2023.3.8に発行したサンパピ小説本「Heart to Heart」の本文サンプルになります。pixivが開けない時はこちらを見て下さいね。
最終ページは昨年12月にTwitterにてアップした新刊発行予告になります。
@harumacadia
それは全ての始まり
パピルスはオイラにとって唯一の家族であり、ずっと一緒にいた弟である。
それはどのタイムラインにおいても変わりようのない事実だった。
繰り返される時の中で、いつしかパピルスに対して抱く感情の中に特別なものが生まれていた。弟に対する愛情とはまた別に存在する、あたたかな気持ち。
それが何なのかわからないでいた。それでも、何も困る事はなかったはずだった。
どのような道を辿ったとしても、いつかはリセットされて全てはなかった事にされるのだから。
しかし、それが何なのかという答えを出したのは他の誰でもない、パピルスであった。
「兄ちゃん、あのね。俺様、兄ちゃんの事が好きだよ」
ある日の午後、いつものようにソファーでのんびりとしている時にパピルスがそう言ってきた。
「ありがとな、パピルス。兄ちゃん嬉しいよ」
兄として弟から慕われるという事は嬉しい。その気持ちには何一つ偽りなどなかった。パピルスがオイラの事を兄ちゃんと呼んでくれるだけでも嬉しいと思えるのだから。
しかし、パピルスは納得していないという表情でこう続けた。
「……あのね、兄ちゃん。もしかして、勘違いしているかもしれないけど。俺様、兄ちゃんの事を一人のモンスターとしても好きなんだよ」
「……パピルス。それってどういう事だ……?」
何かの聞き間違いだろう。だって、パピルスがオイラの事を兄としてではなく、一人のモンスターとして好きになるなんて、そんな事は……。
「兄ちゃん、突然こんな事を言ってごめんね。でもね、俺様はずっと兄ちゃんの事が好きだったんだよ。兄ちゃんが笑ってくれると嬉しいなって思うし、兄ちゃんと一緒にいるのが幸せだなって思うの。それでね、もっと一緒にいたいなって思うようになって……」
だけど、この感情がよくわからなくて。何だろう? って、ずっと考えていたけど、やっとわかったんだ。兄ちゃんの事が兄弟としてだけじゃなくて、一人のモンスターとして好きなんだって。
あぁ、そうか。ずっと前から抱いていたこの感情の名前は、きっと。
「……そうか」
まさか、パピルスが同じような感情を抱いているなんて思わなかったけど、これでようやくわかった。
オイラはずっと前からパピルスの事が好きだった。それは、兄弟としての好きではなくて、パピルスの事を一人のモンスターとして好きで……。ずっとパピルスに恋をしていた。
たとえ、その先にある結末がどのようなものであったとしても、何度も恋をしていたんだ。
今思えば、それが全ての始まりだった。
新しい関係
「俺様、兄ちゃんの事が好きだよ」
もしかしたら、この言葉はいつかどこかで言っていたのかもしれないけど、残念ながらその記憶はどこにも残っていない。
ただ、はっきりとわかる事がある。それは、兄ちゃんの事がずっと前から好きだという事。
最初は一緒にいて楽しいと思うのも、自分の作ったごはんを美味しいって言ってもらって嬉しいと思うのも、それは兄弟であり家族だからなのだろうと思っていた。
しかし、兄弟に対する好きだけでは収まり切れない気持ちがいつの間にか生まれていた。
もっと兄ちゃんの笑っている顔が見たい。兄ちゃんに喜んでほしい。兄ちゃんと一緒にいたい。そういう気持ちが次第に大きくなっていった。
何でもない時でも兄ちゃんの事を考える事が多くなっていって……。それが恋だという事を知ったのは、つい最近の事だった。
「あのね、兄ちゃんの事が一人のモンスターとしても好きなんだ。だから、俺様は兄弟としてだけじゃなくて……兄ちゃんの恋人になりたい」
intermission
届くはずのない思いが届いて
こうして二人で笑い合っている
こんな毎日が続けばいいと願うのに
それでも不安は忍び寄ってくる
もしも 明日が来なかったら
もしも また最初に戻されたら
そして その先に待っているのが絶望だとすれば
どんな思いで 先に進めばいいのだろう……?
忍び寄る影
パピルスと恋人になって数か月が経った。相変わらずデートの度に照れてしまったりするけど、二人の時間が前よりも充実してきたように思える。
弟として接している時とはまた違うパピルスの新たな一面を見る事ができたのも大きい。恋人となってパピルスへの思いは大きくなる一方だった。
何でもないような毎日でさえ愛しくて、こんな日々がずっと続いてくれればと思っていた。
しかし、平穏な日々はそう長く続く事はなかった。
「……またあの夢か」
最近になって過去の事が夢に出てくるようになった。それも決まって、結末は残酷なものばかり。血塗れの回廊で幾度となく戦ったり、目の前でスノーフルの住人達が手にかけられていったり……そして、パピルスもまたその命を幾度となく落としていった。
どんなに叫んでも、オイラの声は誰にも届かない。もう嫌だ、こんな思いは二度としたくなかったのに。
それでも、パピルスはいつも家を出ていく時にこう言うんだ。
「大丈夫だよ、兄ちゃん。俺様があのニンゲンを止めるから」
だから兄ちゃんは待っていてね。そう言って最後は決まって笑って家を出て行くんだ。
「もう一度、夢を見たっていいんじゃない?」
それは、いつか諦めた夢。
だけど、何よりも諦めたくなかった夢。
手を伸ばす勇気を思い出した時
全ては動き始める。