@875108Express_
拝啓、苗床になる筈だった、箱入りお嬢様だったあなたへ。
色を奪われたあなたを、カルカタッタから追放して差し上げます。あなたもそろそろ「愛してみたい」と思える誰かを、抱きしめてみたくなった頃合いでしょう。代償として『リサトロットの未来』は頂きますが、構いませんよね?
だって、あなたは『リサトロット』を辞めたのでしょう?『花』は枯れ腐ってしまうけれど、蝶と灯りはあなたのすぐそばにいるみたい。
死に物狂いで運命を勝ち取りに行きなさい。最期まで諦めずに生きなさい。
主人公に歌を、導き手に救済を。創造神に敬意を、友に感謝を。
ここまで私に付いてきてくれてありがとう。
幸せが再びやってくることを祈って。
親愛なるリズット・アルジャーノン様へ。
『日嘆メイズ』改め、守崎怤藍より。
追伸。
こちらの世界では、そろそろあなたの誕生日を迎えようとしているので、プレゼントを用意しました。ちょっとだけ私の趣味が混ざっているけど、気に入ってくれるといいな。
カルカタッタに、空が現れた。
青く、澄み渡るような空。その空の下には、色とりどりの『枯れない花』が花壇に散りばめられていた。灯りのなかった街灯に灯りがともり、教会の鐘がゴーン…ゴーン…と鳴り響いた。
空が、灯りが、蘇ったのだ。相変わらず無彩色な街だが、人々は空を見上げて涙を流していた。
ミッションを終えた搭乗人物たちは空を見上げながら、花売りの真於の家へと向かっていた。「ミッションが終わったら、うちにおいで」と彼女からいわれていたのだ。確か、お昼ご飯にカレーを作ってくれると聞いていた。
真於の家に入ると、香辛料の香りが広がった。真於は家に訪れた搭乗人物たちを暖かく出迎える。
「あらぁ~♡おかえりなさい。今ちょうどカレーが出来上がったところなのよぉ~」
フリルのエプロンを身につけた真於は、全員を台所に招き入れようとした。
🍎「カレーは鉄板やでなぁ!!」
希更「わーい!カレーだ!」
「あらぁ…?まだ全員いないみたいねぇ。困ったわぁ、全員揃ってから『頂きます』をしたいのだけど…」
真於が呟くと、確かにまだ帰ってきていない搭乗人物が数名いた。
イヴァン「戻ってきてないのか……」
「申し訳ないのだけれど、まだ帰ってきていない子たちを呼んできてくれないかしら?」
パピヨン「はいはい!さっき春霞さんがアトリエに入っていくの見たの!呼んでくるわね!」
真於の申し出に搭乗人物たちは快く了承し、それぞれまだ帰ってきていない搭乗人物を探しに出た。
元気よく真於の家を出たパピヨンは、一人アトリエに向かっていた。
「カレー!カレー!美味しいカレー!!♪確かアトリエに行ってた気がするんだよなぁ」
先程リズットと共にポストを見に行っていたのだが、その時に、アトリエに入っていった春霞の姿を見た気がした。もしかすると、彼女はまだここにいるのかもしれない。
アトリエの扉を開けると、予想通り春霞はそこにいた。アトリエの絵画を鑑賞していた彼女は、人の気配がしてふと振り返った。パピヨンは春霞にかけより、声をかける。
「いたいたーー!!ふふ!ビンゴね!お姉さんがカレーを作ったんですって!食べにいきましょう!」
我を忘れて絵画を鑑賞していた春霞は、自分が長時間アトリエに滞在していたことを思い出した。
春霞「わ、もうそんな時間だったの?!ごめんね?早く行こうか!」
パピヨンに誘われて、春霞はアトリエを出ようと準備を始めた。
その時である。
ドゴォォオオォオォオオォォオオオオオン!!!!!!
「きゃっっっ!!」
突然、街に大きな揺れが襲いかかる。
絵画がいくつか壁から落ちてきて、アトリエを照らす大きなシャンデリアが、振り子のように揺れる。外から悲鳴のような声が聞こえ、揺れのせいでパピヨンがその場で転倒する。
しばらくして街の揺れはおさまったが、シャンデリは不安定そうにぐらぐらと揺れていた。
「あいたたたた………大丈夫春霞ちゃん!?」
ふと、嫌な予感がした。春霞はシャンデリアを見上げてから、転倒したパピヨンに手を差し出そうとした。
春霞「なっなに?!わ、私は大丈夫だよ!」
ぐらぐらと揺れるシャンデリアの真下に、転倒したパピヨン。
そして、春霞の『嫌な予感』は的中しようとしていた。
ブチッ!という音と共に、シャンデリアがパピヨンにめがけて降りかかってきたのだ。
春霞「う、そでしょ、まってっ!」
咄嗟に体が動いた。
ガッシャーン!という落下音や衝撃音と共に、背中に激痛が走る。
突然のことに驚きが隠せないパピヨンは、目の前で己の『盾』となって、シャンデリアの下敷きになった春霞を呆然と眺めていた。
「………………え?」
春霞「っは、は…ごめ、ね…怪我、してない?」
「待って、…あ、私、ちが…まって、…嘘、」
シャンデリアの下敷きになったせいで重傷を負い、徐々に衰弱していく春霞。このままではいけない、なんとか彼女を助けないと!
春霞「大丈夫、大丈夫だよ、大丈夫…すぐ、治る、だいじょーぶ…ね?」
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、引っ張る?だめ私一人じゃ重くて動かせないし傷口にガラスが入ったらだめだわ、どうしよう、どうしようどうしよう…!!!!!!!」
どうしたらいいのだろうか。引きずり出すか、それとも怪我を治療するか。しかしここに治療できそうなものはあるのか。
悩みに悩んだ末、パピヨンは声をあげた。
「ごめんなさい、すぐよすぐ、治すから、ごめんなさい、私なんか、だめ、ごめんなさい、ちゃんと意識を持って、すぐだから、ごめんなさい、ごめんなさい、…」
「誰か、誰か!!!!」
「誰か、お願いきて、誰か、誰も良いの、お願い、誰も、もう殺したくないの」
「お願い!!!!!!!!!……誰か、来て、もう誰も死んで欲しくないよ、見たくないの、………助けて」
必死に叫んだ。
「…………お願い」
🍎「何があったんや!!???」(こうそくいどう)
「さっきの地震で、春霞ちゃんが、私、私…私を………かばって…」
その叫びが届いたのか、街の住人や搭乗人物たちがアトリエに駆け込んできた。
「どうしたの?!・・・って、まぁ大変!皆、あの子を助けるわよ!」
「私一人じゃ、どうしようもなくて、私なんか、助けなくて良かったのに、私…………みんな、お願い、助けて」
🍎「了解やでぇ!!」(敬礼)
後からやってきた真於が号令を出すと、全員で春霞の背にのしかかっていたシャンデリアをどかした。
「この街の医療施設は…うーん…。うちでこの子の様子を看るわ。神父さん、この子をうちまで運んでくれるかしら?」
どうやら真於が、春霞を看てくれるらしい。名指しされた神父は「失礼します」と、春霞を慎重に背負う。真於は春霞を背負った神父を連れて、先に自宅へと戻った。
そのまま全員でアトリエを出て行くと、駅の方から汽笛が聞こえた。
ふと、汽笛の音が気になった。
カルカタッタを出て行くには、チケットが必要。カルカタッタを出て行くのには、代償を支払わないといけない。
カルカタッタに留まれば、代償を支払うことなく、永遠の命が手に入れられる。色さえ奪われなければ、ここでずっと幸せになれる。青い髪の案内人のことなんて、忘れてしまえばただの…。
ただの、何になる?
死者が住まう架空の街、永遠の命が手に入る幸せの街。死ぬことに怯えなくていい、生きることに怯えなくてもいい。ずっとこのままでいられる、慈悲の街。作り物の街。幸せも空間も、全部全部与えられた作り物。
イヴァン「大きな音がしたけれど何が……?」
…そんな幸せは【本当の幸せ】と呼べるのだろうか。
汽笛に導かれて駅にやってくると、そこには白い箱のような列車が鎮座していた。ブーケエクスプレスではないようだが、扉の上に【カルカタッタ経由、エンディング行き】というプレートが取り付けられていた。
ふと、何人かのポケットが光り、列車の扉が開いた。
パピヨン「…光って?」
🍎「ポッケが光るとか…なんやこれ!?」
イヴァン「……?光って……??」
希更「何……?(ポケットの中を見る)」
何人かがポケットを確認すると【青い花びらのチケット】が光り輝いていた。チケットを手にすると、彼らはチケットに引っ張られるように列車に引きずり込まれる。
パピヨン「まっっっっ…」
イヴァン「はぁ?!なんだいこれ、」
🍎「あ~れ~」
希更「チケットだ……!!」
列車に乗り込んだのは五人の搭乗人物たち。列車は五人を乗せると、扉を閉めた。そして残りの搭乗人物たちを置き去りにして、そのまま緩やかに発車した。
パピヨン「ちょ、ちょっと!!!!!」
🍎「えっ、ちょっ…出発してもうたで!!?」
パピヨン「ねぇ!!まって!!まって、まだ春霞ちゃんに、私!」
🍎「アヒルチャンが…アヒルチャンが…遠く…」
イヴァン「はぁ、なんでだよ……どうなってんだ……」
取り残された搭乗人物たちは、立ち尽くしたまま列車が発車したのを見送っていた。
そしてそれを、リズットは教会の屋上から眺めていた。
「…さて」
リズットの体は、指先からみるみるうちに透明になっていく。輪郭が消え、体の力が抜けていく。
「あぁ、終わっちゃったんだな。僕の旅は」
名残惜しそうにそう呟くと、リズットは左目に咲いたネリネの花を散らして消えた。
消毒薬の匂いがして、目が覚めた。
空調の音と蝉の声がうるさい。蝉が鳴いているのに、ここはとんでもなく寒い。空調が効きすぎているからか?
ゆっくりと起き上がると、無機質な冷凍カプセルが円状態に12個並んでいた。そのうちの一個だけが既にあいていて、誰か先にここから出て行ったんだなと思った。
彼女も冷凍カプセルから降りると、周囲を見渡した。割れた注射器や薙ぎ倒された空気清浄機が散乱している。荒れているが、どうやらここはどこかの病院らしい。
ふと、白い髪の毛が散らばっているのと、血とインクにまみれた分娩台が目に付いた。恐る恐る、彼女は分娩台に近寄った。近寄ると、そこには血の付いた原稿用紙の束が置いてあり、思わずそれを手に取った。
原稿用紙の一枚目には『最期の友人』と書いてあった。紙の匂いと、インクの匂い。血に混ざって、涙の匂いもした。
彼女は原稿用紙の一枚目をめくる。
そこにはありきたりな、だけど誰も読んだことがないであろう【物語の世界】が広がっていた。
https://privatter.net/p/5448675
弟思いのお兄さんには、弟達への安寧を差し上げましょう。
これで弟さん達を脅かすものは、この世からきっと無くなるはずでしょう。
悪い血をもつ未来の画家さんには、その血の悪いところを全部吸いとって差し上げましょう。
これで大好きなお兄さんと思いっきり遊ぶことを、我慢しなくて済むはずです。
翅が折れたというお嬢さんには、新しい翅を差し上げましょう。
これで愛しい人が待つ甘美な夢の世界へと、飛び立てるんじゃないんですか?
「約束を果たせない」と自分を責める画家さんには、澄み渡るような空を差し上げましょう。
あなたのことだから、もう怖くないでしょう?見上げてみてください。ほら、あなたの親友は、いつでもそこにいるはずです。
心の何処かで怯えながらも、笑うことをやめないあなたには、仲間との最高の時間を差し上げましょう。
どんなに怖くても、あなたの笑顔で救われる人は絶対にいる。ならば今度は、私があなたを救うべきなのではないでしょうか。
…なんて大口を叩ける人間ではありませんが、ここでまた、問いかけをさせてください。
…皆様は■■に「幸せになって欲しい」と願えますか?
希更は原稿用紙の束を握りしめたまま、床に付着していた血の痕を辿って、病院の屋上へと向かっていた。
これはもしかすると、怤藍が書いた小説なのかもしれない。散らばっていた白い髪が彼女のものならば、この病院のどこかに怤藍がいるのかもしれない。
階段を上って、屋上の扉を恐る恐る開けた。耳障りな蝉の鳴き声と、灼熱の太陽が希更を出迎える。病院内とのギャップを感じながら、彼女は足を踏み入れた。コンクリートの地面が広がり、そこにも血の痕がまばらに残っていた。
ふと顔をあげると、炎天下の屋上で誰かが倒れていた。希更はそれを見つけるなり、『彼女』に駆け寄る。
『彼女』は髪を乱雑に切られていた。どういう訳か皮膚には、焼けただれたような炎症が起きており、血まみれになって倒れていた。
変わり果ててしまったが、彼女は紛れもなく希更の知る人物であった。
希更「ふらんちゃん……!!……しっかりして、ふらんちゃん……!!」
そう。そこで倒れていたのは、紛れもなく怤藍だったのだ。希更が声をかけると、怤藍は発作を起こしながら必死に指を動かそうとした。焦点が合っていないが、希更の声を聞いて柔らかく笑おうとした。けれど、いつもなら上手くできる筈なのに、今は『それ』が上手くできなかった。
笑いかけることが上手くできない上に、咳き込み始めた怤藍。どうやら声を出そうとしたようだが、それすらも上手くいかなかった。
希更「どうしよ……早く何とかしなきゃ。ここ病院だし、お医者さんに助けてもらえたりしないかな……」
そっと怤藍の体を起こすと、希更は彼女に自分の肩を貸して屋上を出た。
希更「すみません!どなたかたすけてくれませんか!?誰か!!」
ゆっくりと階段を降りながら、助けてくれそうな人を探す希更。ここに来るときもそうだったが、病院なのに恐ろしいほど人がいなかった。入院患者どころか、医師や看護師と思われる者すら見当たらない。
希更「誰もいない……なんでだろ……」
そんなことを呟いてふと怤藍の顔を伺っていると、彼女がどんどん衰弱していることに気づいた。
希更「大丈夫?……階段降りて広いところに出たら、ちょっと休憩しよっか」
ちょうど二階にさしかかったところで、ホールがあるのが見えた。ホールは比較的荒れていない様子で、真ん中には淡いミントブルーのソファーがあった。そこなら彼女を休ませてあげることができそうだ。
怤藍をソファーに連れて行き、希更は彼女を座らせる。
「あ、りがとう…」
ようやく声が出るようになたのか、怤藍は希更にそう告げた。
希更「助けてくれる人がいないか探してくるね。……だからちょっとだけ待ってて」
そう言って希更はホールを出て行こうとした。
「希更…ちゃん…」
しかし怤藍は、希更を呼び止めた。
希更「ど、どうしたの!?……どっか痛い……?しんどい?」
希更が振り向くと、怤藍は首を横にふった後…しゃっくりをあげながら泣き始めた。
「…ごめんなさい。全部あたしが、悪いの…あたしが、あたしさえいなければ…皆今頃何事もなく生きることが出来たはずなのに」
数日前にブーケエクスプレスで聞いたようなことを、怤藍は自戒するように唱え始めた。
希更「どういうこと……?」
「そのままの意味……………ああぁぁああぁああ!!!!!!やっぱりあたしがいなければ、皆幸せになれたんだ。あたしがいなければ、皆余命宣告を受けることなんてなかった!!!あたしがいなければ、リズットがあんなことになることもなかった!!!」
怤藍は咳き込みながら、割れるような声をあげた。
希更「ふらんちゃん……!!!」
「あたしがいなければ、兄さんが誘拐されることもなかった!!兄さんが家族でいられなくなったのも、従兄や妹を独りぼっちにしたのも全部あたしのせいだ!!!!あぁあぁぁどうしよう、どうしたらよかったの?」
咳と混ざって、血を吐きそうになる怤藍。
「あたしが病弱じゃなければ…?あたしに才能さえなければ?…違う。違う違う違う!!!!!!あたしがこの世にいなければよかったんだよ!!!生きてても良いことがなかった。妹がちょっと前に死んじゃったのに、お別れが言えなかった…。兄さんがそれでショックを受けてたのに、何も言えなかった。リズットが楽しみにしてくれてた小説も、結局駄作になっちゃった。駄作だよ、あたしは。駄作…駄作駄作駄作駄作!!!能がなければ文才もない!!もう何が書きたいのかわかんない。何のために書いて、何のために生きているのかわかんない。楽しかったはずなのに、今凄く苦しい…。こんなあたしみっともなくて…今すぐにでも死にたい。死んで皆にお詫びするしか、もう選択肢がない。あたしに出来るけじめは、今すぐにこの人生を『打ち切り』にするしかないんだよ。…連載(いきつづける)だなんて、あたしなんかが望んじゃだめだったんだ…」
『書き手』はいつの間にか、自分の首に手を当てていた。
「…『あたし』のハッピーエンドは、どこ?」
手に力を込めて、目を見開いた。
それをみた『主人公』は、行動を起こした。
希更「……えい!(ふらんちゃんにハグする)」
「………えっ」
突然のことに、怤藍は目を丸くした。
希更「……自分が死んだらとか、考えちゃ駄目だよ!……少なくとも、あたしちゃんふらんちゃんがいなくなったら悲しい。……他の皆も、そうだと思うよ」
希更「全部が全部ふらんちゃんのせいじゃないし。えっと……その!またやり直せば大丈夫!ハッピーエンドがわかんないならあたしちゃんが一緒に見つけるのを手伝う!……それじゃ、だめかな」
希更「………だからさ、そんな悲しいこと、言わないで。……ふらんちゃんがその手を離すまであたしちゃん、ずっとこうしてるからね。ぎゅーって(抱きしめ続ける)」
抱き締めながらそう告げた彼女をみて、怤藍は雷に打たれたような衝撃を受けた。
「あ…あぁ………そうだ……そうだった…。…あ、はははっ…あたしったら、さっきまで何いってたんだろ…こんな時に限って、あたしが…。うん…そう、だよね!…おかげで目が覚めたよ。えへへ…あったかい…。…ここでうだうだいってる場合じゃない、まだ物語は終わっていない…!」
先程までとは打って変わって目の色が変わり、怤藍はきちんと希更と向き合おうとした。
「ありがとう希更ちゃん。あたしちょっと、気が滅入ってたみたい。だからもう大丈夫。…うん、元気でた!」
深く息を吸い込むと、怤藍はゆっくりと立ち上がろうとした。
その時である。
希更「な、何……!?」
またしても『ドゴォォオオオォオォン!!!!!』という音が、どこかから炸裂した。
どうやら地響きの音ではなく、爆発音のようだ。しかも一回だけではおさまらず、爆音は立て続けに轟く。二人は身を寄せ合い、あたふたし始めた。
すると何やら、誰かが喚きながらこちらに向かってくる。しかもこちらに向かってきたのは、一人ではないようだ。
アイザック「よォ!元気か?!!とりあえず細かい説明はあとだ!!あっち行くぞ!!!あっちなら逃げられそうだ!!」
そう言った青年は、二人にとってとても馴染みがある顔だった。彼の後ろには別の青年が二人付いてきていた。先頭を走るのは、左右で色が違う目をしたプログラマーの青年。そのすぐ後ろで、整体師の青年が時々後ろを確認しながら走って来る。そんな整体師の彼の隣を、ふらついた足で必死に走るのは____
色と生命を取り戻したであろう、案内人の『青年』。
「?!えっ、えっ!?!!??あっ、こっ、こっち!三人とも!!」
怤藍に声をかけられ、三人が彼女と希更の存在に気づいた。
イヴァン「おっと、あそこにいるのは……」
アイザック「(息を切らしながら半泣きで)…走゛る゛の゛…し゛んどい……っ」
イヴァン「見知った顔がいて良かったよ(二人のもとへぽてぽて)」
「はぁ…はぁ…!!ちょっ、ちょっと…うぅ…走りづらい……いきなりこれは…はぁ…!!はぁ…!!」
イヴァン「アイザックさん頑張って」
アイザック「……ひぃ……ひぃ……っ……こちとら引きこもりの28だぞ……………………簡単に死んじゃうんだ……たとえば全力疾走とかでな………」
三人が希更と怤藍の元にやってくると、先程まで止めどなく轟いていた爆発音が止んだ。爆発音が止むと、三人はほっとしたようにその場で座り込んだ。
「え、えっと…大丈、夫…?」
イヴァン「いやぁ、久々に必死に走ったね、皆無事で何よりだよ」
アイザック「…………(疲労でただひたすら息をする生物と化している)」
イヴァン「……オレはともかく、二人は無事でなさそうだな…」
希更「(アイザックさん大丈夫かな……って顔)」
「ううぅ……っ。ちょっと…何なんですか…!半年ぶりに目が覚めた病み上がりに…この仕打ちは…聞いてないのですが…!」
アイザック「…(死にそうな顔で)…今すぐエアコンのきいた部屋に帰って悠々自適にポテチ食べたい」
「(撃沈する案内人)」
「皆して何があったの…?」
呼吸を整えてから怤藍がとうと、三人はありのまま起こったことを話し始めた。
イヴァン「んー…簡単に言うと、目が覚めたあと俺は約束もあったからラボに行ったんだよ。そしたらリズットの薬ができたって言われて、預かりものも渡されたからリズットに会いに行ったんだよ」
イヴァン「んで、リズットに会いに行って……仮死状態にあったこの子に薬を打った。
暫くして目が覚めたリズットに頼まれものを渡してたんだよな」
イヴァンがそこまで話すと、アイザックとリズットはうんうんと相槌をいれた。
アイザック「………おー。……なんか、俺が様子見に来た時には既にリズットはフォルムチェンジしててよ。そんで、まあ半年歩いてないみたいなもんだし、色々手を貸してたんだけど……そしたら急に棚が爆発したんだよな。もう訳わかんねえ。…で、俺たちはメロスばりに走りました、と」
二人の話を聞いて、怤藍は険しい表情をした。
アイザック「…ここ、病院の倉庫だし……結構安牌かと思ってたけどよ、なんなんだァ……?ハリウッド映画に出演するのは来世がいいぜ」
「はぁ…はぁ…全くもって…心臓に悪い。やっぱり僕は、どこにいても生きた心地がしないな…命がいくつあっても足りないんだけど」
アイザック「……とりあえず、一件落着はしたか…?」
「恐らくそのようかと……思われます。はぁ……お疲れ様、でした……」
アイザック「……おー…………ならよかった…………………いやはやきっついな……おつかれ……」
三人がそれぞれ報告をすませると、リズットが全員に「ここなら安全そうなので、少し休憩しませんか?」と全員に提案した。
アイザック「そーだな。休憩は願ってもない。」
「あたしもそれがいいと思う。あたしもちょっと、今体が凄いしんどくてね…」
イヴァン「そうだな……(ちらりと二人の様子を伺い)休まないと、今後に差し障りそうだしな…」
全員が休憩することに賛成すると、怤藍はソファーの上で仰向けになった。
「ここにいない皆様がどうなってるかはわからないけど、下手に動いて怪我でもされたら、元も子もないからなぁ…」
リズットはホールの隅に置いてあったブランケットを、怤藍に掛けてやった。
「爆発?が起きてたみたいだしね…。他の皆が入ってる冷凍カプセルは結構丈夫だから、爆発程度じゃ壊れたりしないと思うから、大丈夫なはず…」
「じゃあ、少し休んだ後に皆様の様子を見に行く…で構わないか?」
「それでいいよ。皆はどうかな?」
アイザック「…それでいいと思う。ゆっくり行こうぜ~」
希更「あたしちゃんもそれで全然おっけーだよ」
三人は怤藍の提案に乗った。かくして現実世界で合流した五人は、しばらくホールで一時の休息をとることになった。
-延命の物語は、確実に終幕へと迫ってきたのだ-