X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

モブ男くんの観察日記 そのに

全体公開 神無三十一受け 6 10 4197文字
2025-03-02 16:31:06

カルみと前提 モブ→みと
シナリオネタバレあり
完全なモブ(当社比)

 
【前回までのあらすじ】 
 路地で男にキスされる神無を目撃してしまったモブくん。
 ムキーッ!神無と親しげなあの男は一体誰なの!?
 という内容はこちら!
https://privatter.net/p/10079957
 

 「でもさ、まだあいつが恋人とは限らなくね?」

 終わらない報告書作成に追われながら呟いた俺の言葉に、隣の椅子に腰掛けて暇そうに回っていたパートナーアンドロイドのモモが顔を上げる。
 お前が手伝えばすぐ終わるだろうと助け舟を求めて視線を向けて見るけれど、彼は俺を手伝うことなく心底呆れた表情を浮かべた。

 「……正気ですか」
 「いやだってさぁ、一方的にクソデカ感情寄せてるだけかもしれないじゃん……
 「流石に往生際が悪いですよ、マスター」

 何言ってんだコイツ、とでも言いたげな様子でくるくると椅子を回すモモは、今日は青木係長に頼んで外泊する予定になっている。
 久しぶりに仕事のあとに飲みに行きたいから付き合ってくれと誘ったのだが、終わらない仕事と誰もいない事務室が味方してしまった。

 「あいつ、モモの分析に引っ掛からなかったんだろ?!危ないやつかもしれないじゃん!!」
 「それはそうですけど……

 店で話す予定だった内容が先取りで展開されるふたりきりの事務室内で、モモは俺を見つめると露骨にため息を吐く。
 主人への敬意が一切ないそんな振る舞いに、すっかり慣れてしまった俺は頭を抱えて悶絶した。
 そんなことより心配なのは、最近彼氏がいることが判明して警視庁にちょっとした騒ぎを巻き起こしたプリティボーイこと我らが神無三十一のことである。

 「仮にあいつが彼氏じゃなかったとして、神無が一方的にクソデカ感情寄せたやばい男に目つけられてたらどうすんだよ」
 「はぁ」
 「俺がなんとかしてやんねぇと……ったく、片思いのやつは暴走するとなにするかわかんねぇからな」
 「ひょっとして今、自己紹介されててます?」

 はて、と首を傾げるモモの声も耳に届かず、俺は一刻も早くこの報告書を片付けなければと意気込んだ。
 仕事をする分には文句がないらしいモモは、小さくため息を吐いてコーヒーを淹れるために給湯室へ歩いていく。

 彼が俺の前に淹れたてのコーヒーを置いたタイミングで、事務室の扉が開いて悩みの種である神無とその相棒のディーノが顔を出した。

 「ただいまー……
 「ただいま戻りました」
 「おかえり、って……どうしたんだ神無?」

 いつもならディーノと楽しく話をしながら戻ってきて、席に置かれたストックのお菓子に手を伸ばす神無だが、今日はしょんぼりと落ち込んだ様子で眉を下げている。
 やはり男か。男なのか。だから得体の知れない男はダメなんだ、神無の隣に立つのは三親等まで清廉潔白の男であるべきだろう。
 悲しそうに椅子に座った神無は、自分を慰めるように机の上のチョコレートを手に取ってもそもそと食べながら返事をしてくれた。

 「荷物運ぶの手伝ったおばあちゃんがお菓子くれたんだけどさー……パトロール中に物貰ったらだめだから断らなきゃで……
 「あー……
 「おばあちゃんの手作りおはぎ……食べたかった……
 「神無は午後からずっとこの調子なのです。代わりにコンビニに行ったのですが、運悪くおはぎは売り切れでした」

 どうやらこの甘い物大好きボーイは、手作りおはぎを食い逃して落ち込んでるらしい。
 コンビニのじゃやだ、と未だチョコレートを食べながら満たされないあんこ欲に駄々をこねる神無を慣れた様子でディーノが宥めている。
 可愛いな畜生が。可愛いは正義と言えど、万人から見てどれだけ格好悪くても『可愛い』という感想が出てくるのだから救えない。
 今すぐ近所のコンビニを巡って和菓子を回収して回ろうかと腰を上げた俺に、背後のモモが咳払いをして脇を小突く。
 今日こそ神無に男のことを聞くんだろうと言いたげな瞳に、はっと当初の目的を思い出した俺は頷いた。

 「神無、神無、今日仕事が終わったらおはぎを探しに行きましょう。僕も手伝いますよ」
 「ゔー……

 おはぎひとつで泣きべそまでかき始める赤ちゃんを前に、どう話題を切り出したものかと頭を抱える。
 兎にも角にも話しかけようと神無へ歩み寄った俺は、ふわりと彼から香る煙草の匂いに気がついて声を上げた。

 「あれ?神無って煙草吸ってたっけ?」
 「んぇ?いや、吸わないけど……
 「そうだよな……?」

 気のせいでなければ神無からは嗅ぎ慣れない煙草の匂いがする。
 普段から男から香ってよいものかと首を傾げるほど甘い匂いを引き連れて歩いている彼が、煙草を嗜んでいるという話は聞いたことがない。
 しかも俺が吸っているようなコンビニで気軽に買えるような銘柄ではなく、海外製の珍しいもののようだ。
 パトロール中に匂いが移ったにしては神無に随分染み込んでいるらしく、いつもの彼の甘い匂いを守るように煙の香りが鼻をつく。

 「えー……自分じゃわかんないな

 おはぎから少しだけ興味が逸れた様子でジャケットを摘んでくんくんと匂いを嗅ぐ神無には分からないらしく、不思議そうに首を傾げる。
 確か事務室内には消臭スプレーがあったはずだと取りに行こうと腰を浮かせたとき、彼の隣にいたディーノが何かを思い出したようにぽんと両手を叩いた。

 「匂いが移ったのでは?」
 「へ?パトロールで?」
 「いえ。確か昨日、神無はだらだらせんぱ、むぐぅ」
 
 ディーノの言葉が途切れる。
 それまで椅子に体を預けて落ち込んでいたはずの神無が、それはもう小鹿のような瞬発力で立ち上がって彼の口を両手で塞いでいた。
 むぐむぐと話し続けるディーノの口を必死の形相で押さえた神無は、しー、と彼の前で言い聞かせる。

 「神無?」

 思わず声を掛ければ、大量の汗をかいた神無が錆びた機械のようにギギギ、と振り返った。
 明らかに『言えないことがあります!』と言いたげな様子で視線を彷徨わせていた彼は、やがてからからと引き攣った笑いを上げる。

 「だ……だ、だらだら1000%でくつろいでたから匂いがついちゃったのかな!!うん!!ほらディーノ!青木に報告しにいくぞ!!」
 「でも神無、」
 「いいから!!ほらほら!早くしないと置いてくからな!!」

 捲し立てるように声を上げた真っ赤な顔の神無は、ディーノの腕を掴んで青木のいる隣の解析室へと引きずっていく。
 その背中を見送った俺は、思わず隣でちゃっかり自分用のコーヒーを啜るモモを見上げた。

 「何今の『マジLove1000%』の亜種みたいなやつ」
 「平成の懐メロが急に出てくることあります?そもそも神無さんは生まれてないでしょう」
 「さすがに俺も生まれてねぇよ」

 昔のアニソンにそんなタイトルあったなぁ、と考えが脱線してスマートフォンで検索を始める俺の隣で、コーヒーミルクと砂糖を足していたモモがあっと小さく声を上げる。

 「どした?」
 「……いえ、マスターは知らない方がよろしいかと」

 ところがモモは、言い淀むように俺を見るとふいと目を逸らしてコーヒーを啜った。
 神無とディーノに勧められて搭載した味覚センサーの導入を彼も気に入っているのなら何よりだけれど、言い掛けた言葉が気になって仕方ない。

 「なんだよ、気になるじゃん」
 「情報を開示したことによってマスターが泣き出してしまったら、僕はどれだけ面倒くさくてもパートナーとしてメンタルケアをしなければならないので」
 「おい。しまいにゃお前を指さして泣き叫ぶぞ。いい大人が大声で咽び泣いちゃうからな」
 「情けないと思わないんですか?」
 「モモくんやめて、ほんとに泣きそう」

 付き合いも長くなってより一層感情の表現が豊富になった彼は、相変わらず俺への敬意が感じられない。
 いい年した大人が職場で咽び泣きそうになっていると、どちらにしろ泣くなら情報を共有しても良いと諦めたらしいモモが隣室へ向かう神無に視線を戻した。

 「首の後ろに鬱血痕があります」
 「…………あっ」

 言われて慌てて目で追った彼のうなじには、モモの言う通りぽつりと小さな赤色が咲いている。
 照れて顔を赤くした神無の肌をなお赤く染めて、ジャケットを脱いで初めて見えるような位置にあるそれは間違いなく、誰かが牽制のために残した所有印だった。

 「虫が飛ぶには早い時期ですし、おそらくあれはキスマ、」
 「ストップモモ、定時だ。今日はもう帰ろう」

 モモの言葉を遮って立ち上がった俺は、さっさと荷物を片付けてコートを羽織る。
 最低限終わらせた報告書を青木係長宛てに送り、普段よりも倍速で退勤の札に変更する俺の背を眺めていたモモは、コーヒーを飲み干してこくりと首を傾げた。
 
 「もう良いのです?」
 「モモ俺はな、勝てない戦はしない主義だ」
 
 そもそも初めて見かけたあのときから、なんだか目が合ったような気がしていたのだ。
 普段は真面目に制服を着ている彼がジャケットを脱いで首元を緩めるのは、事務室で仕事をするときだけである。
 もしもあの視線が気のせいではなかったのだとしたら、あの男は俺が神無の同僚であることを分かった上で痕を残したのかもしれない。

 「マスター、この前の居酒屋に行きたいです」
 「あそこはダメだ。なんだか今日はすごく嫌な予感がする」

 今夜はできるだけこの付近を離れた場所で夕食にしよう。今日の俺のメンタルでは、とてもじゃないけど二度目のエンカウントに耐えられる自信がない。
 とぼとぼと歩き出す俺を見たモモは、どこで覚えたのか慰めるように肩をぽんと叩いて隣に並んだ。

 「モモぉ……

 相棒の優しさにちょっとだけ泣きそうになった俺が情けない声を上げれば、困ったように笑った彼が俺の背を押した。

 「いい加減諦めてお見合いしましょう」
 「ぅうぅうゔぅゔう……!!」

 これは三十ウン年生きてきて初めて知ったことだが、人間は器用なことに嬉しさと悲しさの涙を同時に流すことができるらしい。
 



 


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.