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「なつのおもいで」本文サンプル

全体公開 えとせとら。 7459文字
2023-04-30 17:44:53

昨年10月に発行し、今回リサイズ版を出す事になった昨年8月の作品総集編「なつのおもいで」本文サンプル集です。pixivが開けない場合はこちらを見て下さいね。
(こちらのサンプルは一部の作品のみ収録となっています。ご了承下さい)

それは暑さのせい(2022.8.4)

 地上の夏は暑い。
 ホットランドも確かに暑かったが、これほどまでにひどい暑さではなかった。気温はある程度上がってしまえば、それ以上になる事なんてない。
 しかし、この地上では話が違う。今日もまた今年の最高気温を更新したとニュースで言っていた。
 「今年の夏は暑さが違う」なんて誰かが言っていたが、こうも毎日のように体にこたえるような暑さでは、スケルトンといえども耐えられるわけがない。
……何なんだよ、この暑さは……
 体がフラフラする。頭もうまく働かない。本当はもう少し研究を進めておきたかったのだが「熱中症っぽいから今日はもう帰って休め」と言われたため、サンズはこうして早い時間だというのに家に向かっているのだった。
 とりあえず、帰って寝よう。そして遅れた分は早く取り戻さないと。

 家に帰りつくなり、サンズはそのままソファーに倒れ込んだ。
「はぁ……。体が重いな……
 本当はベッドで休んだ方が良いのだが、もうそこまで行く気力すら残っていない。
 幸い、リビングは程良く冷えていた。パピルスが帰宅する時間に合わせてタイマーをセットしていたらしい。
 少し休んで、ちょっと落ち着いたら部屋に行こう。パピルスが見たら怒るだろうけど、今日はこのままソファーで休ませてもらおう。

「ニェエ……。今日も暑いな……
 大きな袋を抱えてパピルスが帰って来た。パピルスもまた地上の夏に翻弄されていたが、サンズよりも体力があるため今のところは大きく体調を崩す事なく過ごす事が出来ていた。
「あれ……? 何でこんな時間に兄ちゃんが家にいるの?」
 普通ならサンズはまだ仕事している時間だ。パピルスは今日は休みだったため、サンズを見送ってから家事を済ませて買い物に出掛けていたのだった。
「う……ん? パピルス?」
「兄ちゃん、目が覚めたの? お仕事は?」
「パピルス……あのな、熱中症って……
 説明しようにも、うまく頭が回らない。この暑さのせいで体調を崩してしまったから休んでいるだけだと言いたいのに。
 何とか言葉を続けようとしたサンズに、パピルスはゆっくりと近付いて行った。
 次の瞬間、サンズの耳元でコツリと音がいた。そのまま、コツッ、コツッと頬や額、そして口元にもその音は響いていた。
「なぁ、パピルス。一体どうしたんだ?」
「ニェ? だって、兄ちゃんが言ったでしょ? チューしようって。だから俺様、キスしているのだ」
 ……チューしようって言った……? いや待て、オイラそんな事を言った覚えはないはずだが……。回らない頭で必死に考えて、ようやく一つの結論に辿り着いた。
 そう。オイラが熱中症って言ったのをパピルスはチューしようと聞き取ってしまったのだった。
「パピルス……あのな、チューしようじゃなくて、熱中症だ。暑さで体がやられてしまったんだよ」
「そうなの⁉ 俺様、兄ちゃんが珍しくキスをおねだりしているなと思っていたが……勘違いだったのか……。ううっ、恥ずかしい……
 パピルスは顔を真っ赤にして狼狽えていたが、ふと何かを思いついたようで悪戯な笑顔でオイラにこう言った。
「ねぇ、俺様は兄ちゃんにいっぱいキスをしたから……今度は兄ちゃんが俺様にキスしてくれるよね?」


雨の後には(2022.8.8)

ニェエ……。まさかこんなに雨が降ってくるなんて……。俺様、ツイてないな……
 天気予報では確か今日もよく晴れると言っていたのに。突然の雨に降られて、服もカバンもすっかり濡れてしまった。
 仕方ない。しばらくここで雨宿りしていこう。
 幸い、スマホは濡れずに済んだ。パピルスはスマホを取り出し、サンズに「雨に濡れたからお風呂の用意をお願い」とメールを送った。
「それにしても、すごい雨……
 さっきまで綺麗な青空が広がっていたのが嘘のように、今は土砂降りの雨が降っている。
 雨に降られて濡れてしまったのはパピルスだけではない。同じように濡れてしまった人が、慌てて軒下に駆け込んでいく様子が見えた。
「この雨、いつまで続くのかな……
「そうだな、あと10分位で止むだろうな」
「そうなんだ、教えてくれてありがとう! ……って、兄ちゃんいつの間にここに来たの?」
「お前が雨に濡れたってメールしてきたから、迎えに来たんだよ。雨が止んだら帰ろうか」

 サンズの言った通り、10分程して雨は上がった。
「あれだけ降っていたのに、何だか嘘みたいだね……
「暑い日は天気が良くても突然降り出す事があるらしいからな。今度からは、折り畳み傘を持って行った方がいいぞ」
「うん、そうするよ。もう雨に濡れるのは嫌だし。あーあ、俺様ツイてないな……
「そんな事はないぞ。ほら、パピルス。あっちの方を見てみろよ」
 そう言ってサンズが指を差した方向に目を向けると、そこには大きな虹がかかっていた。
「うわぁ……。すごく大きくて綺麗な虹だね……!」
「そうだな。こんなに大きなものはそう見られるものでもないからな」
「俺様、雨に降られてツイてないって思っていたけど、そうでもなかったんだね。兄ちゃん、教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして。さ、パピルス早く帰ろう。体が冷えてしまったら大変だ」
「うん。だけど、もう少しだけいい? 兄ちゃんと一緒に、虹を見ていたいな」
「仕方ないな、もう少しだけだからな」
「うん、ありがとう兄ちゃん!」
 雨に降られたのは悲しかったけど、とても大きくて綺麗な虹を見る事が出来たなんて、やっぱり今日はとても良い日だった。


甘くて、甘い(2022.8.10)

「ねぇ、兄ちゃん。今日って何の日か知ってる?」
「んー? 何の日だっけ……? 鳩の日か?」
「えっ、今日は鳩さんの日なのっ? 俺様知らなかったぞ! 兄ちゃん、教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして。……で、本当は何の日だ?」
「まさか兄ちゃん、今日が何の日か忘れちゃったの……?」
「誰かの誕生日だったか?」
 本当は何の日なのかわかってはいる。だが、パピルスの反応を見たくて、わざとわからないフリをしてしまう。
「もう、兄ちゃん信じられない! こんな大事な日を忘れちゃうなんて! 今日は俺様がこの家に来て1か月の記念日なのに!」
 そう、長い間オイラとパピルスは離れ離れになっていたのだが、1か月前にパピルスがこの家を訪ねてきた事で、再会を果たす事が出来た。
 あの時は本当に驚いたが、それ以上にパピルスに会えた喜びと嬉しさで満たされたのだった。
「あぁ、そうだったな。ごめんごめん」
「ごめん、じゃないよっ! もう、来月の2か月記念日は忘れないでよねっ!」
「あぁ、わかったよ。ところでパピルス、今日はお前にお土産を買ってきたんだ」
「お土産? 何だろう? 開けてもいい?」
「どうぞ」
……うわぁ……! これ、俺様が食べたかったケーキだ! しかもこっちは新作のタルト……!」
 数日前、テレビを見ていたパピルスが目を輝かせて「このケーキ美味しそう……!」と呟いていたのを聞いて、最初の節目になる今日はケーキにしようと決めたのだが、どうやら正解だったようだ。
「兄ちゃん、ありがとう! 俺様嬉しいぞ! ねぇ、今から食べてもいい?」
「いいよ、パピルス。好きなだけ食べるといい」
「ニェヘヘ、嬉しいな。兄ちゃんも一緒に食べよう」
「オイラはいいよ。それは全部パピルスのために買ったんだから」
「でも、せっかくだから一緒に食べようよ。その方が絶対に美味しいもん。ね、いいでしょ?」
 一度に全部食べようとしても食べ切れる分しか買っていないのに、それでも一緒に食べようと言ってくれるあたりがパピルスの優しさだ。
 そして、その優しさがパピルスの良い所でもあり、好きな所でもあるんだよな。
「わかった。でも、オイラは1個だけな。あとはパピルスが全部食べてくれ。お前に食べて欲しくて買ってきたんだから」
「それでいいよ。それじゃ一緒に食べよう!」


「うーん……。やっぱりこのケーキ美味しいね……! 想像していたよりも、すごく美味しいよ!」
「そうか、それは良かった」
 幸せそうな顔をして、ケーキを食べるパピルス。そんな姿を見ているだけで、オイラの心も満たされてくる。
 だけど、もう少しだけ甘いものが欲しい。
「なぁ、パピルス。ちょっと隣に行ってもいいか?」
「うん、いいよ。ね、兄ちゃんもこのケーキ食べてみない? すごく美味しいよ」
……それよりも、オイラはこっちがいいな」
 ペロリ。
「ニェエ⁉ ちょっと兄ちゃん、何でいきなり俺様にキスしようとするの⁉」
「んー? パピルスの口元にあるクリームが美味しそうだったから、な。美味しかったよ。ごちそうさま」
「なっ……! 兄ちゃん、それはズルいぞ!」
 ……後でお返しするんだから、覚悟しておいてよね。なんて、顔を真っ赤にしながら言われたら、思わず顔が緩んでしまう。


 あぁ、やっぱり甘かったな。さっきのクリーム。
 何よりも甘くて、甘い幸せ。


幸せな勘違い(2022.8.17)

「兄ちゃん、今日も楽しかったね!」
「あぁ、そうだな。パピルスは何か良いものが買えたのか?」
「欲しかったものがいっぱい買えたから、俺様満足したぞ! お昼に食べた限定ランチも美味しかったな! 兄ちゃんは何か買ったの?」
「そうだな、オイラも欲しかった本が買えたから満足だよ」
 今日は二人とも休みだったため、一緒にお出かけしていた。出かける先は大体パピルスの行きたい所で、今回はショッピングモールに行っていたのだった。
 山のような荷物を抱えて帰る、この時間もまた楽しいものだと思える。今日もまた荷物いっぱいになっちゃったね、なんて笑いながら一緒に歩くと重い荷物も不思議と軽く感じられるのだった。

「ごちそうさま! 兄ちゃん、お風呂どうする?」
「オイラは後からでいいよ。今日買ってきた本を整理しておきたいし」
「わかった。じゃ、俺様が先に入るね!」
「あぁ、ゆっくりでいいからな」
 パピルスがお風呂に入っている間に、今日の荷物を整理しようと袋の一つに手を伸ばした時、誤ってパピルスの荷物が入った袋が倒れてしまった。
「しまった……。元に戻しておくか」
 いくら兄弟で恋人とは言っても、見られたくないものだってあるだろう。そう思い、袋を元に戻そうとした時だった。
「ん……? この雑誌は何だ……?」
 パピルスはよく様々なファッション雑誌を買っているから、今日も新しい雑誌を買ったのだろうと思ったのだが、それにしては表紙の色が華やかな気がする。
 今度はどんなファッションを研究するつもりなのかと思ったが、表紙に書いてあった文字を見たサンズは固まってしまった。
……け、結婚……情報誌……⁉」
 何かの見間違いだろう。そうだ、きっと自覚出来ていないだけで疲れているんだ。
 まさかパピルスが結婚情報誌なんて買うわけがない。だって、いくら何でもまだ付き合うようになって数か月しか経っていないのに、結婚だなんて言うわけがない。キスだって、まだぎこちないのに。
 だけど、これは間違いなく結婚情報誌だ。よく見るとウエディングドレス姿の女性が表紙を飾っている。そして見出しには、結婚に関するキーワードが並んでいる。
「もしかして……パピルスはオイラとの結婚を考えているのか……?」
 兄弟で恋人なのだから、もう既に家族であるわけだし結婚をする必要はない。しかし、もしもパピルスが結婚を望むのなら話は別だ。
 式を挙げるならどこにする? その前にドレスを着るか? それとも二人ともタキシードか? いや、でもパピルスのドレス姿もいいよな……等と、サンズの頭の中は結婚の事でいっぱいになってしまった。

「兄ちゃん、お風呂終わったよー……って、あれ? どうしたの? 何か顔が赤い気がするけど」
 しまった、パピルスがお風呂から出て来た。どうにかこの動揺を隠さないと。
「ん? な、何でもないよ。それより、パピルスの荷物を間違って倒してしまってごめんな」
「そうだったんだ。お風呂の前に片付けておけば良かったね。ごめんね、兄ちゃん」
「あ、あぁ。それじゃオイラもお風呂に入ってくるから」

「ニェヘヘ、やっぱりかわいいなー。このクマさんのポーチ。思い切って買って良かった」
 雑誌を手に取り、付録のポーチを取り出したパピルスは満足そうな表情をしていた。
 そう、パピルスが結婚情報誌を買ったのは付録のポーチが目当てであり、雑誌の内容は彼にとって「ドレスは綺麗だけど眺めるだけでいい」というものだった。
「それにしても、何で結婚情報誌の付録ってこんなにミリョクテキなのだ? 俺様、この雑誌のファンになっちゃいそうだ……

 サンズが結婚情報誌を見つけて激しく動揺していた事を知らないパピルスは、来月の予告を楽しそうに見ていたのだった。


ときめきの始まり(2022.8.23)

 パピルスに告白されて、サンズとパピルスは恋人になった。
 ただ、これまで兄弟でもあり家族でもあったわけなのだから、特に何かが変わったわけではなかった。
 いつもと同じ生活の繰り返し。ただ、それだけでもサンズにとっては十分幸せだった。
 しかし、パピルスは「恋人らしさとは何か」という事について真剣に悩んでいた。確かに今の生活でも幸せではある。だけど、せっかく恋人になったのだから、恋人らしい事をするべきではないだろうか?と。
 パピルスは一人で考えた。様々な本を読み、インターネットで色々と調べた。
 そうして辿り着いた結論が「デートをする」という事だった。

「ねぇ、兄ちゃん。明日お休みでしょ? 何か予定はあるの?」
「いや、特にないけど……どうした? 何かあるのか?」
「何もないなら、俺様とデートしようよ! 恋人同士のデート!」
「デートって……一緒に出かけるって事だろ? あぁ、いいよ。どこに行きたい?」
「水族館がいいな。暑い時期には、ちょうどいいでしょ? それに、水族館の中にオシャレなカフェがあるんだよ。そこでランチにしようよ」
「それでいいよ。水族館なら、ここを9時に出ればちょうど……
「それなんだけど。せっかくのデートなんだから、外で待ち合わせしようよ。今までそういうのをした事がないから、『恋人を待つ時間』というのがどういうものか、俺様は知りたいんだ」
 別にいつも通りでもいいじゃないか。そう思わないわけでもなかったが、パピルスの願いを叶えてあげたいのもまた正直な気持ちだ。
 結局、パピルスの提案通り、外で待ち合わせしてデートするという事になったのだった。
 次の日、サンズとパピルスは朝食を済ませた後、それぞれの部屋に戻り時間をずらして家を出た。
 待ち合わせ場所は、家のすぐ近くにある公園。時間よりも先に着いたパピルスはベンチに座ってサンズが来るのを待っていた。
「デートかぁ……
 昨日、デートしようと言ったものの、デートした所でどうなるかという事はわからない。もしかしたら、いつものようにお出かけで終わってしまうかもしれない。
 それでも、二人で楽しい時間を過ごせればいいのかな。なんて思っていた時だった。
「ごめんな、パピルス。待っただろ?」
 不意に後ろから声をかけられて、パピルスはドキッとしてしまった。いつも聞いているはずの声なのに、何故か声を聞いただけで胸が高鳴る。
「ううん、俺様もさっき来た所だから大丈夫だよ!」
 動揺を悟られないようにと、努めて普通に答えたつもりだったのだが、どうもサンズの様子がおかしい。顔を真っ赤にしているし、目も合わそうとしてくれない。
「ねぇ、兄ちゃんどうしたの? もしかして具合でも悪いの?」
……いや、違うんだ。その……パピルスの服装がすごく似合っていてさ……何だか、かっこいいなって思ったら、こうなったんだよ……
 まさか、そんな事を言われるなんて。告白して恋人になっても何も変わっていないと思っていたのに。この兄は、こんな一面を隠し持っていただなんて。
「あ、ありがと……
 どうしよう、こっちまで顔が赤くなってしまう。まだデートは始まったばかりなのに。
……じゃあ、行こうか」
 恋人のデートなら、手を繋がないとな。そう言って兄ちゃんはボクに手を差し出した。
……うん、行こう!」
 繋いだ手から、お互いのドキドキが伝わってくる。それと共に楽しいとか、嬉しいという気持ちも。
 まだデートは始まったばかりだけど、今日はきっと素敵な一日になる。だって、こんなにもお互いの事が好きだから。


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