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キリシタンすり抜け主と刀剣男士〜九曜と竹雀、千年の縁の先へ〜

2025-03-01 20:31:32

歌仙と大倶利伽羅の九曜と竹雀の縁のお話です
「葬送」読了後推奨

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https://privatter.net/p/11396429

《九曜と竹雀〜千年ちとせの縁の先へ〜》

「あのね歌仙、聞きたいことあるんだけど、いーい?」
「うん? どうしたんだい、主。何でも聞いてごらん」
「歌仙は、いつから仲が良いの? 伽羅ちゃんと」
「ごほっ」

気持ちの良い秋晴れの晴天の下、機嫌良く鼻歌を歌いながら布団を干していた歌仙が
いたく無邪気な不意打ちを喰らって、気管に何か詰まらせたみたいに派手に咽せた。

いたいけに小首を傾げた主が、青空の下で、にこにこと微笑んでいる。
びっくりするほど派手にげほげほと咽せた歌仙が、やがて気持ちを立て直したらしく、シャキッと背筋を伸ばし、まるで最初から何事も無かったかのように澄まし顔を作った。

「あー、すまないね、よく聞こえなかったようだ。あの無骨者と僕が、なんだって?」
「歌仙が伽羅ちゃんと仲良くなった時のこと、わたしも知りたいなぁって」
…………
「だめ?」
…………僕の主に余計なことを吹き込んだのはどこの無粋者かな?」
「あのね、わたしがね、歌仙と伽羅ちゃんって仲良いよね? って聞いてみたらね、『歌仙くんから直接聞いてみたらいいんじゃないかな』って、みっちゃん笑ってたよ」
「よりによって燭台切、きみか……

経緯によっては手打ちにしてやろうかと思っていたというのに、挙がった名前は絶妙に怒りにくい相手だ。
純粋な親切心だろうことがわかるだけに、浮かべていたであろう食えない笑みがかえって腹立たしく、歌仙は頭痛をこらえるような顔をした。
歌仙の大事な主は、秋晴れの下で嬉しそうに、とてもにこにこしている。

「あー、そう判断した根拠を聞いても?」
「歌仙ね、この前、雷落としてくれたでしょ、伽羅ちゃんに」

微笑んだ主が口にしたのは、先日、第一部隊が手傷を負って帰還した時のことだ。



その晩、第一部隊が就いていたのは、前線本丸の補給路に湧いた時間遡行軍を討伐する任務だった。
主人が本丸に常駐できないため、後方支援を中心に請け負う形式となっているこの本丸では、比較的よく就く慣れた任務形態であり、普段であれば深傷を負うことは無いはずの戦闘だった。

だが、その時、前線に立っていた部隊は、新人に近い審神者が指揮する隊だったらしく
初期刀と思われる山姥切国広が、重傷を負った小夜左文字を庇いながら、独断で補給路まで撤退してきてしまったのだ。

「識別番号×××号本丸、第一部隊隊長、山姥切国広だ。すまない、隊列が崩壊した際に味方を一振り見失った。重傷を負った秋田藤四郎だ。今オレとこいつだけ撤退すると、あいつが戦場に取り残されて手遅れになる」

腹に中傷を抱えながらも、たった一振りで何とか意識の無い小夜左文字を守り切って補給路まで下がってきたらしい山姥切は、土下座せんばかりに悲痛に頭を下げた。

「恐らく傷を抱えて近くの山林に身を潜めて救助を待っていると思われる。討伐すべき時間遡行軍を補給路まで引き連れてきた挙句にこの頼みだ、虫が良いのは分かっている。だが、どうか、力を貸して欲しい」

血まみれの布を被り直す余裕も無い様子で、切羽詰まった表情で山姥切は必死に言い縋った。

「せめて、小夜こいつだけでも保護してくれれば、その間にオレが必ず秋田あいつを見つける。だから!」
「この馬鹿ッ!! その傷とその練度で戻ったらみすみす折れに行くようなもんだろうが! 寝言いってねえで御守りこいつ持って二人まとめて下がってろ!!」

ぽいっと自分の御守りを投げ渡した加州清光が一喝して、他本丸の山姥切の背後に迫って来ていた時間遡行軍をばっさりと斬り伏せた。

怒号に目を白黒させる山姥切を迷わず背に庇った加州清光が、白刃を立てた。
一閃、鍔迫り合いが拮抗する。初期刀が極めてすらないような新米本丸に任せるような強さの敵ではない。
加州清光は高らかと、戦場に声を張り上げた。

「おい野郎ども! 分かってんな? こういう緊急事態でうちの主が下しそうな命令は!?」
「決まってる。『ぜんぶ助けてみんな無事に帰って来て』だろう」
「だよなぁ! やるぞ、野郎ども!!」

夕陽色の鉢巻を鮮やかに翻したうちの本丸の山姥切が、加州の背に迫った敵を斬り伏せながらすかさず答えた。その背後で他本丸の山姥切が、初めて見たのか自分の極の姿に驚いて目を丸くしている。
加州清光の出した指令に、隊が素早く呼応する。手傷を抱えた他本丸の山姥切国広と小夜左文字を中心に、円陣を組むように防御体制を敷く。その隙に加州が本丸と手早く通信した。

「こちら加州清光、他本丸の山姥切国広から救助要請。重傷の小夜左文字と共に保護したまま捜索隊に人員を割きたい。作戦指揮求む」
『こちら鶴丸国永、状況把握した。隊を二つに分ける。甲隊、加州清光と大倶利伽羅。補給路の戦線維持と怪我人の保護を同時に行う。乙隊、二振りが敵を引き付けている間に偵察に向いた短刀と脇差で最短で捜索にかかる。短期決戦だ。後者の道は山姥切、お前が斬り拓け』
「オーケー」
「了解した」
『甲隊の戦線維持の限界がタイムリミットだ。戦線が崩れた段階で、捜索を打ち切って先に保護した二名のみ回収する。いいな』
……! 感謝する!」
『乙隊、夜明けまであと一刻も無い。それまでに決着を付けてくれ』
「ああ、了解した」
「んじゃ、おっ始めるか! 散開!」


うちの隊の山姥切国広が、一閃、派手に白銀を振りかぶって、雄叫びを上げながら正面切って敵軍を突破し、短刀と脇差を連れて戦場を一気に駆け抜けていく。

残された加州清光と大倶利伽羅が、互いの背中を庇い合うようにしながら、怪我人二振りと補給路を護って大立ち回りを演じる。

「おらぁ!!」
「貴様の相手は俺だッ!!」

夜闇に白銀が踊り、血飛沫が舞う。

本来なら隊で揃って戦うべき前線の時間遡行軍と、二振りだけで剣を交えている上に、怪我人を二人も連れている。

戦力の比率の内、かなりの割合を捜索に回している。夜戦に有利な短刀と脇差を全て取られているこの状況では、さすがに不利だった。

だが、この程度の逆境を守り抜けないようでは、要人警護本丸を名乗る資格は無い。
足手纏いとなる負傷者を抱えて戦うこの状況は、ある意味では要人警護本丸の真骨頂だった。

背中同士を擦り合わせるように互いを支え合った加州清光と大倶利伽羅が、上がる息を抑えながら、不敵に口角を上げた。

「は、どーよ、夜明けまで保ちそ?」
「分かりきったことを聞くな。眼前の敵は全て斬る、それだけだろう」
「へっ、だよな。いっちょ派手に暴れますかってね!」

ここまで来たら、慎重な消耗戦ではなく短期決戦に差配を振った鶴丸の判断を信じるだけだ。


藪の中、失血で体温が下がって動けなくなっていた、まさに折れる寸前の秋田藤四郎を、捜索隊が発見したのは、夜明け前ぎりぎりのことだった。
朝陽が差すのと同時に、怪我人と補給路をなんとか護り抜いた加州清光と大倶利伽羅は、合流した捜索部隊にはっと息を吐き出した。やり切ったのだ。賭けはこちらの勝ちだった。


意識の無い秋田を、泣きそうな顔で固く抱きしめた他本丸の山姥切国広は、自らの主の強制帰還で消える刹那、ハッとこちらを向いて
「恩に着る!」
と必死に声を上げていた。

二度と会うことは無いかもしれないが、それでも良かった。
共に戦う無数の本丸と、縁が交わる機会は多くない。それでも、歴史を護るという同じ旗印の下に戦う同胞たちだ。
まだまだ始まったばかりだろう彼らの未来が、折れた仲間の喪失と永遠に供する定めとならなくて良かったと、心から思う。



こうした予期せぬトラブルに、帰還した加州清光は中傷寄りの重傷、大倶利伽羅が重傷寄りの中傷、山姥切国広が中傷、他の刀は軽傷だった。
たった二振りで補給路も怪我人も護り抜いた打刀二振りはもちろん、捜索に回るべき短刀と脇差に極力怪我をさせないために可能な限り全ての敵を自分に引きつけ血路を拓いた山姥切国広もまた、それなりの深傷を負っていた。

夜が明け始めたばかりの早朝だったが、主は飛んできてくれて、素早く手入れを始めてくれた。
最初に手入れ部屋に入ったのは一番敵を引きつけて傷が重い加州清光だ。

手入れ部屋が空くまでのわずかな間は、この本丸では、隣に併設した医務室で薬研の診察を受けながら順番を待つことと定めてある。
治療するためではない。薬研から治療順番判定トリアージを受けるためだ。

この本丸は主の意向により、医療的なマニュアルが非常に充実しているのが特色である。
故に、『手入れの順番を主が判断する』というほんのわずかなタイムラグすらも潰して最速の治療を試みるために、その判断は薬研が請け負う、ということになっているのだ。
その薬研の素早い判断を支援するため、怪我人を順にベッドに誘導したり、服を脱がせ泥を落として傷の程度を明らかにする役目は、その時に本丸に待機している刀でその都度分担する体制を取っている。この日は歌仙の役目だった。

加州清光の手入れが素早く終わった瞬間、「大将、次を頼む!」と薬研の声が上がり、手入れ部屋に誘導されたのは、山姥切国広だった。

ちょうど短刀たちの傷を全員確かめ終わった所だった歌仙は、眉根を潜めた。
おかしい。歌仙が確かめた限りでは、大倶利伽羅の傷は、山姥切国広より深かったはずだ。

嫌な予感がして、歌仙は、出口に一番近いベッドのカーテンを勢いよく開けた。中はもぬけの殻だった。
故にトリアージの順が狂ったのだ。

顔を顰めて医務室の外に飛び出した歌仙は、ベッドを勝手に離れ、回り込んだ土間の方に身を潜めようとしていた大倶利伽羅を見つけて、その首根っこをすかさず捕まえた。
「どこに行く気だい」
……どこに行く気でも無い。早く医務室に戻って他の連中を診てやれ」
「は? それはこっちの台詞だが? 次こそきみの番だ、今すぐ戻れ」
「俺は後で良い」

堪忍袋の緒が派手に切れる音がして
その瞬間、歌仙の怒号が落ちた。

「ふざけるな!!!! いくら主がきみの勝手を許しているからって、許せる勝手と許せない勝手があるんだよ!!!」

窓ガラスをビリビリと震わせる一喝だった。

手入れが終わって消耗して寝ていた加州清光も、寝かされていた軽傷の短刀たちも、それどころか他の寝室の刀たちすら、びくっと跳ね起きるような、本気のブチギレの大声だった。

耳が痺れて馬鹿になるような激怒の一喝に、きぃんとした耳鳴りを抱え、片耳を押さえながら、さすがの大倶利伽羅ですら目を白黒させて固まった。
そこで歌仙は、大倶利伽羅を手入れ部屋に問答無用で引っ張ってぶち込んだのだった。



「怒鳴り声が中まで聞こえて来てたよ。ありがとう歌仙」

優しく微笑んだ主は、そういって歌仙をどこか嬉しそうに労った。

「伽羅ちゃんの姿が見えなかったら、わたし、すごく心配したと思う。私の代わりに伽羅ちゃんに怒ってくれたんだよね」

あまりにまっすぐで飾り気の無い主の言葉に、決まり悪そうに頬を掻いた歌仙が、視線をうろうろと彷徨わせ、「あー、主」と言いにくそうに口を開いた。

……その、だね。確かに彼の独断専行は目に余るし、僕も叱り付けたが、あれも恐らく悪気があったわけでは」
「大丈夫、わかってるよ。自分より先に他の刀を治療して欲しくてしたことだよね。あの日は怪我人が多かったし、新参で不安がってた短刀も早めに手入れしてあげて欲しかったんだと思うから」

懸念を苦い表情に乗せて躊躇いがちに進言した歌仙に向けて、主はふわりと安心させるように微笑んだ。

「打刀の性分なのかな。口先ではどんなにそっけなくても、いざとなるとどうしても『庇う』が染み付いてるみたい」

金色の瞳を優しく細めた主は、そんな大倶利伽羅にどこか誇らしげに、穏やかな口調で言葉を重ねる。

「けど、トリアージの順番を狂わせる勝手は、他の刀が真似したら致命的になりかねない危ないことだもの。戦場の規律ルールの勝手は、見逃すと後で誰かの命取りになりかねない。そうだよね」

だからね、初鍛刀に短刀を呼ばなかった私に、鶴るんがあんなにも深く深く深く怒っていた理由、今ならちゃんと分かるよ、と。

この本丸で経験を重ねた主は、そう言って穏やかに微笑んだ。

「んー、仲間を頼るのも後を任せるのも大切なことだけど、伽羅ちゃん、どうしても『俺は頼らない、お前たちも頼るな』ってとこあるよね。頼もしいけど、やっぱり周りに真似はしないで欲しいなぁ」

伽羅ちゃん、傷がある間は、本丸に帰っても心が戦場から戻って来ないみたいだって、みっちゃんが耳打ちしてくれたから。
大丈夫、ちゃんと理解してるよ、と。

小首を傾げて無邪気に微笑む彼女は、大切そうに言の葉を舌に乗せた。

「独りで動ける自分は他に迷惑を掛けないからいいだろう、って自分の傷を軽視しがちな伽羅ちゃんを、迷わず捕まえて心配して叱ってくれてありがとう。歌仙がいてくれてよかった」
…………僕が言うまでもないことだったね」

何もかもお見通しな主人に苦笑いをした歌仙が、小さく肩をすくめた。
手放しで『大切』『大好き』と事あるごとに伝えてくれるような愛情深い主だが、刀剣男士に対して必ずしも盲目的になるのではなく、きちんと負の側面も見ている。それは、戦場の指揮官としては頼もしいことだ。
だからこそ自分たちは、迷わず振るわれることができている。

「でね、その日の晩、宴に伽羅ちゃんの好物が出てたでしょ」
小首をふんわりと傾げながら、彼女は嬉しげに微笑んだ。
「食べてみたら、いつものみっちゃんと味付けが違ってね、歌仙が作ったって分かったの。でね、みっちゃんじゃなく歌仙が伽羅ちゃんの所に持ってくとこ見たから」

無言でぐいっと酒瓶と好物を大倶利伽羅へ押し付ける歌仙を見たのだと。
そう口にする主に、歌仙が決まり悪そうな顔をして視線を泳がせた。

「伽羅ちゃん、バツが悪そうにしてたね。みっちゃん怒らせた時とおんなじ顔してた。『あれは相当へこんでる顔だぜ』って鶴るんも言ってたしね」
くすくすと愛情深げに笑んだ主は
「ふふ、伽羅ちゃん、しょんぼりする時、火車ちゃんとそっくりな顔するんだね」
そんなふうに愛おしそうに自分の刀を語った。

改めて思い返せば、宴のたびに、伽羅ちゃんが好きな酒瓶を、みっちゃんではなく歌仙が配りにいっている場面も時折見かけたのだ、と。
そんなとき、本来なら馴れ合いやお節介を嫌うはずの大倶利伽羅が、いつものように「余計なお世話だ」と無碍にしたり拒否することなく、短く「ん」と相槌を打って黙って受け取っている姿を憶えていたのだと。

大倶利伽羅は馴れ合いこそ嫌うが義理堅い一面があるから、恐らく彼にとって歌仙は、少なくとも酒を突っぱねることができないような、義理のある相手なのではないかと憶測を立てたことを主は語った。

これだけ揃えば、歌仙が一見正反対に見える大倶利伽羅を日頃から気にかけているのは明らかだったし、本気で『叱る』というのは相手を大切に思わなければできないことだから、と。

……参ったね、本当に良く見ている」
「歌仙のことも伽羅ちゃんのことも大好きだもん、当たり前だよ」

本当に当然のことだと、まるで青空が晴れているとでもいうような当たり前さで、主は口にした。

「だから、知りたいなあって思ったの。だめ?」

無邪気な主の問いに、
歌仙は苦笑いすると、降参を示すように両手を上げた。

「遡れば古い話になるが、僕の元主と彼の元主は、実は縁が深くてね。彼らは古馴染みの悪友──竹馬の友、というやつだったんだ」
九曜と竹雀の古い縁を口にした歌仙に、ぱち、と瞬いて目を丸くした主は、ふわっと表情を明るくした。
「わ、そうなんだ! 素敵だね。じゃあ歌仙と伽羅ちゃんも昔からお友達だったの?」
「まさか。きちんと腹を割って話したのは、こうして無数の本丸に顕現して力を貸すようになってだいぶ後の話さ。それまでは、もうとにかく反りが合わなくてね。何度大喧嘩したか知れないよ」

まあ、僕もまだまだ青かった頃の話だよ
そう言って歌仙は、秋晴れの空を見上げた。

「一方的に測って決めつけるような真似をしたのは良くなかったと反省しているよ。あれは僕とはまるで異なるが、それでも彼なりの美学と矜持の下で生きる良き刀だ」

しみじみと口にしてから、ひどく温かな目でこちらを見つめる主人をはたと振り返った歌仙は、きまり悪さを誤魔化すように、ごほん、と咳払いした。

「まぁ、だからね。どうしても目に付いてしまってね。仲が良い、と表現できるようなものかは甚だ疑問だが、ごくごく稀に差しで飲む程度には」

主がぱぁっと無邪気に目を輝かせたので、歌仙は座り悪そうに、照れくさそうに頬を掻いた。

「まあ、この本丸では、あれも、ああ見えて伸び伸びやってるんだろう。何せこの本丸じゃ運営の中核が彼と最も疎通が取れる伊達刀たちだし、あれが先の事件の誉であることは疑いようが無いしね」

折られかけた鶴丸国永に迫る凶刃を寸での所で防いだのは、単独行動をしていたが故に真っ先に駆け付けることができた大倶利伽羅だった。
主は、彼を番長システムを中核とした主要な指揮系統の外に置いている。いわば、主直轄の遊撃隊といった特殊な立ち位置に置くと決めたらしい。その判断がこの本丸を救い、皆があの日の大倶利伽羅の判断と功績を認めている。

主の適度な放任主義と他の刀からの評価の高さが相まってか、この本丸では、大倶利伽羅と他の刀の衝突が極端に少ない。
いささか表面的な協調性には難のある大倶利伽羅だが、性根の部分では決して冷酷や薄情の類いではないのだと、他ならぬ主が正しく理解しているからだ。
孤高の男ではあるが、孤立ではない。そんな酷く難しいはずのバランスを、この本丸は実現している。

「ふふ、ふふふ。嬉しいなあ」

彼女はそう笑って
二人の話に、とにかく嬉しそうだった。

歌仙兼定と大倶利伽羅の
元主のような竹馬の友と呼ぶにはいささか遠く、戦友と呼ぶだけでは足りないような
そんな形と名前の無い在り方は

九曜と竹雀の縁から続く
遠い過去の忘形見のような何かだ


「ふふ、とっても素敵だね。歌仙と伽羅ちゃんの昔の主さん、その人たちの縁が、形を変えながら、途切れずにうんと遠い未来まで続いていくんだね」

歌仙の隣に腰を下ろした主は、置かれた歌仙の手に嬉しげに自分の手を重ねた。

「鶴るんがね、言ってたんだ。きみがオレたちと百年先の未来に生きたいと願うように、オレたちも千年先の未来まできみと生きたいと願っている、って」

彼女は笑いながら歌仙の小指に指を絡めて、本当に嬉しそうに笑った。

「千年先の未来まで、ってこういうことなのかな」



────そんなふうに笑った彼女と過ごした日々も。
今はもう、セピア色の写真のように、遠い昔日の思い出だ。




「すまない。少し良いか」

演練先の部隊長、山姥切国広が、夕陽色の鉢巻を颯爽とたなびかせながら、加州清光のもとに歩き寄って来た。

「元識別番号×××号本丸、山姥切国広だ。この御守りに見覚えは無いだろうか」

ボロボロの御守りに、手刺しの刺繍で「かしゅー」と縫ってある。
加州清光は大きく瞠目した。

「これ、彼女の!」
「ああ、そうか! やはりか。守備を徹底した独特の戦い方に見覚えがあった」

表情をひどく柔らかいものにした山姥切国広は、ひどくほっとしたような顔で双眸を綻ばせた。

「憶えているだろうか。もう一世紀近くも前のことだが、前線で戦線崩壊を起こして、補給ラインを死守する後方支援本丸に助けを求めた山姥切国広と小夜左文字、そして命懸けで救出してもらった秋田藤四郎がいたことを」
!! あの時の」

加州は古い記憶を辿った。
そうだ。あの時、加州は、後ろに下がらせた重傷の小夜左文字と中傷の山姥切国広に、自分の御守りを投げ渡したのだ。
彼女が一人一人に手刺しした御守りを、見ず知らずの本丸相手に、加州は惜しむことなく譲り渡した。今の今まですっかり忘れていた。自分たちの本丸にとってはあまりに当たり前の判断だったから。

「あの時は本当に助かった。本当に心から感謝している。ようやく見つけた。あれからずっと、これを持って演練場をくまなく回ったが、何十年経ってもついぞ見つからなかったから、もしやあの本丸に何かあったのではないかと心配していた。こうして礼が言えて本当に良かった」
「あっ、そうか……! 彼女の時代は俺たち、演練に出るの禁止だったから……!」

外部との接触を絶たれた特例の本丸だった先代の時代だ。いくら演練場を探しても見つからないわけだった。
こうして探してくれていたなんて思いもよらなかった。

「俺たちのかつての主人も、言葉にできないほど本当に感謝していた。代わって礼を言わせてくれ」

深々と低頭した山姥切が重ねて礼を言って、右手を差し出した。
あの頃と違って、極めた姿もすっかり堂に入った、凛とした姿だった。

「改めて、山姥切国広だ。主を見送った今は、政府に所属している」
……あの時の子たち、元気?」
「ああ。小夜も秋田も本当に頼もしい仲間だ。あいつらがいなければ、俺たちの本丸はどうなっていたことか、想像するだに恐ろしいくらいだ。あんたたちの本丸には本当に救われた。感謝している。返しようがないほどの大恩だ」

握手を返した山姥切は、どこか茫然とボロボロの御守りを握ったままの加州清光の左手を、両手でしっかと握って、深々と頭を下げた。

「ありがとう。ありがとう。どれほど感謝しても足りないくらいだ。見知らぬオレたちを助けてくれたあんたたちに、そして惜しみなく決断してくれたあんたたちの本丸と主に。本当に感謝している」

せめて、本丸の識別番号を聞いておくべきだったといくら悔やんでも遅かった。
政府に所属して、データベースを閲覧できるようになっても、残された手がかりがあの時の隊員メンバーの名前とこの御守りだけでは探しようがない。あの当時、補給隊の戦線維持に関わっていた後方支援本丸は星の数ほどあったのだ。演練場での仕事を積極的に受け、御守りを持って地道に足で探して回る以外に方法は無かったのだ。それでも百年近く見つからなかった。それでも諦め切れずに探していたのだと。

「大切な主を見送った後、オレは、どうしていいか分からなくて、ずいぶん長く立ち尽くしたが……あの日のあんたたちのように、オレも誰かに迷わず手を差し伸べられる刀でありたいと思ったんだ。だから今、政府で力を尽くしている。その決断は間違っていなかったと今なら迷わず言える。あんたたちの背中は、長らくオレの指針だった。感謝してもしてもし尽くせない」

思いもかけずに時を越えて戻って来た彼女の手縫いの御守りが、加州の手の中で火傷して熱いぐらいだった。
ああ、彼女が遺した意思が、今も生きているのだ。

手の届く限りぜんぶ拾う。そんな誰も見捨てない彼女の信念が、こうして知らないどこかで今も息づいていた。
思わず滲んだ涙が、ぽつりと御守りに落ちて、慌てて加州清光は目を擦った。

「はは、彼女とあいつに聞かせたかったな」
……オレたちを助けてくれた、あんたたちの主は」
「文句無しの大往生だったよ。今は本丸の桜の下で眠ってる」
「そうか。……迷惑でなければ、一度、手を合わせに行っても良いだろうか」
「きっと喜ぶよ」


政府の山姥切国広は、懐から名刺を取り出すと、個人の連絡先と思われる通信番号を走り書きした。
「今は主に庶務課のトラブル相談窓口で仕事をしている。機密上外部に漏らせないような話の愚痴聞き役を兼ねた、まあ要は何でも屋みたいなものだ。何でも連絡して来て欲しい。力になる」
「ありがとう。あの子には、どうしようもなく敵が多いから、助かるよ」
……訳ありか」
「まあね」

すっと目を細めた山姥切国広が、加州清光の手を固く固く握った。
「力にならせて欲しい。かつての主と、あいつが見届けられない未来であんたたちを見つけたら、きっと恩を返すと約束したんだ。オレにその誓いを果たさせて欲しい」
「ありがとう。そうまで言ってもらえて、本当に幸せ者だな。彼女に大事な土産話ができたよ」



次の仕事の時間が迫っているからと、名残惜しそうに、しきりに振り返りながら立ち去っていった山姥切国広を見送って、加州清光はしばし立ち尽くした。
「急に『今日は十五分遅刻しましょう』なんて言うから、何だろうと思ったけど、……ねえあるじ。俺と会わせたかったのは、あいつ?」
「はい。今朝」
「ん、そっかぁ」

加州清光の指を握った次代の主は、この極端に精度の高い『先見』の能力のせいで、多くの敵から今も命を狙われ続けている。
だが同時に、縁の糸を懸命に辿って、本来ならば結び直せないようなかすかな縁を捕まえて結い直すことで、綱渡りで首の皮一枚、未来を繋いできた。
唯一殺されずに元服を迎えられる可能性があるからと、瑕疵本丸扱いで半ば封鎖されていた俺たちの本丸にやって来たあの日のように。

つい先日、元服を迎えたばかりの二代目は、加州の手の中に残されたボロボロの御守りを、そぉっと指で辿った。
手縫いの『かしゅー』の文字を、愛おしそうに。あの山姥切が微笑んで、きっとあんたたちの元に戻るべき物だと、そう言って置いて行った。
「先代の、────おばあちゃんの字ですね」
「うん。鶴丸国永あのバカが、あまりにも自分の御守りをこっそり人に譲ってばっかだったモンだからさ。壊れたやつと勝手にすり替えたりできないように、彼女、忙しいのに一振り一振り手刺ししたんだ。ちゃんと全員戻って来てくれますようにって祈りながら」

あまりに懐かしい思い出話だった。痛みを伴うので口にすることも無くなっていたような、古く温かな、自分たちに寄り添い続けた彼女と今は居ないあいつの記憶だった。

加州は少し震えながら、二代目のまだまだ小さい手を強く握り返した。

「ありがとう、あるじ。彼女が遺してくれた大事なものを、こんなにたくさん俺たちの手に届けてくれて」

そう言って、加州清光は唇を噛み締めて俯いた。
涙がぽつり、ぽつりと演練場のコンクリに跡を作る。

「彼女が助けた命のリレーは、こんなとこでも続いてたんだな。彼女、血縁は誰一人俺たちに遺してくれなかったけど、彼女が助け続けた命でこの世界があふれてて、だからぜんぶ護りたくて、……それをいちばん最初に、俺に教えてくれた」

ぎゅっと握った次代の手はずいぶん大きくなったけど、加州の中では折れそうなほど小さかったあの日のままだった。

彼女が助けた赤ん坊が、二代目としてこの本丸にやって来てくれたあの日から。
途切れたはずの彼女の物語は今も続いている。


次代は、加州清光の頭をそっと撫でて「帰りましょう、清光」と微笑んだ。
血は繋がっていないのに、不思議と彼女を思わせる優しい微笑みだった。
「みんなと先代に早く教えてあげましょう。ね?」
「ん。……帰ろう、俺たちの本丸に」


《九曜と竹雀〜千年ちとせの縁の先へ〜》



◼︎こぼれ話

《新設本丸について》
※この本丸は「御伴散歩が実装後」「異去の自動行軍実装後」などを特色とする「新しい世代の本丸」である。
※故に「古い世代から在るベテラン本丸」たる「ミュ本丸」「ステ本丸」「映画本丸」「回想」などで起きた出来事やトラブルを、刀剣男士達の一部は経験として記憶を引き継ぎ、最初から前提としている。
※つまり、「回想:九曜と竹雀」「義伝」などにおける歌仙と大倶利伽羅のぶつかり合いは、星の数ほど多くの本丸で発生し、同時に多くの本丸で既に和解が成立している、ということである。
その経験を本霊に返した個体が多く居る中、それを前提として新たに顕現したのが今の歌仙や大倶利伽羅だ。
※このため、この本丸に顕現した刀剣男士達の多くは、まるで既にどこか古い本丸を一度経験してから、この本丸に来たような振る舞いをしている。
※これは、今回の例のように、穏やかな顛末を呼ぶこともあれば、光忠がいわゆるブラック本丸の記憶をかなり色濃く引き継いでしまったことなど、事故が発生することもあるので良し悪しである。

《編成について》
※今回の編成は「極カンスト99の加州清光、それに次ぐ極打刀まんばと伽羅、熟練極短刀と極めたて脇差、特短刀」で夜戦、という構成だった。
極打刀三振りが未熟な短刀をカバーしながら、熟練極短刀を手本に、実践経験を積ませる場だった。極カンストと極めたて脇差の二刀開眼のタイミング合わせも兼ねてる。
そこに発生したトラブルだったため、夜が明けてしまうと特付き短刀が著しく不利になる。故に短期決戦、救助を最優先した。
※仮に長期戦を選んでいれば、夜が明けて秋田が敵に発見されたり失血に耐えきれず折れたりする方が先だったので、鶴丸の差配は大正解だった。

※なお、「スロット3レア打刀」は、設定上「太刀寄りの打刀」という解釈になっており、太刀のように「馬上戦を得意とするが、打刀の中で比較すると夜目が効きにくい」という特性を持っている。このため鶴丸は、「偵察は低いがスロ3で耐久性が高い大倶利伽羅」を加州の背に残し、偵察の高いまんばを露払い役に当てたのだ。

※この本丸では「熟練のメンバーの中に一振り新刃を入れる」という編成が頻繁に行われる。これは、「負傷者や要人を庇いながら戦う」という状況の疑似再現であり、常に「いかなる戦況でも、対象者を無傷で任務を完遂する」という枷の下で戦うことをあえて自らに強いているから。
※つまり極カンスト打刀たちは、仮に「99レベル検非違使との戦闘でも、レベル1短刀を護り切れる」強さを要求されており、それに応えられるように鍛え上げられている。
※故にこの本丸は、状況によっては「何時間でも負傷者を無傷で守り抜く」ことができるが、代償に「敵を必ずしも仕留め切れない」という特性を持っている。
つまり、「決して敗北しない代わりに、引き分けで終わることが多い」本丸なのだ。これは前線では通用しない特殊な戦い方であり、後方支援に特化した体制が徹底されている証と言えよう。
※故に、二代目の時代、演練形式での勝率は高くない。ただし、明らかに格上の最古参との演練であっても、重傷脱落者が続出し1対6となっても、そこから引き分けまで持ち込める。そんな特殊で目を引く本丸だ。


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