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黒井宿と張宿の対面

全体公開 2 9 3342文字
2020-03-29 10:21:37

妄想のためのメモ。

(前提となる場面の想定)

第二部の時期で生存設定。

他の七星士の動線の整理をすると、

・星宿ははじめから宮廷で政務(魏の記憶や天罡の一件は知っているけれども生きているなら宮廷を離れられない)

・他の皆は散り散りになって、お互いの気を辿って集まりつつある。
井宿がそのとき天罡の手に落ちたとは知らず、ただ井宿の気が見つからないのをいぶかしんでいる。

・鬼宿、美朱、翼宿、軫宿が落ち合い、星宿への報告のためとりあえず栄陽に向かっている。その途中で原作にもある翼宿操られ事件が起きる。

・翼宿操られ事件の経緯は原作どおり

・柳宿、張宿はそれぞれ実家に戻っていたが、同じく星宿への報告を考えて栄陽に向かう。張宿が先に着き星宿に報告を済ませたところで、柳宿が着いて合流する。


ーーーーーー

「すまん!」
翼宿は手当て中の美朱と鬼宿に向かって土下座した。
さっきから何度も何度もこうして頭を下げている。
「もういいよ翼宿」
「そうだよ、お前敵に操られてたんだろ」
二人はそう言ってくれるが、翼宿にとってはそれでは済まない。
過去に、操られた仲間を二度見たことがある。
蟲毒に冒された鬼宿と、箕宿に入り込まれた張宿を見た。
あのときの二人とさっきまでの自分は全然違う。
二人が操られていたとき、本人の心というものは消されていたように見えた。文字通り操り人形のようだったと思う。
それに引き換えさっきの自分は、操られていたといってよいのかどうか分からない。
行動を起こした根っこには、自分自身の欲があったように思えてならない。
いつもそうしたくてたまらなかったというわけではない。そんなにはっきりした欲ではない。
しかし後からよくよく考えれば、欲望の種は自分の中にあったものだ。
そして何よりあの感じ。術にかけられていた最中、自分が感じていた強烈な快感。
二人のおかげで止まれたが、あの時点でさえ、経験したことのない快感に酔っていた。
万一あのまま進んでしまっていたら、自分は止まることができただろうか。
そう思うと、恐ろしさと汚らわしさでぞっとする。
「しょうがない。潜在する悪の部分など人は意識できない。汚い術だな」
軫宿がそう言ってくれた。
鬼宿は、一生許されなくても無理もないのに、「お前は自分に勝ったんだ」と言ってくれた。
……ありがたい。
「あの黒コゲ姿!もういっぺん見たいなあ」
「ほなご要望に答えて……って、オレが乗ると思てんのかわれ」
ふざけながら翼宿は、こいつらに何かがあったら命をかけて守ってみせると誓った。
「そういえば。お前ら大丈夫やった?あの飛皋に水、かけられへんかった?」
「水?」
「おう。なんや変な水で……
言った瞬間、肌が粟立つような異変を感じた。
爆音と共に奔流が部屋に流れ込んできた。


その少し前。


宮廷の朱雀廟には星宿と張宿がいた。
「張宿、そちらはどうだ」
「いえまだ……とくに変わったことは見当たりません」
天罡の目的が分からない中、朱雀に関わる異変がないか、二人で廟内を調べていた。
と、こめかみがピリッと痛むような異変を感じた。
二人が互いに声をかける間もない内に、水が流れ込んできた。
水は足元に溜まるほど大量で、雨などでは起きえない。何かの攻撃と考えるのが自然だった。
「何者だ」星宿は張宿を背後に庇おうとした。が、張宿がその前に星宿の前に立った。
――星宿様、僕しかいなくてごめんなさい。でも、陛下には害を成させません」
近頃背が伸びて、頭の位置が既に星宿の肩の高さを越えていた。
ふっ、と、何者かが鼻で笑う声がした。
「忠実なる若者よ」現れた人影は、張宿が見た天罡とは違っていた。「四天王が一人、旱鬼・飛皋と申す」
「四天王……天罡の手下か」
「いかにも。彩賁帝に献上するものがあって来た」そう言って敵は何やら包みを差し出した。「受け取られよ」
名指された星宿は臆する様子なく、張宿の肩に手を置いてそっと下がらせ前に出た。
しかし、飛皋の荷には手を伸ばさない。
相手の誘いに乗るべきではない。
星宿が取らぬのを見て、飛皋はふっと笑った。
「いいから見よ」手に持ったものを星宿の前に放った。金属の高い音が響き、荷がほどけた。
見慣れた柄の袈裟と錫杖、僧衣がばらりとひろがった。
「彩賁帝は仲間とやらを大切になさると聞いた。ならばせめて形見を届けよう」
「これは……井宿さんの」張宿の声が震えた。
「井宿に何をした」
星宿が問うたとき、廟に柳宿が駆け込んできた。
「うわっ、何なのよこれ。……良かったわ、星宿様これを」
廟に来るとき、星宿は武器を持ち込まず神剣も置いてきていた。柳宿は異変に気付いて、神剣を取って駆け付けたのだった。
星宿は神剣を受けとるとすらりと抜いた。
既に、柳宿の籠手も戦う体勢に変化している。
……おかしいです」
考えていた張宿が呟いた。
「何がおかしいの張宿」
「奴がこの朱雀廟に入って来るなんて。ここには前に井宿さんが結界を張って、常に守れるよう整えてあったはずですから」
それを聞いて、星宿は血の気が引いた。
少し前から井宿の気が見つけられないこと。
今目の前に投げ出された「形見」の存在。
井宿が張った結界が効かなくなっていること。
それはつまり。
……嘘だわ。井宿が殺されるはずない」
柳宿の呟きが、星宿の思いを悪い形で肯定した。
張宿が叫んで、飛皋に向かって走り出した。
「待ちなさい!」柳宿が、ほとんど同じ背になった張宿を止めた。
「血の気が多いな」飛皋が哄笑した。「結界が破れるのは当然だ。この者が解けぬはずがないのだから」
飛皋はそう言って「おい」と誰かを呼んだ。
足音がして、何やら長い武器を持った人影が見えた。香でも焚いたか、甘く青臭い匂いがした。
入ってきた人物を見て三人は目を疑った。
飛皋と並び立った男は黒衣に身を包み、温度の感じられない目で三人を見た。
その首には数珠がかかっており、左目は傷で塞がれていた。
「井宿さん」
張宿の口から漏れた声に、男は「誰だそれは」と言った。
「俺は四天王が一人、洪鬼・芳准だ」
声は紛れもなく、馴染んだ仲間のものだった。
しかしその声がここまで冷たく響くのは初めてだ。
「何を言っているんですか井宿さん!あなたは」
「知らないな」
張宿の言葉にはいつも耳を傾け、見守り、星宿と並んで張宿の学識の価値を最も理解してくれた人だった。
その井宿が、張宿を冷たく見下ろしてその言葉に耳も貸さない。
「芳准、結界の処置は済んだか」
飛皋が話しかけると、井宿は笑顔を浮かべて「ああ」と言った。
ふだんの仮面の笑顔ではない。たまに見せる、仲間内の年長者としての穏やかな笑顔でもない。
少年が友と戯れるときに見せるような、明け広げで高揚した笑顔だった。
「全部解いてきた」井宿は飛皋に話した。「張った奴がやけに凝った術を使ったらしいが、俺も知っている手法だったから」
流石だ、と飛皋は井宿に応じて朱雀の三人に向き直った。「残念だったな。お前たちの『井宿』は死んだ。俺たちが殺した」
「ああ。俺と、飛皋で」井宿は錫杖の替わりに手にした武器を肩にかけ、冷たい笑みを向けた。
「何言ってんのよ、バカね」柳宿は歯噛みしたが、指を井宿に向かって差した。「あんたが井宿よ。その首にかけてる数珠だって、井宿がいつもしてるやつじゃない」
言われて井宿は胸元を見下ろした。
「あ」そう言って人差し指で数珠を掬い、目の高さにかざす。
我に返ってくれるか、そう願ったのも虚しく、井宿は「なんだこれ」と言って数珠を乱暴に握った。「邪魔だ」
引きちぎられた数珠の玉がバラバラと床に落ちた。
玉は転がって、張宿の足にいくつか当たった。
「今日のところは挨拶だ」
飛皋がそう言うと井宿は無言で三人に術を放った。全力の攻撃でないことは分かったが、当たれば命が危なかった。
星宿が神剣を振るって術を弾くと、飛皋と井宿は笑い声を上げて姿を消した。
張宿は足元に転がる玉を拾うこともできずに泣いた。


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