのは…だから…
『お前なら私は別に…何故死んだんだ?』
確か、注文した時にドラルクとそんな会話したっけ。届いてたのか、すっかり忘れていた。
「LV0.001、まあそうかもしれんが…得意分野のゲームだけにショックだったんだな。」
好きなゲームなら続けられると思ったのだろう。勉強が嫌いな子供が、歴史の漫画なら興味を持って続けられる様なものだ。
しかし、なまじっか機械だと容赦なく言ってくるし、手加減が出来ない。逆に、ロナルドはその点はトップクラスだ。そういえば、ロナルドはLVいくつだったんだろうな。
「お前もやってみたら?面白いぜ。俺はギルド行ってくるわ、じゃあな。」
「ああ、いってらっしゃい。」
ロナルドを見送ると、私はリビングに入った。甘い匂いが鼻腔をくすぐった。クッキーの匂いだ。
「こんばんは、ドラルク。クッキー、焼いてるのか?」
振り返ったあいつは、まだ不機嫌だ。ストレス解消と私を迎える時間帯なので、焼き始めたのだろう。
「ああ、こんばんは。今、オーブンに入れたばかりだからね。もう少し待ってておくれ。」
オーブンの前に行くと、いつも通りジョンを頭に乗せて、クッキーが焼けていくのを眺める。
いつもならウキウキ楽しい時間なのに、気分が晴れない。主の不機嫌の原因を見ているジョンは尚更だろう。
ガサガサとソファで音が聞こえたと思ったら、彼の前にあるのは裁縫箱だ。彼は不機嫌になると家事に逃げるタイプなので、恐ろしい程ご馳走を作り続けたり、家中をピカピカに掃除したりする。今回は、何かを縫うつもりになったらしい。
「ドラル…おや?」
キッチンからソファに移動すると、彼が持っているのは、傷んだロナルドの帽子に、引っかけて裂けてしまった私のウグイスのパジャマだ。買ったばかりで気に入っていたのに、と嘆いていたもので…何よりロナルドの分もやってくれるんじゃないか、よかった。
「直してくれてるのか、ありがとう。」
殺さない様に加減しながら、背後からあいつを抱きしめる。いつも私がされている側なのだが、今回へこんでいるのはこいつなんだ。たまには逆もいいんじゃないか?
「わっ!?ひ、ヒナイチくん?」
「ジョン達から聞いた。あるがままで完璧だって、いつも言ってるだろ?気にするな、私やロナルドに出来ない事をお前はやってくれてるじゃないか。」
「ヌヌヌン、ヌヌヌン。」
「…まあ、そうだ…ね。」
手にしていた帽子を脇に置くと、ドラルクは私に乗っているジョンを受けとる。そのまま、優しく甲羅を撫でた。
少しは気が晴れたみたいだ。でも、ちょっと変だな。いつもなら、「勿論だとも!私にはそんなものは必要なかったのだ!」とか言って、調子に乗りそうなものだが…。
「まあ、やろうと思った事はいいと思うぞ。好きなゲームなら続けられると思ったのだろう?」
「そうなんだけど。まあ、人並みには欲しいよね。買い物袋だって、女の子の君に重いの持たせてるでしょ?」
私は全く気にしてないのだが。
「あと…やっぱり、貧弱な男のあるあるといえばそうなんだけど。」
少し、頬を染めて言い淀む。何だろう?
「き、君もさ…やっぱり抱きしめられるとしたら私がマッチョな方がいいでしょ?お姫様抱っことか憧れてない?私は、それを君にしてあげられないんだよね。」
「…。」
「えっ!?ちょっと、何で今黙ったの?ウエーン!やっぱり、マッチョな方がいいでしょ?抱っこもやって欲しいよね?私はイモムシです。ほんと、ごめんなさい~。」
フフフ、あったな。そんな事も…初めて会った時、こいつが実力を隠した強大な吸血鬼と勘違いして、お姫様抱っこされる自分を夢想してた事があったっけ。
「ウフフ、違うんだ。お前にそうされたいと、憧れてた事はあったな、と思ってな。」
「へ?」
ジョンに頭を撫でられながら、泣いていたドラルクが、きょとんとした顔になる。
その後、ミミズ以下の雑魚だと分かったまま監視に行った時は幻滅していたな。あのクッキーを食べるまでは…。
「仕事から帰ってきたら、お前が食事の用意をして待っててくれている…なんて風景を思い描いたんだ。つき合っている今だからこそ言えるが、あの時、もう一回惚れ直したのだな。我ながら単純だと思う。」
「ああ。だからあの時、君、私に塩対応だったのか。」
その節は悪かったな。私も子供だったんだ…今もだと?い、今はもう少し大人だ。子供だというなら、お前のクッキーが悪いんだ。
「なんなら、私が筋トレにつき合おうか?」
「う~ん、ヒナイチくんのレベルに私ついていけないと思うんだけど。」
それはそうだろう。でも、人間なら加減やフォローも出来るんだ。
「床下からトレーニング用のマットレスを持ってくる。ちょっと、待っててくれ。その間に、お前も動きやすい服に着替えておくといい。」
あいつを置いて、私は床下に戻った。まあ、筋トレといっても本当に簡単なものだ。しかし、虚弱体質のあいつは自分の体重さえ支えられないのだ。そして、塵になってしまう。
ここがデスリセットの厄介な所だ。あいつのデスリセットは、戦いの時にかかった術の影響も戻してくれる。その特性で、私達は何度救われた事だろう。
しかし、ゲームでいう所の経験値までリセットされてしまうのは辛い所だ。折角、鍛えても途中で死んでしまっては無意味なのだ。じゃあ、死なない程度にトレーニング出来たら、それが継続出来たら、多少違うのではないだろうか。
あと、食事だな…食事、うん。もっと、血を飲んだ方がいいのだろうか。元々、ほとんど牛乳で済ませてたから、ベジタリアンみたいになってるけど。
先日の逢瀬の時についた、服の下にある吸血痕に触れる。体は一つしかないので、そんなにあげられない。「飲むな」とは言わないが、やっぱり他人の血を飲んで欲しくないと思うのは、ヤキモチだろうか。
まあ、ベジタリアンのボディビルダーもいるしな。とりあえず、これでやってみるか。
「ただいま~、お前ら何やってんだ?」
「おかえり、ロナルド。プランクだ…ドラルク、息を止めるな。ゆっくり吐け。」
「ぜぇ…ぜぇ…おかえり。ロナルドくん…あ、ヤバい。ちょっと、しに…そう。」
今回は10秒もったじゃないか。偉いぞ。まあ、ロナルドから見れば何をやっている…だろうな。
「ゆっくり降ろすぞ。少し休もう、そろそろクッキーも焼けただろうし。」
「ごめんね…ヒナイチくん。重かったでしょ?」
以前、体幹トレーニングしようとして、一瞬で死んだのは見た事がある。なので、プランクの姿勢を保った状態で、彼を跨いだ私が手で支えている訳だ。慣れてきたら、支える少しずつ力をなくしていけばいい…今?今は聞いてやるな。ほとんど、私の力で浮かせた状態に近い。
「ヌヌヌイヌヌ、ヌヌヌ。」
「ありがとう、ジョン。汗をかいたから、お水が美味しいよ。」
クッキーを取りに、キッチンへ向かう。背後で「これ、ジョンの分まで食べちゃダメだよ」と声がした。
失礼な、私だって…うん、カップケーキでやらかしているからな。あの時は、ジョン、本当にすまなかったな。
さらに、今回はクッキーだ。気を付けないと吸い込んでしまう。
キッチンの側で擦れ違ったロナルドが、ポンッと私の肩を叩いた。
「ん?」
「あー、なんだ。老人介護、お疲れさん。大変だな、お前も。」
「そうでもない。お前とサンズの所は、そんな心配はないだろうがな。」
「まあな。最近、一緒にいても釣り上げたアリゲーターガーみたいにはならなくなったぜ。アロワナぐらいかな?」
それは改善されているのか?相変わらずだな、サンズにゃんも。
「でもよ、続くのか。かなりへばってるけどよ。」
「アハハ、どうかな。でも、目標出来たから、続けると言ってる。」
「確かに。ジョンのダイエットで、ビキニが言ってたがよ。こういうのは目標が大事だからな。で、なんだって?」
口元に指を当てて、私は笑う。内緒だ。それに、LV0.001からだと何年かかるだろうな。
『目標ねえ。じゃあ、君との結婚式に、お姫様抱っこできるぐらい…を目標にしよう。』
私は、将来産まれてきた子供とジョンを抱いて、家事が出来る程度で十分だと思っているのだが…今は黙っていようと思う。
「ただいま、そこでサンズと会ったので一緒に帰って来たぞ。」
「ただいまです~。」
事務所を抜けて、リビングに向かう。内側から扉が開いた。「あぅあぅ。」「にゃあ…。」と可愛らしい声が聞こえる。私達の大事な子供達の声が。
「おかえり、二人とも。ああ、これ暴れちゃダメだよ。」
仕方ないよねえ、ママ達を待っていたのだもの…と、エプロンをつけたドラルクが背中と前で暴れる子供達を揺すりあげる。
今日もドラルクが縫ったお揃いのベビー服が、似合っているな。今日はメビヤツをモチーフにしたものだ。肩には…フフフ。少しフテたジョンが乗っている。
「うちの子まで抱いてて貰って、すみませんです。」
サンズニャンが、ドラルクから息子を受けとった。ピンクがかった銀髪に癖毛は父親のロナルドに、キラキラした瞳と猫の様な口元は彼女に似たらしい。
「うにゃうにゃ…。」
「に゛ゃ~!可愛過ぎです。お母さんは、今日も仕事頑張って来たですよ~!」
目に入れても痛くない、とばかりに頬擦りする彼女から、私はドラルクの背中で暴れている娘に目を移す。
「ちん!ちん!」
「おや、父様は飽きちゃったかね。寂しいなあ。」

ドラルクから、私に手を伸ばす娘を受け取る。子供達から解放されたドラルクは、今度はジョンを腕に抱いた。忙しい奴だな。しかし、ジョンもなかなかヤキモチ妬きだからな。ご機嫌を取ってやらないと、後が大変だ。
一方、私達の娘はというと、頭のアンテナを嬉しそうにブンブン振っていた。私もそうだが、お父上と彼のお母上もアンテナ族だったと聞いている。眠そうな目は、お母上にも似ていた。ただ…
「あう、ちん。」
「この子の口癖は、君に似てしまったねえ。」
「う、うるさい。」
母様はちんちんを卒業したというのに…このままでは初めての言葉が「ママ、パパ」ではなく「ちんちん」になってしまう。幼稚園に上がるまでには、なんとか直したい。
「あれ?ロナルドしゃんはどうしたんですか?」
サンズが息子をあやしながら、首を傾げる。確かにな、ドラルクが二人を抱いて夕飯を作っていたのだから。
「若造も懲りないね。ロナ戦の締め切りを忘れて、フクマさんに缶詰め喰らってるよ。さっき、電話が来たからもうすぐ帰ってくるだろうね。」
「ギニィ!フクマぁー!」
あれから、そこそこ年月が経つが彼女は未だに担当者の座を諦めてないのだ。まあ、そこは彼女らしいがな。
「それにしても…」
私は娘を揺すりながら、ドラルクを見直す。男性としては未だに線は細いが、多少がっしりとした体格になっていると思う。実は、今なら私のサポートなして、一回ぐらい腹筋は出来るし、プランクも数十秒持つ様になったんだ。
「ん?」
「力ついたな、と思ってな。子供二人抱いて、ジョンを乗せて家事が出来てるじゃないか。」
筋トレを始めた頃の予想よりは、ずっとよいと思うぞ。
「そう?今でも多少は続けてるのだよ。結婚式で君をお姫様抱っこ出来なかったのは、心残りだなあ。リハーサルでは出来たのに。」
「盛るんじゃねーですよ。扉開けたら、塵だったじゃないですか。」
「ほんとだもん、サンズ女史!信じてよ。」
アハハ…結局、本番は私がお前を抱いて歩いたんだよな。
『あれ?リハーサルのはまぐれだったか。』
『ヌエーン!』
そう言って、ロナルド達も呆れていたっけ。
「いいじゃないか…私は一度でも夢を叶えて貰ったし。それに、今役立ってるし、助かってるぞ。」
今なら、リング輪ットスペランカーももう少し出来そうなものだが、トラウマなのかな。未だに、封印したままだ。
「まあね、さてと二人とも着替えておいで。その頃には、食事の用意も出来てるから…それに。」
ニヤリとドラルクが笑って、背後に視線を向ける。視線の先には…。
「ただいまぁ~、やっと終わったぜ。」
「ビビッ!」
ああ、ロナルドも帰ってきたな。メビヤツの嬉しそうな声もしてる。
「おおお、おかえりなさいです!ロナルドしゃん!」
「あぶ。」
テンションの上がったサンズが、駆けていく。結婚どころか、つき合ってから換算してもそこそこ経つが、この夫婦はなかなか変わらないな。
「相変わらずだなあ、二人とも。あれ?」
オーブンレンジの匂いにつられて、娘を抱いたままキッチンに入る。ちゃっかり、ジョンも私の肩に移っていた。
「今日もおいしそうだな、ジョン。早くお前も食べられるといいのにな。」
「ちん?」
「ヌン!」
ジョンと一緒にクッキーが焼けていくのを眺める…ついこれも日課になってしまった。後ろから、ドラルクの呆れた声が聞こえてくる。
「相変わらずは、君もだねえ。ちゃんと、後で出してあげるから着替えておいで。」
ウキウキしながら、娘を抱いて床下に戻る。上がった頃には、美味しい食事とおやつ、そして、賑やかな夜が更けていくのだろう。
初めてあいつのクッキーを食べた時に描いた未来予想図より、現実はもっと忙しなくて、ロマンチックな甘さも控えめだけど、それは間違いなく予想以上に幸せな現実だった。