サロン・ド・ピクリエ参加作品、4作目になります。
人魚姫ドラヒナのお話でフレッシュマンネタです。1P目の捏造設定をご覧になって、OKな方はどうぞ。
病魔に侵されて死んでしまうドラルクさんの運命を変えるべく、彼が望む無邪気な人魚姫を辞めて、魔女となる決心をしたヒナイチ姫。カズサ王から命令されている、陸と海を繋げる計画を進めつつ、深海の魔女の一番弟子として、奮闘するお話です。
ピクスク様の『春の〆祭り』に参加した、卒業式ネタのこのお話から、そのまま続いております。
魔女となった人魚姫 https://privatter.net/p/10843129
これまでに書いた人魚姫ドラヒナのお話は、こちらから読めます。
https://privatter.net/category/59631
@kw42431393
*捏造設定になります。
魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。後に、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物に抜擢された。最終的に手持ちの人魚の肉を食い尽くし、命を落としたが、ヒナイチ姫と契約し、その血肉で甦る。
ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。後に、『深海の魔女の一番弟子』『太陽の魔女』とも名乗っている。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。魔女の非道な過去を知って尚、本気で想いを寄せており、後に彼と婚姻し、卵を託して治療薬を作る為に、友人夫妻と旅立つ。
シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。
ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。ヒナイチ姫の事は妹の様に感じており、『魔女を救う為に、魔女になる』という決意に打たれて、全面協力している。
サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っていた…が、最終的に自分でも『親友』と答えている。火薬や薬学の見識が高く、細かい配合や隠密行動の苦手なヒナイチ姫をサポートする。
魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。
魔女さん視点の総集編的なお話はこちら
深海の魔女の死、太陽の魔女の誕生 https://privatter.net/p/10760499
『いらっしゃい、私の可愛いお姫様。』
私に向けてくれる、いつも優しいお前の笑顔。
私が大好きな笑顔。
でも、本当は知ってるぞ。
『…断る?契約書に書いてあっただろう?見ていなかった、と?今更、それが通るとでも思っているのかね?』
相手によっては、弱みに付け込んで地獄に追い落とす。
契約に敗れた者の魂を肉を、財産も尊厳も何もかも喰らい尽くす…情け容赦のない冷酷非情な魔女だって事も。
本当は知っていた、知らないフリをしていた。
だって、私とジョンには優しかったから。優しいお前が、大好きだから。
だから、決めたんだ。
このままでは、惨たらしく苦しみながら死んでしまう運命にあるお前を助ける為に、お前以上の魔女になるって決めたんだ!
「今日から貴女は、イナ海国の人魚姫で新しい魔女の一人。私の可愛い教え子でもあるのだよ。少しずつでいいから、始めていこうか。」
先日、ドラルクも属している魔女達の協会に登録した私は、名実共に、その目標の第一歩を踏み出した訳だ。
よし、頑張るぞ!
「分かった!よろしく頼むぞ、魔女。いや、せ、せん…。」
「待って…先生、ね。ヒナイチ姫、先生・師匠という呼び名は、私以外に使ってはいけないよ?」
どうしてだろう?
首を傾げると、お前はその骨ばった大きな手で、私の頬を包みながらこう言った。
「貴女を導いていいのは、永遠に私だけ。いいね?約束だよ?」
妙に真剣な顔をしているな。言われなくても、私の返事は決まっているのに。
「お前以外から、魔法を教わる気なんてないぞ?変な奴だな。」
ホッと息をつく、お前の顔を見上げる。
後で聞くと、魔女の弟子という事は、氷笑卿の孫弟子になるという事だ。彼を嫌っているドラルクは、私が「ノースディン先生」と呼ぶ姿を見たくないからだ、と。
こういう所は、面倒な奴だと思う。
まぁ、とにかく。私は、深海の魔女の一番弟子になった。
魔女から魔法や薬学を習いながら、ロナルド王子達と共に陸と海を繋げる計画も、同時に進めていくんだ。
忙しいけど、やり甲斐はあるぞ。
魔女、もう少し我慢してくれ。絶対にお前から、死の恐怖も病気の苦しみも奪ってやるからな!
…そのつもりだったんだけど。
向いてないのかな、私には。
「魔女様、こんばんは。うちの子の薬を貰いに来まして…。」
「あぁ、いつもの薬だね。ヒナイチ姫、右の棚の緑の瓶を…そう、それ。持って来ておくれ。」
えっと、緑の瓶…これか。私は、薬品棚から指定された瓶を取り出した。
陸と海を繋げる計画の中心人物に抜擢された魔女は、両世界の者達が自由に行き来するシステムやそれに伴う弊害、その対応策など、色々調べたり、検証する事も多いはずだ。
なのに、これまで通り本業のウィッチ・ドクターも休まないで、通常営業しているのである。
『この計画を成功させたら、足を洗うつもりだけど。ささやかな事は、手慰み程度に続けてもいいかな…と思ってね。』
本当は、医者をするのが好きなのかな。でも、無理してるんじゃないかな。
だから、手をかけさせちゃ駄目だ。
そう思うんだけど。どうも、こういうのは苦手でな。モタモタしてしまう。
「え、えっと。はい、これ。」
「ヒナイチひめ、ありがとうございます。」
ノドグロの子供はペコリと、嬉しそうに頭を下げる。ホッとして、魔女の方に顔を向けると、彼は母親の方に、契約書を渡している所だった。
「いつも、ありがとうございます。では、これで。」
「あぁ、海流に乗ってしばらくここを離れるのだったね。2匹共、どうぞお気を付けて。」
「魔女様こそ、お体を大事になさって下さい。」
「行った先で、この海藻を採ってきておくれ。支払いは、こちらに戻って来た時で構わない。」
彼女が紫色に光る契約書にサインをすると、ドラルクは契約書とカルテを私に渡してきた。ファイリングしてくれ、という意味だろう。
ファイル…この本棚にあったはずだ。何度か、魔女がここから取ってたのを見た事が…
…え、えっと。どれだ?どれに綴じたらいいんだろう?
キョロキョロしていると、肩に乗っていたジョンが『イナ海国領域 スズキ目』と書かれた大きなファイルを指さしている。よくよく見ると、『キサラ海国領域 アンコウ目』『フク海国領域 キンメダイ目』等、海域や種類別に分類されたファイルが、本棚に並んでいる。
膨大な量だ。見上げているだけで、頭がクラクラしそう。
「すごいな、魔女もジョンも。」
あぁ。既にここで、躓いている。
ドラルク達は、それだけ多くの顧客を抱えて、何でもない様に契約を交わしてきたのだ。
ジョンは、こんな小さな体でずっと主を支えてきたのだ…そう思うと、彼に尊敬の念が湧いてくる。
そんな顔しないでヌ。ヒナイチ姫は、初めてヌよ。初日から出来る訳ないヌ。
ヌシヌシと、頭を撫でて貰いながら、カルテと契約書を閉じる。
「さようなら、まじょさまもおげんきで!」
「あぁ、僕も気を付けていっておいで。」
背後で、親子を見送るドラルクの声が聞こえた。
さっきの母親と会話している時とは、比べ物にならないほど優しい声だ。
私は、魔女のこの声が大好きだ。もしかして、魔女は子供が好きなのだろうか。
ヌ~ン、割と好きヌね。あの人は、子供の頃は本当に体が弱かったらしいヌ。だから、ドラウス様とミラ様を、とてもとても心配させたらしいヌ。だから、泣いている親子を見ると辛くなる、って言ってたヌね。
さっき、契約書とカルテをファイリングしていた時に、軽く見ただけだけど…子供が関わっている時は、契約の対価が安い気がする。
なぁ、魔女。お前は、本当に多くの悪事に手を染めて来た事は知っているけど…
「終わったかね?休憩しよう、お茶を淹れてくるから…どうかしたかね?」
「ううん、魔女。」
骨の皮の胸に凭れて、額を当てる。シュルシュルと、8つの足が背中や肩を撫でてくれるのを感じながら…やっぱり、実感するんだ。
「クスクス、どうしたの?最近、ますます甘えん坊だねぇ。」
「お前は、優しい奴だ。だから…」
大好きだ。いつか、お前は私に『永遠に、ここへ通って欲しい』と言った。私の願いもそうだ。
ずっと…ううん。ずっと、じゃないな。それに、『通う』より、ずっと重い願いだ。
なぁ、魔女。永遠に、私と一緒にいような?
永遠に、私の為に美味しいクッキーを焼き続けてくれ。
「う~ん、う~ん。」
「さっきから、うるせ~ですよ。いつまで、頭を抱えてるですか?」
人間だろうが、人魚だろうが。誰だって、得手不得手はあるもんです。
ちょっと空いた時間に手合わせしただけですが、ヒナイチの身のこなし、トライデントの捌き方…実力はトップクラスである、というのは分かりました。
まぁ、サンズちゃんにはか、敵いませんけど…ね!ちょっと、ヤバかっただけです!
…海だったら、負けてたですね。突出したものがあるんです、それでいいじゃないですか。
なんで、こいつが凹んでいるかって?う~ん、なんと言えばいいのでしょうね。
ロナルド王子とあのタコが、打ち合わせで席を外している間に、ちょっと話を聞いてやっただけですけど…まぁ、仕方ねーっちゃ仕方ないのです。
「サンゴ礁に帰ってからも、魔女の書庫から本を借りて勉強してるんだけど…分からない所が多いんだ。」
「お前は、脳筋ですからね。まずは、机に座る所から、始めやがれ下さい。」
「え~ん、なんて事を言うんだ~。」
う〝~と、顎を机に乗せてむくれる彼女を見て、ため息が出ます。
何でも、こうしてサンズちゃん達の所に来る前に、魔女の家で調剤の手伝いをしていたそうですが…鍋を噴きこぼしたり、力を入れ過ぎて乳鉢を割ったり、間違って違う薬品を混ぜて大惨事になりかけたり…
そんな訳で、現在進行形で凹んでやがるのですね。とはいえ、魔女が持ってきたクッキーのほとんどを平らげたので、そこは心配ないです。
「私、魔女に向いてないんだ。」
『やりたい』と願う事が、『出来る』とは限らない。そういうもんです。
こいつは、今まで世間知らずのお姫様で、のほほんと生きて来たので、『こうしたい』『こうなりたい』を見つけても、どうしたらいいか分からない、追っつかない…そういう感じだと思います。
「向いてねーです。そもそも、柄じゃないです。」
「うぇ~ん、サンズニャンがいじめる~。」
お茶を啜りながら横目で見ると、ヒナイチはますます頬を膨らませて、むくれてしまいました。
仕方ね~ですね。つくづく、サンズちゃんのお慈悲に感謝して欲しいですよ。
「ほら、どこですか?」
「えっ?」
本に突っ伏していたヒナイチが、こちらに顔を上げます。そうですよ、魔女なんてこいつの柄じゃねーです。
でも、サンズちゃんは『やるな』とは言いませんよ?
「サンズちゃんも、今、本格的に海の世界の言葉も勉強している所ですよ。一緒にやってやってもいいです。」
実際、必要なんですよ。ロナルド王子は優し~いお方ですから、魔女ドラルクが…そして、これから関わっていく世界の者達が、妙な企みをしていても気づかないと思います。
こうして、両方の世界を行き来する様になって、空いた時間に…実は、サンズちゃんも、あの魔女について、その周辺について、調査させて貰っているんです。
全員がヒナイチみたいに、無邪気だったらよかったのに…そう思います。
知っての通り、陸より海の方が種族も国も複雑で、広くて。勿論、言語も様々です。
ヒナイチが、魔女から借りた本が、『難しくて読めない』というのは、言語が彼女の使っているものと、実は違うから…そういう面もあるのです。
「一人で好きでもない事と向き合うから、つまらないし、ますます分からなくなるのです。ちょっと、雑談でもしながら、フランクに勉強した方が…って、にゃ~~!!抱きつくな!!勉強するって、言ってんだろ!!」
「サンズ!!やっぱり、親友っていいよな!!大好きだぞ!!」
「頬ずりするな、離しやがれ下さい!サンズちゃんに、そんな趣味はねー!!」
まぁ、そんな感じでして。その後、勉強はどうなったかって…?どうでしょう?
でも、いつの間にか、自分で契約書を作ったり、目で見た物を紙に転写する魔法を使う様になったり。
時々、配合が怪しいですけど、魔女が動けない時に、薬を調剤して客に渡したり…そんな事が出来る様になっていましたね。サンズちゃんの教育の賜物…そう言いたいですけど、それだけではなかったのです。
あいつは、それだけ本気だったのです。ひたむきに、何人も苦しめて来た魔女を想っていたんです。
あんなガリヒョロの何がいいのか、サンズちゃんには、未だに、さっっっ~ぱりですけど。
人ならざる者達の執念。ヒナイチの執念に打たれた、サンズちゃんとロナルド王子は協力して、病魔に侵されて、死にゆく魔女の体を治す事にしたんです。
阿漕な真似を続けてきた報いだと思うし、どうしようもないクソヤローと知っても…あいつの大事な想い人だから。ロナルド王子の友人だから。
そういえば、協力を取り付けるに当たって、ヒナイチは最後まで、サンズちゃん達に契約書を出してこなかったですね。
その点、魔女としては三流ですが、友人としてはさいこ…こ、コホン。最高の親友です…よ。
「じゃあ、ドラルク。俺達、行ってくるからな。」
「ヌッヌヌッヌイ。」
「うん。ロナルド王子達には、何から何まで、世話になって…。気をつけ…イタタタ。」
寂しそうな顔をした魔女の耳(?)をロナルド王子が、引っ張ります。ここまでくるのに、『契約』に拘る魔女が面倒な事を言いやがるので、苦労したのです。
耳どころか、さらに両頬を引っ張ってもいいと思いますよ。
「そういうシケた事言うなって!お前の病気を治す治療薬は、俺達が必ず作って持って帰ってくる。今度こそ、ヒナイチとジョン泣かせたら、グーパンだかんな!」
「お願い、やめて。ヒナイチ姫の肉で生き返ったとはいえ、不老不死って普通に痛いのだよ。」
だから、サンズちゃん達は最後の詰めに入ります。
ヒナイチの繁殖期を待って…ま、まぁ、あれです。ヒナイチとドラルクは、婚姻を終えた訳ですよ。
最初はヒナイチも能天気だから、卵を産んだら翌日に出発する、とか考えてたらしいですが…タコと人魚では繁殖方法が違うのですね。
だから、思ったよりお互い体に負担があったらしくて…それに、あいつだって女ですよ。母親になったんです。
少しでも、子供達と一緒にいたいじゃないですか。
「じゃあ、行ってくる。頼むぞ。」
「うん、待ってるよ。いくらでも、待てるとも…この子達と一緒に。」
仕方のない奴だな…そう言って、ヒナイチは魔女が懐に抱えた育児嚢を覗きこみます。
タツノオトシゴを真似たものを作ったそうですね。まぁ、こいつの祖父は深海の竜なので、満更ハズレではないでしょう。
「どうもお父様は、ネガティブで困るな。お前達が孵化するまでには、必ず戻ってくる。約束だぞ。」
ヒナイチを見て、サンズちゃん達は顔を見合わせます。
今度も必ず、うまくいく。そう確信しています。
何故なら、そう言って5つの卵に笑いかけるヒナイチの顔は、『太陽の魔女』の二つ名に相応しい…頼り甲斐があって、温かいものだったからです。
かつての、無邪気なお子様で、お菓子の事しか考えていない人魚姫ではなく…優しくて、『大事な者を守り切る』という、強い意志を持った母親のものだったからです。