2側の話も書きたかったなぁ…(忘れてた)
前の話
@acbh_dmc4
ここのお前、という言い方に若いのはきょとんとした顔を見せる。
初めて来たへんてこな世界にただでさえ戸惑っているのに、いきなり同じ人間だといわれても理解しかねるだろう。
細かい説明は面倒なので省き、居間に戻って猟師とドメニコがキッチンへと向かうのを見送る。
ムッとした顔をした若いのが俺の目の前の椅子に座り、俺の反応を一つでも見逃すまいと観察する。
疑うような視線は、俺の全身を間違い探しでもするように一周した後、ぴたりと肌蹴た胸元で止まった。
「まるでマーキングだ、とでも言いたそうだな」
嘗て自分が導師の全身を舐めるように見て、肌蹴たシャツから覗く、多数の痣に思ったことを言う。
心で思ったことに被せる様に言われ、カッと頭に血が上った若者が俺に食って掛かろうと身を乗り出した。
しかし、それと同時にキッチンからドメニコが顔を覗かせ、朗らかに若者に話しかける。
「なぁ、エツィオも手伝ってって…」
今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気の俺達の様子に、ドメニコは驚いて奥に引っ込むと、今度は猟師が部屋に入ってきた。
何事だと俺と若者に問う。
若者は導師に似た彼に窘められる様に見られ、気まずそうに身を引いた。
「私の家で喧嘩はするな」
「…はい、すみません」
「君も、この子に何か言ったのか?」
疑り深く俺に視線を寄越し、何があったのかと問う。
俺は肩を竦めて見せ、若者の背を押して台所へと向かわせた。
猟師だけがこの場に残る。
二人きりになった瞬間、彼の目が冷たく鋭いものに変わり、俺ににじり寄った。
頭から爪先まで、まるで舐めるように観察され、開いた襟元の肌に目を留めた。
「その散らされた印について問われたか」
「まぁな」
猟師がフンと鼻で嗤う。
「あの二人が訪ねて来なければ、その肌に新しい痕をつけてやったというのに…」
面白くなさそうに猟師が呟く。
年の割りに元気なものだと呆れて溜息をつく。
この後、無理やりあの子達を追い返した後、俺は今の宣言通りにされるのだろう。
俺とて枯れている訳ではないと思うが、そう頻繁に求められても辛いだけだ…
「程々にしてくれ。本当に…」
*****
*****
「美味しかったー。なんかお腹がいっぱいになったら眠くなってきちゃったな!ね、ドメニコ」
「う、うん…叔父さん、俺達も泊めてもらったら駄目かな?」
大根役者の二人から、わざとらしい提案をされる。
しかし一見穏やかそうに見える猟師の米神が、ピクリと反応したのを俺は見逃さなかった。
導師の時もそうだが、ここでも若い俺は上手に彼の逆鱗に触れ、その矛先を俺へと向かわせる。
嫉妬深い彼が、この後俺に容赦しなくなると予想がついて、思わず溜息が出る。
口元は穏やかな微笑をたたえているが、猟師の目はちっとも笑っていない。
この後どういう返答をするのか、遠い記憶を掘り起こそうとした時、
「すまないがこの家にはベッドが一つしかないのでな。眠気が覚めないうちに早く帰るといい。さあ!出口はあちらだ」
にこやかに若者二人を立たせて背を押す。
あれよあれよと言う間に家から2人を追い出してしまった。
「さあ帰ったぞ!」
「すごい無理やり帰したな…」
「この家にベッドが一つしかないのは事実だ」
「それでこの後俺はあの子に、一つのベッドで毎晩お楽しみなのかと詰まられる訳だな」
呆れてこれ見よがしにため息を吐いてみたが、猟師は構わず俺の腰を抱くと情熱的に口付けてきた。
両手で捏ねるように尻を揉みしだく。
「…子供も帰ったことだ、これからは大人の時間といこうじゃないか」
「ムードもへったくれも無いな」
「黙れ。とにかくお前が欲しい」
首筋に噛み付くように吸い付かれる。
髪のリボンを解かれ、ふさりと肩に落ちた髪を一房掬い、髪に口付ける。
熱く見つめてくるその視線には余裕が無く、色気には程遠い。
寧ろ今にも食い殺されそうで、ゾクリとする。
強引に壁際に縫い付けられて口付けられる。
彼の気性を現すような荒々しい舌使いで口内を舐め回され、服を乱される。
性急な彼の手つきは、奪われているようで、そして導師とは違う逞しさに煽られた。
導師以外の男はお断りだと思っていたが、彼以外を受け入れる背徳感が快感を助長する。
膝を割り、掌が内股を撫で回しては焦らされる。
彼の昂ぶりが俺の昂ぶりに押し付けられ、ゆるく腰を動かして僅かな快楽を得る。
「あの小僧にもここを許しているのか?」
疑い、見定めるように見つめられ、両手で尻を割るように掴まれて問われる。
瞳の奥にチラチラと燃え盛る嫉妬に、まるで火をつけられたように体温が上がった。
「隠しても仕方ないから言うが、俺がアレを抱いている。まあ、求められれば代わってやらなくも無いが、生憎求められる事はないだろうな」
答えれば面白くなさそうに鼻を鳴らし、また傷の癒えきらない首筋に吸い付かれる。
「お前は、どこもかしこも他の男の気配をさせている」
「一つ言っておくが、俺は男が好きなわけではない。あの子に手を出してしまったのは…事故みたいなものだし、俺を好きにするあの男も…ただ俺を利用しているだけだ…今更…欲しいとも思わない…」
心の奥底では、本当はあの人の気持ちを受け入れたいと思っているくせに…だが、そうできない。
そうしてしまってはいけない。
俺はあの子に手を出してしまった…
必死に見ない振りをしていた事が、目の前に立ち塞がる。
いい加減向き合えと、嘗て好き放題に蹂躙されていた俺が詰まる。
そして全てを受け入れろと導師が俺に囁きかける。
目の前の男が、俺の髪を強引に掴み、噛み付くように口付けた。
まるで他所事を考えていた事を咎める様に、強引に唇を割られ、彼の厚い舌が俺の口内を蹂躙する。
そのキスに応えようとすると、鬱陶しいと言わんばかりに舌を噛まれた。
軽く噛まれた程度だが、その痛みに声が漏れる。
「お前のキスも腹が立つ」
「主導権を握られるのは嫌か」
「………慣れた、娼婦のキスだ」
首を押さえつけられ、睨めつけられる。
その眼光の鋭さに、ゾクリと肌が粟立ち、まるで大型の野生動物を前にしたような緊張が走る。
「来い」
力強く、そしてきっと抵抗しても振りほどけない力で腕を引かれ、寝室へと連れ込まれた。
ベッドへと突き飛ばす勢いで放られ、彼が覆い被さってくる。
薄暗がりでギラギラと不穏に光る、彼の琥珀の目が、まるで猛獣のように俺を見下ろす。
「私は村の人間から忌み嫌われ、生きてきた。こんな町外れに追いやられ…誰からも愛される事も、誰かを愛したこともない」
男は冷たく吐き捨てるようにそう言うと、俺の腕を頭上で一纏めに拘束し、俺に顔を近づけた。
「何故だか教えてやろうか?」
不穏に声を潜めて問われる。
すると見上げる男の姿が徐々に変わっていった。
口元を覆う髭が伸び、首筋や腕に広がるように、体毛が肌を覆っていく。
そして彼の逞しい体がさらに重量を増して。一回りも大きくなる。
ああ、ヴァンピーロの次はリカントロポか。
あの秘宝は御伽噺の国へと移動する鍵なのか。
すっかり様変わりした男を前に息を飲む。
その逞しく隆起した筋肉に視線を落とし、次いで、彼の興奮を知らせる昂ぶりを見つめた。
「…ソレ、を…俺に、入れるつもりなのか…?」
あまりの大きさに青ざめる。
人の時とは比べ物にならない質量のソレを、今から俺に味合わせようと言うのか。
思わず情けない顔で男を見上げる。
「ああ、たっぷり可愛がってやる。如何に男を受け入れてきただらしのない体でも、人狼を受け入れた事はあるまい」
全てが変化した猟師の声も、常の彼とは全く違う。
今からこの化け物に犯されるのかと思うと、途端に怖気が走る。
昨夜も思ったが、彼の性欲は人のそれよりも遥かにタフで底がない。
あの勢いでこの化け物を相手にしなければいけないと考えるとゾッとする。
壊される所ではない、比喩でなく彼の腹の上で貫かれたまま死んでしまうかもしれない。
「なぁ、程々にしてくれ。まだ俺の体も本調子じゃないんだ。その姿で昨夜みたいに攻められたら、本当に死んでしまう!」
「恐ろしいか?」
「そりゃ恐ろしいだろう!今のアンタのソレは凶器だ!」
視線で彼の怒張を示すと、目の前の人狼は少々気の抜けたような顔をして俺を見つめた。
「私が恐ろしくはないのか」
「恐ろしいと言っただろ!」
「……いや、お前が恐ろしいと思うのは、私の下半身だけか?」
「言っておくが、俺は至ってノーマルだ。普段男なんか相手にしないし!経験があるのも導師とあの子位だ。何か勘違いしているようだが、そんなデカイ一物入れられたら流石にただじゃ済まないぞ!」
必死でそう抗議すれば、猟師は一つ溜息を吐いて、俺の肩口に顔を埋めた。
そしてクツクツと笑う振動が伝わり、頭上で纏めて押さえられた手が開放される。
こちらは真剣に訴えたのに、笑うとは何事かと、思わず腹が立ち、彼の頭に手刀を落としてやる。
痛いじゃないかと顔を上げた猟師は、人狼の姿ではなく、人の姿へと戻っていた。
ホッと息を吐く。
「あの姿でお前を抱くのはもう少し後にしよう」
「いや、アンタの所望の人狼にしてやれ…まぁ、両想いになれたらだが…」
面白くなさそうに唇を奪われる。
何もしないでマグロになっていた方が、彼の嫉妬を煽らないだろうと思い、彼に身を任せる。
それはそれで腹立たしそうな顔をされたが、何故だか猟師は少しだけ嬉しそうにして、俺にキスを落とした。
「先程の醜い姿のせいで、私は村の人間から忌避されてきた…皆、私が恐ろしい化け物だと…」
気の抜けたような顔とは裏腹に、声は少しだけ寂しそうに呟く。
確かに、得体の知れないものを人は怖がる。
先程の姿では、確かに迫害されていたとしてもおかしくはない。
「まぁ、インパクトはあったな」
「…何の話をしている?」
敢えて彼の暗い部分には触れず、彼の下方を見てとぼけた事を言ってみせる。
呆れた顔で俺を見下ろす猟師に、笑んで頬を撫でてやる。
「ヴァンピーロだのリカントロポだの、最初に俺を食い殺さない時点で敵意がないのは分かっている。
俺は別に怖いとは思わない。ただ、羽目を外されてヤリ殺されたら堪らない。俺にはやらなければいけない事があるんでね」
彼は興味を惹かれた顔をして、俺を見下ろした。
「…それは何だ」
「復讐だ」
彼が少し驚いた顔で俺を見下ろす。
俺は無感情に彼を見つめ返して事実を言う。
「俺は人を殺す」
ビクリと揺れた肩を見て、俺は彼を押し倒した。
彼の唇を奪い、舌を差し込む。
彼の言う、娼婦の口付けで彼の口内をたっぷりと味わう。
「この手で葬らねばならない者達が居る…それまでは、死ねないし、こんな所でのうのうとしている暇はない」
「お前も獣を、その身に飼っているという事か…」
俺の頬を包み込むように猟師の手が触れる。
切なそうに視線を逸らした彼は、きっと彼の本当の想い人の事を考えているのだろう。
愛することは苦しい。それを嫌と言うほど経験してきた。
前の話