Δドラヒナで吸血鬼アンチエイジングと幼児タイキストネタのお話です。二人の能力を
アンチエイジング:霧の発生範囲は狭い。肉体を子供にする、精神はそのまま。若干、一人称や語尾が子供っぽくなる事はある。
タイキスト:掴んだ相手に術をかける。肉体はそのまま、掴んだ時間が長いほど精神が低年齢化する。
の能力に捏造してます。本編のままの能力だと、Δの二人は催眠術耐性がないっぽいので勝てないんですよね。
時間軸は、大侵攻の前なのでロナルドくんは出ません。両片思い期になります。
中学生ぐらいに体が縮んだ隊長の戦闘シーンと、ヒナイチくんのお見舞いシーンを追加しました。
2023/03/29に上げました。
@kw42431393
「やだ、やだぁ!ケンさんのいじわる!やっと、ドラルクおじさんにあえたんだぁ~!」
「ヒナちゃん。我が儘言うんじゃないの。おじさんは仕事、な?」
「うえ~ん!やだぁ~!」
「しがみついてて、ひっぺがせねえ。体は大人のまんまとか、酷ぇ絵面…いや押し倒されて、満更じゃなさそうだな、隊長さん。」
「ケンくん、冗談ではないぞ。」
今目の前にいるのは、見た目はいつものヒナイチくんだ。赤い帽子がトレードマークで、週刊バンパイアハンターで特集を組まれる程の、売り出し中の退治人である。
しかし、今の彼女は見た通り精神年齢が子供になっている。私を知っているという事は、初めて会った10歳かそこらぐらいだろう。しかし、『おじさん』は傷つくな。当時の私は、20代だったのだよ?
昔、下等吸血鬼から幼いヒナイチくんを助けてから、またこのシンヨコで再会するまでの間、彼女は私に会いたがっていたと聞いていたが。そんなに必死に私に抱きつくとかね、もう…健気。
「よしよし、ヒナイチくん。すぐ戻ってくるから…待ってて、ね?」
押し倒された姿勢のまま、彼女の頭を撫でる。胸に縋って泣いていた彼女が顔を上げた。
グスッグスッと鼻を啜りながら、こちらを見下ろされるのは…うん、まずい。すごくまずい。
「おじさん、どうしたの?なんか…」
アンテナを?マークにしながら、視線が下に降りる。ちょっと!その先は…。
「な、何でもない!気づかないで、お願い!」
そう。柔らかいものが胸に当たってるし、あざといし…実は狙っている意中の子だ。冷静でいられる訳がない。冬用のコートを着込んでいて助かった…見えてないだけで、主張してるんだよ。
「隊長、今の気分を一言。」
「動画に撮って上げてやる~。」
「フォンくんにマナーくん、やめんか!早く、犯人らしき奴を探して来い!」
スマホを向けてくる、若い連中を怒鳴り付ける。「は~い。」と気のない返事をして、彼らはミカエラくんに首根っこを掴まれて、向こうに連れて行かれてしまった。
とはいえ…探そうにも、ダンピールの私が動かない事には、どうにもならない。しっかりと腕にしがみつくヒナイチくんを連れて犯人を探す羽目になったのだ。
事の経緯を説明すると、仕事に終われている私達にはあまり関係がないが、今宵は桜祭りが開催されていた。ライトアップされている桜の下で宴会する者もいるし、家族連れもいる。夜店も出ているし、イベントもある。人間も吸血鬼も羽目を外す訳だ。
我々吸血鬼対策課はパトロールを、地域アイドルでもある退治人達は、見廻り担当の者から、イベントの手伝いや屋台をしている者もいた。
「愚兄!野球拳大会に出場するな!恥を知れ!」
「よお、ミカエラ。お前も参加どうだ?優勝者には5万円分の商店街の商品券が出るんだぞ。」
「出るか!仕事中だぞ!」
退治人のケンくんと、うちの副隊長のミカエラくんが揉めている。ミカエラくん、素直じゃないからなあ。あそこの家庭は色々あったそうで、ブラコンだった反動らしいのだが。
「商品券はいいので、僕は見学させて頂きます。」
「いや、君も仕事だからね。」
今度は、フォンくんが目をキラキラさせて席に座ろうとする。釘を刺すのも、楽では…。
「ムン!やはり、もう冬の制服は暑くなってきたな。」
「脱ぐんじゃないぞ?春だからって、隊員から逮捕者を出してどうする。」
…ああ、楽ではない。
「…いちょう?隊長、こんばんは。」
おお、ヒナイチくん。いや、引率の先生みたいな気分だった所に、これは癒し。いや、私も仕事中だけどね。
「こんばんは、ヒナイチくんもイベントの手伝いかね?」
「はい、お客さんにビンゴカードを配ってたんだ。この野球拳大会の後に始まる予定で。」
隊長も一枚どうぞ、と彼女は差し出してくる。そうしながら、彼女は私の耳元に顔を近づけた。
「怪しい気配は…?」
「なんとも言えない。何しろ人も吸血鬼も多すぎる。とにかく、現場を押さえなければ。」
実は近頃この桜並木で、突然通行人が子供になってしまう事件が起こっていた。
被害者も年齢や性別も様々で、見た目が子供になる者から、精神だけ子供になる者もいる。分かっているのは、被害者達には吸血された痕跡があるという事だけだ。
症状はVRCで入院している間に治るらしいが、無力化させた後に血を吸っている者がいるという事は確かだった。
祭りは中止すべきかとも検討されたが、来週になると桜は散ってしまう。これを見に来た観光客も多いと、却下されてしまった。吸対としては苦々しいが、ギルドと連合でこういう流れになったのだ。
「ところで、今日もクッキーを持ってきたのだが、仕事の合間にどうかね。」
毎回会う度に渡しているクッキーの袋を取り出すと、彼女の目がキラキラ光る。
「クッキー!でも、また後で…仕事そっちのけで食べそうだから。」
「おやおや。じゃあ、がんばって。おっと、そうだ。」
虫の知らせという奴だろうか。私はジョンに耳打ちすると、ヒナイチくんにジョンを預けた。
「ジョン、どうしたんだ?」
「ジョンもイベント参加したいって。構わないかね?」
ヒナイチくんが肩に乗ったジョンに笑いかける。
「うん!ジョンなら、お客さんも喜ぶな!」
「ヌーイ!」
そこで私は、再びパトロールに。ヒナイチくんはお客さんにビンゴカードを配りに行った。それから、割とすぐの事だった。
私を呼びに来たジョンに連れられて、私が幼児化したヒナイチくんを発見したのは。
「ジョン、ヒナイチくんを守ってくれてありがとう。犯人はどんな姿だったかね?」
私は肩のジョンに話しかけた。ジョンも犯人の術の影響は受けたが、実は彼は私より年上なのだ。だから、多少精神年齢が若くなっても影響が少なかったのに違いない。
どうも犯人は酔って踞っている花見客の風体を装って、彼女に近づいたらしい。介抱しようと近づいたヒナイチくんは腕を捕まれ、急に子供の様になってしまった。動揺している彼女に噛みつこうとした犯人を、ジョンが体当たりで追い払ってくれたのだ。
変な奴だったヌ。なんか、中華系の怪しいおっさんというヌか。如何わしい妖怪かヌ?
なるほどね。私はダンピールの探知能力は優れているので、声、姿や強さまで探知可能だ。ヒナイチくんがいた時間帯に、彷徨いていたそんな風体の吸血鬼…。
スンと鼻を鳴らす。近くにいる。さて、どうしたものか。
「ケンくん達はイベントの続行。他の隊員達は、こちら側に一般人が入って来ない様に誘導して貰っている。」
下手に隊員の配置を動かせない。包囲にかかっていると分かれば、逃げられてしまう。退治人の半田くんが、他県に応援に行っているのも痛かった。
吸血鬼は執着心の強い生き物だ。襲おうとして、逃がしたヒナイチくんが近づいてきたら優先的にこちらにやって来るだろう。所謂、おとり捜査だ。しかし、動けるのは私だけか…厳密にはもう一人いるのだが。
「ねえ、ドラルクおじさん!」
そう、この幼児化したヒナイチくんだ。再会の喜びのあまり、私を押し倒した力からすると、身体能力は変わらないはずだ。しかし…
「うーん、おじさんはちょっと。ドラルクでいいよ。」
「としうえをよびすてにしちゃ、いけないんだよ。」
精神が10歳に戻っている彼女を戦わせたくない。ポケットの血液錠剤に触れる。これでなんとかなる手合いだろうか。
そして、ヒナイチくんがこれ以上退行した時と、相手が手強かった場合の為に、彼には連絡を取ってある。ここに来るまで、あと少しのはずだ。
「じゃあ…ドラルク隊長でいいよ。」
「たいちょう?」
「そう、あれから偉くなったんだよ。」
「うわあ!すごい!たいちょうにけーれい!」
上目遣いで敬礼のポーズをとってくる。いや、何この可愛い生き物。
「たいちょう!ヒナちゃんね、あれから…ハックション!」
春とはいえ、夜風はまだ冷たい。それに、犯人に掴まれた時に上着を失くしてしまったらしく、さらに寒そうに見える。冬でも薄着で歩いている彼女だが、ぶるっと身震いをしてクシャミをした。
「風邪を引くよ。私のコートを羽織っておいで。」
「あったかい!ありがとう、たいちょう!」
うん、周りから「まだ冬のコート羽織ってるんですか?」と言われるが、着ていてよかった。寒がりなんだよ、私は。
「わあ!むこうはもっときれいだな!みてくる!」
羽織らせてあげると、嬉しそうにヒナイチくんが駆けていってしまった。桜の舞い散る中で、無邪気にくるくるとコートははためかせながら、どんどん向こうに駆けていく。そっと、息を潜めて彼女を追跡する。桜の精みたいで、ずっと見ていたいものだ。
だけど…嫌な臭いが鼻腔をついた。下衆め、あの子が私から離れるまで待っていたのだろう?
「やっと来たねぇ…お嬢ちゃん。」
「あれ?さっきのおじさん?」
中華系の怪しいおっさん、ね。ジョンの評論も言い得て妙だ。奴がニヤニヤ笑いながら、ヒナイチくんに近づく。
「さあ、その美味しい血をワシに…」
奴の手がきょとんとした彼女に伸びる…今だ!
「ヒナイチくん!こっちへおいで!」
タイミングを合わせて彼女を呼ぶと、「はーい!」と元気よく私の元に飛んできてくれた。
いきなり、反転して走り出した獲物を捕まえ損ねた奴は、バランスを崩して倒れ込む。そう、この時を待っていたんだ。
「ぎゃ!?き、吸血鬼対策課!?」
「かかったね!そう、ヒナイチくんを狙ってくると分かっていたのだよ。」
さすが、ドラルク様!そうだヌ、こいつだヌ!
後ろ手に押さえ込むと、手錠をかける。こいつの顔は…他所でも前科があったはずだ。書類で見た事がある。
「吸血鬼幼児タイキスト!現行犯で…あれ?」
頭がクラっとする。目の前の視界が急に悪くなった。
あれ?霧…さっきまでなかった…あれ?まだ…吸血鬼…の気配が…?
ドラルク様、後ろだヌ!
「えっ!?」
肩のジョンの声に振り返る間もなく、襟首を掴まれて私達は引き倒された。すぐに立ち上がろうとするが、腰に吊るした剣が重くて無様に地面を舐める。
何で僕の服、こんなに大きいの?えっ?
ドラルクさまも、こどもになってるニュ。
ジョンの言葉に改めて自分達を確認する。テニスボールサイズのマジロを抱き寄せて、僕は奴らから這って距離を取ろうとした。
ジョンも小さい?幼児タイキストは精神だけのはず。肉体を子供にするのは…
「兄者。すまんの、つけられておったんじゃ。」
「全く、手のかかる奴じゃ。おい、吸対!早く手錠の鍵を出さんか!」
僕はジョンも鍵も渡すまいと、懐を抑えて地面に伏せた。渡すものか、あともう少し…もう少しのはずなんだ!
「う、うぅ…従兄弟の…吸血鬼アンチエイジング。複数犯…だったのか…どおりで。」
妙に声が甲高い。鏡で見ないと分からないが、声変わりする前の中学生ぐらいまで縮んでいるらしい。
「ヒナイチくん!早く誰か呼んできて…痛っ!」
急に髪を掴んで引き摺り上げられた。皺だらけの手がポケットを探る。暴れたけれども、あっさり鍵を奪われてしまった。
「今日の祭りを最後に、他所に移る予定だったのにのう。それにしても、お前は子供にしても不味そうじゃな。」
折角、捕らえたのに目の前で犯人の手錠を外される。悔しい、二人相手ではあの子を守れない。貧弱な自分が恨めしかった。
「あと少し、少し…なのに。」
「さっきから何を言って…ワッ!?」
ガァン!
耳をつんざく様な銃声と共に、髪を掴んだ手が離され、僕とジョンはまた地面に落とされた。
「きゃあ!!え、えっと?」
「あ、ひな…?」
対吸血鬼麻酔弾を発砲したのは、彼女だった。ただし、10歳に戻った思考ではちゃんと拳銃を扱えなかったらしい。反動で弾丸は外れ、腰を抜かして尻餅をついている。このままでは…。
「たいちょう!」
「このクソガキ共、手を焼かしおって!こうなったら、二人共…」
カズサが来るのをもう待っていられない。僕はポケットの血液錠剤を取り出した。今思うと焦っていたのだと思う。
パキリ!
大人で1回1錠の錠剤を半分に割りもせず、飲み下したのだから。
「か…ず…、おそ…あ゛ぁ…」
ドラルクさま、うごいちゃだめニュ
「折角の招待なのに、悪かったな。真打ちは遅れて…どころか遅過ぎてな。妹を守ってくれてありがとよ、小さなナイト様?」
俺が現場にやって来た時には、もう事件は終わっていた。というより、これは修羅場といえばいいのかね。
桜並木で、コテンパンにのされた犯人共と、泡を吹いて蒼白な顔で倒れている少年。そして、その少年に泣きすがる妹と子マジロの姿。
俺はその場でVRCと救急車を呼んだ。犯人共は、ミカエラくんが署に連行した。
ヒナイチは、VRCで検査を受けさせる事になる。「たいちょう!たいちょう!」と泣きじゃくって、離れようとしないので大変だったが、ひっぺがして無理矢理車に押し込んだ。身体能力は変わらないので、ケンくんにサギョウくんもかなり手を焼いていた。やっぱ、俺が来てよかったな。
担架の上に寝かされたドラルク少年が、こちらに手を伸ばした。救急隊員が困った様に宥めるが、こちらも聞く気配がない。
とはいえ、意識が朦朧としている様で、俺に話しかける言葉も判別が難しくて苦労した。
「あ゛ぁ…ひ、ひない…に」
「喋んなって、妹は無事だ。VRCで一応、検査だろう。あんたもおいおい元に戻るだろ。落ち着いたら、見舞いにやるよ。言わなくても飛んでいくだろうが。」
「ち、ぢがっ…こ、コート…に゛…っう゛ぅ…」
あまりに必死なので、救急隊員の了解を得て、耳を近づける。
「何だ?ヒナイチに遺言でもあんのか?」
「…の…かに……くっ……が…じて、く…れ。」
「あー、分かった、分かった。伝えてやるから、心置きなく入院してろ。」
ふーっと長いため息をついて、気を失ったドラルクは、そのまま救急車で運ばれていった。
なんというか…執念だな、ありゃ。
ドラルク隊長が何て言ったって?こんな時に言うかって、話だ。まあ、ヒナイチには伝えておくがな。
ヒナイチが羽織ってる吸対のコートに、クッキーが入ってるから、渡してやってくれって言うんだよ。
たいしたもんだ、恐れ入るね。
『その子に触るな!この下衆野郎!』
ぶかぶかの白い制服を着た、あの人の声。私が好きな、気品があって低くて響くあの声じゃなくて…綺麗で澄んだボーイソプラノだった。
術が解けた今も、ハッキリ覚えている。はしゃいで恥ずかしい事もしたけれど、子供の姿になった、あの人の勇姿を忘れたくなかったんだと思う。
隊長を助けなきゃ…そう思って、あいつを突き飛ばして走りだそうとしたけれど、そんな必要なかった。
血液錠剤を飲んで、ブーストした中学生ぐらいの隊長は強かった。虚弱だけど、子供の頃から吸対に入るつもりで護身術は習っていたと聞いている…目の前のアンチエイジングに背負い投げをしたと思ったら、即座に腹部にかかと落としを喰らわせて、気絶させたんだ。
『た、たいちょ…?』
『ま、待てっ!こ、こいつがどうなって…ぎゃあ!?』
本当に一瞬だった。さらに、私の後ろのタイキストに飛びかかったと思ったら、今度は当て身を喰らわせたんだ。どちらも完全にのびていた。
『たいちょう!すごい!すご…?』
ドラルクさま、どうしたニュ?
『…はあっ…はあ…!うっ!?な…に?ぐぇっ!ぎゃああぁぁっ!?』
私はその場で固まった。隊長が急に震えだしたと思ったら、胸をかきむしりながら仰向けに倒れたんだ。
どうしたらいいか、幼児退行した私には分からなかった。口からブクブク泡を吹きながら、苦しそうにのたうち回っていたのを見ても、何も出来なかった。
ドラルクさま!
「たいちょう!ど、どうしたの?ね、ねえ?」
どうしよう?どうしたらいいの?
混乱して必死に揺すってみるけど、白目を剥いて隊長は動かなくなってしまった。こういう時、本当は動かしてはいけなかったのに。
「…これは、随分な惨状だな。」
よく知った声が上から降ってきた。見上げると兄が後ろに立っていて…私は涙でぐしゃぐしゃの顔で兄に取り縋った。
「あっ、にいさん!ねえ、た、たすけて…たいちょうを…」
必死で訴える私を尻目に、兄さんは電話をしながら、何かシートみたいなものを拾って弄くっていた。
「騒ぐな、今やってる。もしもし…救急の方だ。患者の様子?意識は、不明か朦朧としてるな。ダンピールだ。血液錠剤を間違えて、多く飲んだらしい。場所は…」
そこから先は、兄さんやミカエラさん達が全部やってくれた。私は泣き喚くばっかりで、そのまま検査の為にVRCに送られたから、よく分からない。早くお見舞いに行きたかった。
検査を受けている間に術は解けたから、その足で病院に直行する。そして、やっと…
ヒナイチくん、いらっしゃいニュ。ドラルクさまは、いまおきたところだニュ。さあ、はいってニュ。
ジョンは、まだ術が解けていないのか。テニスボール大の小さなジョンに案内されて、中に入る。病室には、まだ術の解けていないあの人が横たわっていた。
まだ、顔色が悪くてげっそりしている。検査着から覗く枯れ木の様な腕には、点滴のチューブが繋がっていて痛々しかった。
「た、隊長…その、お見舞いに…」
「ああ、こんな格好ですまないね。ヒナイチくんこそ、大事ないかね?」
大儀そうに体を起こした隊長は、いつもと違う高い声で、喉仏の目立たない大人と子供の境目の…中性的な姿に見えた。この頃は、まだ背もそんなに高くなかったのか…私とそんなに変わらない。痩せているせいで、むしろ私より小さく見えた。
「おや?どうしたのかね?もしかして、君もまだ解けてない?」
見惚れている私に、隊長が首を傾げた。解けているよ、解けている…けど。
「…ヒナちゃんは、だいじょうぶ。たいちょう、ごめんね。」
今を逃したら、もうこの姿の隊長に甘える事は出来ないだろう。だから、まだ治ってないふりをして抱きついた。わざと、子供っぽい言葉遣いをしてまで。
「いや、おとり捜査だったからね。ギルドマスターに了解済みとはいえ、謝るのは僕の方だ。」
頭を優しく撫でられる。ばつの悪い顔を隠したくて、その薄い胸に顔を埋めた。
元々骨と皮だと思っていたが、この頃は本当にガリガリだったのだな。ぐりぐりと頬擦りをすると、「くすぐったいよ」と笑い声が落ちてくる。
「あのね…」
「なあに?」
「クッキー、おいしかったよ。」
「それはよかった。」
「ヒナちゃんは、つよいハンターになって。」
「うん、うん。」
「ずっと、たいちょうをたすけてあげるから…。」
「嬉しいよ、ヒナイチくん。」
ずっと私の為に、美味しいクッキーを焼いてくれる?
「え?今、何て言ったの?」
「約束だよ?」
「…えっと?」
「ねえ、指切りして。」
「ウフフ、いいよ。甘えん坊のお嬢さん。」
指切りをしながら、口角が上がりそうになる。それを隠すのに苦労した。
視界の隅で、ジョンが怪訝そうな顔をしたのが見える。でも、彼は何も言わずにそっと部屋から出て行った…気を遣わせてすまないな。
隊長、ごめんなさい。我ながら狡いと思う。でも…やっぱり、ずっと追いかけてきた貴方を諦めたくないんだ。
