ハロウィンだから(?)オビ=ワンの見る悪夢の話。20年の間に見てきただろう悪夢のひとつとして。
@syuu_29
空き家とは考えにくかった。手入れの行き届いた小さな家だった。天井は特筆するような低さではなかったが、アナキンもオビ=ワンも家の中に入り、部屋を移動するたびに頭をかがめる必要があった。
門は開け放たれ、玄関の扉だって開け放たれていたが、玄関先の草木は手入れされていた。雑草は取り除かれ、並ぶ植木鉢には水やりの気配もあった。玄関を抜け、居間やキッチンを見ても、誰かの生活がうかがえた。
キッチンには二人がけのテーブルがあり、二人分のスープと、パンが用意されていた。まるでついさっきまで誰かがここにいたかのような、そんな食卓だった。スープからは湯気さえたちのぼっていた。
薄暗くなりはじめた森のなかだった。この家の灯りに誘われて、二人はやってきたのだった。当然人がいるだろうと思い、声をかけたが返事がなく、家に入ったのだ。
住人にここがどのあたりかを確認しようと思っていたのだ。だが、その平家建てのどの部屋を覗いたところで、奇妙なことに人の気配はなかった。
二人は左右に分かれて部屋を確認した。キッチンでもう一度合流しようとしたが、キッチンは変わらず無人のままだった。オビ=ワンは弟子が確認したはずの部屋を覗き込んだ。しかしやはり、そこにも誰もいなかった。それこそ毛布の乱れたベッドが人の気配の名残りを伝えるだけで、首筋に三つ編みを垂らした少年はどこにもいない。
「アナキン?」
狭い廊下で入れ違いになったとも考え難い。だがオビ=ワンはもう一度、すでに確認した部屋を点検することにした。そしてふと、先ほどは気にならなかったクローゼットを目に留めた。
クローゼットを開き、吊り下げられたコートたちの下に置かれたボストンバッグの前に膝をつく。二泊か三日か、その程度の荷物は入るだろう鞄だ。見覚えはない。だが、オビ=ワンはそれを開けなければ、と思った。それで閉まっているチャックに指を添えたその瞬間、背後から声がした。
「どうしたんです、マスター?」
振り返れば、アナキンはすっかり大人になっていた。
膝をついたと思ったのだって錯覚だったのだろう。
そもそも、そこはどこかの民家の一室ではなかった。聖堂の発着場で、ガンシップのタラップを降りたばかりのオビ=ワンを、アナキンは出迎えに来たところだった。パダワンの名残などすっかり残らない波打つ暗い茶色の髪は彼に落ち着きを与えてみせていた。身体をすっかり包んだローブの色も、ずいぶん暗い茶色だ。
オビ=ワンは立ち上がり、足元のボストンバッグにちらりと視線を落としながら「いや、なんでもない」と答えながら、頭の中に浮かぶ疑問の答えを探した。
――何をしているところだった?
ボストンバッグに視線を落としたままのオビ=ワンに、アナキンは「何です、その鞄」と歩み寄り、尋ねる。そして先程オビ=ワンがそうしていたように今度はアナキンがボストンバッグの前に膝をつく。そうしてローブの下からすらりと伸びる彼の両手に、その足に、その胸元に、オビ=ワンは目を奪われた。
アナキンは見慣れない装甲服を身につけていた。
胸元の目立つ機械の操作パネルに、見慣れたジェダイ装束とまるで違う分厚い布地。彼のデュラスチールの義手が火に飲まれた光景が目の奥にチラついて、思わず息を呑む。
「開けるな」とオビ=ワンは言った。咄嗟に出た言葉だった。切実な願いだった。開けてはいけない。見てはいけない。見たくない。そう思うのに体は指先ひとつ動かせなかった。
だが狼狽した声音をからかうようにアナキンは「なんです、隠すようなものを?」とチャックに手を掛ける。
「頼む、やめろ、見るな」
懇願でしかないオビ=ワンの言葉に、アナキンは顔をあげず、手を止めなかった。それどころかめいっぱいにチャックを押し開いて、理由を聞いた。
「どうして? あんたの忘れ物だろマスター」それは不満げな声だった。
開かれた鞄の中味は嫌でも目に入った。見る前からわかっていたとおりだった。
それはかつて手放したはずのものだ。拾い上げることのできなかったものだ。
鞄の中には、真っ黒に焼け焦げた手足と、合成繊維の焼け落ちた義手のフレームが詰めこまれている。
ムスタファーの溶岩に転がり落ちて、永遠に失われたもの。
オビ=ワンがそうした。ライトセーバーはまるで定められた線をなぞるようにあざやかに、彼の愛した者の手足を斬り落とした。そしてあの場面を何度やり直してもきっと、同じことをするだろう。それがわかっているからこんな夢をみるのだ――オビ=ワンは瞼を押し上げて、自分の肉体が硬い寝台に横たわっている感覚を取り戻しながら息を吐いた。銀河の片隅の荒地の家でそうして吐いた息はどうにも震えて、まるで泣いているみたいになった。
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オビ=ワンは二十年の間に悪夢いっぱい見てるだろうな、のやつです。おそまつさまです。
マヨヒガとアナオビとか書こうかなからはじまったのにこのように着地した。マヨヒガちょっと扱いきれなかったな。