X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

兄たち 後日譚2(井宿・義翔)

全体公開 10 1981文字
2016-12-24 00:48:38

兄たち 後日譚1(http://privatter.net/p/2048441)の続きです。
元のお話はこちらです。→都ちゃん(@miyako20121)の作品「兄たち」(http://blog.livedoor.jp/miyako20121/archives/20490817.html)

Posted by @satomi8429

 人の気配に目をやると、僧の姿をした細身の男が立っていた。
 あの時出会った、朱雀七星士の井宿だ。
 困惑した表情をしているので、とりあえず微笑んでみる。義翔自身は、おそらく先日の幼子達の采配であろうものを目にし、くつろいだ気持ちになっていた。
「またお会いしましたね」
……なのだ。なんと言っていいのか……他にも誰か来ているのだ?」
「さあ。今のところ誰にもお会いしていませんが……。でも今回は、我々だけなのかも知れませんよ。だってほら」
と、左手側に用意されているものを、苦笑まじりに指し示す。
 義翔の示す先を見ると、そこには小さな丸い卓袱台に座布団がふたつ。卓袱台の上には酒器とそろいの盃が二人分載っており、更にはつまみのつもりか、親指の先ほどの白い豆のようなものが盛られた皿まであった。ご丁寧に。
「娘娘……
 ぼそりと呟くと、井宿は内心がっくりと頭を垂れた。おおかた、地上の飲み屋やら宿やらにこっそり行って、それをそのまま見よう見まねで置いてみたのだろう。そうまでして話をさせたいか、と心の中で娘娘および太一君に苦言を呈したが、だからといってどうなるものでもない。
 何の話をしろというのか?
 この男とふたりで?
 大切な弟を理不尽に失った男と、彼の弟を助けられなかったどころか、死に際して傍にいることすらしてやらなかった男が。

「とりあえず座りませんか」
 気まずさ全開の井宿をよそに、義翔はさっさと腰を下し、気楽な調子でそう言った。
「この間はあまりお話できませんでしたし、せっかく用意してくれたようですから」
 なおも立ち尽くしている井宿に、義翔は再度微笑んだ。ほんの少し、寂しさを含んだような笑みだった。
……どのみちまた、ここでのことは忘れてしまうのでしょう」
 どちらにしろ忘れてしまうのだから、何を言っても何を聞いても問題ないと。
 娘娘や太一君のぶっとんだやり口には慣れていると自負しているが。
 少し残念ですが、と付け加えながら笑むこの男も、実はかなり順応性の高い人物なのかもしれない、と思った。

 さて、どうしたものか。
 井宿は腹を決めかねたまま、用意された座布団へ腰をおろした。前回は気の知れた鬼宿も、気配りの利く攻児もいたが、今回は誰もいない。これはもう、張宿の昔の話でも話題に上げて、その話で時間を持たせるしかないか。七星士としての張宿の話題はなるべく封じて……
(しかし、どうやって)
 だいたい、いつまでこの場所に留められているのかも、娘娘が出てこない以上皆目見当がつかない。
 こちらの戸惑いを知ってか知らずか、ひとまず、と酒を勧めてくる相手を断れず、井宿は盃を差し出した。
(もしかして、娘娘が義翔の姿に化け、酒を飲ませて本心を引き出そうとかいう太一君の魂胆だったりするのだろうか)
 一瞬そんな考えが浮かんでぞっとしたが、すぐにそれは打ち消された。
 太一君との最後の会話からありえない話ではないように思えたが、目の前の男の纏う気はまぎれもなくあの時の義翔のものだ。なにより、造作も体格も似ているとは言い難いのに、その所作表情の端々から垣間見える雰囲気に、言いようもない懐かしさを感じた。笑ったときの頬の感じ、かける言葉の柔らかな調子、遠慮がちだがまっすぐな視線。
「井宿さんは、弟さんか妹さんがいらっしゃるんですか」
「だ……!?」
 この場をどう切り抜けようか思案していた井宿に、義翔は単刀直入に聞いた。
「この前お会いした時、ずっと気になっていたんです。攻児さんはともかくとして、皆弟妹のことを話していたのに、井宿さんはほとんどお話されていなかったから
「いや、オイラはその
「自慢の弟さんか妹さんが、いらっしゃるんじゃないですか」
 張宿の話でもっていこう、と思っていた矢先、いきなり自分の話題を振られて井宿は慌てた。
 妹のことなど、聞かれるとは思わなかったから。
……ええ、妹が、ひとり……なのだ……
「あ、あの!話したくないようならいいんです、すみませんいきなり」
 言いよどむ井宿に義翔は慌てた様子で言い、その慌てっぷりに井宿は逆に驚いた。先日は自分の弟の自慢話ばかりしてしまっていたので申し訳ないなと思って……と小声で付け加える義翔の様子が本当にすまなさそうで、素直で真面目で愛らしかった仲間に似ていて、井宿は思案していたことも忘れて笑ってしまった。
「大丈夫なのだ。気を遣わせてすまなかったのだ」
 証拠を見せるように、井宿は普段は呑むことのない盃の酒をくいと空けてみせた。
 義翔の言うとおり、どうせ忘れてしまうのだ。
 井宿は半ばやけくそのような、吹っ切れた気持ちになっていた。

(続く)

続き→http://privatter.net/p/2048557


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.