本丸を挙げた楽しい宝探しの話
オールキャラですが、見せ場は
和泉守兼定と堀川国広
歌仙兼定と燭台切光忠
乱藤四郎と鶴丸国永
あたりです
@fu_re_re_ra
《イースターエッグとタイムカプセル》
「宝探しぃ?」
「俺たちが楽しめるようにと主が企画してくださった催しだ。皆、奮って参加するように!」
皆を広間に集めた長谷部が、そうメガホンできびきびと号令した。
ニコニコと楽しげに微笑む主の両脇に、総務番長の長谷部を始め、燭台切や博多など番長たちがずらりと並んでいる。
やがて遅れて仕掛け人の鶴丸国永が広間に入って来て、長谷部に向けて、ニカッと笑いながら両手で大きく丸を作った。
長谷部が頷いて、説明の続きを始めた。
「これを見ろ。隠された卵の入れ物に、このように、あたりかハズレのいずれかが入っている」
長谷部がそう言いながら、切り込みの入った卵の殻をパカッと割ると、中から『あたり』と書かれたくじが出てきた。
「ごほん。総務番長の俺からは、馬当番か畑当番のいずれかを一回、理由を問わず免除する券を提供する」
「厨番長の僕からは、好きな料理かお酒を何でもリクエストできるチケットです」
「で、現世警護担当のオレからはこいつ。警護の順番待ちに横入りできる権利が付いた驚きのチケットだ。使用は極連中に限るが、期限は設けないから極めた後に使っても構わないぜ?」
「はーい、主からは『旅行先を選んで一緒に行く券』をあげまーす!」
「以上、あたりを引いたものは、この四つの内、好きなものと引き換えだ。皆、欲しいものを手に入れるといい」
眠そうに欠伸をしていた酒呑み連中が、こぞって目の色を変えた。
主人の隣に参じる機会を狙っていた連中がざわりとどよめき、畑当番や馬当番が死ぬほど嫌いな連中もあからさまにやる気を出した。
「範囲は本丸の内結界の中すべて。タイムリミットは陽が頂点に昇るまでとする」
咳払いをした長谷部が、今にも走り出しそうな面々に待ったをかけながらそう言った。
「あー、入れ物の多くは、主が手ずから色を塗ってくださったものだからな! 先を競うのは良いが、喧嘩して壊すなよ! では、第一回、イースターエッグパーティ、開始する!」
わっと湧いた刀剣男士たちが、一斉に散った。
◇ ◇ ◇
ことの始まりはふた月ほど前のこと。
「あっ、本丸に帰るの、イースターの日だね」
カレンダーを捲りながら、主がそう嬉しそうに声を上げた。
聞き馴染みの無い言葉に、近侍の鶴丸が怪訝そうに首を捻った。
「いーすたー? 何だい、そりゃ?」
不思議そうに鶴丸が首を傾げる。主は「んーと、楽しいお祭りだよ。キリシタンの」と笑った。
「毎年春にあるお祭りでね、卵の殻にカラフルな色を塗ったり、色とりどりのセロファンに包んだりして、綺麗なゆで卵を作って配るんだ。んー、カボチャのハロウィンの春版みたいな感じかな」
「ほう?」
驚きの気配を感じ取り、興味深そうに耳を寄せた鶴丸に、主は「えっとね」と端末を操作して、検索した写真を見せた。
そこには、カラフルな卵に、複雑で美しいペイント模様を施された綺麗な飾りが踊っている。
「へえ、こりゃ見事なもんだな」
「楽しいんだよ。宝探しもするの」
「宝探し?」
「うん! イースターエッグパーティとか、エッグハントって言ってね。この綺麗な卵をあちこちに隠しておいて、みんなで一斉に探すの。子供の頃やったよ、すごーくすごーく楽しかった!」
頬を桜色に高揚させて、ぐぐっと拳を握って力説して、本当に嬉しそうに話す主を見て、鶴丸は静かに金色の目を細めた。
彼女が子供時代のことを手放しで楽しそうに話すのは珍しい。
「ふーん、きみのとこのキリシタンの行事ってやつは、とにかく変わってるなあ。節分に撒くのは福豆じゃなく聖水だし、次は卵で宝探しか。まったく、驚きが尽きないぜ」
「ふふ、恵方巻きも豆まきも、本丸で初めてしたもんなあ。楽しかった!」
はしゃぐみたいに、彼女はいたく嬉しそうに笑った。
彼女、知識としては季節行事を知っているが、どれもしたことは無かったらしい。
キリシタンだから行事ごとが遠いのもあるだろうが、察するにどうにもそれだけでも無さそうだった。彼女の口から出る子供時代は、あまりにも希薄なのだ。
「最近は中々教会でエッグハント開かれないんだけど、またやりたいなあ」
「ふうん、面白そうじゃないか。いつどこでやるものなんだ?」
「私は教会でしかしたことないけど、海外ではそれぞれの家庭でやることもあるみたい。日付は毎年変わるんだよ。春分の日の次の最初の満月が出たら、その次の日曜日って決まってるんだ」
「へえ、二十四節気と月の満ち欠けを両方合わせた季節行事なのか? そいつは興味深いな」
そもそも付喪神は節目を大切にする物たちの集まりだ。
二十四節気や節句の行事、豆まきに七草に菊酒。いずれも古くからこの国で行われてきた厄除けの決まりごとだが、これらは今もなお、本丸という霊的な守りが重視される環境では欠かせないものとなっている。
生来キリシタンである彼女は、いずれも縁が遠かったようだが、本丸に来てからの行事ごとは、どれも参加のたびに本当に楽しそうだ。
鶴丸は興味深そうにしばらく端末を弄って調べていたが、不意にこう声を上げた。
「なあきみ、こいつは、オレたちでやるんじゃダメなのか?」
彼女は目をぱちくりさせた。
「鶴るんたちと?」
「なに、驚きはただ待ってるより、作ってみたいたちでね」
鶴丸は、ぱちんと軽やかにウィンクした。
彼女が望むものは、事の大小を問わずできるだけ叶えてやりたい。
「驚きってやつは刃生の妙薬なのさ。楽しいことはより楽しく、愉快なことはより愉快に。誰かと賑やかに分かち合える。そうだろ?」
この手で叶えてやれそうなことなら是非も無かった。
にまっと笑った鶴丸は、ずい、と距離を詰め、主の耳に囁く。
「その祭り、オレたちの手でやったら面白そうじゃないか?」
ぱぁっと表情を明るくして、彼女は破顔した。
「やりたい! やりたい、やろう!」
「卵があればいいんだよな? 厨に相談するのが良さそうだ。まずは光坊を巻き込むかな。どうせなら派手にやろうぜ?」
勘定番長の博多が眼鏡を押し上げながら
「毎年の恒例行事にするなら低予算が大事とよ!」
と主張した結果、準備も景品も低予算で工夫することとなった。
その結果が、これだ。
「確かに俺は刃物な訳だが」
ひょいっと鶴丸は、殻にカラフルにペイントされたゆで卵を宙に放って、素早く抜刀した。
空中でぐるりと一周するように刃が走る。綺麗に上と下に分かれた卵を、ひょいひょい、と鶴丸はキャッチして籠に入れると、また一つ籠から取り出して、同じ工程を繰り返した。
「料理包丁でもないのに、こうも卵を斬ることになるとはなあ! はは、驚きだぜ!」
「このゆで卵の殻にアタリかハズレのくじを入れるんだっけ?」
「卵型の入れ物なら何でもいいらしいが、なにせ、しっかり者の勘定番長から『低予算で!』と念を押されているからなあ。入れ物は買わずに調達しろとのお達しだ」
「料理包丁じゃ、せっかく主が一生懸命ペイントした殻が割れちゃうもんね」
「そろそろ百は斬ったか? 下手すると史上最も卵を斬った鶴丸国永かもなぁ」
「ふふ、卵切国永に改名する?」
「なるほどそりゃ格好つかないな! はは!」
こうして、コツコツと地道に準備を重ね、いよいよイースター当日と相なったわけだ。
準備段階から企画に携わった番長たち以外にはサプライズとなる、本丸を挙げた宝探しは、こうして盛大に開催された。
月一の主の帰還の朝は、門前に集合して皆で主を出迎え、そのまま大広間に移動して長谷部と共に全員へ伝達事項を伝える。これがいつもの流れ。
だが今日は、その時間をわざと長く引き延ばし、その間に鶴丸が、本丸のあちらこちらに卵を隠した。
鶴丸が大広間に戻ってきて、オーケーサインを出した所で準備完了、長谷部が号令する。
「では、第一回、イースターエッグパーティ、開始する!」
わっと刀剣男士たちが本丸中に散った。
「なあなあ! あたり見つけたらどうする!?」
「俺は現世警護に回してもらうつもりだ。あいつのそばに居られる時間は貴重だしな」
「僕、主さんと一緒に旅行いきたいな!」
「燭台切さんのご飯も魅力的ですよね」
「どうにも馬当番は慣れなくてなあ」
「畑仕事って朝が早いんですよねえ、もうちょっと寝てたいなーって」
「俺ぁ酒目当てだな。ちょうど武州の地酒がたらふく飲みてえと思ってたところだ」
わいわいガヤガヤと楽しげに散らばった面々は和気藹々としていて、物珍しい宝探しは実に盛況だった。
「あっ、これじゃない!?」
「わ、綺麗ですね!」
綺麗な紅で塗られた小さな卵に、美しい模様が点描で描かれている。
さっそく卵を見つけた乱藤四郎が蓋を開けてみると、中から飛び出してきたのは、あっかんべーの顔をしたびっくり箱だった。
「あはは! ハズレだあ」
「これは鶴丸さんのセンスですね」
「こーなったら絶対あたり見つけてみせるんだから!」
はしゃいだ乱が両手の拳をぐぐっと握って、張り切って声を上げた。
その横で、信濃が笑って周囲を手招いた。
「ふは、ねえこれ見て」
「ん?」
見れば、大文字で『あたり…?』と書かれた周囲に小文字で『……じゃないぜ、残念!』と書かれている。
覗き込んだ短刀たちは、思わず吹き出した。
「あっはは!」
「鶴丸さんらしいなあ」
堀川国広は、食器棚の奥から見つけた卵を、ドキドキしながらそぉっと開いた。
中には『おめでとう、見事なハズレだぜ!』と書かれた紙が入っていて、思わず堀川は「あはは!」と笑った。
「ハズレだぁ。兼さん、見つけた?」
「あー、空き部屋の引き出しん中に入ってたが、ハズレだな」
「ふふ、楽しいね、兼さん」
「ま、悪くねえ。あーっと、なんだったか、トースターエッグ?」
「だいぶ美味しそうだね。イースターエッグだよ、兼さん」
「そうそう、それ。イースター、悪くねえじゃねえか」
和泉守が、まんざらでもなさそうに笑った。
「顕現してからこっち、ま、それなりの歳月生きて来たつもりだけどよ。嬢ちゃんを主人に持ってからは特に、知らねえことばっかだな」
「ふふ、そうだね。あるじさんの文化を知るの、僕好きだよ」
「時代が変わりゃあ変わるもんだな」
「そうだね。僕らの時代には、異国の風習でこんなふうに一緒に遊ぶなんて、考えられないことだったもの」
堀川は、ひどく感慨深げにそう口にした。
特に和泉守と堀川たち新撰組の刀は、あの当時、否応無い異国文化の濁流と拒絶のせめぎ合い、その混迷の時代の最前線にいた物たちだ。
「まだまだ狭い世界で生きてたんだなあ、って思うことがあるよ。僕ら、こんなに長く在るのにね」
「嬢ちゃんの時代は寛容だな。ま、それで良いんだろうな」
ハズレのくじが入っていた、綺麗な卵の殻を、和泉守は光に掲げた。
「で? エッグってのは、卵だろ? イースターってぇのはどういう意味だ? 南蛮語だろ?」
「え、そういえばそうだね? なんだろう? 異国の言葉や行事はよく分からないや。宝探しって意味なのかなあ?」
「どれ、あとで嬢ちゃんに聞いてみっか」
きらりと陽光を弾いた卵は、彼女の手で大事そうに塗られた美しい模様を、誇らしげに和泉守の眼前に晒した。
「嬢ちゃんが俺たちに歩み寄るのと同じだけ、俺たちも歩み寄ってやんねーとな」
「うん、そうだね。知ろうとする気持ちが、何より大事だもんね」
「だな」
開始からしばらくすると、あたりの卵を見つけた面々が、徐々にぱらぱらと大広間に戻ってきた。
「あたり、見つけた」
「おお! 火車坊、よく見つけたなぁ!」
「一番乗りだね」
「どこにあったの?」
「池、ビニールに包んで、……沈めてあった」
「さっすが、火車坊は目が良いなあ」
鶴丸に褒められた火車切は照れたようにフードを深く被り直して
そわそわしながら、やがて、そっと主の側に寄って来た。
「俺、まだ、極めてない、けど……極めたら、その、一緒に行ってもいい?」
「もちろん。楽しみにしてるね、火車ちゃん」
「ん。それまで、とっとく」
火車切は微笑むと、あたりをぎゅっと大事に懐に仕舞った。
「見つけました」
「お、二番手は太郎太刀か」
「ずいぶん高いところにありましたから。短刀や脇差には見つけにくかったでしょうね」
ちら、と太郎太刀が鶴丸に視線をやる。
こういった催し物は、偵察値が高く目が良い短刀や脇差が有利だ。
だからこそ、皆平等に楽しめるように、短刀には見つけにくいところにもあえて隠したのではないか、と考えたのだ。
太郎太刀の視線の意味を、鶴丸は正しく理解したが、にこっと鷹揚に笑ってはぐらかすばかりだった。
「さて、貴女と現世を巡るのも悪くありませんが、私はこのなりですから、どこに行っても目立ってしまいますね。ここは素直に酒にしておきましょう」
「ふふ、次の旅行のお土産、たろちゃんとじろちゃんにもお酒買ってくるね」
「ええ、楽しみにしています」
「みっつけましたぁ!」
「うお、なんだ鯰尾、そのなりは」
「煤だらけだね」
自慢げに鼻の下を擦った鯰尾は、服どころか手足や顔まで泥まみれの煤だらけだった。
「鶴丸さんが戻ってきた時、服が朝と違ったから、汚れるような場所に隠してるはずだと思って! 軒下や屋根裏、とにかく汚れそうなところを徹底的に探しました!」
「おお、さすがの観察眼だな。お見事!」
「んんー! どれにしよっかなー!」
「あーあー、引き換えは後で受け付けてやるから、お前はとりあえず着替えてこい」
あきれたような声で長谷部がそう言って、鯰尾を風呂場の方へ追いやった。
それと入れ替わりに、歌仙が大広間に戻ってくる。
「見つけたよ。これだろう?」
「おっ、すごいじゃないか歌仙。こんなにあっさり見つかるとは思わなかったな」
「なんだいあの隠し通路、なんであんなところに抜け道作ったんだい。バカじゃないのか」
「はは! 驚いただろ?」
「呆れたんだよ。はあ。ほら、燭台切、交換だ」
「え、僕? 長谷部くんじゃなく?」
歌仙からあたりくじを受け取った燭台切が、目を白黒させた。
「きみならてっきり、畑当番か馬当番と交換するとばかり。飲みたいお酒でもあった?」
「この券があれば、何でも好きな料理をリクエストしていいんだろう? ほら、なんて名前だったか、前にきみ、言っていただろう。東北の郷土料理の。きみが好きだと言っていたやつ」
「え、あんな前にちょっと話しただけの、よく覚えてたね」
「覚えてたね、じゃないんだよ。主にきみの好物を聞かれてからずっと待ってたんだ。それなのにきみと来たら、待てど暮らせど、一向に作る気配が無いときた。まったく、人の好物ばっかり作ってないで、こういうのはね、たまには自分の好物も作るんだよ。おかげでいつまで経っても作り方を覚えられないじゃないか」
「……わぁー」
「おー、やるなあ歌仙。伊達男をこうも赤面させるたぁ、激レアだぜ? こりゃいいもん見た」
「鶴さん茶化さないでって…ちょっと、あんまり見ないで」
「ふふ、楽しみだなあ。みっちゃんが大好きなお料理」
「お願いだから追い討ちかけないで! 僕、今すごくカッコ悪い顔してるから!」
「みっちゃんはいつでもかっこいいよ」
「そういうの今いいから! お願い!」
耳まで赤い燭台切に、主や番長たちの明るい笑い声が響いた。
その後も、あたりくじを持ち帰る者がまばらに出て、各々が好きなものと交換していった。
やがて、ハズレもすっかり皆に行き渡る頃、太陽が頂点に登り、時計を確認した長谷部が本丸のスピーカーに号令した。
「それまで! 終了だ。皆、大広間に戻るように」
わいわいと楽しげに皆が広間に戻って来る。
長谷部は、戻ってきた者たちをぐるりと見回って確認したが、追加で見つけた者は居なかったらしい。
「おい鶴丸、あたりの数が一つ合わないが」
「さすがに誰も見つけられなかったか。驚きの隠し場所だったからな」
鶴丸は、ひょいっと長谷部からメガホンを取ると「あーあー」と声を出した。
「あと一個、驚きのあたりが隠してあるぜ! 見つけた奴は、オレのとこに来てくれよな。隠し場所が合ってれば、後からでも景品と交換してやるが、……あー、あたりくじだけ捏造して持って来てもダメだぜ?」
鶴丸がそう笑って釘を刺した。
びくっと肩を跳ねさせた刀が何振かいたので、こっそりズルを検討していた者がそこそこいたらしい。
まあ、それだけ景品が魅力的だった証だろう。
ごほん、と長谷部が咳払いする。
「ハズレの卵は記念品だ。各々好きに持ち帰るように。では、解散!」
こうして最初の年の宝探しは、大盛況に終わった。
あたりの卵を一つ、行方不明にしたまま。
* 最後の卵を探しますか?
▶︎ はい
いいえ
※続きは「こちら」を読了後にお読みください
→葬送 https://privatter.net/p/11396429
「あ」
乱藤四郎は、駄目になってしまった畳を剥がした拍子に、そこに隠されていたカラフルな卵を見つけた。
かなり古いものだ。煤で汚れ、端の方はすっかりカビが生えている。
だが、息を呑んだ乱は、汚れたそれを、そっと両手で大事にすくいあげた。
「あれ? 乱、それ…」
「! どこにあったんだ!?」
「……大広間の畳の下に……」
「え」
「え!?」
「え、なんで」
「……あ。ああー!!」
いち早く絡繰を察した鯰尾が、指をさして大声を上げた。
あれから毎年恒例になったイースターだったが、流れはいつも同じだった。
長谷部がみんなを大広間に集め、連絡事項を伝えている間に、鶴丸が本丸中に卵を隠す。
戻ってきた鶴丸が、皆に見えるように大きくオーケーサインを出し、長谷部が号令。
皆は大広間から方々に散って本丸中を探し、番長たちが待つ大広間に持ち帰る。
そう、いつも、その流れだった。
だから誰も思わなかったのだ。
本当は鶴丸が
その一つだけ、前日の夜の内に隠しておいたこと。
みんながいるスタート地点、誰も探さない盲点、『無い』と思い込む場所に。
「ああ、そうか、そういうことか」
合点がいった長谷部が、納得して唸った。
今にして思えば、皆に見えるように大きく広間で毎回サインを出していたのも、この驚きを仕込むためだったのだろう。
灯台下暗し。最初から皆の足の下にあったのだ。
そういう視点で思い返せば、鶴丸の行動はいくつも腑に落ちた。
鶴丸はとにかく、誰かの裏を掻くのが得意な刀だった。
「道理で見つからないわけだ。すっかり騙されたな」
「乱、お前、よく見つけたな」
毎年恒例となった宝探しは、刀達が偵察の訓練に力を入れるモチベーションにもなっていた。
だから番長達も、より積極的に開催を支援し続けたし、晩年まで欠かすことなく続けて来た。刀達も皆、気合いを入れて探していた。
そんな中でも、誰にもずっと見つからなかった、最初で最後の卵だったのだ。
「長谷部くん、これって……」
「……あたりの数が最後まで合わなかったのは、最初の年だけだったはずだ」
乱が、そっと慎重に、卵の殻を開いた。
中には『あたり!』の文字が踊っている。
とうに色褪せているが、悪戯めいたそれは、間違いなく、もうここに居ない一振りの筆致だった。
乱が、じわ、と涙を浮かべた。
「僕、僕、あるじさんと旅行にも行きたいし、一緒にご飯食べたいし、現世の警護にも行きたいし、それから、それから、」
喉を詰まらせて、わっと泣き出した乱を、周囲はそっと支え、背をさすった。
乱は喉を枯らして泣いた。
「ひ、ひぐ、……鶴丸さん、お、オレのとこ持ってこいって、後からでも交換してやるって、言ったじゃん、うそつき、わぁあん!」
乱は声を上げて泣いた。
この本丸のどこからでも見える裏の丘の桜は、今年も咲かない。
最初の主と初鍛刀を同時に喪って、二度目の春だった。
涙ですっかりぐしゃぐしゃになってしまった、ボロボロのソレを、乱は最後まで捨てようとしなかった。
燭台切がどんな料理を作ると言っても、長谷部が当番を代わってやると慰めても、乱は泣いた。
引き出しの奥の奥。
一番奥に、見えないように仕舞い込まれた、涙が染み込んだ、色褪せたその『あたり』を。
その朝、乱藤四郎は
大急ぎで引っ張り出して、玄関の外へと一目散に駆け出した。
「はっ……はぁっ……!」
あまりに懐かしい気配に満ちた金色の霊力が、本丸に満ちあふれ、春風のように吹き抜けていく。
乱は、息を切らせて走った。
どこまでも空高く澄み切った青空の下で
すっかり色褪せた『あたり』が、息を吹き返したように、暖かな春風に揺れる。
イースターとは。
春分の日から最初の満月の次の日曜日と定められた
春の女神を語源とも言われる『復活祭』のことである。
うららかな春の陽射しの中、桜の根の下は掘り返され
既視感を覚える黄金の霊力を宿した一人の少女と、泥にまみれた錆だらけの一振りが
ただいまの一言を口にする前に
大泣きした乱に突進されて仰向けに倒れ込んだ。
《イースターエッグとタイムカプセル》
百年以上ぶりに咲いた金色の桜が舞う
それはそれは美しい春のことだった。