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十点

全体公開 その他色々二次創作 1 1803文字
2019-02-08 20:31:52

「ヴィクトルが糖分補給に中途半端に食べたチョコ」というのがバレンタインポストに入っていたので

Posted by @syuu_29

「念のためだ、少し待て」とデビルカルテを確認するヴィクトルの手は、珍しくゴム手袋に包まれていなかった。
業魔殿の主の素手を見るのは珍しいことだ。少なくともライドウは初めてだった。
普段隠されているのは単に合理的な都合によるものには違いないが、はじめてみるその手には、多くの奇妙な傷や火傷らしい跡があった。それらは彼の目元に刻まれた傷よりも古い傷に見えた。
まじまじとその手元を見つめているライドウの視線に気づいた目付役がぴょんと小さな身体を卓上に踊らせ、緑の瞳で睨めつける。こら、とたしなめる声は常人にはニャアとかわいい小さな声だが、その魂の声が聞こえるものには呆れた低い男の声である。
『不躾であろう』
無論、この業魔殿に常人など訪れない。悪魔か、悪魔召喚士――あるいはそれに類するものだけが、見せかけの応接室を抜け、地下深くに続く昇降機を降り、こうして主の技術を甘受できるのだから。つまりここではにゃあにゃあ鳴く仮初めの器に惑わされるものはおらず、いささか話題の真面目さや威厳を欠くに過ぎない。
ライドウが素直に目付役に視線を移し、それから再びヴィクトルの方を見れば、
「んん?ああ、これか」
ちらと薄い色の目玉が二人を見た。
玻璃の硝子のようなそれにはなんの色も浮かんでいなかったが、向けられた視線を追ってつまらなそうに自分の手元を一瞥する。
「ただの痕だ」
しかし視線を卓上に落とすと、ギョッと見開いた。
「おい、猫にこれは毒だぞ!」
机にあったのは、食べかけらしいチョコレートだった。ラベルごと銀紙が破かれたそれは、まだほんの一欠片ほどしか損なわれていない。
そしてその包み紙を、いつのまにか目付役が不思議そうに嗅ぎまわっていたのだった。
「ゴウト――
ライドウは慣れた手つきでその柔らかな肉体を腕の中に納めた。自分を抱える十四代目に、ゴウトは「これはおれの意思ではないのだ」などとともにゃもにゃ言って落ち込みはじめる。しかし猫の身ではただ学生服の袖へ身体をすり寄せて甘えるようでもあった。
いつもならば、なだめるように指先を毛並みに沿わせるところであるが、ライドウはそうしなかった。そもそものチョコレートに気を取られたためである。
「十点――
アリスがそのチョコレートを「ほしい」とだだをこねたのは記憶に新しい。聞けば、景品付きであるのがよいらしい。
包み紙一枚につき十点が印刷されており、それを十枚――つまりは百点でキャラメルかチョコレートと交換できるのだという。くわしく聞けば、悪魔たちのあいだでも、にわかに流行っているらしい。アガシオンなどは拾ったり物々交換で七枚集めたのだと自慢げだった。
もちろん人の間で流行っていないわけもない。事務所で聞けば「どうせなら、ってつい買っちゃうんだよね」と鳴海とタヱは笑い、それぞれの集めた枚数の探りあいがはじまりさえしていた。
ライドウが記憶から意識を引き上げると、ヴィクトルはデビルカルテから客人の視線を盗んだそれをその手に取り上げたところだった。
ヴィクトルの手は誰の手とも似ていなかった。日射しを忘れた指先は血管が薄く透けて不健康に白く、走る傷跡はつるりと磨いた蝋のようだ。しかしライドウの視線など、ヴィクトルは少しも気にしていなかった。
「景品か。お主もそのようなものを欲しがるのだな」
――と小さく笑い、銀紙から紙のラベルを剥がしてライドウへ差し出す。
「そら、点数ならば無事だ。持って行くがいい。我が輩は中身にしか用はないのでな」
集めていないとライドウは答えかけて、やめた。
――ありがとう」
目付役を足元へ降ろして、ライドウは差し出されたラベルを受け取った。それをしまい込むために小さく折り畳む指先は、何故だかまじないでもかけるように几帳面になった。
そのようにしてラベルを丁寧に胸元へしまいこむライドウを見上げた目付役が不思議そうに鳴いた。
『お前も集めるのか?』
――秘密だ」
ライドウはまるでその言葉さえ秘めたるものであるかのように囁いた。
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「ヴィクトルが糖分補給に中途半端に食べたチョコ」というのがバレンタインポストに入っていたのでワーーーーッとなって書いた 糖分補給でチョコを食べるヴィクトルめっっっちゃいいな ありがとうございます
おまけもある
https://privatter.net/p/4760006


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