@acbh_dmc4
ちびのエツィオが消えたと報告が入ったのはあの子の行方がわからなくなって半日も経った時だった。
俺は背筋に冷たいものが這うような、とても空寒い想いがした。
あの可愛らしい子供がもし、他のヴァンピーロの手に掛かっていたら…
そう思うと居ても立っても居られなかった。
確かにあの子は俺の子供ではないが、愛しい領主の一人息子だ。
それに幼い頃の俺にとてもよく似ていた。
だからか、半分自分の子の様にも感じていたのだ。
「俺もエツィオの捜索に出たい」
「…気持ちは分かりますが、私の同胞が隈なく捜索をしています」
「でも未だ見つからないのだろう?誰かに攫われた可能性が高いんじゃないか!もしかしたら、俺が行けば何か分かるかもしれない」
「……ですが…」
「頼む、マキャベリ…」
必至でマキャベリに願う。
彼は困ったような顔をして俺を見たが、後ろからヴァンピーロがマキャベリに提案を投げた。
「それなら私も行こう。力は抑えられているが私には鷹の目もある。正確にその子供の軌跡を辿れる筈だ。また、もしヴァンピーロによる誘拐なのだとしたら、目的は私だろう」
何の気まぐれか、ヴァンピーロが俺に味方するようにマキャベリに進言する。
ここ最近は嫌に大人しく、治世の勉強にも身を入れている。
すまし顔の下にどんな野望を抱いているのか、マキャベリも胡散臭そうに顔を顰めるが、俺は子供が心配で、今回はヴァンピーロの援護を頼もしく、マキャベリに縋る様な目を向ける。
渋々といった態でマキャベリが了承すると、俺は直ぐにでも向かおうと馬車の手配をしようとした。
しかし、ヴァンピーロに腕を取られて止められる。
俺は邪魔をするヴァンピーロを睨み付けると、ヴァンピーロは呆れたような表情で俺に話しかけた。
「エツィオ、直夜が来る。ならば闇を移動したほうが馬車より早い。マキャベリが移動する術を心得ているから馬車は不要だ」
「確かに闇を利用したほうが早く済みます。エツィオ、こちらへ」
「お前もまじないの本をよく読んでいただろう。その位は出来んのか」
「あの屋敷から出られず、移動も出来ないなら、覚えるはず無いだろ!」
早く太陽が地平の彼方へと消えないか、睨むように見つめる。
影が伸び、徐々に辺りが薄暗くなり始めたのでマキャベリに向き直る。
マキャベリとヴァンピーロが揃って落ち着くようにと俺を宥め、首を振る。
俺は歯噛みして闇を待った。
「さあ、もう行けるだろうマキャベリ!」
「ええ。では私に掴まって下さい」
「早く!飛ばせ!」
マキャベリの腕を締め上げるように掴むと、マキャベリはもの言いたそうに俺を一瞥したが、直ぐに移動してくれた。
しかし、前にマシャフ砦へと領主が飛んだように早くはない。
俺はもっと急げないのかとマキャベリに怒鳴りつけた。
「導師と一緒にしないで下さい。彼は特別なのです。これでも目いっぱい飛ばしています!」
「ならヴァンピーロに飛ばさせろ!」
「ではこのバングルを外せ」
「なりません」
「くそっ!!」
気だけが焦る。
あの子の身に危険が迫っていると思うと、胸が潰されたように苦しくなる。
数分が何時間にも感じる。
領主が居ない間に、領主が心から慈しみ、大切にしている子供に何かあったら…彼に合わせる顔がない…
ヴァンピーロが俺の肩を抱く腕に力を込める。
俺はヴァンピーロに目を向けると、彼が真剣な顔で大丈夫だと囁いた。
領主のような思慮深いヴァンピーロの眼差しに、俺は胸がざわついた。
数十分も飛んだだろうか、やっとマキャベリの屋敷へと着いた。
マキャベリを急かし、彼の屋敷へと入ると、子守を呼んだ。
子供が消えた直後の話を皆で聞く。
一通り話を聞くと、ヴァンピーロの提案で子守が最後に子供を見たという現場へと向かった。
「ここから鷹の目を使う」
「…鷹の目?」
「導師のみが使える術です。彼は見たいものを過去から遡り、その場で何があったか知る事が出来るのです」
ヴァンピーロの目が金色に煌く。
ヴァンピーロは最初、ゆっくりとした歩幅で居間を歩き回っていたが、廊下に出たあたりで、大またで移動を始めた。
廊下の角でスピードを緩め、また一本真っ直ぐの渡り廊下を競歩で進むを繰り返す。
そうしてマキャベリの屋敷の地下へと進む。
「……地下倉庫へ向かっている…?」
マキャベリが訝しげな声を上げた。
ヴァンピーロが地下へと続く石畳の階段へとたどり着くと、進む足を一気に速めた。
俺たちもヴァンピーロの後を半場駆けるようについていく。
マキャベリが既に開かれていた扉を見つめ、訝しげに眉を顰める。
「ここの扉は硬く施錠されていた筈です。魔力で…坊ちゃんはここの扉をどう破っているのです?」
「この子供は何もしていない。何かに呼ばれているように、ただ道を進んでいるだけだ。全ての扉が既に開かれていた」
「で、では…誰がこの扉を開けたのかも調べて…」
最後の扉にたどり着く。
その扉は開かれておらず、ドアノブに手を掛けても開く事はなかった。
確りと施錠されている。
ヴァンピーロがマキャベリにここを開くように言うと、マキャベリは施錠と呪いを解除した。
部屋は色んなものが散乱していた。
しかし中央に一つ、見覚えのある本が開かれて置かれている。
まるでその本が台風の目の中心だったといわんばかりに、円を描き、中心を開けるように物が落ちていた。
「ここで子供が消えた」
ヴァンピーロが抑揚のない声で事実を告げる。
「その本に消されたように見える。本が光を帯び、子供が驚いている間に、体がかき消えた」
ヴァンピーロが顎鬚を撫でながら思案する。
そして俺に向き直ると、ヴァンピーロが見たものを説明し始めた。
「子供の挙動を見るに、何かに呼ばれたようにここへ向かっている。扉も全て開いていた。ここの扉も、子供が入った時には自然と開かれていた…」
「……何者かの罠でしょうか?」
「他に出入りがないか視てみたが、子供がここへ向かう前後に訪れた者は居ない。この本を置きに来た、お前以外には」
マキャベリを視線で指し示す。
それから、ヴァンピーロは原因の本を手に取ると、また俺たちに向き直る。
「面白い事に、この本の文自体が呪いの発現だ。この文字を見るだけで術が発動する。ただし、互いの存在を交換するには強い意志が必要のようだが…それともう一つ、この本で移動した者は、同じ世界に二つと存在できない」
ヴァンピーロが手にした本から視線を俺に移す。
そして、真剣な顔で、思いもよらない疑問を投げかけてきた。
「お前、妊娠しているのではないか?」
「え?」
ヴァンピーロの言葉に思考がとまる。
妊娠?急に何を言っている?
そんな事よりも、俺はあの子供の安否が気に掛かっているというのに!
俺は腹立たしく思い、ヴァンピーロに食って掛かろうとした。
「言っただろう。この世界に同じ者は同時に存在できないのだ。鷹の目で見るその子供の軌跡が、この地下倉庫で途切れている。お前が妊娠しているのなら、この本によって同じ者がこの世界から弾き出されたと考えれば、辻褄が合う」
「………」
確かに体の関係は持っていたが、向こうの世界で散々ヤッても出来なかった。
この世界の俺たちが子を儲けていた事を考えると、俺も身籠る事は出来るのだろう。
だが、それとどういう繋がりがあるというのだ。
怪訝な顔をしていると、ヴァンピーロがまた彼の持論を広げた。
「元居た世界で、私はお前に乱暴を働いていたし、こことは違い、食事も満足に与えて居なかったろう…ここでのお前はまぁ、楽しそうにしているし、食事も質がいい」
「それで俺が妊娠したって?」
「しやすい環境なのは確かだろうな」
至極真面目にそう話す、ヴァンピーロの言葉を飲み込む。
この男がふざけてものを言う事が無いのは分かっている。
意外にも、この男も領主と一緒で真面目なのだ。
しかしもしあの子供が本当にあの世界へと飛ばされてしまったのなら、あの世界は危険だらけだ。
ここにいるヴァンピーロのせいであの屋敷付近は化け物共がうようよしている。
領主が早々にあの土地を鎮圧してくれていればいいが、それでも危険なことには変わりない。
あの子供は天使のように愛らしいし、人に捕まり、ヴァンピーロだと知られたら、その先は想像したくもない。
「どの道、危険な事には変わりないじゃないか!俺は向こうの世界に戻れないのか?!」
「エツィオ、落ち着け。地上に出よう。マキャベリ、何か飲み物を持ってきてくれ」
「分かりました」
ヴァンピーロとマキャベリが深刻な顔をして俺を見る。
ヴァンピーロが俺を支えるように腰を抱いて、地上の応接室へと導いた。
俺を座らせ、ヴァンピーロが跪いて俺を見上げる。
両手を握られて優しく手の甲をヴァンピーロの指が撫でた。
「エツィオ、あの子供はヴァンピーロの間に生まれた子供なのだろう?それならそこら辺のヴァンピーロや、人間よりも力がある。もし子供が危険に晒されて力を使えば、心配しなければならんのは周りの者だろう」
「………」
「それに、きっと両親の近くに出現する。強い絆が存在する者達は、必ず引き寄せあうのだ。
ここの私はやり手のようだし、既に結構な時が流れている。屋敷周辺は安全が確保されているはずだ」
「何故そんな事が分かる」
「私は治世を学ぶと同時に、ここのヴァンピーロの事も調べていた。悔しいが、ここのヴァンピーロは、私よりも聡明のようだ…」
ヴァンピーロが床に視線を落とし、落胆の表情を浮かべた。
「お前が彼に心を寄せたのも当然だ。私は愛を知らなかった。この世界のエツィオに、仮初でも愛されて、その感情の輪郭は掴めた。しかし、お前と再会し、ここで感情を学び、お前と共に居ることで、愛しいという気持ちがやっと理解できた。エツィオ、どうか…私の子を産んでくれないか」
「……っ…!」
ヴァンピーロが真剣な顔をして俺に語りかける。
真摯な眼差しは愛しいあの領主のようで、そして傍若無人を絵に描いたようなこの男が、跪き俺に懇願している。
昔のこの男なら、嘘でもこんな事はしないだろう。
「エツィオ、愛している」
ヴァンピーロの顔が強張り、緊張しているのが分かった。
縋るような目を向けられ、握られる手に力が入る。
俺はヴァンピーロの言葉に頭が真っ白になって、ただ彼を見詰めることしか出来ずにいた。
ヴァンピーロは辛抱強く俺の言葉を待つ。
徐々に不安そうな色を増していく表情に、俺は初めてこの男が愛しいと思った。
「本当に、愛しているのか?俺を?」
「愛している!だから、お前にも私を愛してもらいたい…」
「アンタが俺にどれだけ酷いことしたのか、それを理解してそんな事言うのか」
「……それは、これから…償っていきたい。それに、私はお前を手放す気はないし…」
「力を取り戻したらまたあの非道なヴァンピーロに戻るんじゃないだろうな?」
「もうあのように振舞うことはない。…いや、お前が私を拒んだりしたらどうか分からんが…極力控えるようにする」
憮然としてそう言う姿に思わず失笑する。
このヴァンピーロがいやに可愛く思えて、彼の手を握り返す。
もともとちびのエツィオと触れ合って、あんな子が欲しいと思っていた。
そしてきっとあの子が産まれる為には、このヴァンピーロと俺ではないと無理なのだろうと理解していた。
「まだアンタを信じられない。…でも、アンタの子は産んでやるよ」
「本当か!」
「しかし、本当に出来ているのか…」
「お前のここ最近の体調を見ると、出来ていそうだが…あの子供があの本に呼ばれたとするなら、確実だろう」
自分の腹を見下ろす。
当然のことながら女のように、将来子を産む等と考えたこともなかったから、言われてもピンとこない。
ヴァンピーロが緊張気味に俺の腹を触る。
その真剣な様が面白く、思わず笑む。
ヴァンピーロがそんな俺を見上げて目を瞠った。
「…お前は、美しいな…」
「何を言い出すんだ」
「…いや、今…とても美しく、笑んでいたから…」
言い澱むヴァンピーロは心なしか顔色がいいように見える。
彼の手を取り、手首に嵌っているバングルを外す。
ヴァンピーロが驚いたように俺の名を呼ぶ。
バングルをカウチに置き、彼の手を遊ばせるように弄る。
「マキャベリと相談の上外すのではなかったのか?」
「もう、いいだろ」
「私を試すにしろ、私を押さえ込めるヴァンピーロは居ない。もう暴れはしないが、勝手に外したのがマキャベリに知れたら面倒だぞ。貸しなさい」
「アンタが自分で着けたらただの装飾品になるだけだ」
「じゃあお前が着けてくれ」
「良いじゃないか。もうそろそろ取ろうってマキャベリとも相談してたんだよ」
「あいつの説教は長いなんてもんじゃないぞ…」
「大丈夫だよ。妊夫は労わるだろ流石に」
俺の楽観的な言葉に、心配そうにするヴァンピーロは、あの領主のように優しさに溢れている。
彼の手を取り、手を頬に寄せる。
彼の親指が俺の頬を優しく撫でる。
彼の目を見つめれば、彼のもう片手が俺の頬に伸ばされ、優しく啄ばむようなキスを贈られた。
目を瞑り、その口付けに応える様に彼の首に腕を回すと、彼が俺を抱きしめてくれた。
ひとしきり口づけ、また互いを見詰め合う。
「私を愛してくれるか」
「アンタが俺を愛してくれたらな」
「愛してる」
「どうだか」
笑んで軽口を言えば、可愛げのないところが愛しいのだと言われた。
ノックの音が響く。
マキャベリが召使の者と入り口に立っている。
カートには人数分の品のいいカップとポットが乗せられていた。
バングルの嵌っていないヴァンピーロの腕を一瞥し、一瞬目を眇めたが、一つ溜息をついて慇懃無礼に入室の許可を取ってきた。
「お邪魔でしたかな」
「まぁ、多少」
「……エツィオ、あまり煽るな」
「念のためヴァンピーロの医師を呼んであります。直ぐに来るでしょう。もし本当に孕んだのだとしたら、エツィオは導師の監視はしなくてかまいません」
急なクビ宣言に顔を顰める。
孕んだといっても体力に問題は無いのだから、このまま一緒に仕事をしても問題ないだろうに。
サポートのようなものだが、自分の仕事にもやりがいがあったし、何よりヴァンピーロが真剣に職務を全うする姿を、近くで見るのが好きだった。
それに一度仕事に行くと、夜までヴァンピーロに会えないのだ。
「私も君が家に居てくれたほうが安心できる。ヴァンピーロの妊娠は不安定だ。そもそも滅多に子を生す事はない。大事にしてくれ」
「……生まれないこともあるのか?」
「分からん。そもそも情報が無さ過ぎる。私はヴァンピーロの両親の間に生まれたが、母が私をどう育んだのかは知らない」
そう言われてしまうと従わざる終えなくなる。
あの子供のように、聡明で優しい子供が欲しい。
不承不承頷くと、ヴァンピーロはホッとした顔をした。
「ちびのエツィオは…本当に大丈夫だろうか…マキャベリ、そろそろ向こうの世界とのコンタクトを取ってもいい頃じゃないか?」
「そうですね…明日から日没後、交信をしてみます」
ホッと息を吐く。
急な事に頭がついて行かないが、もし領主と彼の妻の下に子供がむかったのなら、きっとそれが一番良い。
あの子は両親から離れても気丈に振舞ってはいたが、本当は人一倍寂しがり屋で、甘えん坊なのだ。
俺に抱かれて寂しいと泣いていた、あの子が本当の母親に抱かれて微笑んでいれば良いと思う。
ほんの少しだけ寂しく、苦い思いをしていたら、ヴァンピーロが俺の肩を抱いた。
優しく微笑む彼が、俺を愛しそうに見つめる。
ずっと欲しかった眼差しを向けられ、胸が切なく締め付けられた。
「マキャベリ、交信は直ぐに取れるものかな?」
「ええ。一度初日に試しました。話くらいなら導師とも交信が出来ます」
「時間帯は決めてあるのか?」
「貴方の事が何とかなりそうなら日没前に定期的に、また夜の内ならば導師が連絡を取りやすいようにと本を所持している筈です」
「そうか。ではなるべく直ぐに交信を取ってくれ。そうすればエツィオも安心するだろう」
マキャベリはヴァンピーロに頷くと、直ぐに部屋を出た。
早速連絡を取ってくれるのかもしれない。
子供の事が気になったが、ヴァンピーロに宥められて俺は大人しく彼の胸に甘え凭れ掛かった。
優しく髪を梳かれる。
彼の鼓動の音が、とても安心する。
あれだけ俺を虐げたヴァンピーロなのに、許せないと思っていた男だったのに…今は彼の存在がこんなにも愛しい。
「私は、きっとまだ身勝手な事もするだろう。だが、そんな時は…窘めてくれ。私も、お前の言葉は必ず聞く」
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最近エツィオが大っぴらに甘えてくるようになり、駄目だと言うのに未だに夜に求めてくるし、仕事を休め、でなければ自分も同行させろと要求してくる。
とても甘えたになり、私が屋敷に帰ると常にくっつきたがり、四六時中唇を求めてくるのには正直、とても嬉しい。
だが本当に困るのだ。
気を抜けば深く激しくなる口付けに、何度煽られ彼に無体を敷きそうになったことか。
彼は膣に入れなければ問題ないだろうと、より一層私を誘うのに躍起になるが、膣に入れなくとも久々に彼の中へと潜り込めば、きっと私は際限なく彼を攻め立ててしまうだろうと思う。
「俺を愛してないのか」
「死ぬほど愛している。今すぐお前がほしい。しかしお前に無理をさせたくないからしない。何度も言っているだろう」
「なんでそんなに理性が強くなってしまったんだ!昔は俺のことなんか考えずに好き放題求めてきたのに」
「お前が大事だからだ。一度触れてしまえばお前が制止しても止まらなくなる」
「俺だってもういい加減我慢できない。貴方に愛されたい。貴方に無理矢理奪われたい」
「エツィオ…子が産まれたら、その後いくらでも求めるから」
「子が出来たらなおの事そんな時間なくなるってメイドに聞いた」
「そんなことは無い。たまには子守に1日2日子を任せて私と愛し合えばいいだろう?とにかく今はダメだ」
恨めしそうに見上げるこの子が愛しくてどうしようもない。
我ながら随分な変わりようだと思うが、この子も大概変わった。
この世界のエツィオのように、ひたすら受け入れてもらう愛され方もいいと思ったが、今のこの子の様に我儘を言われて求められるのがとても心地良い。
ころころと変わる表情も堪らない。
怒ったり、笑ったり、焦ったり、切なそうに見上げてきたり…どの顔の彼も等しく新鮮でそして愛らしい。
不機嫌になった彼にキスの雨を降らすと、すぐに機嫌が直るのも愛しすぎて死にそうだ。
大きくため息を零し、何故お前はそんなに愛しいのだと呟けば、彼はぐわりと肌を明るくして、次いで私の胸にその顔を埋めた。
あーーーいちいち可愛いなこの男はまったく!
子供はきっと可愛いのだろう。エツィオに似ていると良いなと思いながら、彼の胎を撫でる。
するとエツィオは私の手に手を重ね、頬を染めながら上目遣いで微笑んだ。
ああ、灰になりそう…
「……早く生まれれば良いのに…早く貴方に触れられたい」
「エツィオ、これ以上煽るのは止めてくれ…もうなんというか、色々我慢の限界が近い。さりとてお前を離せないから、落ち着くまでちょっと無反応を貫いてくれるか」
「…と言うことは後一押しか」
「おい」
がしっと抱きつかれ、耳朶を食まれて吐息を吹き込まれる。
耳元で水音を立てられ、悪魔のようなエツィオの卑猥な囁きが必死に戦線を護っていた理性を崩壊させようと総攻撃を仕掛ける。
もうこれ以上はいけないと、彼の体を遠ざけようと肩に手をかけるが、馴染みの欲望が最近生まれたばかりの理性を押しのけて、奪ってしまえと私をたきつける。
エツィオはダメ押しで私に行為の了承を告げると、私は首の皮一枚でつながっていた理性の首を撥ねるべく、彼を押し倒して口付けを落とそうとした。
「そこまでになさい、エツィオ。導師、ちょっと見ていただきたい書類があるのですが宜しいですか?」
「「チッ」」
ようやと邪魔な理性をかなぐり捨てようとした処で、マキャベリの制止が入った。
思わずエツィオと同時に舌打ちをしてしまい、エツィオとマキャベリの視線が痛い。
しかし、九死に一生を得た理性は、両手を祈るように胸の前で組んで、マキャベリに感謝の眼差しを向けた。
書斎へと促され、彼に続き広間を出る。
前を行くマキャベリが呆れた様に私を一瞥して、遊ばれていますよと私に忠告をした。
「あのエツィオは油断なりません。お気をつけなさい。今の貴方はまったく…当初とは随分と変わりましたが、まるで赤子だ」
「何だ、本当に助け舟を出してくれただけなのか?」
「いいえ。仕事はあります。急ぎで意見が聞きたいのです。その後は心置きなくエツィオに遊ばれて結構です」
私は昔からこの皮肉屋な男が苦手だったが、ここ最近随分と慣れてきた。
馬鹿にしたような物言いに聞こえるが、実際はそうではないのだとも分かってきた。
一先ずマキャベリの用件を済ませ、またエツィオの待つ広間へと戻る。
我慢比べのように自分の理性の限界を試している感は否めないが、それでも彼の傍に居たい。
私が戻ると、彼は暇つぶしに読書をしていたようで、その大きな本から顔を上げて嬉しそうに笑んだ。
もうその眩しい笑顔だけで私は昇天しそうだったが、まだ夜は長い。
それが恨めしいような、昼間離れてしまっている分を取り戻せるようで嬉しいような、とても悩ましい思いで、私は彼にまた試される時間を過ごすのであった。
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正直、今俺は幸せだ。
子が産まれるのも楽しみだし、まさかあのヴァンピーロが本当に領主のように暖かく思いやりのある人格者に変わるとは、思いもしなかった。
変わろうと思えば変われるものだ。
マキャベリには失礼にもあまりあのヴァンピーロをからかうなと言われているが、からかっているつもりは無い。
全て本心で彼に接しているし、今まで迷惑をかけられた分の仕返しも含めて我儘を言っている。
そもそもヴァンピーロとなってから俺も欲望に忠実な性質となってしまった。
子が出来たから控えなければならないのは分かっているが、俺は男だ。
欲求は溜まる。
それに俺はあのヴァンピーロを愛しいと思っている。
愛しいものが傍に居れば触れ合いたくなるのが当然の理だろうに。
マキャベリに呼ばれて出て行ったヴァンピーロを見送って、仕方がないから高ぶったこの身を慰めるべく、一度寝室へと帰る。
一度出せば頭も冷えて落ち着いたので、部屋に置いてあった読みかけの本を持ち、広間へと戻る。
どうせマキャベリのことだから、相談とやらが長引くだろう。
昼間仕事で俺に構えないのだから、マキャベリに言われるまま出て行かず、俺の相手をしてくれれば良いのに…
きっとあの時、俺を押し倒そうとしていたし、愛し合えたはずなのに…今度マキャベリと顔を合わせる事があったら文句を言ってやろう。
戻ってきたヴァンピーロが俺を抱きかかえてまたソファへと座る。
俺は悪戯に誘うのは止めて彼の腕に身を寄せて肩口に凭れる。
しかしどうもヴァンピーロの態度が落ち着かない。不思議に思って彼を見上げると、息を呑むのがわかった。
「どうしたんだ?」
「……お、お前…一人で済ませたのか?」
「済ませたって何を?」
ヴァンピーロが額に手を当てて嘆息する。
何でそんな呆れたような態度を取られないといけないのかと問い詰めれば、事後の俺は普通にしていても全力で誘っているのだと言われた。
俺はピンと来た。ではこのヴァンピーロの前で自慰すればこの男は一発で俺に落ちる!
何故考え付かなかったのかと思い、さっそく試してみることにした。
眠さを訴えて彼に寝室まで運ばせる。
丁寧に抱き上げられ、彼の首の後ろに両腕を絡ませて頬を寄せる。
彼に啄ばむような口付けを贈ると、ヴァンピーロは困っているのに嬉しそうな顔をした。
ベッドに俺だけ下ろされそうになる。
俺は添い寝してもらえないと嫌だと言い、彼にベッドへ入るように言う。
彼がベッドの端に腰掛け俺の頭を優しく撫でると、俺はさも不満そうな顔を作り、彼の膝へと横抱きになるよう腰掛けた。
ヴァンピーロが苦笑する。
甘えるように彼に凭れかかり、ずっとこうしていてくれと耳元で囁いてから自分のズボンに手をかける。
フロントの紐を引き抜き前を寛げて自身を取り出すとヴァンピーロが目に見えてうろたえ出した。
俺は彼に触れてもらえないならせめて見ててくれ、と上目遣いでお願いしてから見せ付けるように欲望を擦り上げる。
わざとらしくない程度に鼻に掛かった喘ぎを上げる。
荒く息を吐き、彼にその湿った息がかかるように首筋に口を近づける。
見られていると思うと、それだけで先程一人でシた時よりも狂おしい快感がこの身を支配する。
酷く感じ入ってヒクヒクと体を震わせると、ヴァンピーロの俺を抱く腕に力が入った。
何度もイキそうになっては止め、快感を長引かせる。
なんだかもうこれだけでも良いかもしれないと思いつつ、切なさに彼の唇を求めた。
口付けながら手の動きを早める。
夢中で彼の唇に吸い付き、もう開放以外のことを何も考えられなくなる。
反応の鈍かったヴァンピーロの舌が、俺の口付けに応えるように絡まる。
根元から舌を吸われ、上顎を擽られる。
息をも奪うような情熱的な口付けに変わり、俺は息も絶え絶えになり喘いだ。
ヴァンピーロの手が俺の手に添えられて一緒に刷り上げられて欲望が弾ける。
目の前がちかちかして、頭がしびれる。
体の自由が利かなくなりヒクヒクと快感に身を震わせて、ヴァンピーロの胸に凭れた。
漸く落ち着いて吐息をつくと、ヴァンピーロを見上げる。
そこには俺の予想していた欲を滾らせる男の顔は無く、冷めた感情の無い顔があった。
どきりと心臓が跳ねる。
「……マキャベリが言っていた。お前は私で遊んでいるのだと。そうなのか?」
「はぁ、はっ…あ、…そう、思うなら…俺の血を飲んで確かめれば、いい…」
「それもそうだな。私も、我慢の限界だ」
無表情で目が据わったヴァンピーロが俺の首筋に牙を立てる。
俺の血を飲んで、俺の切なさを知って理性なんてなくなればいい。
どんなに酷くされても構わない。とにかくヴァンピーロが欲しい。
喉元を噛まれ、ジワリと血が溢れる。
欲を放った後で冷静になり、正直羞恥が酷いが、俺の尻の下で硬く主張するヴァンピーロにまた煽られている。
俺の血を味わうように飲んだヴァンピーロの目が優しく垂れる。
「エツィオ…」
「何だ」
「愛している…」
「本当に?」
「ああ。お前も私の血を飲むか?」
「それも良いが、もっと分かりやすい方法があるだろ?」
どうせ貴方の血を飲むのなら、俺に溺れて快感になりふり構わない、乱暴な貴方の想いを感じたい。
そう彼の目を見て言えば、彼は俺を優しくベッドに横たえて俺のシャツを丁寧に脱がし始めた。
俺のズボンを引き抜かれて前を肌蹴られヴァンピーロが圧し掛かる。
興奮で彼の目が金色に光り、何もかも暴かれているような錯覚を覚える。
「…なるべく、優しくする」
「いいから、俺を求めろ」
うっとりと笑みを乗せ、ヴァンピーロに口付ける。
口付けながらヴァンピーロの服に手をかけ、ボタンを一つずつ丁寧に外していく。
彼の前を肌蹴させると、両掌で撫でるように彼の肩口から袖に手を這わせて彼のシャツを脱がす。
俺よりも逞しく引き締まった体に抱きつき、只管深く深く互いを貪るキスの応酬を続けた。
彼が俺の背を片手で支え、そしてもう片方の腕が俺の尻に這わされる。
ねっとりと揉み込む様に撫でまわされ、そして彼の高ぶりがズボン越しに押し付けられる。
ああ、早くそれが欲しい。
切なく彼を見上げると、とても嬉しそうな、どこまでも甘く蕩けたやさしい彼の顔があった。
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