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パラダイム

名称:パラダイム paradigm
能力:現代の哲学人研究における学説全てを記憶する。
解説:当哲学人(以下、彼)は黒髪黒目の細身で背の高い十代半ば程の青年です。
 受動的な性格であり、他者から与えられた刺激に対し抵抗しません。特に実験の類いには協力的で、実験中だけは自ら進んで行動し、多くの場合想定以上の結果を残します。
 しかしその他の場面では彼自身から他者への全てのコミュニケーションに消極的です。彼から先に話を始めることはありません。また、実験外で行動を命じられた時は無視や謝罪により断り、動くことを極力避けようとします。
 彼に特異な体質はありません。
 一見すると不老ですが、細胞単位では人間と同様の成長が確認されています。不老に見えるのは、細胞分裂限界回数が非常に多い細胞が複数存在し、細胞の入れ替え速度が低下しない為であると考えられます。精子は正常の活動を行いますが、受精の試みは全て失敗に終わっています。
 彼に自身の哲学について訪ねると、哲学人研究における定説の具現化と回答します。また、定説の具現化である故に、哲学人研究発展に伴う【過去の定説の否定】と【新しい定説への書き換え】が発生した場合、彼の存在と彼に関する記録は変化し、最新の定説に沿った体質や能力になると主張します。(元となる哲学用語より、この存在変化はパラダイムシフトと連動すると仮定。彼の存在変化自体をパラダイムシフトと呼称)
 記録には残っていませんが、彼の記憶によると当研究所に来る前は■■研究所におり、そこで■■回のパラダイムシフトを経験しているようです。当研究所でも、職員の記憶にある限り■回のパラダイムシフトを起こしています。
 パラダイムシフト前後のパラダイムは、全くの別人と判断されます。

対応:■■大学附置哲学人研究所人型収容室にて人間と同様の生活を送る。移動制限なし。必要に応じて職務を与えてもよい。
 現在意識不明の重体。■■■■■■病院で延命治療を受けています。
 現代の哲学人研究の成果の全てを失う危険性が伴うため、哲学人研究におけるパラダイムシフトが発生するまで最低でも現状を維持するよう努めてください。

発見経緯:不明

対話記録:20■■/■/■
■■研究員「おはよう。えーと……はじめまして、でいいんですよね」
哲学人「おはようございます。はじめまして」
■■研究員「う、うん。あー……ここは哲学人研究所なんですけど、その、自己紹介はいります?」
哲学人「いらないですよ、■■さん」
■■研究員「ああ、やっぱり記憶はあるんだ」
哲学人「哲学人研究に携わるものならあります。僕らはシフトしてますけど……前の学説があったから、新しい学説が生まれるじゃないですか」
■■研究員「過去の学説の矛盾を消すために新たな学説に入れ替わること、でしたよね。パラダイムシフトの意味は」
哲学人「はい。たくさん誤解されましたけど、大体そんな感じです」
■■研究員「……前の君の話をしても、不愉快じゃないかな」
哲学人「大丈夫です。彼女が居て、否定されたから僕が居るわけですから」
■■研究員「良かった。前のパラダイムにもした質問を、いくつか繰り返させてもらうし、答え方を比べたりもしたいんだ。記憶にあることを繰り返すことになるけど許してほしい」
哲学人「大丈夫です。大事なことですから」
■■研究員「君は、哲学人のパラダイム……現代の哲学人研究で判明し、世の中の研究者が信じている学説の具現化で、合っているね?」
哲学人「はい。何なら今の主流学説を全部言えますよ」
■■研究員「前の君と同じだね、了解……他所の研究所のデータ横取りするわけにはいかないからさ、それは録音してないときに頼むよ」
哲学人「ふふ。はい、わかりました」
■■研究員「そういう雑談してる余裕無さそうだけどね。名前とか能力とかは残ってたんだけどさ、対話記録は全部おじゃんになっちゃったからまた撮り直しなんだよ……
哲学人「すみません、そういう哲学人なんです。パラダイムシフトを知ってるなら、説明は要らないかもしれませんけど……
■■研究所「……雰囲気、結構変わったね」
哲学人「別人なんですよ」
■■研究所「記憶はあるんでしょ?」
哲学人「はい。でも別人です。どんなことをしたのかとか、どんなことを考えてたのとかは覚えてますけど、それは僕じゃないので」
■■研究員「あー……言いにくいんだけどさ。記憶があるなら、あの……あの事件のことも覚えてるの?」
哲学人「あの事件、とは?」
■■研究員「■■■研究員のこと」

(パラダイムは微笑みを浮かべたまま約五秒ほど静止。目線が僅かに泳ぐ)

哲学人「何のことですか」
■■研究員「ん。覚えてないならそれでいいよ。その方が良いこともあるね。パラダイムシフトの経験は、今まで何度もあるんだよね?」
哲学人「はい」
■■研究員「以前のパラダイムについて、覚えてる限りのことを教えてほしい」
哲学人「はい。一番始めに存在したパラダイムは、多くの特殊能力を持っていたらしい、ということはわかっています。そのパラダイムの記憶はないんですけど、情報だけ知識として持ってます」
■■研究員「当人としての記憶がなくても、情報だけ受け継がれることもあると」
哲学人「はい。当人の記憶は前のパラダイムだけですね。前のパラダイムも、一つ前のパラダイムの記憶を持っていたみたいですが、僕からすると遠すぎて何を意味するのかわからないものも多いです」
■■研究員「遠い?」
哲学人「んー……何千年前の科学の教科書って、読めたとしても、何の話だかわかんないってなりません? ほら、ええと……万物の石を作るには朝の涙と人魚の鱗が必要、みたいな」
■■研究員「まあ、確かに……今とは物の呼び方とか、考え方が違ったりするから、しょうがないよね。魔法と科学で概念が違ったり」
哲学人「一つ前のパラダイムの記憶は、最近のことで、上書きすべき存在だからわかるんですが。それより前は、概念が二度も変わっているので僕では理解できませんね……
■■研究員「なるほど。ありがとう」
以下の質疑応答内容はまとめて解説に記載。哲学に関する回答は前のパラダイムとほぼ同じだが、個人的な趣味嗜好の回答は全くの別物であった。
前回のパラダイムと■■■研究員は恋仲だったと当人は証言していたが、自己認識が別人である現在は受け入れがたい記憶も多々あると思われる。■■■研究員の話題は避けるように。以降は理知的な少年である彼こそがパラダイムであるとする。

20■■/■/■
■■研究員「こんにちは、パラダイム君。ここでの生活は慣れた?」
哲学人「はい。なんだか新鮮で楽しいです」
■■研究員「良かった。あ、前言ってた本、研究所に置いても良いらしいよ。今度談話室に置いておくよ」
哲学人「わ、ありがとうございます。■■さんからあらすじを教えてもらって、読みたいと思ってたんです」
■■研究員「SFが好きなの?」
哲学人「お勧めされたものは読みますよ」
■■研究員「いや、なんというか……本の話題をするとは思ってなかったなって」
哲学人「ああ、前のパラダイムは、読書は好きじゃなかったですね。少なくとも僕よりは」
■■研究員「そうだったんだ」
哲学人「はい。そうだったんです」

(言葉を選ぶ数秒間、パラダイムは■■研究員と視線を合わせて待っている)

■■研究員「君は、前のパラダイムより積極的だね」
哲学人「そうですか? でも僕は……人間が研究しようという気持ちがなければ、学説は新しくなりませんし、自然は自分から何の情報もあげないものですよ」
■■研究員「あぁー、君達が消極的なのはそういうことか! そういうヒントをくれる分、優しくて助かってるよ」
哲学人「それはどうも」
■■研究員「今のうちに君と話をしておきたいな。思ってたより色々聞き出せそうだ」
哲学人「ふふ。お手柔らかにお願いします」

(以下の会話内容は他研究所の機密研究に触れる可能性が高く削除済みです)

20■■/■/■■
談話室にて哲学人■■■、■■■■■■■と会話中、他部署で勤務中だったはずの■■■研究員が訪れた為発生した騒動時の映像記録。
通りかかった■■■研究員がパラダイムに話しかける。パラダイムは困惑した様子で応えている。

■■■研究員がパラダイムの腕を掴む。

■■■が■■■研究員を宥め、掴む腕を離させよう触れる。

離した手で■■■研究員が■■■を殴打。驚く■■■に飛びかかり数度殴り付ける。

■■■■■■■が警備員に連絡。

駆けつけた警備員が■■■研究員を取り押さえる。

哲学人■■■に外傷はない。担当研究員曰く「気にしている様子はない」が、■■■の特性上その限りではないことに注意。以後の様子をよく観察すること。
騒動時、パラダイムは一切抵抗の意思を見せていないが、それは哲学人パラダイムの特性であり彼自身の人格とは無関係である可能性が高い。
研究員と哲学人間の恋愛感情は多くの問題を生みます。二度とこのようなことが起きないよう、研究員への教育を徹底してください。 ■■研究員
マニュアルに追加。研究員への指導を開始します。 ■■■■■

20■■/■/■
■■■研究員の度重なるインタビュー要請により、■■研究員と■■警備員の監視の下実施された。パラダイムからの了承済み。

■■■研究員「……パラ、ですよねぇー」
哲学人「パラダイムです」
■■■研究員「あー……まぁ、うん。それは知ってますー。何で男になってんですー? なんかー……雰囲気違ぇしー」
哲学人「パラダイムシフトが発生したんです」
■■■研究員「ふーん。それでぇ、俺を無視した理由はー?」

(パラダイムは微笑みを浮かべたまま静止。目線は■■■研究員から逸らされている)

哲学人「貴方は、誰ですか?」
■■■研究員「は……?」

(パラダイムは返答しない)

■■■研究員「冗談だろ?」
哲学人「僕は哲学人パラダイムです。ええと、哲学人研究におけるパラダイムです。哲学人研究に関わる記憶以外は引き継ぎません。当たり前じゃないですか」
■■■研究員「いや、当たり前じゃねぇよ。だってお前、パラなんだろ?」
哲学人「姿が変わるわけじゃないんですよ。新しい要素が追加されるわけでもないです。パラダイムシフトは、元ある主要学説の否定と書き変えです。だから元いたパラダイムは否定されて、僕で上書きされたんです」
■■■研究員「否定してねぇ!」
哲学人「世間では否定されました」
■■■研究員「はぁ!?」
哲学人「彼女個人じゃなくて、彼女が担当していた定説が否定されたんです。君だって研究者なら知ってるでしょう?」
■■■研究員「知るかよそんなこと!」

(■■■研究員が立ち上がり掴みかかろうとしたため■■警備員が制する。止まる気配がなかったため、腕を掴んで拘束した)

■■■研究員「離せ!」
■■警備員「貴方が落ち着いたら離します」
■■■研究員「俺は! 俺を……受け入れたのは、パラしか……
哲学人「それは僕じゃないんです。あー、ええと……諦められるように、言うと。君の知ってるパラダイムは、死にました」
■■■研究員「嘘だ!」

(■■■研究員が暴れたため、■■研究員がパラダイムを立たせ退避させる)

■■■研究員「パラしか居ねぇんだよ! 俺には!」

(会話続行困難と判断し、パラダイムを退室させ終了)

■■■研究員と前回のパラダイムは20■■/■■/■の強姦事件以降恋仲であると公表されていた。(前回のパラダイムに関するデータ喪失に伴い事実確認不能)
■■■研究員が現在のパラダイムに対し悪感情を持っているのは明白であり、また■■■研究員の素行不良から危険行為に及ぶ可能性が高いと考えられる。彼らの接触は極力避け、必要時は監視を徹底してください。

■■■研究員からのパラダイム担当要請は却下してください。

20■■/■/■
繁殖学班による精液採取時の監視映像
[削除されました]

20■■/■/■■
身体測定時に監視用機材に記録されていた会話。
■■■研究員「二年ってぇ、長いですよねぇー」
哲学人「……そうですね」
■■■研究員「この二年間、次のパラダイムシフトを起こそうと思ってぇ……でも無理なんですよねー。そう簡単に思想の枠組みは変わんねぇんですよー」
哲学人「そう、ですか」
■■■研究員「どうしても、もう一度パラに会いたくて……
哲学人「……
■■■研究員「あは。でも俺の頭じゃ無理でしたぁー。諦めますよぉ、研究は」
哲学人「……どうして、そこまで」
■■■研究員「はい?」
哲学人「執着しすぎだと、思うんです」
■■■研究員「好きだからぁ……ですねー」
哲学人「……
■■■研究員「俺おかしいんですよぉ。わかるでしょー? だからぁ、唯一拒絶しなかったパラがぁー……本当に、唯一なんですよー」

■■■研究員「なのにみんな、居なかったことにしやがるんですよ……

(以下、パラダイムは如何なる呼び掛けにも応答しなかった)

20■■/■/■■
事件発生時の監視カメラの映像
■■:■■ パラダイムが研究員と共に資料作成をしている。

■■:■■ 研究員全員が慌てて室外へ出ていく。哲学人脱走のサイレンに反応したものと思われる。パラダイムは音に反応したものの自分のデスクから立ち上がらない。

■■:■■ パラダイムは肩を落とし、椅子に座ったままぼんやりと窓の外を眺める。

■■:■■ ■■■研究員が入室。手には刃物を持っている。パラダイムは■■■研究員に気付き微笑みかける。

■■:■■ 真っ直ぐにパラダイムに向かい、胸部に刃物を突き刺す。

■■:■■ 二度突き刺した後、■■■研究員は何事か怒鳴り、何かを振り払うような仕草をする。パラダイムは意識を失い床に倒れている。

■■:■■ ■■■研究員は何もいない方向へ刃物を投げつける。その後、その場でうずくまり何事か叫ぶ。

■■:■■ 戻った研究員らにより■■■研究員は取り押さえられる。

■■:■■ 駆け付けた救急チームによりパラダイムシフトが病院へ搬送される。

哲学人パラダイムは極力その場を動かない特性により、手を引かれなければ逃走が困難である。事件時、特性を最もよく知る■■研究員は所用により休暇をとっていた。
当事件と同時に発生した哲学人■■■脱走事件と■■■研究員の関連性は調査中。



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