@acbh_dmc4
「……ここ、どこ?!」
山の中にぽつんと一人、放り投げられて途方に暮れる。
あのなんだか丸っこい金属の玉から放たれた光に飛ばされ、ひっくり返って目を開けたらコレだ。
仏頂面の未来の俺(仮)に連れて来られた時をなんとなく思い出して、思わず鼻にしわが寄る。
これからどうするべきか、ここの世界はもしかしたら俺の時代かもしれないし、とりあえずは置かれた状況を早めに理解しないとと決心する。
こんなとき導師が居れば…と心細くなりつつ、背後からガサリと葉の揺れる音にビクッと体が竦む。
思わず声を出しかけて、とっさに体を反転させて音の方を見る。
鏡合わせの様な目の前の人物に、俺も目の前の俺っぽい男もビシッと固まる。
唇の傷も、背格好も何もかも同じ。
双子のような目の前のもう一人の俺に、とりあえず俺は状況を訊ねる事にした。
******
眩い光が落ち着く頃、目を開けると目の前は鬱蒼とした森だった。
どこか見覚えがあるような、そういえば前に初めて林檎の力で異世界へと飛ばされて、目の前に自分そっくりの男が自分とそっくりに驚いていたのを思い出す。
なんとなくその世界だろうな、とウンザリしながらとりあえずのあの村へと記憶を頼りに歩き出す。
横からカサリと僅かな葉を踏む音を捉え、そちらに視線を向ける。
一瞬ではあるが、人の気配がした。
今は巧妙にその気配を消し、こちらに悟らせないが、最初の気配でその存在を知らせたのが運の尽きだ。
神経を集中させ、鷹の目を発動させる。
追跡者が残したのだろう、気配の残滓が僅かに木の間に見える。
「おい、そこに居るんだろう?何者だ?俺に何の用だ」
「………」
見つかったことに諦めたのか、その追跡者はゆっくりとこちらに姿を現した。
思わず目を見開く。
「……導…師?」
かつて世話になった猟師姿の導師がそこに居た。
彼は安心できる。そう無条件に思い、思わず駆け寄りそうになる。
足元に銃弾を放たれ、立ち止まる。
何故あの猟師は発砲を?戸惑い、彼を見やれば、次の弾を込めた猟銃をこちらに向けるところであった。
「動くな。人狼」
「じ、人狼?」
その呼び名には覚えがあった。
昔この世界に来たときにはついぞ見る事はかなわなかったが、この世界には狼と人との間の種族が居るらしい。
そういえば導師も最初と帰る頃にしか見なかったな…等と考えていると目の前の猟師はこちらに歩み寄り、すぐ触れられる距離に来ていた。
俺は少し困った顔をして、彼を見つめるしか出来ない。
あの導師と同じく、昔の俺には好意的な彼も、この姿まで成長してしまうとそうではないらしい。
とりあえず、彼の言う俺に似た「人狼」が、この世界の俺なのだろう。
何とか誤解を解かねば…もしかしたらこのまま殺されてしまうかもしれない。
そう思い口を開きかけたとき、胸倉をつかまれて勢いよく引き寄せられた。
唇が重なる。
すぐに肉厚の舌が咥内に入り込み、好き勝手に嘗め回される。
攻撃的なその口付けは、息をするのも許さないと言った体で、力強く抱きしめられ頭を固定されてただひたすら従うしかない。
苦しくなり、彼の腕から逃れようと胸に当てた手に力を込めるがびくともしない。
彼の力の強さに恐怖を覚えたが、この情熱的な口付けは、決して俺を窒息させようとするそれではなく、ひたすら貪る姿は必死さを伺わせる。
彼の腕を数度軽く叩くと、ようやと唇を開放された。
唾液が変に気管に入りむせる。
「ち、窒息させる気か!」
「何故抵抗しない?」
「する必要がないからだ。俺は人狼ではないし、あんたの相手は俺じゃないだろ!」
「……人狼ではない?……だが、あの狼に似ているのなら、お前も私の物だ」
「……何言って…」
再度顎を掴まれ口付けられる。
唇を離すと、服に手をかけられ、ものすごい力で引き裂かれた。
露になった肌に、赤を散らすように強く吸い付かれ、閨事を髣髴とさせる。
スイと彼の胸を押す掌を僅かにずらすと、厚く逞しい胸にドキリとした。
彼は導師よりも良い体格のようで、随分と導師や自分よりもがっしりとしている。
元々の好色な面がむくむくと首を擡げて、誘うように彼の髪に指を通し、彼の頭を抱えるように抱きしめた。
彼が俺を見上げる。
俺は期待に満ちた挑発的な笑みを乗せて彼を熱く見つめ返す。
猟師は俺の意図に気付き、うっそりと笑うと優しく俺の体を抱きしめた。
「何をされるのか分かっているのか?」
「どうされるのか、興味はあるな」
唇が触れ合う距離で囁き合う。
俺が彼のシャツのボタンに手を掛け、一つ一つ焦らす様に外し始めると、猟師は目を細めて俺の衣服を今度は丁寧に脱がし始めた。
好色そうに笑う。
意外とこの人は下種だなと思いつつ、高ぶり始めた体を治めるにはこれが一番だと、思考を手放す…
「なにやってんの?」
間の悪い所で必ずコイツは現れるな、と妙に感心しながら声のしたほうを見る。
案の定、双子のような過去の俺とこの世界のもう一人の俺がぽかんとこちらを見つめている。
途端に一人はムッとした顔をし、もう一人は恐れと困惑の表情をする。
服装からも分かるには分かるが、ムッとしたほうが過去の俺だな、と小さくため息をつき、猟師の服のボタンを閉めてやる。
「お預けですね」
小さく彼にだけ聞こえるように呟く。
猟師はやれやれと言った顔で、俺の服も正そうとしたがそもそも彼が強引に破いたものだ。
アサシンローブの前部分が破けて可哀想な事になっている。
少しだけ申し訳なさそうな顔をした彼に、思わず笑みをこぼし、彼の頬に手を添えてこちらを向かせる。
「仕立て屋に直してもらわないとな。弁償はしてくれるんだろ?」
「……仕方ない」
「ちょっと!いちゃつかないでよ!アンタこの人は導師じゃないんだぞ?分かってんの?」
グイ、と俺と猟師の間に割って入る若い俺に、肩をすくめて見せる。
ふと猟師を見れば、若い俺を見る目が冷たく、今にも獲物に襲い掛かる狼のようだと思った。
思わず若いのを引き寄せ背に庇う。
不思議そうに俺を見つめる能天気な若造にこれ見よがしにため息をついて見せると、猟師に向き直り宿の提案をしてみる。
猟師は快く宿の提供に頷いてくれたが、もう一人の若い男がそれに難色を示した。
俺がその子を今にも襲うんじゃないかと猟師の背に隠れ、恐々と糾弾する。
襲うの所で若いのがもう襲われた後だけどねとボソリと呟いてるのを聞きとがめて思わず手刀をくれてやった。
わざとらしく横暴だ!と騒ぎ立てる若いのを無視して、ならばと俺が猟師のところへ、若いのが双子のようにそっくりな男の家へと言うことになった。
「ねぇ、俺の目がないからって、どうせ導師にはばれちゃうんだよ?変なことしたら、後で怖いんじゃないの?」
「……そうだな。気をつけよう」
俺が気をつけたところで無駄なことだな、と内心一人ごちる。
この猟師は、向こうの男よりもきっとより理不尽なことだろう。
二人きりになった途端、何をされるか分からない。
きっとこの男とハジメテは玄関先だろうな…。
現に、早く自宅へ向かおうと猟師が焦れた様に皆を促す。
心配そうなこの世界の若いのを適当に宥め、昔来た村へとたどり着く。
まるで攫われるように肩に手を回され、猟師の家へと案内されると、挨拶もそこそこに家へと引きずり込む勢いで招かれた。
扉が閉まると同時に抱きすくめられ、唇を奪われる。
激しく絡められる舌とまた破く勢いで引き剥かれる衣服に、否応なく体温が上がる。
しかし、案の定玄関先で求められて笑みが漏れた。
「何を笑っている」
「…この勢いだと玄関先でヤル事になるかなと思ってたら、予想が当たったものでね。少し可笑しくなってしまって…すまない」
「……たしかに、性急過ぎたか…」
「するなら体を清めたいんだが…風呂の用意は出来るか?」
「分かった。準備しよう」
感謝の積もりでゆったりと猟師の唇に自らの唇を重ねる。
湿ったリップ音を響かせて名残惜しく離れると、猟師が眉根を寄せた。
「随分と慣れているようだな。まるで娼婦だ」
「色々と…仕込まれているものでね。処女を期待していたのなら残念だが他を当たってくれ」
「誰にでもそうなのか」
「まさか。人は選ぶ。男なんてもっての外だ。導師以外に許す事はない。まぁ、貴方は別だが…」
男が目を細めて片眉を上げる仕草をする。
信じては居ないようだ。だが知ったことではない。どうせこの世界に長居はしない。
通された部屋のカウチにゆったりと横になる。
忙しく働いているだろう家主に憚ることなく体を休める。
今、導師はどうしているかな、とかの人を想う。
ヴァンピーロとなっていた俺たちの世界で分かれてから、そう時間は経っていないがあの人に真摯に求められた一時がこの胸を疼かせる。
彼を愛すれば、満たされるのだろうと思う。
「導師……」
思わず漏れ出た彼を呼ぶ声が、思いのほか寂しく切ない声色となってしまった。
素直に寂しいと思う。もっと彼と一緒に居たい。
「誰を呼んでいる?」
頭上から降ってくる愛しい人に似た声に、閉じていた目を開ける。
冷たい目をした男だ。
彼に似た顔で、彼ではない男を見ると寂しさが一層募る。
フィと顔を逸らしてまた目を閉じる。
「……答えろ」
ヒタリと首筋に冷たい物が当てられる。
それが刃であることは見なくとも分かったが、特にひるむこともなく、目蓋を閉じたまま口を開いた。
「信じられないだろうが、俺はこの世界の人間じゃない。なんというか、俺にも説明は出来んが、魔術のような恐ろしい力を持つ宝具に、ここに飛ばされてしまった。だからここに居るんだろう、俺に似た者は、俺でもあるし、元の俺の世界には貴方も居る」
「?」
「俺の世界の貴方が恋しい」
目を開けて冷たい彼を見上げる。
納得している風でもないが、その冷たい相貌からは思案の色が見える。
首筋に当てられていたナイフが下げられ、長く重い溜息がつかれる。
「お前は本当にあの狼ではないんだな…初めに見たときから、お前の香りを近くに感じてから、そうなんだろうとは思っていた」
「貴方はその狼だけでは物足りないので?」
「それどころか。未だ捕らえる事も出来ていない」
「貴方に捕まったら鎖にでもつながれて外には出れなそうですね」
無言の肯定をされる。
この調子ではまだ肌を重ねたこともないのだろう。最初が俺でいいのだろうか。
「この世界の俺とは、もしかしてキスもまだ?」
「………」
「本当に触れてないんだな。初めて触れるのが俺でも良いのか?」
「代わりのものを愛でる事位、お前だってあるだろう」
「いいや、俺は引く手数多で…特にそう困ったことはなかったかな」
「………」
「…そんな睨むなよ……まぁ、俺は構わないし。アンタが拘らないってなら俺は別に…」
煩いとばかりに唇を塞がれる。
食むように口付けられ互いに息が上がる。
「一緒に入ります?」
「ああ。焦らすのも良いが、待ちきれない」
ふふ、と笑って今度こそ彼のシャツを脱がせる。
互いに互いの衣服を脱がし合い、その合間にも熱い口付けを交わしながら互いを高めあっていく。
心地いいお湯を激しく零しながら浴槽で交じり合う。
貧血で直ぐにクラリと視界が揺れて、その様子を湯あたりしたのかと思った彼が一度行為を止めて風呂から出る。
濡れたまま部屋を移動し、寝室のベッドへと辿り着くと、また激しく求め合った。
前の世界で血を抜かれてからまだ2日と経っていない。
意識が飛びがちになる。猟師は首の包帯を取り、獣にでもかまれたような歯形がついていることを見ると俺の目を覗き込んだ。
「どうしたのだ、これは?」
「ヴァンピーロに…血を…飲まれて…あまり、本調子じゃ…ないんだ…あっ……」
「……大丈夫なのか?ヴァンピーロに血を捧げると仲間になるというが…」
「…んっ、…ゃ、…はぁ……犬歯なんて出てきてないっ…し、大丈夫、だろ……」
「そのヴァンピーロにもこの体を捧げたのか?」
「ま、さか……気を失っている間は、分からないが…あの人に限って、ない…筈っ」
「ふぅん?」
べろりと傷を舐められて吸い上げられる。
ピリリとした痛みすら快楽に変わってあられもない声を上げてしまう。
男の髪をかき混ぜるように撫で掴み、ねだる様に抱き寄せる。
その様子が楽しいのかくつくつと笑う男に意趣返しのために額に噛み付いてやった。
止めないかと笑いながら俺の悪戯を阻止する為に深い口付けを落とし、悪戯な彼の手が下の茂みを掻き分け自身に絡みつく。
先ほどから何度もドライで達し、ゆるく立ち上がり透明な涙を零すことがあっても肝心の種を出さない欲望を強く扱き上げる。
後ろを埋められ穿たれながら前をも強く刺激されて体が震える。
息も絶え絶えになりながら、あまりの快楽と苦しさに首を打ち振って目の前の彼に許しを請う。
耳元に堪らないと囁き掛けられ、彼の嗜虐心を煽ってしまっていることを悟るがどうにもならない。
俺のは良いから、と彼に訴え啄ばむように唇を送ると嬉しそうな彼が底意地悪く笑う。
ただでさえ快感で意識が散漫になり、考えられないのにさらに貧血気味だ。もう彼の喜ぶような行動しか取れずにいる。
何度も意識を飛ばしては引き戻され、何度そうやって交わったのか分からないほど求められた。
翌朝は彼のキスで目を覚ました。
満足そうに笑いながら何度も口づけを送られる。
正直まだ覚醒したくなく、うるさそうに手を振って彼をよけようとするが、楽しそうにコラと窘められ、体を抱き上げられて身支度を整えられる。
「シーツを変えたいし、お前はその間に食事を済ませなさい。あとな、お前の連れが来ている…」
「あの子が?……はぁ…今は都合が悪いと追い払えなかったのか」
「随分怒ったような顔をしていたが、お前はあの子にも手を出しているのか?」
「あんたまさかそのまま出て行ったんじゃないだろうな?」
「………」
ニヤリと笑って猟師の服に着替え終わった俺にまた攫うような口付けを落とす。
あきれたと盛大にため息をついてやれば面白そうに笑ってから一変、冷たい相貌で俺を抱き寄せた。
「私以外に触れていると思うと嫉妬で狂いそうになる…ここに居る間はお前は私だけのものだ。良いな?」
「おお怖い。だが一つ忠告しておく。あの子には手を出すな。俺にここに居て欲しければ、な」
納得しかねる厳しい顔をしつつ、手を振って退出を促す。
そういえば昨夜から何も食べていないし、喉もかなり渇いていると思い、ダイニングへと入ると、そこには大層お冠の若者が1人と不安そうな顔の若いのが一人テーブルについていた。
「お楽しみでしたね?」
「………」
無言でテーブルに着くと用意されていた食事に手をつける。
無視されたのが悔しいのか、若いのはずっとクドクドと文句を連ね、その隣のそっくりな若者はおろおろと交互に俺と若いのを見つめる。
あまりにうるさかったのでジャムのついたパンをその文句を言い連ねて開かれる口に放り込んでやるとやっと静かになった。
手についたジャムを舐めると、目の前の二人は何か見てはいけないものを見たように口をつぐみ揃って下を向いた。
「宿代だと思えば安いだろ?好きにされるくらい」
「俺は請求されてないけど!」
「何かしらで還元してやれ。その子の仕事を手伝うとかな」
「導師には筒抜けでしょ!帰ったら何されるかわかんないよ!」
「そういえばここに来る前に仕置きは覚悟しろといわれたな…ああ…憂鬱だ…」
「そう思うなら誰とでも寝ないでよ…」
弱々しく訴えられるその言葉に、そういえば過去の俺は導師の尻軽さに失望し、激しく嫉妬していたことを思い出す。
暫し逡巡し、この子の気持ちが分からんでもないのでこの子の望むとおりにしてやろうと思い直す。
「わかった。宿代は別で手配するとしよう。導師が迎えに来てくれるまではここに居ないといけないから、彼の仕事を手伝うので勘弁してもらうとしよう」
「本当に?」
「ああ」
「言っとくけどアンタがそういうことすると直ぐに分かるから!」
「まるで浮気でも咎める物言いだな」
猟師が地の底から這うような声を出して若いのに答える。
確かな殺意を感じて、手に持っていたパンを思わず落としてしまった。
若いのは能天気なのか何なのかまったく気付いていない様子で浮気!そうだよ!俺どころか導師だって居るのにアンタはっ!!と自ら墓穴を全力全身で掘り進めている。
猟師の纏う雰囲気が大分禍々しくなって来た頃、付き添いできていた方の若者が俺はそろそろ仕事に出かけないと…と控えめに了解を取って来たのでこれ幸いと若いのも同行するように言い渡して家から追い出した。
見送りをするように玄関口に立ち、浮気スンナよー!と呑気に叫びつつ若者と並び立つかつての自分を見送る。
姿が見えなくなった頃に後ろから猟師に抱きすくめられ、首筋に吸い付かれた。
「ここに居る間はお前は私のものだと言ったはずだ」
「俺にだって決定権はあるだろう?アンタそんなんで本当に愛を勝ち取れるとでも思っているのか?それとも体さえ手に入れば満足か」
「……愛など、なくてもどうということはないだろう?何が良いのだ、そんなもの」
「…心が無い行為ほど虚しいものはない。アンタも、ただ物欲を満足させるだけでは虚しいはずだ」
「そんなもの。どうせ人は裏切るのだ。心など…信用できるものではない」
「だが、愛されるのは心地がいい。それを知らないというなら、知るべきだ…そうしたら、貴方の所望の狼ももしかしたら手に入るかもしれない」
「………」
「愛するんだよ」
彼の頬を指の背で撫でる。
薄く微笑んで唇に触れるだけの口付けを落とすと寝室へと向かう。
背後からまだ寝るのか?と問いかけられ、腰が痛くてねと返せば困ったようななんともいえない表情の彼が見えた。
多少は無理をさせた自覚があるのか、気遣う視線を投げられ、サ-ビスをしたのだから暫くはタダで泊めてくれよと投げキッスと共に言ってやればやれやれと手を振り、彼も生業の狩へと出かけた。
猟師はまだ帰っていないというのに扉を叩く音がする。
これは自分が出て行って答えたものだろうかと躊躇したが、とりあえずは用件だけでも聞いておこうと扉を開いた。
喜色満面の過去の自分とその後ろにそっくりな青年。
その若いのが高々と仕留めた狐とウサギを掲げてどうだー!と自慢して来た。
「今日はここで夕飯を食べようってなって!な!ドメニコ」
「…う、うん」
「言っとくが俺もこれも料理はできんぞ」
「え…」
「手伝いくらいならできるよ!」
「猟師が帰ってきたら食えるものができるだろう。もうそろそろ帰ってくる頃だから待ってろ」
「………」
何まるで我が家ですって感じに馴染んでるんだよと後ろからぶちぶちと文句を垂れられるのを無視して今朝方皆で座っていたダイニングへと通す。
獲れたてをどうこうする訳ではないんだろう?どう下処理をするんだ?とドメニコと呼ばれた青年に聞く。
するとそれも猟師が帰ってきてからやるからと、自宅から持って来たであろう食材を厨房へと運んでいった。
流石にお前は手伝ってやれと若いのを促すと、厨房では双子のような彼らがキャッキャと楽しそうに作業に取り掛かっていた。
ドメニコとの交流は楽しいものだった。
双子のようにそっくりで、村の者たちからは珍しがられ、そして可愛がられた。
ドメニコの人気も流石なもので、それにましてそっくりな者が現れたので大騒ぎになった。
元来人懐っこい性格であったのも幸いして村の者達に受け入れてもらえた。
懐かしい思い出に浸っていると、また玄関の戸が開く音がした。
何の気なしに玄関へ向かい猟師を迎える。
俺の姿を見つけると、心なし嬉しそうな顔を見せた。
来客を伝えると、ああ奥のほうが賑やかだなと頷き、俺の腰を抱いて他に変わりないかを聞いてきた。
あの子達が来た以外はなにも、と伝えればお前の事だと俺の顎を取って凄まれる。
どうやら相当な尻軽と思われているらしく、他の者の気配がないか俺の服を肌蹴させて確認とばかりに匂いを嗅いだ。
随分と野生的なものだ。
しかし居間に俺が居ないことに気付いた若い俺がそろそろ玄関先にやってくるだろうと思い、彼の体を押し返す。
彼は不機嫌そうに俺を見つめると、俺を引き寄せる腕に力を込めた。
「子供に見つかったら煩くて敵わん。いちゃつくならあの子らが帰ってからにしていただきたい」
「何を言う。見せ付けてやればいい。お前は私のものだ」
「俺の立場も考えて頂きたい。あの子に常日頃油断するな他の者に好きにされるなと言い聞かせているのに、俺が破っていては示しがつかない。これでも俺は指導者なんだ」
「…………」
納得しかねる顔をしていたが、俺が彼の腕からすり抜けるのを止めることはなかった。
居間へと戻ろうとすると、丁度若いのが俺を探しに向かってきていたところで、危うくぶつかりそうになった。
疑り深い目で俺を見るが、俺は何食わぬ顔で隣を横切る。
ドメニコも玄関先へと向かってきて猟師を迎える。
そのドメニコの横顔を見ると、とても嬉しそうで猟師をとても慕っているのが分かる。
「何ドメニコに見惚れてんの?」
「お前は馬鹿か」
「ばっ!」
「ここのお前も猟師の事は慕っているんだなと思っただけだ」
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