@corona_moca1111
蝶野はたくさんの個人情報、その他事例の情報を使う作業がとても多かった。だから、それを扱ううえで一面でパッと見られるほうが効率もいいと知っていた。
彼女はパソコンのアプリケーションを立ち上げ、「付箋」を張っていく。
簡易データベース・リンク転写 消されないうちに
祖久世 さんの個人経歴 内部履歴 https://privatter.net/p/4145568
哲学人パラダイムの経歴 事件内容 https://privatter.net/p/4416105
★ 「パラダイム」さん?についてのメモが残ってた?https://privatter.net/p/4264063
カバーデータ個人保存済み。data-pass 「せせりくんの誕生日」
とりあえずと張られた一枚目にはデータベースが羅列された。重要なものには印をつけ、飛べるようにリンクもそのまま生かしておく。時間に目をやり、別の業務をついでにいつやるか決める。普段の業務リストもボールペンで埋め尽くされていく。これで休暇が十分にとれるようにしているはずのスケジュールなのだから、そうでない人は過労死してもおかしくはないのだ。彼女は、書き終わった後にその言葉をちょっと付け足し、今日の分のメモを切り取った。
その後時計に目をやりつつ、蝶野は正面の「クライアントの情報」に目を向け、また新たな、今度は電子のメモを書き始めた。
人事資料傾向
・身長に対して痩せ気味だが許容範囲。
・繁殖学だが関連する事項は趣味判定
→「異常な」興味、好奇心、「執着」。……「こだわり」?
→話題転換に「持ち込む」表記。類推「事件」……「衝動性」?
・強姦……?
・暴力行為で謹慎処分
・論文が非受理
・パラダイムさんと「離されている」
⇔
・非常に温厚
・会話の仕方が他人と異なる、ゆっくり。
人事資料の分析の段階で、彼女はすでに違和感をもった。この人事資料には、「矛盾した二つの性質」が平然と書いてある、と。それを天秤のように頭の中でイメージする。温厚でゆっくりゆったりとしている彼、と、短気で活発、活動的な彼。「ひとのことに無頓着」と、「研究、じぶんのことに執着、こだわりがある」と情報を補填し、読み込まない範囲で分析した蝶野は息を吐いた。とりあえず、大量殺人鬼を野に放ったわけではない。彼がほかの精神病を持っていたら話は別だが、病院に送った話は聞いていないのでそれはないだろう。
とりあえずひと安心した蝶野は、前のめりになっていた姿勢を直し、伸びをしながら時計を見る。もうすぐ通常業務と臨時業務とやらなければ。首を回すと、日々のほつれが音となって体内に響いた。
でも、その前に。
彼女は赤い鳥のぬいぐるみに話しかける。幸福は呼ばないが頼りになる相棒だ、と周りに説明していた、丁寧に刺繍をされているそのぬいぐるみは、動くこともなく、机の上に乗っていた。
「……あかねさーん、あの、そう、あかねさんみたいな色してる本ってどこでしたっけー」
先ほどまで何もなかったそのぬいぐるみの瞳が一瞬光る。
「えっと……あ、そこですか!」
それと同時に、彼女は、まるで何か教えてもらったかのように本棚の三段目を迷うことなく見て、一冊の、いわゆるサーモン色の本を運び、机の上に置いた。
「犯罪心理学」の字が、カバーの光沢で艶めく。丁寧に表紙をそでで撫でて、ほこりを払った彼女は、少し焦り気味で必要な資料を集める。
「いつものやることが11時からにしてー、2時くらいにあれやってー、4時くらいに超自我さんのところに行きましょう。お仕事はお仕事だしー、あ、記事読むときはお願いしますねあかねさん。むだづかいじゃないですよー!!」
何かを確認するかのように虚空につぶやき、その後その顔のほうを見た蝶野を、ぬいぐるみは見つめていた。が、そこにあるのは普通の黒いボタンの瞳で、ほかにはなにもない。
それでも彼女は返事を得たかのように微笑みかけると、いかなければいけない日々のルーティンのために、部屋の扉を抜けたのだった。