@acbh_dmc4
「エツィオ、君にはこの秘宝は触らせられない。何に使われるか分からんしな」
「俺の世界のヴァンピーロを倒す術くらい調べたっていいじゃないか」
「なら私に聞けば良いだろう。私の倒し方なら私が一番わかっている。お前が調べたいのは別の事だろう?」
図星を指されて黙り込む。
地上の蔵書にも似た知識があるかもしれないが、思うに領主の心を変えるほど強力な物は閲覧に制限が掛けられていそうだ。
許可を得るとしたら領主に話が行くだろう。
俺は歯噛みする。
どうしたって領主は俺のものになるのを拒否するのだろう。
いくら情に訴えたところで、領主の心に彼の妻が居る限り、俺を愛する事はない。
長い時間領主は秘宝に触れ、時折展開される絵や文字を見つめては落胆の表情をする。
その様子を中央に置かれている椅子から眺め、いつまでやるのかと内心呆れた。
領主が長い溜息をつき、漸く秘宝から手を離した。
少々休憩をすると言い、部屋を出ようと俺を促す。
「ここの椅子に座ればいい。何か飲み物とか食べ物が欲しいなら取って来てやる」
「……その椅子は私には座れない。とても神聖なものなのだ…お前も私に付き合わず、地上でこの地の案内をしてもらえ。一見地味に見えるだろうが、見所は色々あるぞ」
「貴方が一緒でないと意味がないし、そもそもずっと傍に居たいんだ。何度も言ってるだろう」
何度目かの同じやり取りに、うんざりしながら受け答える。
本当に俺のことなんか何とも思っていないのだと言われているようで、気持ちがくさくさする。
剥れて神聖なものだという椅子に居座ってそっぽを向く。
領主は苦笑すると、俺に近寄り宥める様に俺の肩をたたいた。
「調度昼時だから、息子もつれて昼食にしよう。昨夜とは違う、美味い料理を出す店があるのだ」
エスコートするように俺の手を取り立ち上がるように促す。
あやすように触れられる手はどこまでも優しくて、どことなくむず痒いような気持になる。
しかしあくまでもまだ拗ねているという態を崩さず、渋々といったように領主に従い立ち上がる。
彼のいう事を聞いてやるのだからと、無理やり手を繋ぎ、ゆっくりと地上へと向かう。
始終困ったようにする領主は、決して手を握り返してはくれないが、黙って俺の好きに任せている。
彼は気付いているのだろうか、そうやって拒まれなければ、どれだけ俺が期待を募らせてしまうのか。
地上へと戻り、ユスフたちの鍛錬場へと顔を出す。
鍛錬場は中々に異様な雰囲気で、無邪気な声を上げて暴れまわる子供から、逃げ惑うアサシン達の阿鼻叫喚が広がっていた。
鍛錬場の端に積まれた血濡れでぐったりしているヴァンピーロの山の隣で、のんきに声をかけているユスフは鬼かと思う。
「エツィオ!休憩だ。皆への指導はそれくらいにしてやりなさい」
「はーい!パパ!」
追いかけるのを止めた子供に、生き残ったヴァンピーロ達は涙ながらに抱き合い、互いの無事を喜んでいた。
「坊ちゃんは丸腰、他のアサシン達は武器使用可にしたのに誰も歯が立ちませんでした。
随分平和ボケしてしまっているようです。全くお恥ずかしい…」
「いいや、ユスフ。息子は遊びのつもりでも他のアサシンには荷が重いだろう。去年ならまだしも、あの子は着実に力をつけている…
私もあの子の鍛錬の為、時折相手をするが…あの齢で侮れんのだ」
無邪気に駆け寄る子供を抱き上げて、ユスフにそう伝える。
ユスフはそんな領主の言葉に目を白黒させて感心した声を上げた。
「では、私ももう坊ちゃんには適わなそうですな。坊ちゃん、今度は私にご指導をお願いしますよ」
ユスフが子供の頭をぐりぐりと撫でると、子供は嬉しそうな笑い声を上げて頷いた。
昼食はマキャベリとユスフを伴って街へと降りた。
領主は子供をしっかりと抱きしめ、子供が俺に抱っこをせがんでも、優しく宥めて放すことはなかった。
これ以上は周りを懐柔させない為であろうか。
面白くない思いをしたが、抱かれた子供はそれでも嬉しそうに俺に話しかけ、手を握ったり撫でたりとちょっかいを出す事については何も言われなかったのでよしとする。
店に入り各々注文をし、出された飲み物を口にして一息ついた。
ユスフは子供がどう他のヴァンピーロに指導(?)していたか等を俺たちに聞かせ、得意げにする子供を褒める。
領主はそれに相槌を打つと、不意に俺に話題を振った。
「君もユスフに魔力の使い方含め、指導をしてもらってはどうかな?」
「また俺を遠ざけて一人で宝物庫に籠る口実か。言っておくが、俺は何があっても貴方から離れる気はないし、俺に指導をするのならアンタがしてくれ」
寧ろ他の者の指導なら受けないと突っぱねてやれば、領主はやれやれと苦笑を零した。
「宝物庫については君を追い出したりはしない。いくつか君の意見を聞きたいこともあるし。
私が君に教えられればいいが、きっとそれは不可能だろう。私の留守中にユスフに指導を仰いで欲しいのだ」
意外な返答に目を瞠る。
何を考えているのか、疑り深く領主を見やれば真剣な顔で俺に理由を話してくれた。
「君がこの世界でずっと生きるにしろ、危険がない訳ではない。力の使い方はどの道学ばねば。
それに、君は私の血を引いているから、きっと強力なヴァンピーロとなれる」
「そうですね。貴方が力をつけ、教団に対力してくれたら大変心強い」
マキャベリが領主の提案に頷き、賛同する。
それにユスフも朗らかに同意してから俺の方へ向き直った。
「ちなみにエツィオ殿はどの程度戦えますかな?」
「ど、どの程度…と言われても…一応、人であった時はヴァンピーロカッチャトーレとしてヴァンピーロを狩っていたが…」
「では基礎的な戦闘は出来ていそうですね。直ぐにでも魔力の使い方を教えられるでしょう」
急に領主やユスフたちの間で俺への指導の話が纏められていく。
俺としても力をつけ、これ以上誰にも虐げられる事がなくなるのは願ったりだ。
領主が見せたような術を使えるようになれれば、何かと便利だし何より面白そうだ。
少しだけその指導が楽しみになったが、やはり教えを乞うならば領主からが良い。
我が儘を言ってみるか、と暇をしている子供の相手をしながらこっそり思った。
食事を終え、城へと戻ろうとした所で、朝方から元気に暴れまわり、腹もくちた子供が眠気に船をこぎ始めた。
領主は子供を寝かしつけに行く為、俺にユスフに着いていくようにと指示を出した。
当然俺は反発したが、ユスフに今後の俺への指導について話しをさせるからと却下された。
マキャベリも導師に話があるという事で、領主の後を追った。
不満を露に二人の後ろ姿を睨み付ける。
するとユスフが俺の肩を叩いて、苦笑しながら声をかけた。
「今後の指導についてエツィオ殿の話をお伺いしたい。城の執務室でお茶にしましょうか。さあ、こちらです」
ユスフに連れられ、城の中央階段を上がり、吹き抜けになっている執務室へと連れられる。
左右の壁は本棚が埋め尽くし、貴重そうな本や武器などが並んでいた。
また大きな明り取りの窓からは、闘技場が見下ろせる。
ユスフは手ずからお茶の準備をすると、俺に茶菓子と一緒に出してくれた。
「私の故郷から送ってもらったものです。チャイと、これはナツメヤシです。美味しいですよ」
「有難う。…ここがあんたの仕事場か?」
辺りを見回し、ユスフに尋ねる。
大層な執務室だ。
彼がここの長なのだろうと予想をたてる。
それを肯定するかのようにユスフは腕を広げ、仰々しく頷いて肯定した。
「まぁ、机にかじりつく性分でもないので、ここにはあまり顔は出しませんがね。この執務室はどちらかというと、導師がいらっしゃる時に使われる程度です。後は物置代わりですかね」
「それで武器も展示されてるのか」
「ええ、しかしどれも珍しい物ばかりですよ。敵から奪ったり、腕の良い職人の新作だったり」
感心して立てかけられている長剣を手に取る。
見た目に反して軽く出来ているそれは、手に取ると掌から全身に力が漲った。
剣を遊ばせるように軽く振ってみると、薙いだ風がかなりの風力を伴って周りを巻き込んだ。
バタバタと倒れる本や椅子を元に戻してユスフに詫びる。
ユスフはにこやかに腕がいいと褒め、一緒に片づけを手伝ってくれた。
その剣を棚へと戻し、剣に装飾されている模様を眺める。
どうやら模様に見える細工は、力のある呪符のようだ。
その他にも展示されている短剣や鎖等を眺める。
どれも細工が見事で、同時に溢れるような力を感じる。
その中でも一つの拘束具に目が行った。
それは華奢なつくりの手枷だった。
銅色のそれはなんの装飾もなく、一見して地味だが、内側に掘られた呪詛は強力な封印の紋だった。
これをつけられたら、どんな力のあるヴァンピーロも容易に抑え込めるだろう。
「ヴァンピーロカッチャトーレだったという事は、こういった武器は興味深いでしょう」
「ああ、どれも高値で取引されるものだ。この手枷等、恐ろしい値が付くだろうな…」
これほどの質の物は中々手に入らない。
まさに俺にとってここに無造作に置いてある武器や拘束具は宝の山だ。
思わず夢中になってあれこれ手にとってはその作りの見事さに感心する。
そんな俺の姿を微笑ましそうに眺めるユスフは、この世界の現状を話してくれた。
正義の心を持つ領主が主導するアサシン教団の事や、敵対するヴァンピーロの勢力。
テンプル騎士団の事だ。
人を家畜として、ヴァンピーロの力を高める糧としてしか見ていないテンプル騎士団に対抗し、人と共に戦い、護るのがアサシン教団なのだと。
しかしある程度の勢力を誇る両組織が抗争中だというのに、ここまで人々の平和を維持しているのには正直驚きを隠せない。
「いくらアサシン教団が優位だといっても、そんなに広範囲をカバーできるものか?」
「我々アサシン側が優勢だという事もあるが、平和の秘訣はやはりこれだ」
ユスフが得意げに腰に下げていた袋から、不思議に光る円盤を取り出して振って見せる。
それは宝物庫の鍵だった。
どういうことかとユスフが振る円盤を見つめる。
するとユスフは得意げに笑い、その鍵を再度袋に仕舞ってから続けた。
「宝物庫やエデンの欠片を我らアサシン教団が尽く抑えている。特に楽園の果実は膨大な知識の外に、強大な力も授けてくれる。それはもう、他のヴァンピーロすらも従えさせてしまう、恐ろしい力をです」
「…力を」
純粋に驚いたように相槌を打つ。
得意げに語るユスフを、内心で喋りすぎだと呆れて眺める。
目の前の男が牙を剥くかもしれないなどとは考えないのだろうか。
ユスフの言う通り、どうやら相当にこの男を含め平和ボケをしているのかもしれない。
そう話を聞いている最中、伝書鳩が明け放してある窓から執務室へと舞い込んできた。
「ちょっと失礼…」
ユスフは鳩の足から手紙を取り外すと、俺に背を向けて手紙を広げた。
彼の腰に下げられている宝物庫の鍵が無防備に揺れる。
そして俺の傍の棚には、ヴァンピーロ狩りに使われる、魔力を抑え、相手に最大限ダメージを与えられる武器が飾られている。
俺はそっとその中から先程の魔力を抑える拘束具と、短剣を手に取り、ユスフに向かって短剣を振り上げた。
「何をするおつもりで?」
尋常じゃない速さで俺の振り上げた右腕を掴まれる。
しかしユスフは完全に油断し、後ろ手で俺の腕を掴むに留め直ぐに振り向こうとはしなかった。
その隙に俺の腕を掴んでいる腕に拘束具を付け、思い切り捻り上げてみる。
ユスフは拘束具により魔力を封じられ、俺の力に敵わずに大きく態勢を崩した。
魔力の使い方は知らないが、俺もヴァンピーロだ。
基本的な身体能力は人間の頃よりも数段上がっているし、俺自身過去に何匹ものヴァンピーロを仕留めて来た。
その頃から体術ではヴァンピーロにも引けを取らない。
ユスフの首を膝と肘鉄によって勢いよく打ち据え、次いで腹を蹴り上げて執務室の本棚へと激突させた。
衝撃で動きの鈍くなったユスフの手に短剣を突き立て、そして拘束具を付けた腕を棚に置いてあった頑丈な鎖で本棚に繋いだ。
短剣も鎖も、両方とも破魔の力が備わったものだ。
ヴァンピーロはいくら傷つけても、魔力が続く限りは瞬時に傷を修復してしまうが、魔力そのものを抑える短剣と拘束具で捕縛されれば容易には動けないだろう。
だが油断は出来ない。
ユスフは領主に信頼されたヴァンピーロだ。
この程度の拘束を抜ける術は心得ている事だろう。
俺はユスフの意識を沈めるために、さらに頭を殴りつけて気絶させた。
ユスフの腰に付けられていた宝物庫の鍵を奪う。
鍵を片手に宝物庫へと走った。
領主が戻り、意識を手放したユスフが見つかってしまう前に、あの秘宝を手に入れなければ。
あれを手にすればすべてが手に入る。
宝物庫の鷹の星座をなぞる様に鍵を嵌める。
ゆっくりと扉が開き始め、人一人通れる程度に開いた時、扉の鍵を一つだけ外して中へと滑り込んだ。
宝物庫の中は真っ暗闇で日の光一つ入る事はないが、ヴァンピーロの目は闇にこそ本領を発揮する。
秘宝が眠る台座へと迷いなく進み、壁の一角を押して秘宝を取り出した。
無造作に掴んだその黄金に光る金属の球は、とても滑らかで、そして人肌のようにほんのりと暖かい。
秘宝を握りこむ。
途端に秘宝から眩い光が踊り、そして俺の頭の中に声が木霊する。
―――われは与える われは望むものをもたらし 其方を支配することはない
その声は頭の中で反響するように答え、そして本能的にどうすれば良いのかを理解する。
望めば与えられる。
これに、願えばあの人が手に入る。
しかし紛い物では嫌だ。
この秘宝で彼の心を捻じ曲げたとて、彼の中に妻が居る限り、本当に俺のモノにはなってくれない。
ならば、消せばいい。
彼の中から妻の全てを消してしまえばいいのだ。
秘宝を握りこみ、笑みを浮かべる。
ああ、早く領主の下に行かなければ…そう考えるとまた掌の秘宝が熱を持ち、次いで俺の頭の中に情景が流れ込んだ。
領主とマキャベリが話しながらマシャフ砦へと登城している。
二人はまっすぐ俺とユスフが居た執務室へと向かい、階段を上がっていく。
領主が朗らかに笑いながら待たせた旨を詫び、部屋を一望してユスフが倒れているのを見つけた。
二人がユスフに駆け寄り、俺の事を聞いた領主がマキャベリにユスフを任せて宝物庫へとまっすぐに走り出した。
宝物庫の扉から轟音が響く。
俺は入口へと体を向け、思わず緩む口元を引き締め、秘宝を掲げた。
二度、三度と扉が攻撃され、地響きのような扉が開かれる音が響く。
苛立ったような足音を注意深く聞き、秘宝の力を入口に向けて放てるよう意識を集中させる。
しかし領主は直ぐに宝物庫には飛び込まず、入り口付近で一度足を止めた。
俺は一歩も動かず意識を集中させ、領主の動きをひたすら待った。
じりじりと時間だけが過ぎていく。
もしやユスフやマキャベリを待っているのかと思い、こちらから動こうかと身構える。
しかし前方入口にいるはずの領主の気配が消えたと同時に、俺は咄嗟に佇んでいた場所から飛びずさり、秘宝の力を解放した。
部屋が眩い光に溢れ、全ての影が消える。
いつの間に移動したのか、先ほどまで俺が立っていた場所に領主が手を翳して佇んでいた。
マシャフまで移動した方法で、音もなく俺の背後に現れたのだと悟り、秘宝の光を絶やさぬよう前に掲げる。
「良い動きだ。鍛えればいいアサシンとなるだろうな」
「貴方が直々に鍛えてくれればいい。きっと貴方の役に立って見せる。お飾りの妻よりは俺の方が導師である貴方に相応しいだろう?」
領主が真顔になり、俺を厳しく睨み据える。
数度、部屋の空気が下がるような圧迫感が襲う。
途端に俺の世界のヴァンピーロに襲われた時の事がフラッシュバックし、動揺した。
領主がその隙を見逃さずに、俺目掛けて地を蹴った。
恐ろしい速さで飛び込んでくる領主を避けるよう俺も後ろに飛び、そして秘宝を前に掲げて願った。
秘宝が光の筋を放ち、放たれた鞭のように領主へと飛んでいく。
だが、領主は咄嗟に俺から距離を取り、光の筋から逃げおおせた。
ガクリと膝から崩れ落ちそうになる。
体中から力が抜け、息が上がる。
地に膝を着くことこそしなかったが、大きな隙を作ってしまった。
何とか体制を整えようとするも、ヨロヨロと力なく体を傾がせ転倒しそうになり、領主が咄嗟に俺に駆け寄って背を支えた。
領主の手が秘宝へと伸ばされる。
これを奪われれば、もう二度と領主に触れることはかなわない。
彼を手に入れることが出来なくなる!
震える手で、領主の胸に秘宝を突き付け、再度秘宝に強く願った。
―――この男を俺のモノに…!!
瞬間、秘宝から幾筋もの光の帯が躍り出て、領主の頭に秘宝の光が直撃する。
目を見開いた領主は、大きく苦しそうな悲鳴を上げてその場に頽れた。
「忘れてしまえ!あんたの妻は、この俺になるんだ!」
「……や、めろ……止めろ!」
秘宝を領主へと向け、彼の中から妻の記憶を消そうと念じる。
これで、これでこの男が手に入る!
彼に愛してもらえる…俺を、俺だけを…!
彼の妻のように、甘く、どこまでも優しく彼に愛されたい。
通路を駆けてくる複数の足音が聞こえる。
早く領主の頭から記憶を消さなければ。
そして、この場に駆けつけた者達の記憶も書き換えよう。
領主の頭の近くへと秘宝を近づける。
「導師!」
「エツィオ!何を…!?」
邪魔な者達も一緒に処理してしまおうと秘宝に念じ、彼らから記憶を奪おうとする。
秘宝が一層力を強め、まるで弾けるように光が踊った。
途端、全身から力が抜ける。
まるで全力疾走をした後のような疲労感が体を襲い、今度こそ膝から崩れ落ちた。
体が震え動けなくなる。
しかしこの秘宝を奪われるわけにはいかない。
身を奮い立たせ、震える足で立ち上がった。
周りを見渡す。
領主とマキャベリとユスフが床に倒れ、苦しむように頭を抱えている。
念のため、領主から距離をとるよう後退る。
荒い呼吸を落ち着け、大きく息を吐いて秘宝を両手で抱えるように持ち直す。
これでこの者達の記憶は奪えたのか?この世界のエツィオの記憶は…分からない。
ならば近寄れない。
この秘宝はまだ手放すわけにはいかない。
手の中の秘宝に視線を落とす。
一体どうなったのか、秘宝に訊ねる。
しかし、手の中の秘宝は力を失ってしまったかのように沈黙していた。
「う…こ、こは……」
領主がゆっくりと身を起こす。
額に手を当て、深く瞑られていた目が開く。
秘宝を持った俺を見つめると、領主は目を瞠り、咄嗟に立ち上がりこちらへと足を踏み出した。
「動くな!これは渡さない」
「君、それは危険なものだ。使用を誤れば君もただでは済まない。私も手荒な真似はしたくない。それを、ここに戻すのだ」
「嫌だと言ったら?」
「……君を傷つけたくはないが、強硬手段に出ざる終えんな」
領主がそう呟いた瞬間、俺の手から秘宝が弾かれた。
あまりの疲労で秘宝の光が弱まり、影を作ってしまっていた。
領主はその影を操り、闇を固めて俺の手元の秘宝を弾いたのだ。
咄嗟に宙に舞う秘宝に手を伸ばすと、その手を闇で作り出した黒い手枷に巻き付かれ、宙吊りにされる。
領主は辺りを見回し、マキャベリとユスフが倒れているのを見ると、一つ溜息を吐いて彼らを闇の中に取り込んだ。
「君にはいくつか聞きたい事がある。場所を移そう」
領主に顎を取られ、冷徹な目で見下ろされる。
あのヴァンピーロのような非情な目だ。
急に怖気が走り、体が強張る。
蔑んだような目で見る領主は、俺を闇の中へと取り込み、俺は強制的に意識を奪われた。
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