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メゾン・マグダレーナの公演中止を受けて

全体公開 8277文字
2018-12-30 10:23:54
Posted by @jirogiii

<経緯>

メゾン・マグダレーナの公演については先日このような文章を書きましたが(https://privatter.net/p/4021653)、その後12月13日にCLIEより公演中止が発表されました。
「メゾン・マグダレーナ」公演中止のお知らせ:https://www.clie.asia/mm_oshirase.html
(ナタリーの記事にも中止になった旨が追記されています:https://natalie.mu/stage/news/308472
公演中止までの経緯は、CLIE社への抗議ブログ(https://protest-2cl.hatenablog.com/entry/2018/11/27/014259)を書かれた中町さんの記事に詳しいです。
「CLIE社への抗議」発表後の経緯、及び舞台『メゾン・マグダレーナ』上演中止を受けて:https://protest-2cl.hatenablog.com/entry/2018/12/24/115502

<公演中止を受けて思ったこと>
(ちなみに12/2に先日書いた記事を簡潔にした文章を再度CLIEへ送っています。)
先日書いた通り公演中止は私の求めるところではなかったのですが(中止してほしいという意見がないがしろにされてほしくないとは思っていたものの)、ハラスメント防止のためにこういうルールを設けているとか、キャストやスタッフ間でのコンフリクトがあった場合にはこういう相談部署があるなどということを示してほしかったので、なぜ中止に至ったのかという経緯の説明もなく中止しますで終わらせるのだな、という残念な気持ちが強かったです。並々ならぬ意気込みで公演をやろうとしてたのに批判が来ることは全然予想してなかったんだろうなというがっかりが大きいです。大半のお客さんは文句もなく公演を喜んでくれると思われてたのかと思うと舐められてるな~という気持ちも禁じ得ない……
また中止を発表した直後(同時?)に吉井氏の『「メゾン・マグダレーナ」公演について』のページをなんのアナウンスもなく削除したことについても誠意が感じられないと思いました。
しかしながら、中止という決断に至ったということは少なくとも批判意見を寄せていた方々がクリエの顧客であるという認識をしたのだろうなと思えたので、とりあえずそこはよかった点だと感じました。上記コメントで批判者のことを「一部の方々」と呼んでいたのを見てクリエファンと批判者を切り離そうとしているのではないかと疑念を抱いていましたが、批判者の中の大半がクリエの作品ファンだと思ってもらえたのだろうと思いたいです。


<私的な振り返り>
実際に起きた出来事についてインターネットでまとまった意見を書いて発表するということはほぼ初めてでしたが、自分が必要だと思ったときに意見を表明できる人でありたいと思ったので、今後のためにも一人反省会をしてみることにしました。あくまで自分がしたこと、しなかったことについてだけです。

1、自分が問題だと感じた事柄について、何が問題なのか・どうするべきなのかを早めに自分の中で整理してまとめることができた

まずはよかった点からです。
先日書いた文章の中で自分の意見を補強するためにいくつか参考記事、文献を紹介していますが、これまでこういった文章を興味を持って読んでこなければモヤモヤしたり憤りを感じてもうまく説明できなかったのではないかなと思います。とくに吉井氏コメント中の再犯についての文章に強く反発を覚えた際に、斉藤章佳氏の文章を読んでいたことで自分が何を問題だと感じているのか明らかにすることができたのだと思います。個人の体験で知ることができることは限られているので、今後も引き続き本を読むなど学んでいきたいです。
それから今回一通目のCLIEに送った意見の一部は、永田氏の件でピクシブに送った抗議メールを参考にしながら書いたものです。別件ではありますが根底にある思いは共通しているので、今後また同様なことがあった場合(ないに越したことはありませんが)自分の考えを文章でまとめておくのは役に立つんだなと思いました。

2、性犯罪の再犯率についてデータの解釈をもっと丁寧にするべきだった

とくに指摘を受けたわけではないのですが、自分で気付いたのに何も言わないのはフェアではないなと思ったので書きます。
1で書いたように『男が痴漢になる理由』で紹介されているデータを引用しながら、簡単に「再犯の可能性はない」と言い切ることに対する批判をしました。この本あるいはデータの出典である「平成27年版 犯罪白書」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/mokuji.html)を見るとわかるのですが、性犯罪者類型別の再犯率は「全再犯率は,痴漢型が最も高く,次いで,盗撮型,小児わいせつ型,強制わいせつ型,小児強姦型,単独強姦型の順となっており,集団強姦型が最も低かった。性犯罪再犯率に限っても同様の傾向が認められた。」と述べられています。(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_4_4_2.html)リンク先のグラフを見ると痴漢型と盗撮型が突出して高い再犯率となっており、この2つの型の犯罪が性犯罪全体の再犯率を引き上げているという見方もできるのではないでしょうか。このことに言及せずに湯澤氏が行ったことことは統計的に非常に高い再犯率であるかのように書いたのはミスリードになるのではないかと気付きましたのでここに追記いたします。
ただし、「平成27年版 犯罪白書 第6編/第5章/第3節/4最後に」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_5_3_4.html)に述べられているとおり、「性犯罪については,暗数が多いと言われている犯罪であること,被害者の人格や尊厳を著しく侵害する犯罪であることなどから,その再犯防止を図ることは重要課題である。」という意見には強く賛同します。例え他の犯罪と比べて再犯率が高いわけではなかったとしても、再犯について軽く考えてはいけないことだと思います。
もう一つ、先日の記事で「私は湯澤氏が再び同様のことをするのではないかという懸念を示したいわけではありません。」と書きましたが、これはもう少し強調してもよかったのではないかと思うようになりました。というのも、話はそれますが順天堂大学が入試において女子学生と浪人生の取り扱いが不正だったというニュースを見て思うところがあったからです。
医学部入学試験に係る第三者委員会緊急第一次報告書について:https://www.juntendo.ac.jp/news/20181210-01.html
東京医大から始まる一連の入試差別問題について憤っていたのですが、順天堂の件でとくに怒りを覚えたのはコミュニケーション能力は女性の方が高いが年齢が上がると差がなくなることの根拠として一報の論文を提出していたことでした。
Sex differences in the course of personality development: a meta-analysis.:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1827923/
一応本文にも目を通しましたが要旨を読むだけでもコミュニケーション能力についての論文でないことはわかりますし、第三者委員会は「面接試験における女子の平均点と男子の平均点の差は平成25年から30年の間で平均0.20点であり、男女の合格基準に0.5点の区別をつける理由として合理性があるものと解し得ない」と評価しててその通りだと思いますし、あと面接では性差よりも受験生個人の資質や特性を重視するべきという指摘ももっともだと思います。約30年前の論文1本で(古い論文だから役に立たないというわけではないけど30年あればさらに新しい知見が出てくる可能性は十分あると思う)性差別を正当化しようとする態度が科学者としても信頼できない思いました。この件に関して心理学者有志の方々が声明を発表されました。
心理学研究の素朴な引用によって差別的言動を正当化する行為に対する意見声明:https://psyarxiv.com/xh7fr
順大報告書で引用された論文の著者(Lawrence D. Cohn テキサス大学教授)からのコメント:https://osf.io/46n5h/
声明の中で述べられている「平均値に基づく群間比較により得られた「差」を,個別の人物評価に一律に当てはめるべきものではない」ということは、この件以外の場面でもよく思うことです。湯澤氏の件に関して言えば、再犯率の高い行為を行ったからといって高確率でこの人は再犯するだろうと評価することは乱暴なことだということをもう少し丁寧に書けたらよかったと思いました。ただし個人の評価ではなく統計データを環境整備など社会環境を整えることに活用することはできると思います。というかそのために犯罪白書など種々の公的な調査が行われているのでしょう。今回の場合であれば前科のある人を職場に迎え入れるためには再犯を防ぐようなシステムやルール作りをしようというように役立てることができると思いますし、批判者の立場でこれを言うのはずるいかもしれませんが前科のある人を守ることにもつながるのではないかと思っています。

3、実刑判決について判例データベースや新聞記事から引用できるとよかった

先日書いた記事ではNAVERまとめが嫌いなのもありwikipediaを引用しましたが(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%AF%E6%BE%A4%E5%B9%B8%E4%B8%80%E9%83%8E)、wikipediaにも前科について出典は書かれていません。ただし、
・2014年当時、裁判を傍聴されていた方がメモをツイートされている(

・2ちゃんねるで裁判が行われていた当時のツイート、実際に傍聴した人の報告、裁判記録が載っているメルマガや雑誌などが投稿されている
https://awabi.5ch.net/test/read.cgi/drama/1382322252/
http://awabi.5ch.net/test/read.cgi/drama/1399549739/
(最初の公判が2014年4月26日、次回が5月15日、判決は2014年9月16日のようです)
・本人の出所後のツイートで2年間の実刑判決を受け、1年半収監されていたことを書いている
以上のことから少なくとも不確かな情報を流布することにはならないだろうと判断しました。(ただ事実であっても名誉棄損にあたる事例があると聞いているので最悪訴えられる可能性はあるなとは考えていましたが。)有志の方のツイートを信頼していないわけでは決してないのですが、できればきちんとした資料を示すことができればよかったなと思いました。
近年MeTooムーブメントの中で、被害を訴えた方に対する証拠を示せ、本人や相手の実名を出せ、場合によってはもっと酷く心無いコメントを数多く見ました。またMeTooのことを吊し上げだと捉えて批判する意見を見て苦い気持ちになったことも少なくありません。それでもやはり、MeTooは吊し上げではないということを批判者だけでなく支援者も意識するべきなのだろうなということも感じます。米国連邦最高裁判事カバノー氏が10代の頃に性的暴行を行ったとしてフォード教授から実名告発を受けました。(https://www.businessinsider.jp/post-176457)告発を受けた時のカバノー氏の態度は最高裁判事として批判を受けるべきものだと思いましたし、フォード氏の告発も真摯に聞き入れるべきものだと思いました。しかし10代の頃に行ったとされる証拠のない振る舞いについて批難するのは告発者本人以外は相当慎重にするべきだとも思います。証拠のないことをやったと決めつけてバッシングをするべきではないと思います。こういうことを書くことで告発する人の口を塞ぐことに加担してしまうのではないかという不安は強くあるのですが、それでも適切な方法で事実を明らかにすることと告発者を守り証言を尊重することは両立できると信じたいです。ただ現状、告発者のデメリットが大きすぎると感じるのでバランスが難しい問題だとは思いますが……。それから自分が性暴力に苦しんだりトラウマがあったりするわけではないのでそういう甘いことが言えるのかなと思うところもあります。

4、性暴力と女性蔑視の関連について言及しなかったこと

言及しなかった理由には意図的にしなかった部分と力不足でできなかった部分とあります。
意図的に言及しなかった理由は、もし自分の書いた記事を性暴力やハラスメントに苦しんでいる男性が見た場合に被害者=女性と決めつける書き方をしてしまうと被害を訴えづらくしてしまうのではないかという懸念があったからです。とくに私は主に男性若手俳優の応援をしているので(関係者が男性俳優にセクハラめいたことを言っているのも見たことがありますし)、彼らのことを考えると女性蔑視を強く主張することができませんでした。
もう一つはフェミニズムに対するバックラッシュを見ていると、女性差別に関連して話をすると読んでもらえらないのではないか、叩かれるのではないかという気持ちになってしまい、これはもう私の弱腰以外の何物でもありません。
力不足だったのは記事を書いた時は性暴力と女性差別について自分の中でもうまくまとめることができなかったからです。メゾン・マグダレーナの公演が告知された時や吉井氏のコメントが発表された時に、CLIE作品の観客は女性が大半なのに性暴力を軽視するのは無神経だ、女性蔑視ではないかという意のコメントを見かけ、私も似たような気持ちになりました。でも性暴力は被害者が誰であれあってはならないことなのに、なぜ女性蔑視につながるのかということを自分の中でうまく説明できなかったので当時は言及を保留にしてしまいました。
今現在はこのように考えています。これは平成29年版 犯罪白書の中の強姦・強制わいせつ認知件数・被害発生率の推移のグラフです。(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/n64_2_6_1_3_0.html)性犯罪被害者の大多数が女性であり、男性の被害発生率よりも女性の被害発生率が高いことが伺えます。ただし改正前の強姦罪(現在は強制性交等罪、2017年7月より施行)は女性にしか適応されなかったこと、児童では男児の被害者の割合が増えること(すみません、どこのデータだったか失念してしまいました)は留意する必要があると思います。多くの女性は性犯罪、性暴力あるいはセクシャルハラスメントは身近な問題として考えているであろうこと、世間一般でもこういった被害は女性に起きやすいと考えられていると言っても過言ではないと考えています。そしてそれゆえに性暴力が軽んじられている、男性の被害が訴えにくくなっているという負の連鎖があるのではないでしょうか。性暴力が軽んじられているというのは、日本の性犯罪刑法の整備が遅れているということにもあらわれていると思います。先ほど述べたように性犯罪刑法が2017年に改正されたのは、110年ぶりの大幅改正だとされています。(https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20170925-00076168/)この改正でもなお不十分だという声は少なくありません。個人的に問題だと感じているのは、例えば公共の場以外での盗撮を取り締まる法律もないことです。(https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20180705-00088156/)性犯罪の法整備が遅れている理由の一つに、司法(裁判官)、行政(法務省、検察)、立法(国会議員)、弁護士など法曹に携わる女性がまだまだ少ないことが無関係ではないと思います。
裁判官数・検察官数・弁護士数の推移(PDF):https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-4_tokei_2016.pdf
これは女性個人の能力ややる気の問題というよりも、制度的にそもそも昔はなれなかった、進学や就職で困難が多い、結婚や妊娠やセクハラなどの要因でキャリア継続が困難であることなどが理由だと考えられます。また、現在ではセクハラや痴漢は良くないことであるという共通認識ができてきていると思いますが、それも過去に女性たちが主体となって戦い勝ち取ってきたものだと思います。
日本初のセクハラ訴訟「原告A子」と呼ばれて「声をあげる女性は間違っていない、そう伝えたい」:https://www.bengo4.com/c_5/n_8051/
「痴漢は犯罪」ポスターが生まれるまで 大阪「性暴力を許さない女の会」の28年:https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20160310-00055229/
こういった経緯を経て、現在では性暴力被害は女性だけの問題ではなく誰にでも起きうることだという認識へ移行しているところだと思いますが、メゾン・マグダレーナの件では性暴力を軽視するような振る舞いであったと感じますし、観客の大半が女性であることを考えれば性暴力の軽視は軽率な行為であったと認識してほしかったなと思います。

5、クリスマスキャロルについて何のアクションもできなかったこと

メゾン・マグダレーナと同じく湯澤氏が脚本演出作詞音楽を務め、出演もしています(http://christmascarol.jp/)。私も別に湯澤氏の活動を監視していたわけではないのでこの件があるまで単に知らなかっただけなのですが、知った以上なんらかのアクションを起こしたいと思いつつニコニコミュージカルはこれまで全く見たことがなかったので部外者としてうまく意見を言えなかったことと、個人的にクリスマスキャロル制作陣に不信感があって実名で意見を送ることを躊躇してしまい、さりとて匿名で意見を送ることもしたくなかったので、演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会さんが公開質問を送ってくれたのに甘える形になってしまいました。
ミュージカル「クリスマス・キャロル」への公開質問:http://nosekuhara.com/info/carol/
クリエの件について意見表明をされていた人はおそらくクリエ作品のファンで自分の好きな制作会社の問題として捉えて意見をしているのだと思うし、クリスマスキャロルに言及していないイコール同作品を許容していることにはならないと思いますが(あとはマグダラが人気作だったことと逮捕が上演中止騒動になったこととか各々に思うところがあるのだと思う)、個人的にクリスマスキャロルの話をしないのは片手落ちかな……という気持ちが残り、自分には何ができただろうと今でも考え中です。



私は湯澤氏が特別すごく悪い人だったとは思っていなくて(したことは許されないことですが)、悲しいことですが権力勾配のあるコミュニティには程度の差はあれ似たようなことが起こりうるのだと思います。自分自身もまだまだ一介の若手会社員ですが、昇進するにつれて自分がハラスメントを働いていないか気を付けなければいけない立場になるのでしょう。
自分にできること、できないことを痛感した一件でしたが、今回学んだことや考えたことを忘れずに少しでも良い社会にしていけるといいなと思います。


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