@acbh_dmc4
「エツィオ、マルコ・バルバリーゴに動きがあった。最近手汚い殺しを得意とする男や、傭兵崩れの暴漢を雇ったらしい。標的はおそらくダンテ・モロだろう」
アントニオからの知らせにエツィオは重々しく頷いた。
ついに欲深いマルコが動きだした。
ダンテを親友だと嘯きながら、その妻に懸想した挙句、手に入れる為に命を狙う。
テンプル騎士団が人々の自由意思を否定するその根底には、醜い己の欲望が大いに関係しているのだろう。
足るを知らぬ欲深き者が恐れるのは、同じ欲深き者と言ったところか。
果たして純粋に平和を築きたいと考える人間が、あの組織にどれほどいるものか。
勿論崇高な理念を抱いている者が居ない訳ではないのだろうが、少なくともこの時代のテンプル騎士団は堕落を極めているとしか言いようがない。
「ダンテに監視をつけるか?エミリオやマルコ・バルバリーゴは早めに排除した方が良いと我々もみている。奴が雇った者達を撃退することまでは出来ないが、無いよりはマシだろう」
「ああ。そうしてくれ。俺も弟子たちと交代で二人に着く」
盗賊団は戦闘には不向きだが、俊敏な動きで相手を翻弄し騒ぎ立てて周囲の注意を引くことができるし、暗殺者たちがダンテを襲う妨害くらいは出来るだろう。
そして警備隊長であるダンテはその地位に相応しく、強さと判断力も持ち合わせているので、加勢があれば単身で撃退することも不可能ではないはずだ。
狙われるとすれば人気のなくなる夜勤の間か、退勤後か。
エツィオは新しくできた友の為、今後の監視網についての計画を立てた。
マルコが暗殺者達を雇ったと知らせを受けてから数日後、ついにその時はやってきた。
夜間警備の折、マルコの命によって同僚達から離されていたダンテは、通りかかった暗い裏路地へと何者かに引きずり込まれてしまった。
辺りは暗く、人気もない。あと少しで勤務が終わるという時に襲われ、反応の遅れたダンテは胴体や頭部を切りつけられ、応戦する間もなく足をかけられて転倒してしまった。
すかさず暴漢に馬乗りになられ、下卑た笑い声と「死ね」と言う言葉を聞いた。
まさか、結婚したばかりでこんな無情にも人生を終えてしまうのか、そう思うと同時に走馬灯のように妻、グロリアの事を想った。
その刹那、エツィオは暗闇から飛び出し、近くに転がっていた大ぶりの石を手に取って暴漢目掛けて全力で投げつけた。
暴漢の後頭部に綺麗に石が当たると、軽く吹っ飛んでダンテの頭上でぐったりと伸びた。
周囲の暴漢たちを手早く一刀に伏し、盗賊団の助力により辺りには怒号と鋭い剣裁の音が鳴り響いた。
ダンテは未だ己の状況に混乱していたが、目に入る血を拭い、腰に差していた剣を抜いて立ち上がった。
「ダンテ!戦えるか?」
「エ、エツィオ!ああ、なんとかやれる」
盗賊団が暴漢たちを翻弄し、その隙をついてエツィオとダンテが切り伏せ、あっという間にその場は制圧された。剣についた血を払うと、石畳に転がっている暴漢達を縄で縛り上げ、盗賊たちに確保を命じた。
急なことで理解が追い付かないのだろう、ダンテは呆けたようにぱちぱちと眼を瞬かせ、呆然と目の前の光景を見つめていた。
一先ず怪我の手当てをしなければと、エツィオに促されて近くの医者の元へと案内された。
連れて行ったのはアントニオ達と懇意にしている医者だ。軽い挨拶を交わしてからダンテを処置室の椅子へと座らせる。
幸い、頭に受けた傷は掠り傷だったようで、縫い合わせるだけで処置は済んだ。
他にも腕や胸付近、太股にも切りつけられた跡があったが、どれもダンテの強靭な筋肉によって深手を負わず、既に血も止まっていた為、当て布と包帯でしっかり巻くだけで済んだ。
一度は死を覚悟した程の襲撃に、未だに混乱が収まらないようだったが、しかし目の前にいる命の恩人に何か言わなければとダンテは口を開いた。
「エツィオ、また君に救われた……この恩をどう返したらいいか」
「いや、気にしないでくれ。今回の襲撃は予見していたんだ。それよりも裁判になる際、今夜の事をしっかり証言してほしい」
ダンテは驚いてエツィオの顔を見た。
よもやこの襲撃計画が何者かによって企てられたものだとは。その時、初めて今エツィオが纏っている空気の重さに息をのんだ。
まるで裁きを下す正義の旗手のように、年の近い者とは思えないほどの厳格さに溢れていた。エツィオが従えた者たちは、身なりこそ街のスリ師や浮浪者のような者たちばかりだったが、まるで統制の取れた部隊のように立ちまわっていた。
改めて得体のしれない男だ、そうダンテはエツィオを見上げて思った。
「襲撃者たちは俺たちが確保しているから、身内を庇いだてしても意味はない。まぁ、君を裏切り襲った者を“身内”に置いておけるかは君次第だが」
「犯人を知っているのか?だ、誰なんだ?!近しい、者……なのか?」
ぶるぶると怒りでダンテの体は震えていた。
幸せの絶頂に居た最中に絶望と恐怖を与えられ、愛しい者との永遠の別れを齎されそうになったのだ。ダンテの心に復讐の炎が灯るには十分だった。
そして彼自身、なんとなくではあるがこのような事態を引き起こしそうな人物に心当たりがあるようだった。
そうだと信じたくはない気持ちもあったのだろうが、その“友人”の悪評はダンテも知っていた。だが、家の繋がりや、今の仕事の口利きをしてもらったこともあり目を瞑ってきた。
ごくりと生唾を飲み込み、すべてを知っていそうな目の前の厳格な男に真実を乞うた。
「エツィオ、頼む。教えてくれ!この襲撃は誰が指示したものなのか」
「君は当事者だ。当然知る権利はある。この襲撃の黒幕はマルコ・バルバリーゴ、お前の旧知の友だ」
ダンテはその事実にやはり、という思いと落胆が隠せなかった。
幼い頃から家ぐるみで親交のあった人物で、ついこの間の結婚式では祝いの言葉まで貰っていた。
しかし、それと同時にグロリアから困ったように相談されていたのも事実だ。そしてその目的も―――
「……理由、理由は知っているのか……?」
「おそらく、狙いはグロリアだろう。結婚式での態度も酷いものだったしな」
「彼女は……今、彼女は!」
ガタンと勢いよく立ち上がり、今すぐにでも愛しいグロリアの元へ行かなければと玄関へと体を向けた。
しかし強い力で腕を掴まれ、エツィオに止められると強引に再び椅子に座らされた。
「グロリアには今頃俺の部下が君の事を伝えに行っている。今ここを離れたら入れ違いになるかもしれない。暫くここで待て」
「エツィオ、君は一体何を知っているんだ?こんな、あり得ない……陰謀めいたことを知っているなんて、君は本当は何者なんだ?」
エツィオは明らかに統制の取れた人員を従えてダンテを暴漢から守り、あっという間に捕縛して見せた。
初めて出会った時もそうだ。不利な状況から一転、簡単に戦況を覆して見せた。
一介の騎士家の若者というには戦い慣れしすぎているし、今現在も有無を言わさぬ空気を纏いダンテを制している。
「本当はここには仕事で来ている。立場的には市民を守る、君と同じような立場とだけ言っておこう」
「……マルコやエミリオが所属している組織と関係があるのか?テンプル騎士団と?」
「テンプル騎士団を知っているのか?」
「詳しいことまでは知らない。だが何度かマルコから勧誘されていた。俺は話半分に聞いていたが」
エツィオは無表情にダンテを見定めるように観察していた。
口ぶりからするに、まだテンプル騎士団の理念には染まっていない。どこまで何を知っているのかを確認すれば、表向きにされている歴史の解散までの経緯と、どういう組織であったか、そしてマルコ達から吹き込まれた「現在も密かに正義のために戦っている」という、なんとも都市伝説じみた噂話程度の知識であった。
ダンテはまだ巻き込まれる前段階のようだ。この度の襲撃でマルコ達と関係を断てば、普通の市民としてこれまで通りに生きていける。
うまくすれば協力関係くらいにはれるかもしれないが、この茨道を選べば身近な人物さえも危険にさらすことになる。特にこの男は、この二つの勢力に巻き込まれ、本来ならば悲劇の道を辿ってしまう。
「ダンテ、今日は疲れたろう。一先ずグロリアがここに来たら裁判まで、身を隠してほしい。証拠が揃い次第すぐに告発するつもりだ。その時は君の証言が要る。君たちには護衛に俺の部下を付けさせてもらうよ」
アントニオの息のかかっている宿の住所が書かれた紙を渡すと、有無を言わせぬように追及を黙殺した。
ダンテが巻き込まれた状況下を説明するにしても、正常な判断を下せるようにならないと話にならない。
そうしているうちにグロリアがエツィオの弟子の案内で治療院に到着した。
ダンテの襲撃について知らされた彼女はひどく取り乱していて、彼の無事をしきりに確認すると、涙を流し大きな体を抱きしめ震えていた。まだ蜜月も冷めやらぬ時期だというのに、二人とも大きな心の傷となって引きずらなければいいのだが。
治療院の扉を出たところで、ダンテはエツィオに振り返って再度礼を言った。
「正直、今はまだ、混乱している……だが、だが俺に何が起こったのか、君の目的が何なのか必ず説明してくれ」
「ああ、勿論だ。裁判が始まるまでは不自由な思いをさせるが、堪えてくれ」
捕り物はまだ終わったわけではない。
エミリオやマルコ・バルバリーゴがこの襲撃の状況を聞くため、秘密裏に潜伏している教会にいるはずだ。その目星もついている。
既にアントニオから借りた者たちとエツィオの弟子が奴らの確保をしているだろう。そしてダンテの件はマルコ・バルバリーゴ等を排除する決定打となる筈だ。
来る決戦の時に向けて、エツィオはアントニオのいる拠点へと急いだ。
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