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供養

明咲千寿
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2015-08-30 20:15:05

やりたいと言いつつ形にならないので置いておく。いつか氏真を主役に津々浦々を遊山する話がやりたい。山科言継でもいい。


近頃小田原の城下城内では縁起の悪い不愉快な噂が流れている。

『甲州の原隼人が今川の放蕩息子に腹切りの相談を持っていくそうな、いずれ切腹の検死の為に内藤修理もやってくるとか来ないとか、今川も年貢の納め時か』

今川氏真は武田に駿河を追われ、逃げた先掛川でも徳川に攻めこまれ、家臣たちの助けがあったおかげで命辛辛、嫁の実家である北条を頼りに小田原へと逃げ込み、そこを暫くの住処としていた。

「御前様、最近武田が何やら流言を流しているようですね」
「の、ようだなあ」

己の傍らに腰掛け心配そうに声を掛ける早川とは対照的に、氏真はどうということも無いとでも言う風に扇子を閉じたり開いたりと弄びながら面倒臭げに答える。

一頻り無言で弄っていたが、氏真は飽きたのか、パタンと利き手でない方の手で包むようにしながら扇子を閉じると、床に置き、反対側に侍らせている早川に寄りかかるようにして腰に手を巻き付けるように抱くと、小さく溜め息を漏らした。

「しかし、お前がそう断定して物を言うとは思わなんだ。それほど武田は分かりやすいか」
「…あからさまですからね、北条と友好的に行きたいが御前様が邪魔。だったら小心者で通っている御前様が恐がり小田原から逃げ出す様な噂でも流せば良い、等というそんな魂胆が」

互いの距離が近いため自然と耳元で囁く形となった氏真の問に若干顔を赤くさせながらも冷静かつ冷酷で狡猾な女の色香を放つ笑みを顔に浮かべ楽しげに応えた。

「ははっ、見事な観察眼恐れいった。 いやはや、暗愚な俺には察せなんだわ。流石獅子の娘、俺には勿体無い奥方様だ」
「心にもない事を……その韜晦振りが腹立たしくもありますが、御前様は私には勿体無い旦那様ですよ。」

軽い笑い声を上げどこか他人事の様な感想を述べる氏真の様子に眉を寄せる早川だったが、己に寄りかかった夫の胸に体を預け、ふふっと笑いを漏らすと、苦労の多い御前様の人生に少しでも多く幸せな時間があればいいのにと願いながら氏真の言葉を捩りそう言った。

そののち、武田信玄は噂を誠にすべく原隼人を遣わせ、「じきに内藤修理も参る」と氏真に託けた。

暫くした後、原が居なくなった部屋で氏真と早川は顔を見合わせ苦笑した。

「誠に原を引っ張りだしてくるとは……武田はよほど俺、というより今川が邪魔のようだ。 なぁ早川」
「何でございます、御前様」
「ちぃとばかし芝居を打ってくれないか」
「御前様、決定事項でも疑問符を付けて頂けると嬉しいです。 はぁ……では、氏政に詰め寄って参りますわ。」
「頼んだ、では俺は小田原を出る準備しながら適度に怯えていよう」
「準備なら船と一緒に氏政が用意してくれるでしょうに……」
「まぁ、備えは多いほうがいいだろう。 ほら、さっさと氏政の所行ってこい」
「分かりました、それではまた後ほど」
「応、また後でな」

勝手な氏真に溜息を一つこぼすと、畳に片手を付き早川は立ち上がり、わざと足音を立て勇み足で氏政の元へ向かった。

その後、腹切りを脅し迫られた今川の放蕩息子は妻に守られ小田原を船で脱し海の藻屑となったと民の間で笑い話にされていたが、実は生きており、次はやれ徳川に拾われただの、蹴鞠遊びを織田に見初められただのと時折人々の話に名が上がったそうな。

END


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明咲千寿 @asaki36
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