@shiminus
Yuuさん発案の二次創作「電波戦士」を基に始まった妄想三次創作、おふざけ全開でお届けいたします。
原作のゲームや本家(?)の電波戦士シリーズとはひとあじもふたあじも違うので、間違えて読んで誤爆しないように、よろしくお願いします。
171226@shiminus
「いやぁー、着いた着いた。ほうら、ここがラボのエントランス。ログインした皆が最初にやって来る場所だよ」
ようやく地面に足が着いた気がして、俺は重力に逆らって顔を上げた。清潔、というより病的なまでに真っ白でなにもない、石造りの広間のような場所だ。床のタイルは同じく白い大理石を模したものかと思いきや、よく見ると全てのタイルに同系色の濃いインクか何かで複雑な幾何模様が描かれている。
「おお、まずは足元からチェックするタイプかい? この床はね、全部がワープホールの受送信先として機能する装置なのさ。さっき、君も通ってきただろう、あれと同じ方法で大勢が一斉にここへログインしたって、誰も待たせないように床全部が装置になっている。たっぷり、八百人まで扱えるよ」
なるほど、道理で床の上に飾りも植木鉢も置いていないわけだ。ワープの間ずっと俺の背中にくっついていたゆずかさんはといえば、真っ白な空間に降り立って同じように床の模様を眺めている。
「ここのラボは、デンシるにアカウント登録している人間でなおかつ電波戦士のことを知っている一握りの人々しか入ってこられない空間だ。もちろんそのクールな格好のままいてくれてもいいが……おっと、そのイカした剣だけは、しかるべきところに一旦しまっておいてくれるかな?」
篠山に指摘されて、ようやく俺は剣を背中にあった鞘に納めることにした。彼女はそれを確かめると、模様の描かれていない床のところへとスキップしながら、俺たちを先導していった。
エレベーターホールはエントランスより少し暗く、大きな松明のような照明がちらちらと光っていた。壁のどこにもボタンはなかったが、俺たちが近づくとエレベーターの扉が無機質な音を立てて開いた。
「ここ、デンシるの中……ですよね?」
「むむっ、なにか気になったのかい、少年?」
円柱型のエレベーターに乗り込んで扉が閉まったとき、俺は少し引っかかった。
「さっきみたいにワープとか使えばいいのに。なんでエレベーターなんて、時間のかかるもので移動するんですか?」
「ふふふ、君はインターネットなんで便利なものを、実年齢から五か六ほど引いた年数しか使っていないだろうし、教えておこうかな。なんでもかんでも簡略化して速く済ませてしまう日常が続くとね、人間は怪物になってしまうのさ。つまり、自分の思うように事が進まなかったり待たされたりすると、すぐにイライラしたり他人に噛みついたり、待つって行動そのものがストレスになって怒鳴り散らしたり、どんどん身も心も醜く汚れていくってことだね。だからこうしてラボの中には『待つ』ことを人間側に求める機能や、回りくどかったり手間がかかる原始的なシステムを敢えて残してある。怪物を倒しにいく君たちに、怪物になられても困るからね」
ようやく到着のベルが鳴って、扉が開いた。篠山は積もったばかりの新雪に足跡でもつけるかのように軽快な足取りでエレベーターホールへと出て行った。隣でゆずかさんがぼそりと「まるで子どもね」と呟いて、俺は吹き出しそうになった。
「ほれほれぇ、少年! 君は現実世界での姿じゃなく、ここではデンシるのアバターとして振る舞ってくれたっていいのだよ? それともそれが君のアバターとしての人格かい? 硬派で礼儀正しい騎士とか? まあ、それもそれでクールだけどね!」
奇妙なステップを踏みながら先を歩いて行く篠山を追って、暗い廊下を進んでいく。さきほどのエントランスとは打って変わって、レンガの壁に囲まれた狭い一本道に赤い絨毯がまっすぐ敷かれている。奥に観音開きの大きな扉が開いたままなのが見えたが、扉の先は真っ暗で分からなかった。
「安心しなよ、ここはちょっと現実的な感覚を残しているけれど、確かに『デンシる』の内側にある世界だ。ログインして、掲示板でフォロワーたちと駄弁ってるときの感覚で振る舞えばいい。もちろん、個人情報とか生活地域が特定できるような身バレ行為は、一切謹んでくれたまえよ?」
そう言うと、篠山は扉の向こう側へと消えていった。
「スザク、あんたは気にならないの?」
扉の境界線を越える直前、ゆずかさんの声が廊下内に木霊した。
「なにが?」
「電波戦士って、あんたが何度か『二次創作交流掲示板』で使ってたネタでしょ。安直すぎるネーミングだから偶然被るのは仕方ないかもしれないけど、だからってあまりにも何もかもが同じすぎて、なんだか気持ち悪いわ」
ゆずかさんが言いたいのは、きっとこの「ラボ」という空間と名称が、俺の二次創作の中でも出てきたことに引っかりを感じているのだろう。リレー小説の中で頻繁に出していた「電波戦士」の設定は確かに毎回細かい部分を変えていたけれど、戦士たちが休憩したり装備品を補給する場所は決まってラボということになっている。
「別にいいじゃないか。俺が小説の中でイメージしてたラボはこんなに広くない。狭くていつも騒がしい、宿屋みたいなところだったよ。でもこっちのほうがラボ――研究所って感じがして、面白そうじゃんか」
デンシるの中に実在して、しかもジェネラス・シノリティの偉い人(話してみたら全然そうには見えなかったけれど)が直々に案内してくれるのだ。安直なネーミングが被ったことなんて、むしろ喜んでいいくらいかもしれない。
扉の先はエントランスよりずっと広いホールだった。中央には表面に複雑な回路がむき出しの機械が大きな柱となって天井へと伸びている。円形のホールを囲む壁側には擦りガラスの管が隙間なく並んで、色を変えながらホール全体を明るく照らしていた。ほかに見えるアバターはといえば、機械の傍に数人集まって喋っているのと、ホールの反対側を横切っていくのが数人いるくらいで、さすがに平日の昼間から入り浸っていること自体、珍しいらしかった。
『はぁーいみなさん、こぉーんにーちはー!』
突如として陽気な声が広いホールいっぱいに響いて、アバターたちは一斉に中央の機械へと顔を上げた。さっきまで俺たちを案内していたはずの篠山が機械の塔の少し高い所にある足場に立っていて、両手を振りながら周囲のアバターに挨拶している。遠目からで分かりにくいが、ちらほらと手を振り返しているアバターもいて、それなりに彼女はここの人たちに顔は知られているらしかった。
『お勤めご苦労様でぇす、電波戦士たちー! 管理人の篠山だよ!』
ところで、篠山は道で出会ったときには首にひっかけたままだった翡翠色のヘッドフォンを、いつの間にか耳にしっかりと装着していた。右側からマイクが顔の前まで突き出していて、どうやらこれでホール全体に声を響かせているらしい。
『今日はこのラボになんと、新しい電波戦士くんがやってきてくれましたぁ! 登録したばっかりで右も左も解らない子だけど、誰もが最初は一年生! みんなぁ、仲よくしてあげてねー!』
そう言ったそばから、篠山の頭上にあった三つのモニター全てに、俺の顔がでかでかと映し出された。一体どこから撮っているのだと驚いたが、あまり変な顔をすると特大画面で映されてしまうからと冷静に片手だけ挙げて挨拶してみた。微かに聞こえる拍手と歓声が、なんだかくすぐったい。
『そうそう、せっかっくだから運営チームからのお報せもいくつか紹介しておくね! NX-63地区甲とSR-22地区壬の討伐依頼は、皆さんのおかげで無事に討伐が完了しました! ありがとうございました!』
俺を映していた画面がぱっと切り替わり、青緑色の画面にアルファベットと数字、それから見慣れない漢字が並んだ一覧が表示された。
『つきましては、ご協力いただいた電波戦士の皆さま、報酬の配布を忘れず一週間以内にお受け取りくださいますように、よろしくお願いしまーす!』
再び微かな拍手が聞こえてきて、画面が真っ暗になると、ようやくホールの中は静かになった。篠山が機械の奥に引っ込んだかと思いきや、俺の真横の何もない空間に水銀でも流し込んだかのように扉が現れ、そこから篠山がひょい、と飛び出してきた。
「はっははー、お待たせしたねぇ新入り君。さあ、電波戦士として最初にすべきことと覚えてもらうべきことを、さっさと片付けに行っちゃおう!」
篠山に案内されるままホールの端まで歩いていくと、光の管が並ぶ少し手前側に銀白色の大きな階段が壁の曲線に沿って長く伸びているのが見えた。今度は待つどころか、運動しなければいけないようだ。頂上は見えるが、階段の長さからして三フロア分くらいは登らなければならないだろう。
「どうした少年、これくらいなら学校の家庭科室から美術室へ移動する程度の距離だろう。それとも君の学校にはエレベーターかどこでもドアがあるのかい?」
階段の中ほどまで登ったところで見下ろしてみて分かったことだが、どうやらホールの反対側にも同じような階段があるらしい。あちら側にもアバターたちがいて、素直に階段を使っているから驚いた。ついさっき鯱のモンスターを退治したときにはあんなに高く跳べたのに、ここでは普段と同じように数センチ宙に浮くことしかできない。
「一応、電波戦士たちにとっても我々にとっても重要な機関だからね。アバターの状態で出入りしてもらうだけあって、さすがにクラス・チェンジに規制はかけてないが、電波人間たちのアンテナや電波戦士たちの武器、固有能力(アビリティ)は全て使えないようにしてあるのさ。うっかり事故を減らすのは基本だからね~」
軽快な足取りで階段を登りながら、篠山が愉快そうに言った。甲冑は重さこそないが通気性が悪いのか蒸し暑く、階段全て登り終えた頃にはどっと汗が噴き出してきた。
「さーて、ホールの二階に到着! ここには電波戦士たちがお仕事する上で必要な情報と設備がバッチリ揃っているよ」
中央部分は機械の柱が貫く吹き抜けになっていて、ふたつの階段の降り口と反対側のほとんどは壁で隔てた部屋になっているらしく、一階よりもずいぶんと狭く見えた。床は黒大理石にところどころエントランスのものとは違う模様が刻まれたもので、それらが微かに光を発して室内全体を仄かに明るく照らしている。吹き抜けに沿って半月状に並んだ銀の柵にはエメラルドのような茨が絡みついて、一階からの明かりを受けてキラキラ輝いている。たむろしているアバターは一階より倍くらいの人数で、ほとんどが壁側にずらりと並んでいるモニターを眺めたり、画面を指差しては仲間と何か喋っているようだった。
「さて、電波戦士のお仕事で一番大きなものに、さっき君がしたように、モンスターと戦って退治するというものがあります! しかーし、モンスターは毎回出現場所も時間もバラバラで、道を歩いていたらたまたま出くわしたからやっつけましょう、なーんて都合のいいようにはできておりません! ……そういうとき、君ならどうやってモンスターを探しに行くかな?」
いきなりの質問に俺は少し戸惑ったが、そこでさっき見た篠山の「お報せ」を思い出した。大きなモニターに表示されていたアルファベットは、モンスターの出現場所や時刻を表す記号だったのだろうか。
「ええと……ここが電波戦士だけに使える掲示板だっていうなら、そこで目撃情報を集めて流せば、近くにいる電波戦士が出動できる、ってこと?」
「当ったりー! 君、なかなか優秀だねぇ。そう、ここには全世界からモンスターの目撃情報が集まってくるんだ。電波戦士はデンシるのユーザー総数と比べれば間違いなく少数派だけれど、デンシるの全投稿記事を検索すれば、野次馬たちが思わず書き込んでしまうようなモンスターの目撃情報はいくらでも出てくる。あとは場所を特定して、その時間帯にお手隙な電波戦士さんたちにちょちょっと討伐の依頼を送ったり、あるいはこうしてログインついでに手ごわいモンスターがいないか、電波戦士のみなさんにチェックしてもらったりしているってわけ」
篠山に手招きされて、俺はモニターの一つの前に立った。画面には上から下まで帯状の一覧がずらりと並んでいて、上半分ほどは左端にチェックが入って青文字に、残りは全てチェックのない赤文字で表示されている。
「青文字は討伐済のものだよ。君がこれからモンスターを探しに行こうってときは、赤文字の部分を見るんだ。最初にあるアルファベットと数字は座標、つまりどこどこの国のなんとかって地域にモンスターがいるよってことを表している。そして次の一文字の漢字なんだけど……今の若い子にはあんまり馴染みない文字かな?」
俺は中央あたりにある、他より狭い列を眺めた。甲、乙、丙、丁……堅苦しい書面で見たことがあるようなないような。
「オッケー、まずはここに出てくる文字の読み方と意味をマスターしてしまおう。これが理解できないと、モンスターを退治するどころか、返り討ちに遭いかねないからな! 全部で十種類あって、まとめて十干や天干と呼ぶこともある。まあそのへんは今は詳しく説明しないけど、簡単に言えば中国に古くからある暦や方角を表す記号のようなものさ。この十種類ある文字を使って、我々は目撃されたモンスターの性質や形状を分類し、ここの掲示板に記録、情報共有をしていく。電波戦士によって戦い方や地の利はみんな違うから、出現地域よりも実際はこっちの一文字のほうが重要なんだ」
篠山は青文字の欄をひとつ指し示して、詳細画面を呼び出した。中央の欄には「戊」と書かれている。
「例えばこれは『つちのえ』、五行の土と陰陽の兄(え)を組み合わせたものだ。ここでの『土』は『塞ぐもの、妨害するもの』を表している。被害の範囲は限られるが、人や車の流れを止めてしまったり町にある建物を損壊させてしまうから目撃されやすい。……そして『兄』は『大型のもの、危険度が高いもの』を表している。このデータは討伐済みのものだから、詳細画面からどんなモンスターだったかのレポートを確認することもできるよ」
詳細画面を見ると、電波戦士たちに取り囲まれている巨大な水牛の画像が添付されていた。周りは殺風景な農村のようだが、整然と並んだ畑の上に赤土色の足跡が点々と刻まれている。あそこに植えられた作物は壊滅状態に違いない。
「もうひとつ、分かりやすいものを見てみようか?」
篠山は詳細画面を閉じて、「丁」と分類された青文字の欄をタップした。新たな詳細画面が開いた瞬間、俺は血の気が引いて倒れそうになった。
「これは『ひのと』タイプのモンスター、『弟』はさっきと反対に『小型のもの、危険度が低いもの』を表して……おっと、どうした少年、軟体動物は苦手か?」
画素が荒いせいか、俺はモンスターの画像を見たとき、路地裏に大発生した蛆の群れかと思った。しかし、よく見ればそれは全てナメクジで、写り込んでいる室外機と比較すれば、大型犬くらいの大きさだと推測できた。
「少年よ、こんなもので吐き気を催しているようでは立派な戦士になれないぞ? しかし君はパートナーが攻撃アンテナを扱える電波人間なんだから、五行の『火』とは相性がいいと思うけどなあ。『環境破壊または気候異常を引き起こすもの』を表す、こういったモンスター達にね」
俺はグロテスクな画像をなるべく見ないようにしつつ、隣に書かれていた被害情報のレポートを読んだ。ナメクジ達の吐き出す粘膜がビルのコンクリートを溶かしたこと、マンホールに流れ込んで下水管を破裂させたこと、などが淡々と書かれていた。
「……ふーむ、十干を覚えてもらうのももちろんだが、やっぱり実戦を経験して慣れてもらうしかなさそうだねえ。心身共に鍛えていけば、多少ビジュアルに難ありなモンスターが降って湧いたって平気になるだろう。いっちょ、先輩たちに手合わせしてもらうかい?」
篠山の案内で二階の奥側にある部屋に入ると、全面が木の板張りされた体育館のような場所だった。防音の厚いい扉を開けるとすぐに金属のぶつかり合う音が聞こえて、部屋の中央では今まさに、ふたりの電波戦士が戦闘訓練をしている最中だった。ひとりは軽装備な女騎士で、ショートの髪をふわふわさせながら大きな剣を軽々と振り回している。もうひとりはどこか東洋系の民族衣装を思わせる恰好をした若い男で、空中で踊るように細い双剣を閃かせ、女の攻撃を悠々と避けている。バトルというよりも、そういう儀式的な舞いなのではないかと思うほど、ふたりの動きは美しかった。
「ハラショー! ほらほら新入り、よーく目に焼き付けておきなよ? 彼らは電波戦士の中でも特に優秀なベテランたちだ」
しかし、篠山に軽く肘鉄されたときには、俺はすでにバトルとは別のところに注意を向けていた。若い男の剣にうっすらと、霧状に空気の渦が巻きついている。激化する打ち合いを上空から見下ろしている電波人間たちは、電波戦士たちそれぞれのパートナーだろうか。俺はそのひとりに、確かに見覚えがあって、思わず小声で尋ねた。
「……あなたが、土星さん?」
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