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エツィオに生まれ変わったデズモンドは、平穏な人生を歩みたい

全体公開 6949文字
2024-01-25 18:03:11

第13話「兄、ヴェネツィアに来る」

Posted by @acbh_dmc4

マルコ・バルバリーゴの判決は直ぐに下った。
この男が関わってきた不正や殺人の証拠を集めるだけ集め、そしてこの度のダンテ襲撃による賊とダンテ本人による証言により重い刑が下されることになった。
今しばらくは刑の執行はされないが、恐らくテンプル騎士団が裏で手を引き、また奴を脱獄させるかもしれない。
だが、そうなる前にこちらの手の者に始末することになるだろう。



「エツィオ、俺にも何か手伝えることはないか?」

襲撃以降、完全にバルバリーゴ等から決別したらしいダンテがエツィオを訪ねては助力を申し出てきていた。
彼の決意は本物のようで、自分がいかに有用か、街の不正に心を痛めているか熱いプレゼンが続いた。

「ダンテ、俺も出来たら君と志を同じくしたいと考えている。だが、君は結婚したばかりだろう?こちらの組織はかつてない危険が伴うし」
「治安隊の仕事も剣を取って戦う。我々が初めて出会った時も命のやり取りをしていただろう?確かに君の所とは規模が違うのかもしれないが、俺も不正義に立ち向かい、場合によっては命のやり取りをする。それに俺の仕事の事はグロリアも理解して、二人とも覚悟は決まっている」

確かに、グロリアは強い女性だ。
ダンテとの仲を引き裂かれ、マルコ・バルバリーゴの策略で奴の妻となっても気丈にダンテが戻ってくると信じて待っていた。
それに警備隊に居るダンテの支援は正直なところ助かるのだ。
色々と計算高く考えてはいたが、ダンテが少しだけ気まずそうに「それだけではなく、」と言葉を濁しつつもアサシンになりたい理由を告げた。

「それに、エツィオの弟子になれば戦闘の手ほどきをしてもらえるんだろう?」
「ああ、目的はそっちか。手合わせや指導が望みならいつでも相手になるぞ。それに俺たちと共に戦うとしたら、時には傭兵団と作戦を共にしてもらう事にもなる」
「構わない。俺のできうる限りで力になろう」
「一応言っておくが、成功報酬だからな。このまま治安隊の仕事は続けて生活基盤は確保しつつ、要請があれば動いてほしい」

特にエツィオ経由で教団に入りたいというのであれば、この地での収入等をアントニオに頼るわけにはいかない。
主な活動資金源である娼館はエツィオの息のかかっている場所ではないし、テオドラにすらまだ顔合わせしていないのだ。
そんな主なエツィオの収入源としては、強盗や暴漢等を討伐した際の犯罪者の持ち物や暗殺の成功報酬等だった。特に暗殺の類は教団の名を落とさぬよう吟味した依頼に限るし、アントニオが気を利かせて依頼してくるものだったりする。
将来的には安定した資金源の確保もエツィオの昇級に対する評価基準の一つでもある。

なんやかんやとダンテを教団に迎えるならと、その後の教団に関する契約やら詳細を話し合う為、その日は遅くまでダンテと話し合いをすることになった。


*****


忙しくエツィオがヴェネツィアで働いている最中、フィレンツェの兄から一報が入った。
そろそろヴェネツィアに研修の為向かう準備をするというものだった。
エツィオは速攻でヴェネツィアへの紹介状を用意しフェデリコへの返信と共に送り付けると、兄の出発の便りを待った。(手紙には一刻も早くフェデリコをヴェネツィアに送るようにとジェバンニへの念押しの手紙も同封した)

フェデリコからの返事の手紙を貰ってから数か月後、ヴェネツィア到着予定の日にエツィオは船着き場近くでのんびり待機していた。
大型船が到着すれば、どの船に乗っているのかと下船する乗客達を確認し、久しぶりに会える家族の姿を見つけようと心が浮ついた。
本日2つ目の舟が船着き場に泊まり、暫くすると待ちかねた男が快活に笑いかけて降りてくるのを、エツィオは力強いハグで迎えた。

「よぉ!エツィオ。久しぶりだな!出迎え有難う」
「元気そうで何よりだ。ちょっと見ない間に随分逞しくなったんじゃないか?」
「おいおい、お前は俺の伯父上か?」

思わずしばらく見ない子供に対する発言をしてしまったエツィオに小気味良い突っ込みが入る。
二人はわははと笑い合って、久々の再会を喜び合った。
そんなやり取りをしていると、フェデリコの後ろから見知った者が大荷物を担いで船を降りて来るのが見えた。
船の乗組員に荷下ろしを手伝ってもらいながらも、エツィオに気が付くと、見知った者―――レオナルドが顔を綻ばせて手をあげて挨拶した。

「レオナルド?!レオナルドじゃないか!君も一緒だったのか。久しぶりだ。元気にしていたか?」
「はい!おかげさまで。エツィオも元気そうでなによりです。実は、仕事で肖像画の依頼を受けたので、丁度ヴェネツィア行きを検討されていたフェデリコ様とご一緒する事になったんです。これから暫くは私もヴェネツィアを拠点に活動するつもりです」
「そうか。君が来てくれてうれしいよ。もしよければ街を案内しよう」

3人でわいわいと道中のことや昔話に花を咲かせていると、レオナルドの依頼主であるペーザロ伯の使いが3人、声をかけてきた。
レオナルドを迎えに来た従者が、フェデリコの荷物も預かろうかと尋ねるが、話に夢中になっているうちに、エツィオが手配していた従者がすでに荷物を運び出していた。
そこで、レオナルドの荷物だけをペーザロ伯の従者に任せ、エツィオは合図を送って自分の従者に作業の完了を伝えた。
荷物を運ぶために2人の従者が去ると、ひとり、やや出目気味の青年が満面の笑みを浮かべながらこちらへ歩み寄ってきた。

「私は案内役のネロと申します。ペーザロ拍のところにお連れする前に、わが誇り高きヴェネツィアを案内させていただきたいのですが、ご友人方も一緒にご案内いたしますか?」

チラチラとエツィオに視線を送ってくるネロを訝し気に見て「どうかしたのか?」と聞けば、どうやらネロはエツィオの事を知っているようであった。
サン・マルコ大聖堂付近を塒に慈善活動を行っているエツィオはそこそこ有名人のようで、どうやら噂に聞いていたようだ。
フェデリコが相変わらずアサシンとしては忍べていないエツィオに揶揄交じりの口笛で囃し立てると、エツィオは一先ずからかいは無視してネロに3人一緒のヴェネツィア観光をお願いした。

人数が4人になったので、案内されたゴンドラにはレオナルドとネロ、エツィオとフェデリコに分かれて乗り込んだ。
船首と船尾には一人ずつ船頭が立ち、その絶妙な櫂さばきでカナル・グランデを行き交うほかの船の横を器用に通り抜けていった。
“アドリア海の女王”と称されるこの美しい街並みを、隣から聞こえてくるネロの冗長なガイドをBGMにゆったりと進んでいった。
フェデリコが旅の疲れからか、心地のいいゴンドラの揺れに、自らも眠りの船をこぎだしかけた時だった。
ふいに只ならぬ言い争いの声が聞こえ、土手の上にある店先で、番兵と商人の男が激しい問答を繰り広げていた。
その光景にエツィオは嫌悪感に顔をしかめ、フェデリコは番兵たちの横暴ぶりに怒りを感じてエツィオに振り返った。

「今のはなんだ?」
「後で話す。俺たちの今後の仕事ぶりがかかっている件でね」

ため息を吐きながら小声で返す。事件はエツィオの記憶の通りに未だ進み、一つの未来を変えたとしても、まるでそうなるよう運命づけられているかのように進んでいく。
レオナルドも不穏な空気に不安そうな顔をエツィオに見せたが、エツィオは励ますようにゆっくり頷くと、気を取り直して頷き返した。


ゴンドラの旅も一通り終わると、レオナルドが市場を見たいと言い出したため、にぎやかな商店の集まる通りを散策し始めた。
各国から集まる輸入品や、食料に衣料品、装飾品などを見て回る。
レオナルドはキラキラした目で珍しいものを展示する店先を覗き、いろいろと吟味しながら楽しそうに通りを歩いていた。
そして子供の玩具を売っている露天商で足を止めると、木製の関節人形を手に取って解説し始めた。
嬉しそうにこういった人形でポーズをとって絵画や彫刻の参考にすると話しながら、購入のためか、財布を探し始めると、しょんぼりした顔でエツィオに視線をやった。

「エツィオ、すみませんが、建て替えて貰えますか?荷物に財布を入れたままにしてしまって……

申し訳なさそうに頼むレオナルドを見て、エツィオはふと、せっかく新天地に来たのだから何か祝いの品でも贈ろうかと思いついた。
レオナルドが持つ関節人形はそれほど高価なものではない。少し簡素すぎる気もしたが、こういうものは気持ちが大事だ。

「分かった。だが、これは俺からプレゼントさせてくれ。こちらに工房を移した記念だ」
「本当か?悪いな。じゃあ俺はこっちの面白げな置物で良いぞ!」
「フェデリコは自分で買え」

すかさずたかろうとする兄には塩対応で返すが、こうして皆で騒ぎながら街を歩くのは楽しい。
時々買い物を挟みながらゆっくり街を回り、レオナルドの工房までの道を楽しく歩いた。


「エツィオ、フェデリコ様、折角ですから寄って行かれますか?」
「いや、これからフェデリコを宿泊所まで連れて行くから、また今度遊びに来るよ」
「そうですか。もし写本を手に入れたとか、ご用が出来た時は訪ねてきてください。歓迎いたしますよ」
「有難う」

そういって別れようとしたところでレオナルドが挙動不審に周囲を確認して工房の入口へとエツィオを引っ張り込んだ。
いかにも内緒話をしています風に屈み、口に手のひらを添えてエツィオの耳元にひっそりとささやく。

「ところで……私もあなた方の一員ですから、この土地の教団の方々と顔合わせなどした方が良いでしょうか?」

至極真剣にそう耳打ちされて、少しだけ笑みが漏れる。

「そうだな。今度ここの教団の者を何名か連れてくるよ。こっちの面々も君に興味があるだろうしね」

実際レオナルドの護衛に何人か弟子をつけるつもりだ。
特に目をかけている一人は芸術の方面に強い者も居る。そういった者をレオナルドの弟子として迎え入れてもらう事も考えていた。
旅疲れもあるだろうと早々にレオナルドの工房を離れ、また少しだけ寄り道をしつつ盗賊ギルドへと向かう。
途中、獲物を仕留めた帰りの走り抜けるローザとすれ違い、悪戯にエツィオの腰に下げていた金の入った袋を揺らして行った。
得意げにウインクをされたものだから、一連を見ていたフェデリコが面白そうに先ほどの盗賊について聞かれる羽目になった。

「なぁ、さっきの盗賊の格好した奴、随分親しそうだったな」
「ああ、ローザだ。彼女は俺の恋人なんだ。後で紹介するよ」
「お、ついに身を固める気になったのか?」

ローザの熱烈なアプローチに陥落したとはいえ、どちらかと言うと兄妹のような、互いに切磋琢磨するライバルのような関係で、彼女とこのままゴールインするのかと言われればピンとこない。
気楽で楽しい付き合いではあるし、このまま彼女に深い愛情を感じていくのも良いとは思っているが、なんとなく、フェデリコの問いに直ぐに答えられないでいた。
そんなエツィオの微妙な態度を見て、フェデリコは呆れ顔で「酷い奴だな」と呟いた。
人生の流れを知ると言う事は、ある意味では枷にもなる。特に女関連には真摯になれない事に、僅かながら罪悪感を覚えていた。
だからこそ気楽な遊び程度しか手を出してこなかったのだが……そう複雑な表情をしていれば、察してくれたのかフェデリコが優しく背中をたたいた。


ヴェネツィアの盗賊団のアジトへと到着すると、まっすぐ作戦室に向かった。
どうやらアントニオはエツィオの連れてくる客人を待っていてくれたようで、部屋には歓迎の茶会とでもいうように淹れたてのコーヒーがテーブルに並べられていた。
珍しい苦い飲み物にフェデリコは目を白黒させていたが、いつかエツィオが提案したミルクと砂糖を入れてやるととても気に入ったようだ。

「それじゃあ改めて紹介するよ、俺の兄さんのフェデリコだ。フェデリコ、彼はアントニオ。ヴェネツィア盗賊団の長だ」
「初めまして。君の事は御父上から聞いているよ。とても優秀なアサシンらしいじゃないか」
「優秀な弟に負けじと頑張っているよ。よろしく」

人懐っこくフェデリコが挨拶を返せば、アントニオは微笑ましそうに目を細めて歓迎してくれた。
一通りの自己紹介や拠点の説明、またヴェネツィア盗賊団の主要なメンバーへの紹介をして(相変わらずフーゴ等はフィレンツェ人と聞くと喧嘩腰になっていたが)恒例ともいえる腕試しで交流を深めた。
旅疲れもあってか、フェデリコは勝負に惜しくも負けてしまったが、陽気な気風が皆を和ませるのか、あっという間に仲良くなっていた。

「俺の時は皆ツンツンしていたのに、フェデリコには寛容だな?」
「フェデリコは嫌味がないからな。あんたは、初対面でも自信満々で負け知らずってところがかーなり鼻につくんだよな」
「ああ、エツィオは何でもそつなくこなすつまらん奴なんだ。突っ込まないでやれ」
「なんだと?!この!」
「わあ!暴力反対!」

皆でじゃれ合っていると、また拠点の中庭に盗賊の一団が入ってきた。
その中に、先ほどエツィオにいたずらを仕掛けてきたローザもおり、にこやかにエツィオたちに声をかけた。

「はぁい、エツィオ!そっちの彼は誰?新顔さん?」
「やあ、ローザ。この間話していた俺の兄のフェデリコだ。フェデリコ、さっき言ってたローザ」
「初めまして。近くで見ると可愛いじゃないか。エツィオは相変わらずの面食いのようだな?」
「まぁねー。エツィオと付き合うなら私くらいでなくっちゃ」

いたずらっぽく笑うローザにフェデリコは面白そうに対応する。
一通り皆との挨拶を済ませると、今日はもう疲れただろうということで宿で休むことにした。


*****


翌日、昼過ぎまでなかなか起きてこないフェデリコをたたき起こすべく、部屋へと尋ねてベッドから叩き落した。
フェデリコは地の底を這うような声で「悪魔め……」と悪態をつくと、エツィオの機嫌を損ねる前に、と眠い目を擦って起き上がった。
遅い朝食兼、昼食をとり、また盗賊団のアジトへと向かうと、そこの中庭に弟子たちを集めてアサシンの弟子たちとの顔合わせを始めた。

「まずはここで勧誘した弟子たちを紹介するよ。フェデリコも今後、弟子たちの指導を頼みたい。その他にも勧誘とか、任務もある」
「はぁ、俺はヴェネツィアに連行されると聞いてから、お前の人使いの粗さに恐れおののいてたんだ。俺の平和よ……さらばだ」
「遊びに来ているわけじゃないんだから当然だろ」

調子よく十字を切るフェデリコを無視し、現在は10名ほどに増えた弟子たちを紹介する。
まずは少数精鋭を一人前に育ててヴェネツィアでの彼らの地位を揺ぎ無いものにしたい。
そうして出世するのはエツィオだけではなく、フェデリコも同様だ。ここでの研修を終えたらフィレンツェでの次期長としてエツィオが推薦する予定だ。
そして新たな標的が設定された。フェデリコは到着早々の仕事になるが、タイミングとしてはちょうどいいといえる。

エツィオとフェデリコ、また何名かの弟子を連れてアントニオの書斎へと向かう。
軽く挨拶をして、セタ宮のジオラマの前まで進み出ると、エツィオから口火を切った。

「セタ宮に新たに配属されたエミリオ・バルバリーゴについて、盗賊団とともに対処することになった。昨日市場で店主と番兵がもめていたのを見ただろう?その後のセタ宮でも男が捕らえられたのを見たよな?」
「ああ。バルバリーゴといえば、お前の名簿にあった名前だな。テンプル騎士団なのか?」
「そうだ。何度か盗賊団の方でエミリオに仕掛けたんだが、失敗してね……ローザを使えれば潜入できると思ったんだが、エツィオに止められた」
「今仕掛けるには金も人員も嵩んでしまう。特にローザはかなりの腕だ。ここで怪我をさせて計画を延ばしたくはない。それに、俺が用意した200ドゥカートも必要だろ?」
「早速ここもエツィオに財布を握られたか……

既に牛耳っている風のエツィオに茶々を入れるが、エツィオは静かに「真面目に聞いてくれ」とフェデリコを窘めると、作戦を進めた。
フェデリコに対する壁のぼりの訓練も同時に行う。既に得ている情報とエツィオの記憶の差異がないか、計画に不備がないかを詰めていった。


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