妄想のためのメモ。
@miyako20121
(前提状況の整理)
・生存ifです。
時系列としては、この話の続き。
https://privatter.net/p/5654556
・翼、美、鬼、軫宿のもとにも飛皋&黒井宿が襲撃し、バトル第一段(技量不足で割愛)。
飛皋がそばにいるので、翼宿は井宿が自分と同じように術をかけられていると分かる。
原因が推測できるので、井宿の豹変に対するはじめのショックは星、柳、張たちよりは少なめ。
ただ翼宿がやられたばかりで二連続なのと、あの(操られたりする可能性が最も低そうな)井宿がやられたことへのショックはあって、憔悴して宮廷にたどり着く。
そのあとのやりとり。
ーーーーーー
その夜、七星士たちは星宿の寝室に集まった。
星宿は政務が終わらず遅れていた。
部屋の四隅には張宿の手による呪符が貼られている。
「助かったで、張宿が護符について勉強しててくれて」
翼宿の言葉に「まだまだですけど、」と張宿が力なく笑った。
「方角や占星学にも通ずるから新しく学ぶならこれがいいと勧めてくれたんです、井宿さんが」
魏を除く七星士たちは、気を操ることはできるが、結界を張ったり防御のための術を使ったりできるのは井宿だけだった。
星宿の神剣も、一対一の攻撃を跳ね返すことしかできない。
張宿のそれも、この部屋を護るのが精一杯だ。
「それで?美朱たちの方にも行ったわけよね、井宿と飛皋が」
「うん……」
「翼宿、あんたも飛皋に術かけられたなら、どうやったら元に戻るか分かるんじゃないの」
「そう単純じゃないだろうな」腕組みして軫宿が言った。軫宿は、隅の文机を借りて何やら書き付けている。「おかしな匂いがした。翼宿のときにはなかった匂いだ」
「匂い?」
「ああ。もしかすると、術だけでなく薬を盛られているかもしれない。そうだとしたら翼宿のときと同じというわけにもいかない」
さっきから軫宿は、解毒に使えそうな薬草の組み合わせを思い付くだけ書き出していた。
匂いだけでは手掛かりが少ない。それでも、何か役に立つかもしれなかった。
「遅くなった」扉が開いて、星宿が入ってきた。「翼宿、怪我はどうだ」
翼宿はさっき飛皋と井宿に立ち向かった際に、肩から胸に大きな傷を負っていた。
折り悪しく、火傷に対して軫宿の能力を使ったばかりだった。軫宿の能力が回復するまで、薬草を使い布を巻いて手当てをしている。
「大したことないです。明日になったら軫宿に治してもらえばええんやし」
「大丈夫かしら、軫宿の能力を使っちゃっても」
柳宿が口を挟んだのは、また近い内に井宿と闘わねばならない予感があったせいだ。
井宿は強い。
軫宿の能力はできる限りの温存しておく必要があった。
「柳宿が言うのも分かるけどさ。オレが今こんなふうだし、翼宿が戦えないとこっちの勝ち目が厳しくなる。情けねぇ」
魏が目を伏せた。
「鬼宿が情けなく思うことはない。……ところで皆に話がある 」星宿が言った。「分かったぞ、『飛皋』が何者か」
星宿は政務を終えてから今まで、古い資料を探していたのだった。
話は倶東国との戦が終わったころまで遡る。
傷を癒した星宿を、国の復興作業が待っていた。
「ときに陛下、七星士の皆様のことはいかがいたしましょう」
大臣に詰め寄られるのはそのときが初めてではない。
要するに、宮廷に入り込みすぎた七星士の処遇をはっきりさせてほしいというのだ。
七星士たちは国の危機を救った英雄であるが、危機が去れば、本来宮廷とは縁のない者たちが皇帝と絆を持つことは歓迎されない。
いかにも勝手な言い分ではあるが、星宿としても彼らの身元や処遇を曖昧にしてきた自覚はあった。
「ーーーーーそれで、すまないとは思ったが、皆の身上などを改めて確認させてもらった。とはいえ元々聞いてはいたし、鬼宿などは実家に行ったこともあるくらいだ。さほど調べることもなく分かった。井宿以外は」
井宿については何も、生まれたときの名さえ分からなかった。
ただ、仏具に詳しい官吏が、井宿の袈裟にはある地域に特有の紋様があると言っていた。
「その地はかつて大きな洪水に見舞われたところでな。井宿の目の傷はもしやその洪水で負ったのではとも思った」
その地域の戸籍を取り寄せたが、それ以上は分からなかった。
それから二年、さしたることも起こらず、集めた戸籍は何かのときに見られるよう、集めたままにしてあった。
「今夜それを見直したら、ここに」と、星宿は一枚の紙を卓に広げた。『飛皋』という名が書かれている。
「それから『芳准』も、ここに書かれている。おそらくはこれが井宿だ。飛皋と同じ村で、生まれ年も同じだ」
戸籍には、芳准は亡くなったと書かれていた。洪水のどさくさで行方知れずになったのが、犠牲者と間違われたのだろう。
「あのね、」美朱がはっとして言った。「もしそうなら、飛皋は井宿の親友なのかもしれない」
ずっと前に一度だけ、井宿が親友を失った話を聞いたことがあった。
「大好きな親友を亡くした……ううん、殺したって言ってた」
「殺した……井宿がか」
「……うん」
「ねえ、ちょっと待って」柳宿が言った。「それじゃあ、あたしたちの見た飛皋って死んでるの?幽霊?」
「殺したというのが間違いないなら、そういうことになるな」
皆が話している間、張宿はそれを聞きながら座っていた。膝には「形見」といって寄越された井宿の僧衣を乗せて、ときどききゅっと握っていた。
その頃、井宿は浅い眠りの中で夢を見ていた。
子どものころの夢だ。
飛皋と、隣村の祭りにこっそり出かけたことがあった。そのときの夢だ。
旅の歌い手がくると噂を聞いたのでどうしても行きたかったが、父からは行くなと言われた。子どもだけで隣村までいくのは危ないと。
飛皋と二人で、父にばれない内に行って帰ってくる道筋を話し合った。
地面に棒切れで地図を描いて、夢中で話していたら急に飛皋が袖で、芳准の顔をごしごしと拭った。
「顔に泥が付いてた。ずーっと気になって仕方がなかった」
そう言われてへへっと笑ったところで、呼ばれた気がして目が覚めた。
「芳准。起こして悪いな」
目の前の飛皋は、霊魂なので眠ることがないのだろう。
一方井宿は体が泥のように重かった。
気分が高揚しているが、何かしら体に負担があるのだろう。
「いや、大丈夫だ」
起き上がって胡坐をかくと、飛皋は「天罡様が次の段階に移れとお命じだからな。相談にきた」と言って井宿の前に同じように座った。
「じゃあ飛皋、どうする」
このように聞くのは芳准の役目だった。二人の間に自然にできた、いつもの会話。
飛皋が口火を切って、芳准がそれを詳しくする。笑いながら話す内にどんどん計画は良くなっていく。それがものすごく面白い。
飛皋と話をするのが大好きだった。
「芳准、朱雀七星士の弱点を知ってるか。誰を先につぶすと良いか決めよう」
「わかった」
飛皋と話すのは楽しい。いろんな案がどんどん湧く。
「髪が橙の鉄扇男を先に狙うのはどうだ」飛皋は、翼宿のことを言っている。「お前の一撃で深手を負っているだろう」
「いや」井宿は首を振った。「あのくらいの傷、軫宿がいるからすぐ治る。それよりも、」と、盤上にある「鬼」の字を指す。
「鬼宿はもとは強かったが、今はただの人間だ。朱雀の能力は使えない」
「それならば、この巫女の方がいいんじゃないか」
飛皋の言葉に、井宿は薄く笑った。
「美朱は最後だ。美朱を失ったら、残りの全員がとてつもない勢いで向かってくる。勢い付けるだけの下策だ」
「ほう」飛皋が笑った。「さすがだな。よく覚えているな」
「え?」井宿が目を上げた。「別に覚えてないよ。知ってるだけだ」
「そうか。そうだったな」飛皋は頷いて「じゃあこいつはどうだ、張宿。年若で、見たところ体も大きくない。それとも、こいつも術や何か特別なものを使うのか」と続けた。
「張宿、か」井宿は言葉を途切れさせ、「……泣いていたな」と呟いた。
「……なあ芳准」飛皋は井宿に向き直って聞いた。「お前、つらいのか」
「え?」
「仲間を傷付けるのはつらいのか。たとえばあの鉄扇の翼宿。あいつに傷を負わせたとき、どう思った」
なんだよ、と井宿は少しむきになった。
「仲間なんかじゃない。ただ張宿が泣いていたなと言っただけだ。翼宿に傷を負わせたのだってなんていうことはない。もっと深い傷にすればよかったくらいだ」
「そうか」
「そうだよ。俺は」と、井宿は帯に挟んだ短刀に手を添えて「俺は、お前と過ごせるならなんでもする。お前を完全に、生き返らせるなら」と言った。
「ありがたい」飛皋は微笑んだ。
さあ、と井宿は明るい声を出して続けた。
「続きを決めよう。そうだな。お前が言うように張宿を攻めるのもいいな。頭がいいから、向こうの作戦は張宿か星宿が要だろう。張宿は身体への攻撃には弱い。だから―――――」
饒舌に話す井宿を見て、飛皋の視線が止まった。
話しながら、井宿の目からはぽたぽたと止めどなく滴がこぼれていた。
飛皋は、無意識に手を井宿の顔に伸ばした。子どものころ、顔についた泥を拭ってやったように。
その手はすり抜け、井宿は飛宿のしぐさに気がつかずに朱雀七星士を倒す算段を語り続けた。
飛皋は自分の手をちらりと見て、井宿との会話に戻った。
「―――――思うんだが」低く言ったのは軫宿だった。
「なに?」
「いや。飛皋が井宿の親友なんだとすると、飛皋が転生できないのは少華の場合と似ているんじゃないかと、そう思った」
軫宿の恋人である少華が、寂しさや無念で死した後に病魔に取りつかれていたことがあった。その話は、そのときいなかった者も含めてみんな聞いていた。
「……では、今回も飛皋の無念を晴らさないと井宿は救えないということか」星宿が言うと、翼宿が「それだけやのうて」と言葉を継いだ。
「それだけやのうて、多分、井宿の気持ちもどないかせなあかん」
翼宿が自分の中にあった欲望を暴走させられたように、飛皋の術は、人の中にある欲望の芽を暴発させる。
井宿にも、利用された何かの望みがあったはずだ。
「美朱。親友の話をしたとき、井宿は美朱になんて言っていたんだ?」
魏に問われて、美朱は思い出す顔をした。
「ええとね。そのときあたしは唯ちゃんと敵同士になっちゃって悩んでて……井宿はね、『唯ちゃんを、君が助けてあげるのだ』って」
「そうか。……助けたかったんだな。飛皋を」
沈黙が、室内に満ちた。
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