X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

2014/7/7 七夕の夜に

全体公開 2 1430文字
2014-07-07 10:19:42
Posted by @satomi8429


前略 ご無沙汰してます。お元気ですか。僕は今、なんと北甲国に来ています。びっくりでしょう。使節団に混ざって視察調査をするようお達しがあったんです。大きな町から小さな村までの交易のための基礎調査ですが、北甲国は広大で貧富格差もかなりあると聞いているので、個人的には、紅南国としても何か協力できることがないかなども考えていくつもりです。
 仕事の話はこれくらいにしますね。つまらない話をしてすみません。上陸したのは今日の朝なんですが、とにかく懐かしさで胸がいっぱいになりました。美朱さんや皆さんと一緒にびしょぬれになって上陸したあの時と同じ、白いもやのかかった広い広い大地でした。景色は勿論、初めて目にした遊牧民の住まいや食べ物にいちいち目を見開いていたことを思い出しました。あの時は軫宿さんや井宿さんの後ろに乗せてもらってましたが、今はちゃんとひとりで馬にも乗れています。あたたかい着物も用意してもらっているので申し訳ないくらい快適です。ご心配なきよう。
 北甲国にはしばらく滞在する予定です。また面白いものを見かけたらお便りしますね。それでは、くれぐれもお身体に気をつけてお過ごしください。
草々



署名し、丁寧に紙を折りたたむ。封をした上から封緘の記載をすると、折り返して筆を取る。しかし器用な指先が握るそれは、しばらく中空で逡巡したのち再び硯の上に戻された。
送り文を片手にそっと部屋を出る。北国の室内は暖かい。ともすると暑いくらいだった。
ぶ厚い布に隔てられた二重の入り口をくぐると、きんと冷えた空気が頬に気持ち良い。

「こんばんは。」
いきなり低い位置から声をかけられて驚いた。少々舌っ足らずだったが、なまりのないきれいな北甲国の言葉だ。視線を下げると、七歳くらいだろうか、北甲国の民族衣装を身につけた少女が傍らに立っていた。
「こんばんは。どうしたの、こんな時間に。おうちがわからなくなっちゃった?」
しゃがみこみ、視線を合わせて言う。方言の強くない言葉であれば、一通りは解るし喋れる。
「おうちは、あっち。」
草原には似たような形の家があちこちに建っている。その中の一つを指す小さな人差し指から、迷子なわけではないらしい。
「その手紙、届けてあげましょうか」
ぎょっとした。手紙は懐に仕舞ってあったのだ。
きらきらと遠慮のない視線が双眸をまっすぐに射る。
これ?」
なんとなくごまかせずに、白い封を取り出す。
「そう。」
「でも、届け先がわからないんだ。」
封緘の二文字の他は何も書かれていない封筒。
「大丈夫。」
「え」
「大丈夫。」
自信たっぷりの少女に唖然としてしまった。出すつもりはなかった。だってどこにいるのかわからない。でも中身は紅南国の文字だし、間違って別の人間に届いたところで特に問題ある内容じゃないし。それに、理屈ではない予感のようなものがぽつりと胸に光った、気がした。
じゃあ、お願いするよ。ありがとう。」
見ず知らずの少女に手紙を託すと、礼を言う。
少女は、うん、と返事をするとそのまま背を向け駆け出した。

なんだったんだろう。
少し猫に似た両目と、鋭い視線。
どこかで会ったことがあるような気がするんだけど。

思い出せずになんとなく見上げると、頭上には降るような星空が広がっていた。





***
死ななかった設定未来捏造です。

次の話→https://privatter.net/p/330166


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.